オウム真理教事件・麻原彰晃に対する判決文/chapter seven
Ⅶ 松本サリン事件(殺人,殺人未遂)
(平成7年8月7日付け追起訴状記載公訴事実・平成9年12月2日付け訴因変更請求 書)
[犯行に至る経緯]
1(1) 教団は,長野県松本市k1(以下「本件土地」という。)上に教団松本支部及び食品 工場を建設することを計画し,本件土地の使用権を取得するため,本件土地を賃貸借契 約に基づき使用する部分(315㎡,以下「賃貸借部分」という。)と売買契約により取得す る部分(492㎡,以下「売買部分」という。)とに分け,賃貸借部分については,地主との間 で,教団関連会社であり被告人が代表者を務めるE17の名義で賃借し,売買部分につ いては,仲介不動産業者が中間に入って地主から購入しそれを教団等が買い受けるな どして,教団が本件土地全体を使用することとし,平成3年6月18日,進入路部分を含む 上記内容の賃貸借契約及び各売買契約が締結された。
しかしながら,地元住民は教団の進出に対する反対運動を起こし,上記地主は,同年1 0月19日ころ,E17に対し,同社が賃貸借部分の賃貸借契約の際,教団が同部分を道 場として使用することを秘匿し,あたかもE17が工場兼事務所として使用するかのように 装って地主を欺罔したとして,詐欺を理由として賃貸借契約を取り消すとともに,要素の 錯誤を理由として契約の無効を主張する旨通知した。これに対し,教団は,本件土地に 建築面積514㎡余,延べ面積1646㎡余の食品工場及び事務所を建築する計画を維持 したまま,同年11月下旬ころ,建築主事による建築確認を受けた。
(2) 教団は,同年12月9日,長野地方裁判所松本支部(以下「地裁松本支部」という。) に対し,k1地区の町会長を債務者として,教団が本件土地等に工場及び事務所を建築 するのを妨害してはならないことなどを求める仮処分命令の申立てをし,一方,地主も, 同月10日,同裁判所に対し,教団及びE17を債務者として,賃貸借部分に建物の建築 工事をしてはならないことなどを求める仮処分命令の申立てをした。
これに対し,地裁松本支部は,平成4年1月17日,教団を巡って道場における未就学 児童問題,国土利用計画法違反問題等から各地で地元住民や信者の家族らとの間でト ラブルが多発し,社会的な関心を呼んでいたことから実質的な借主が教団であるとの事 情は,地主が土地賃貸借契約という継続的な契約関係を結ぶか否かの判断に影響を与 えかねず,これを意図的に誤らせるような言動は取引上の信義則に反するとして,地主 の主張に係る詐欺を理由とする賃貸借契約の取消しを認めた上で,教団の申立てをい ずれも却下する旨の決定及び地主の申立てを担保を立てることを条件に認容する旨の 決定をした。
教団は,上記認容決定に対し,仮処分異議を申し立てるとともに,上記却下決定に対 し,東京高等裁判所に抗告したが,同年3月13日,抗告を棄却する旨の決定がされた。
(3) そこで,教団は,賃貸借部分をも使用して教団松本支部及び食品工場を造ることを あきらめ,当初の計画を縮小して,売買部分に教団松本支部を建築することとし,同月2 3日,建築面積299㎡余,延べ面積579㎡余の教会(布教所)を建築する計画につい て,建築主事による建築確認を受けた。
これに対し,地主は,同年4月3日,地裁松本支部に対し,教団及びE17を債務者とし て,賃貸借契約の詐欺による取消しの場合と同様に売買契約の詐欺による取消しを主 張し,売買部分に建物を建築してはならないことなどを求める仮処分命令の申立てをし たが,地裁松本支部は,同年5月20日,売買契約における仲介不動産業者の説明等 が,売買の取引慣行,信義則に照らして違法性があるとはいえず,詐欺を認めるだけの 疎明がない上,詐欺を理由として取り消された賃貸借契約と売買契約が経済的には密 接な関係を有しているとしても,両者の契約が運命を共にすべき理由はないなどとして, 地主の申立てを却下する旨の決定をした。
そこで,地主は,同月27日,地裁松本支部に対し,教団等を被告として,売買部分の 所有権移転登記の抹消登記手続,売買部分の明渡し,本件土地における建物の建築 禁止等の判決を求める旨の訴えを提起した。地主側は,訴訟の中で,前記の教団を巡る 様々な問題を取り上げて教団の反社会性を強調し,詐欺を理由とする賃貸借部分の賃 貸借契約の取消しや売買部分の売買契約の取消しの有効性を基礎づける立証活動を 行うとともに,仮処分申立事件で詐欺を理由とする取消しが認められた賃貸借契約と売 買契約は取引の目的も契約締結も密接不可分で二者一体の関係にあり,観念的に分け て考えることは全く無意味であるなどと主張した。
(4) 教団の代理人を務めていたA10は,これらの仮処分申立事件や訴訟の経過及び 結果については要所要所でポイントとなる部分を被告人に逐一報告していた。
教団は,上記訴訟の係属中に教団松本支部を完成させたものの,被告人は,教団を 非難する地主を含む反対派住民やその申立てを認めて教団松本支部を縮小させた地 裁松本支部裁判官に反感を抱き,同年12月18日,教団松本支部で行われたその開設 式において,「現代は,正に世紀末である。この世紀末という意味は,1990年代を迎え たという意味ではない。例えば,ノストラダムスの予言詩の中にこのような詩がある。それは『司法官が乱れ,そして宗教家が乱れる。』と。この『司法官が乱れ』とは,例えば,裁判 が正,あるいは邪というものの判定を正しくできなくなり,世の中に迎合し,そして力の強 いものに巻かれる時代,それと同時に宗教が本来持っている,宗教の特性である人々を 真に苦悩から解放するという役割を果たさないという意味である。正に現代はその時代で ある。そしてこれは,今がその時代であり,そしてその成就は何を意味するかというと,私 たちの近い未来において大いなる裁きが訪れることを予言している。この松本支部道場 は,初めはこの道場の約3倍ぐらいの大きさの道場ができる予定であった。しかし,地主, それから絡んだ不動産会社,そして裁判所,これらが一蓮托生となり,平気でうそをつ き,そしてそれによって今の道場の大きさとなった。また水についても同じで,松本市はこ の松本支部道場に,上水道,つまり飲み水を引くことを許さず,また下水道においても社 会的圧力に負け,何とか下水道を設置することは目をつむったわけだが,実際問題とし て普通の状態で許可したわけではない。しかし,これらの現象は,別の見方をすれば大 変ありがたいことといわざるを得ない。それはなぜかというと,例えばある化学変化を起こ す場合,その化学変化を起こす場合には二つの条件が必要となる。一つは熱であり,一 つは圧力である。また外的条件においては,触媒というものが必要となる。この三つをそ れぞれ検討した場合,まず触媒はグルあるいは真理の教えというものがそれを果たし,そ して熱はその中で生活しているつまり真理を実践している人たちが大いに功徳を積むこ と,そして外的圧力とはいうまでもなく社会の理不尽な圧力である。これらの圧力,熱,触 媒という三つの力によって,普通では考えられないような化学変化が起き,新しい物質が 生成される。正にこれは私たちが,この汚れた人間社会から出離し,脱出し,解脱し,悟 るためのプロセスであるといわざるを得ない。そのような意味において,この社会的な圧 力というものは,修行者の目から見ると,大変ありがたいものであるということができる。し かし,これは修行者から見た内容であって,これがもし逆にその圧力を加えている側から 見た場合,どのような現象になるのかを考えると,私は恐怖のために身のすくむ思いであ る。」などと説き,地裁松本支部裁判官や地主ら反対派住民を敵対視し,これらの者には 将来恐るべき危害が加えられることを予言する旨の説法をした。
(5) 地裁松本支部は,前記民事訴訟の審理を経て,平成6年5月10日,同事件の弁論 を終結し,判決言渡し期日を同年7月19日と指定した。 A10は,そのころ,被告人に対し,前記民事訴訟についていよいよ弁論が終結して判 決になる旨を報告し,その際,判決の見通しについて,仮処分時と特に状況は変わって いない旨話したものの,仮処分申立事件で教団側の主張が認められた売買部分につい て勝訴するとまでの断定的な言い方は控えるなど,賃貸借部分は無理でも売買部分に ついては確実に勝訴できる旨の誤解を被告人に与えないように慎重に言葉を選びなが ら意見を述べた。
2 前記のとおり,被告人は,70tのサリンを東京に散布して首都を壊滅し,国家権力を 打倒して日本にオウム国家を建設し自らその王となってこれを支配することをもくろみ,既 に,サリンの大量生成やサリンプラントの建設を教団幹部らに指示してその計画を着々と 進行させ,自らが敵対視してきたD3やB6弁護士に対し,教団で生成したサリンを使用 するなどし,その過程で生成したサリンの殺傷力を確認するとともに,その効果を最大限 に引き出すためのサリンの噴霧方法やサリンを噴霧する側のサリン中毒を防止する方法 等について試行錯誤を繰り返していたものであるが,同年6月ころ,A6と相談した上,新 たに造る加熱式噴霧装置の性能ないしこれにより噴霧するサリンの殺傷力を実験的に確 かめておこうと考え,その使用する対象として,反対派住民である地主の仮処分の申立 てを認めて教団松本支部の建物を当初の予定よりも縮小させる原因を作り,本案訴訟に おいても,賃貸借部分についてはもちろんのこと,売買部分についても教団に不利な判 決をする可能性もないとはいえない地裁松本支部を選び,新たに造る噴霧装置を搭載し たサリン噴霧車により,昼間地裁松本支部を目標にしてサリンを噴霧し,自ら敵対視して いた同支部裁判官のみならず同支部周辺の住民を殺害することを決意した。
3 被告人は,同月20日ころ,A6の同席していた第6サティアン1階の被告人の部屋 に,A7,A19及びA14を呼び集め,同人ら3名に,「オウムの裁判をしている松本の裁 判所にサリンをまいて,サリンが実際に効くかどうかやってみろ。」と言った。続いて,A6が 「昼間,裁判所にまくことになる。サリン噴霧車ができ次第すぐにやる。」と言った。A7は, 第2次D3事件の際加熱用のガスバーナーの火が噴霧装置搭載部分に燃え移ったこと に起因してサリンに被ばくしひん死の状態に陥ったことから,A6に対し,噴霧方法や防 御のマスクについて聞くと,A6は,ガスバーナーではなく電気ヒーターで加熱するので 大丈夫である旨及び第2次D3事件のときの防毒酸素マスクが有効であったのでそれと 同じものを着用する旨の返答をし,被告人もそのマスクを使用することを了承し,A14が その防毒酸素マスクを準備することとなった。
また,A7は,第2次D3事件の際警備関係者に不審を抱かれ追跡されたことから,警察 官や通行人に目撃された場合の対応策について聞くと,被告人は,「警察等の排除はX 6(A7)に任せる。武道にたけたX7(A22),X8(A39),X9(A15)の3人を使え。」と指 示し,また,サリン噴霧車の運転をA15にさせるように言った。
このようにして,被告人は,A6,A7,A19及びA14に対し,地裁松本支部を目標とし てサリンを噴霧し,同支部の裁判官ほか多数の者を殺害することを指示し,A6ら4名はこ れを承諾して,ここに被告人ら5名はその旨の謀議を遂げ,サリン噴霧車の準備ができ次 第すぐにその計画を実行することとなり,最後に,被告人が「後はおまえたちに任せる。」 と言って,具体的な準備や実行はA6やA7に任せる旨を伝えた。
4 A6は,その後,A7に依頼して,サリン噴霧車に改造するための2tアルミトラックを調 達した上,A18,A27ら真理科学技術研究所のメンバー数名に対し,これを改造してそ の後部のアルミコンテナ部分に加熱式噴霧装置,すなわち,運転席からの遠隔操作によ り,コンテナ上部の3個のタンク内の液体を,電気ヒーターで加熱した3個の箱型銅容器 内に落下させて,これを加熱して気化させ,コンテナ内に設置した大型送風扇で気化し たものを外部に噴霧することができる装置を設けるよう指示し,同月27日朝までに,コン テナの右側面に空気の取り入れ口が,左側面に噴霧口がそれぞれあり,いずれも下部 にちょうつがいを,上部に止め金が付けられ上から下にその開口部を開けることのでき る,上記の指示に従ったサリン噴霧車を完成させた。
5 A14は,サリンを噴霧する際に実行メンバーが着用する防毒酸素マスクの製作の指 示を受け,第2次D3事件のときに使用した防毒酸素マスクと同じ方式の,ビニール袋を 頭からかぶりそれに酸素ボンベからエアラインを通して酸素を送り込むというものに,さら に,首の部分をひもで絞れるようにして脱げにくくしたものの製作に取り掛かった。また, A14は,防毒酸素マスク用及び被ばくした際の治療用の酸素ボンベとして,実験用のも のも含め,7立方メートルのものを3本,1.5立方メートルのものを8本くらい準備し,A6の 指示により,A6の指定した1人当たりの酸素量を15分間流せるかどうかを実験して確認 した。
6 A7は,同月25日,サリン噴霧車の運転手を務めるA15と共に,地裁松本支部周辺 の下見に行った際,A15に対し,地裁松本支部に向けてサリンを噴霧する計画を打ち明 け,A15がサリン噴霧車を運転することになっていることなどを伝え,A15はこれを承諾し た。A7らは,地裁松本支部周辺が詳しく掲載されている地図を教団松本支部の信者か ら借り受けた後,地裁松本支部周辺を下見し,タバコの煙で風向きを調べながら,サリン 噴霧車を駐車してサリンを噴霧することのできそうな適当な場所を見つけて,e1村の教 団施設に戻った。
7 A6は,同月26日,A14に対し,「明日実行する。」旨伝えるとともに,「X1棟でサリン を噴霧車に注入してくれ。」と指示した。同日午後,A19は,A6の指示により,A14と共 に,サリン噴霧を実行する際自分たちが乗るワゴン車を借りるために松本市に赴き,その 際,地裁松本支部等を下見し,同日午後6時ころ,レンタカー業者からワゴン車を借りて,e 1村の教団施設に帰った。
その後,A14は,実行メンバーのサリン中毒を予防し又はこれを治療するために,予防 薬のメスチノン,治療薬のパム,硫酸アトロピン等の医薬品や注射器,注射針等の器具を 準備し,さらに,X1棟に保管していた青色サリン溶液の入った容器を同棟内のスーパー ハウス内に集めた。
8 同月26日深夜から同月27日未明にかけて,東京都杉並区l1にある教団経営の飲 食店Hで,省庁制の発足式が開かれ,各省庁の大臣,次官100人くらいが出席し,被告 人の前で決意表明をし,A6,A7,A19,A14及びA22もこれに出席して決意を述べe1 村の教団施設に戻った。
A7は,そのころ,A6から,サリン噴霧車が同月27日午前中に準備でき,昼ころ出発す るので,第7サティアンの前に集まるように言われ,A22,A15及びA39に対し,同月27 日は用事があるので待機しておくように連絡した。
A7は,同日早朝までにe1村の教団施設に戻り,第6サティアン2階のA7の部屋にA2 2,A15及びA39を呼び集め,3人に対し,同日松本に行き地裁松本支部にサリンを噴 霧すること,サリン噴霧車はA6が造って第7サティアンに置いてあること,サリン噴霧車の 運転はA15がすること,サリンを噴霧している最中に警察官等がくるなど妨害があった場 合は3人でこれを排除すること,万一の場合はA7がサリン噴霧車を運転して逃げること, 同日昼に第7サティアン前に集合して出発することになっていることなど地裁松本支部に 向けてサリンを噴霧し多数の者を殺害する計画を打ち明け,既にその話を聞いていたA 15のほかA22及びA39もこれを承諾した。
その後,A39らは,A7の指示により,同日午後1時前ころ,サリン噴霧計画の実行メンバー7名分の作業服上下,帽子,ベルト等を購入して第6サティアンに戻り,A7,A15, A22及びA39の4名は付近の建物でその作業着に着替えるなどし,他の実行メンバー にも作業着等を渡した。
9 一方,A14は,省庁制の発足式からe1村の教団施設に戻り,同日午前10時ないし 11時ころ,完成したサリン噴霧車がX1棟内に運び込まれた際,A6から指示を受け,エ アラインを通して空気が供給される防毒マスクと手袋を着用してサリン噴霧車のコンテナ 上部にある3個のタンクにサリンを約4リットルずつ合計約12リットル注入した。A14は,そ の際,自分がサリン中毒になったときに備えて,A19にX5棟に待機してもらった。
10 こうして実行メンバー7名は,当初の予定より遅れて同日午後3時半ないし午後4時 ころ,第7サティアン前に集合し,出発の準備を終え,A15の運転するサリン噴霧車の助 手席にA6が,A39の運転する前記ワゴン車にA7,A19,A14及びA22がそれぞれ乗 り込んで出発し,一般道路を使って松本市に向かった。
A14は,途中長野県諏訪市内のディスカウントストアーの前で2台の車両が停車した 際,ワゴン車に乗車している他の4名に対し「予防薬だから飲んでください。」と言ってメス チノンを1錠ずつ渡したほか,サリン噴霧車のところに行ってA6に2人分のメスチノンを渡 すなどして実行メンバーにメスチノンを飲ませた。また,A14は,松本市に行く途中の車 内で,A39及びA22に対し,噴霧したガスを吸ったら視界が暗くなり,呼吸が困難になっ て頭痛,腹痛,下痢等の症状が出てくるから,症状が出たら治療薬を準備しているので すぐ申し出るように言い,これは非常に危険なガスで吸ったら死ぬ可能性がある旨注意し た。
11 A6,A7ら実行メンバーは,同日午後8時ころ,長野県塩尻市内のドライブインI前 の駐車場に2台の車両を入れて休憩した際,既に裁判所の閉庁時刻を過ぎ,開庁時間 中にサリンを噴霧することができなくなっていたことから,A7は,A6に対し,その点につ いて相談し,地裁松本支部と裁判所宿舎が同じページにある住宅地図を見せながら,裁 判官をねらうなら時間帯から考えて裁判所では意味がないのでサリンを噴霧する目標を 裁判所から裁判所宿舎に変更することを提案し,考えてくださいと言うと,A6は,同駐車 場内の公衆電話から被告人に電話を掛けその了承を得た上でその旨A7に伝え,A6及 びA7は他の実行メンバーに対し,サリンを噴霧する目標を裁判所から裁判所宿舎に変 更する旨を伝え,その同意を得た。
12 その後,実行メンバー7名は,裁判所宿舎から西方約190mの地点にあるJ店西側 駐車場(以下「J駐車場」という。)に2台の車両を停め,教団の犯行と発覚しないように, サリン噴霧車とワゴン車の各ナンバープレートの上に異なるナンバーのシールを貼り付け て車両ナンバーを偽装したほか,A14が中心となって防毒酸素マスクを組み立て実際に 酸素が流入するかどうかのチェックをした。また,A14は,実行メンバーがサリン中毒にな った場合に備え,治療薬のパムを注射器に吸い込みいつでも注射できるように準備し た。
その間,A6は,サリンを噴霧する場所を探すために裁判所宿舎の方に下見に行き,風 向き等を考慮の上,裁判所宿舎の西方三十数mの地点にある松本市m1所在のD5所 有の西駐車場(以下「D5西駐車場」という。)を噴霧場所とすることに決め,J駐車場に戻 ってきて,他の実行メンバーにその旨を伝えた。
13 実行メンバー7名は,その後,2台の車両に乗車してD5西駐車場に行き,サリン噴 霧車は同駐車場の北側の東寄りに,サリンをコンテナ左側から裁判所宿舎のある東方に 噴霧できるようにその前部を南に向けて駐車し,ワゴン車はサリン噴霧車から十数mしか 離れていない同駐車場の北西側に駐車した。
A6は,サリン噴霧車を降りて,コンテナの左右側面の開口部を開け同車の助手席に戻 るなどし,実行メンバー7名は各自防毒酸素マスクを着用した。なお,この時点までに,A 6は,他の実行メンバーに対し,噴霧を開始する時期や噴霧が終わるまでの時間等につ いて伝えていた。
同所付近は,一般住宅,マンション,社宅等が立ち並ぶ閑静な住宅街であり,東側に はD5方の池ややぶを挟んでK寮や裁判所宿舎があり,北東方にはLハイツやMハイツ が位置し,北側はB7方と隣接している。松本市の同日午後10時ないし午後11時ころの 気温は約20ないし21℃で,雨は降っておらず,相対湿度は九十数%であり,風速3.2又 は0.5m毎秒の北西ないし南西の風が吹いていた。
[罪となるべき事実]
被告人は,A6,A7,A19,A14,A39らと共謀の上,サリンを発散させて不特定多数 の者を殺害しようと企て,平成6年6月27日午後10時30分過ぎころ,長野県松本市m1 所在のD5西駐車場において,同所に駐車させた普通貨物自動車であるサリン噴霧車に 設置した,青色サリン溶液を充てんした加熱式噴霧装置をA6が助手席から遠隔操作により作動させてサリンを加熱し気化させた上,同噴霧装置の大型送風扇を用いてこれを 周辺に発散させ,後記表1記載のとおり,同市m2所在のLハイツc号室などにおいて,B 8(当時26歳)ほか6人をしてサリンガスを吸入させるなどし,よって,同月28日午前0時1 5分ころから同日午前4時20分ころまでの間,Lハイツc号室ほか6か所において,サリン 中毒によりB8ほか6人を死亡させて殺害するとともに,後記表2記載のとおり,同市m3所 在のB7方などにおいて,B9(当時46歳)ほか3人をしてサリンガスを吸入させるなどした が,同人らに対し,同表加療等期間欄記載の各加療等日数を要するサリン中毒症の各 傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げなかったものである。 記
表1 │ │被害者氏名(年齢) │ B8 (当時26歳) │
│1│吸入等の場所(長野県)│ 松本市m2 │ │ │ │ Lハイツc号室 │ │ │死亡日時 │ 平成6年6月28日午前0時15分ころ │ │ │死亡場所(長野県) │ 吸入等の場所と同じ │ │ │被害者氏名(年齢) │ B10 (当時19歳) │ │2│吸入等の場所(長野県)│ 上記Lハイツd号室 │ │ │死亡日時 │ 平成6年6月28日午前0時15分ころ │ │ │死亡場所(長野県) │ 吸入等の場所と同じ │ │ │被害者氏名(年齢) │ B11 (当時29歳) │ │3│吸入等の場所(長野県)│ 上記Lハイツf号室 │ │ │死亡日時 │ 平成6年6月28日午前0時15分ころ │ │ │死亡場所(長野県) │ 吸入等の場所と同じ │ │ │被害者氏名(年齢) │ B12 (当時53歳) │ │4│吸入等の場所(長野県)│ 松本市m4 │ │ │ │ Mハイツh号室 │ │ │死亡日時 │ 平成6年6月28日午前0時15分ころ │ │ │死亡場所(長野県) │ 吸入等の場所と同じ │ │ │被害者氏名(年齢) │ B13 (当時35歳) │ │5│吸入等の場所(長野県)│ 上記Mハイツj号室 │ │ │死亡日時 │ 平成6年6月28日午前0時15分ころ │ │ │死亡場所(長野県) │ 吸入等の場所と同じ │ │ │被害者氏名(年齢) │ B14 (当時45歳) │ │6│吸入等の場所(長野県)│ 松本市m5 │ │ │ │ K寮b号室 │ │ │死亡日時 │ 平成6年6月28日午前2時19分ころ │ │ │死亡場所(長野県) │ 松本市n1 │ │ │ │ E18病院 │ │ │被害者氏名(年齢) │ B15 (当時23歳) │ │7│吸入等の場所(長野県)│ 前記Mハイツk号室 │ │ │死亡日時 │ 平成6年6月28日午前4時20分ころ │ │ │死亡場所(長野県) │ 松本市o1 ││ │ │ E19病院 │
表2 │ │被害者氏名(年齢) │ B9 (当時46歳) │ │1│吸入等の場所(長野県)│ 松本市m3 B7方 │ │ │加療等期間 │ 不 詳 │ │ │被害者氏名(年齢) │ B16 (当時19歳) │ │2│吸入等の場所(長野県)│ 前記Lハイツg号室 │ │ │加療等期間 │ 613日間 │
│ │被害者氏名(年齢) │ B7 (当時44歳) │ │3│吸入等の場所(長野県)│ 前記B7方 │ │ │加療等期間 │ 278日間 │ │ │被害者氏名(年齢) │ B17 (当時44歳) │ │4│吸入等の場所(長野県)│ 前記Mハイツl号室 │ │ │加療等期間 │ 200日間 │
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