オウム真理教事件・麻原彰晃に対する判決文/chapter one
理由
【認定事実】
Ⅰ 教団の設立と発展
1 被告人は,昭和30年3月2日,熊本県八代郡a1村で出生し,目が不自由であった ことから,熊本県立E1学校の小学部に入学し,中学部,高等部(普通科),専攻科(2年 間)を経て,同校を卒業した。
被告人は,昭和51年6月5日,同県八代市内のホテルの客室で,被告人らの組織して いるマッサージクラブに所属していた者が同クラブを辞めて元の職場に戻ったことを難詰 した際,同人が返事をせず薄笑いをしたと因縁を付け,いきなり手けんで同人の側頭部 を数回殴打してその場に転倒させるなどの暴行を加え,同人に左側頭部打撲傷等の傷 害を負わせたとの事実により,昭和51年9月6日,八代簡易裁判所において,傷害罪で 罰金1万5000円に処せられた。
被告人は,昭和52年5月,東京都渋谷区内にある受験予備校のE2に入り,同校に在 籍していたA1と知り合い,昭和53年1月7日,同女と婚姻し,平成6年までに4女2男を 儲けた。
被告人は,婚姻後,鍼灸師として生計を立て,あるいは,千葉県船橋市内で薬局の開 設許可を受けて医薬品の販売業を営んでいたが,昭和57年6月1日から同月11日まで の間,19回にわたり,E3ホテルなどにおいて,疾病治療の目的で厚生大臣の許可なく 製造した風湿精及び青龍丹と称する医薬品を業として販売したとの事実により,同年7月 13日,東京簡易裁判所において,薬事法違反の罪で罰金20万円に処せられた。
2 被告人は,このころ既に宗教活動に入り,仙道,仏教,ヨーガ等に傾倒していたが, 「A2」を名乗り,都内でヨーガ教室を開いて指導に当たり,昭和59年ころ,オウム神仙の 会を発足させた。
被告人は,昭和60年10月ころ,オカルト雑誌に,自己が蓮華座を組んで空中に浮い ているように見える写真と空中浮揚に至るまでの修行法を掲載させ,昭和61年3月ころ には「ザ・超能力秘密の開発法」と題する書籍を発行し,その中で「本書では,仙道,仏 教,密教,ヨーガの集大成の中から,特に空中浮揚等の超能力に関して効果を持つ修 行法のみを抜き出し組み合わせてあり,だれでもこの方法で修行すれば超能力者になれ る。既に私の指導を受けている人たちはこの方法で着実に力を付けている。」などと説 き,また,被告人によるイニシエーション(霊的エネルギーを授ける儀式)の一つであるシ ャクティパット(クンダリニーという霊的エネルギーを覚せいさせ,ひいては超能力を身に 着けることができるとするもの)を受けられるセミナーを開催し始めていた。そして,これら により,被告人の説く内容を信じ,超能力を身に着けたい,あるいは,悟り,解脱の境地 に達したいと考え,オウム神仙の会に入会を希望する者が次第に増えていった。
被告人は,オウム神仙の会における会員に対する指導において,次第に原始仏教や チベット密教等の宗教色を深めていき,昭和61年夏ころヒマラヤで修行し最終解脱をし たと称するようになり,その後出家制度を作り,同年9月ころには,出家者は二十数名を 数えた。出家者は親族との縁を絶ち,私財を被告人ないしオウム神仙の会に寄附するな どし,修行やバクティ(後のワーク)と言われる被告人から与えられた課題である同会での 奉仕活動をしながら,東京都内などで共同生活を営んでいた。
3 被告人は,昭和61年12月,「生死を超える」と題する書籍を発行し,その中で解脱 に至った体験及びその修行法について説いた。
また,被告人は,昭和62年1月4日に行われた丹沢セミナーでの説法の中で,完璧な 功徳に関する質問に対し,「密教修行者のティローパが生きた魚を焼いて殺して食べて いた。彼は完全な成就者であった。何をやったというとポアをやってたわけだね。その魚 の魂を他の世界へ上昇させるわけだ。高い世界へ上昇させるんだから,ティローパは功 徳を積んでるわけだ。ところが,釈迦牟尼の殺生するなかれという言葉からいったら,殺 生してるだろう。だから,そこは,定義上の問題で非常に難しいんだね。だから,ランクに 応じて,その人がそのときにできる最高のことをやる,これしかないと思います。だから, 例えば,チベット密教というのは非常に荒っぽい宗教で,例えば,X6が教えを乞うた先 生の一人に『お前はあの盗賊を殺してこい。』と言われ,やっぱり殺しているからね。そして,このX6は,その功徳によって,修行を進めているんだよ。だから,どの門の修行に入 るかによって,功徳は若干変わります。仏教的な,オーソドックスなやり方をするとするな らば,まず,とにかく,禁戒を守る。殺さない,盗まない,これから入っていくプロセス。… だから,どちらのプロセスで入ってくるか,あるいはその人がどのステージにいるかによっ て,非常に複雑になります。」と述べ,さらに,「グルのためだったら死ねる,グルのためだ ったら殺しだってやるよというタイプの人はクンダリニー・ヨーガに向いてるということにな る。そして,そのグルがやれと言ったことすべてをやることができる状態,例えばそれは殺 人も含めてだ,これも功徳に変わるんだよ。だから,どのプロセスをたどっていくか,条件 によって違ってくるわけだ。そして,今の日本の宗教理念からいったら,特にクンダリニ ー・ヨーガというものは受け入れられづらいだろうなと考えている。私も過去世において, グルの命令によって人を殺してるからね。自分は死ねるが,カルマになる,人を殺すとい うものはできないものだ。しかし,そのカルマですらグルに捧げたときに,クンダリニー・ヨ ーガは成就するんだよ。だから,その背景となるもの,修行法によって変わってくるわけ だ。『いや,じゃあおかしいじゃないか。そこで殺したんだからそれはカルマになるじゃな いか。』と考えるかもしれないけど,そうではないんだよ。例えばグルがそれを殺せと言うと きは,例えば相手はもう死ぬ時期に来てる。そして,弟子に殺させることによって,その相 手をポアさせるというね,一番いい時期に殺させるわけだね。そして,例えばもう一度人 間界に生まれ変わらせて修行させるとかね,いろいろとあるわけだ。だから,功徳につい ては非常に説明しづらい。ただ,無難な方法は,釈迦牟尼の言葉を借りるならば,仏陀と 仏陀の説く法とその弟子たちサンガに帰依し供養するということ,それから,殺さない,盗 まない,よこしまなセックスをしない,うそをつかない,心の乱れるような酒の飲み方をしな いということになっています。そして,私も,それが無難だろうなと思っている。」と述べ,場 合によっては,グル(解脱に導くことのできる宗教上の指導者)の指示に従って人を殺し てその者を高い世界に上昇させることで功徳を積むことができるという説明の中で,人を 殺すという意味で「ポア」という言葉を用いた。
4 被告人は,昭和62年6月ころ,「オウム神仙の会」の名称を「オウム真理教」に変更し たが,その命名の由来について,当時の説法において,「私は,オウムの主宰神であるシ ヴァ大神(独力で真理によって最終解脱まで到達し多くの衆生を済度し続けている魂で ある真理勝者方のグルであり,この果てしない宇宙において救済活動をしているとす る。)から『もう世の中の真理というものはないよ,A2。』と啓示を受けた。そこで,オウム は,真理の教えを実践し,体得しようではないかと考え,『オウム神仙の会』では生ぬるい ので『オウム真理教』になった。」旨述べ,また,自らをシヴァ大神とコンタクトを取ることの できるグルであると称して,自己の絶対化をもくろんだ。 そのころ,A3は,最終解脱に至る一つの段階であるクンダリニー・ヨーガを成就したと 被告人に認定され,大師というステージ及びマハー・ケイマというホーリーネームを与えら れた。次いで,A4が,同年7月に同様に最終解脱に至る一段階であるラージャ・ヨーガを 成就したと被告人に認定され,大師というステージ及びX15というホーリーネームを与え られた。このようにして,被告人は,同年中に,10名前後の弟子たちを成就を遂げた者と 認定し,大師というステージやホーリーネームを付与した。
5 被告人は,昭和62年ころから,それまで説いていた小乗(ヒナヤーナ)の教え(自分 個人の解脱に至る教え)から大乗(マハーヤーナ)の教え(自己のみならず他の人をも救 済し解脱に導く教え)に重点を移行し,これを中心として教義を説くようになっていたが, その一環として,同年7月16日,世田谷道場において,グルへの帰依の在り方やオウム の救済活動について,「解脱のための一番手っ取り早い方法は,自分の持っているもの 全部を空っぽにし,グルあるいはシヴァ神の求めているものを意思して実行することであ る。オウムの救済活動とは,まずは真解脱者を3万人出すことだ。そして,3万人が世界に 散ったならば,そのサットヴァのエネルギーによって,例えば核兵器を持つことが無意味 になる。そして真理は一つになるはずだ。そうなったら,核戦争が起きることはない。」と説 法し,同年8月には,同年5月の集中セミナーでの被告人の説法等を編集した「イニシエ ーション」と題する書籍を発行し,その中で,「1993年までに世界各国に二つ以上の支 部ができなかったら,1999年から2003年までに確実に核戦争が起きる。私は初めて核 戦争の話に触れた。私たちに残されている時間は,あとわずかに15年くらいしかない。… 核戦争を回避するためには,オウムの教えを世界に広めていかなければならない。支部 を各国に作っていかなければならない。1993年までにオウムが,シヴァ神の意志を理解 し実行し,役割を果たすことができたなら,確実に戦争回避はできる。」などと,核戦争の 可能性について不安をあおりながら,オウムによる人類救済を説いた。
6 被告人は,昭和62年12月12日,世田谷道場での説法において,「オウムでは,特 殊な,タントラヤーナに近いことをやっている。このタントラヤーナというのはマハーヤーナ・ステージの千生分を一生に集約して成就させようというものだ。そのためには何をや るかというと,秘儀伝授,それからグルのエネルギー移入。この連続である。」と説き,昭 和63年1月,福岡支部での説法においては,「今年,私は,大乗から,タントラヤーナ(秘 密乗。秘密の教え,密教であり,管・風・心滴という三つの要素を昇華,浄化することによ り,速やかに解脱を得る方法とする。)のプロセスについて説きたいと考えている。」旨述 べ,同年2月には,昭和62年10月の集中セミナーでの説法等を編集した,オウム真理教 の教義の根幹ともいえる「マハーヤーナ・スートラ 大乗ヨーガ経典」と題する書籍を発行 した。
7 被告人は,以前から,富士山が見える場所に信者が一堂に会することのできる大き な総本部道場を造ることを考えていたが,その費用に充てるために多額の寄附を募り, 昭和63年3月ころには,被告人の血を飲むと飛躍的に修行が進み,悟りや解脱に近づく と称して,富士山のオウム道場を造るために100万円以上の募金をした信者約30人に 対し,血のイニシエーションを実施するなどした。
被告人は,同年6月ころ,「人間界にあまねく真理を体現しようとする被告人の活動はシ ヴァ神の大いなる意思によるものであり,より多くの魂が真理の生活をし,解脱し,高い世 界に行けるように,真理に基づいた社会,理想郷(シャンバラ)を建設する。」などと称し, 日本シャンバラ化計画を打ち出して,全国主要都市に支部や総本部道場を建設し,ある いは,衣食住,修行,医療,教育等すべて整ったオウムの村(ロータス・ヴィレッジ)を作ろ うとし,信者に対し,30万円以上の布施をすれば種々の特別イニシエーションを受けら れるとして布施を募るなどし,その費用の調達に努めた。 富士山総本部道場は,静岡県富士宮市b1において,建設工事が進められていたが, 同年8月に竣工して開設され,同年10月にはこれに隣接して4階建てのサティアンビル (後の第1サティアン)が竣工し,被告人及びその家族は千葉県内の自宅から同所に引 っ越した(以下,富士山総本部道場及びサティアンビルを合わせて「富士山総本部」とい う。)。
8 被告人は,同年8月から同年9月にかけて,富士山総本部において,出家信者らに 対し,「グルに対する帰依がしっかりしていて,信の篤い者,そして思考する力の強い者 は,タントラ的な修行によって,より早く成就することができる。グルに対する帰依というも のを背景として24時間のワークがあり,24時間のワークを背景としてタントラの修行があ る。帰依の土台から言うと,大乗は一応グルを尊敬すればよいが,タントラやヴァジラヤー ナ(金剛乗。身・口・意の意味であり,救済者として自己の使命を確立し,他の魂を真理 の流れに引き入れ,引き上げ,他を救済するために身と口のカルマを積んで自己にカル マの清算がやってこようとも心が成熟するならばよしとする立場であり,最終解脱に到達 するのはマハーヤーナに比べて断然早いとする。最終解脱に向かうにはタントラヤーナ の道を歩いても,最終的にはヴァジラヤーナの道に入らねばならないとし,合わせてタン トラ・ヴァジラヤーナと呼ぶ。)は,完璧な帰依が必要である。」「自己に与えられた任務で あるワークのできない人間は去れ。私はあなた方一人一人に課題を与えている。それが ワークだ。そして,その課題を正しく理解し,評価し,回答し,実践し,それを得て修行の 進歩とし,そして,解脱に対して一歩近づく。あなた方の最高の修行はワークだ。」「あな た方にとっては,シヴァ神もいない。あなた方にとってのシヴァ神,ヴィシュヌ神,法はい ずれも私である。その関係が成立したとき,初めてあなた方は,今生で猛スピードで成就 ができる。」「タントラやヴァジラヤーナで成就する場合のポイントは,絶対的なグルに対 する帰依である。どんなに素質のある修行者であっても,グルの与えるイニシエーション, エネルギーの移入というものがなければ成就はしない。弟子のグルに対する最も強い帰 依ができたとき初めて,グルの心は,さあそろそろ成就させようかと動くわけである。」など と説法し,同年10月2日に富士山総本部で行われた説法の中では,「いよいよオウムが ヴァジラヤーナのプロセスに入ってきた。このヴァジラヤーナのプロセスは善も悪もない。 ただ心を清め,そして真理を直視し,目の前にある修行に没頭し,後は神聖なるグルの エネルギーの移入によって成就する。…金剛乗の教えというものは,もともとグルというも のを絶対的な立場に置いて,そのグルに帰依する。そして,自己を空っぽにする努力を する。その空っぽになった器にグルの経験あるいはグルのエネルギーをなみなみと満ち あふれさせる。つまり,グルのクローン化をする。あるいは守護者のクローン化をする。こ れがヴァジラヤーナだ。」と述べ,より早く成就するためにはヴァジラヤーナの教えによる ことが必要であるとして,グルである被告人に対する絶対的な帰依を求めるとともに,布 教活動を行う教団への奉仕活動としてのワークの重要性を強調した。
出家信者らは,このような被告人の説法を聞いて,日夜,修行及びワークに精を出し, 立位礼拝の際には「オウム,グルとシヴァ神に帰依し奉ります。私を速やかに解脱へとお 導きください。」という詞章を唱えるなどしていた。
そのころまでに,教団は,種々の布教活動を通じて,超能力や死後の世界,解脱,悟り 等に関心を寄せ,あるいは,現代社会に不安や不満を持ち,被告人の説くシャンバラ化 計画や3万人の成就による人類救済計画に引かれる若者を勧誘し入信させるなどして, 出家信者は約100ないし200名,在家信徒は約3000ないし4000名に達し,さらに,富 士山総本部及び東京本部のほかに,大阪,福岡,名古屋,札幌,ニューヨークに支部を 開設するなどして,その勢力を急速に伸ばしていった。
9 被告人は,同年12月13日,富士山総本部におけるポアセミナーでの説法におい て,在家信徒に対し,近々発行予定の「滅亡の日」と題する書籍に触れ,「私は,その書 籍では,『ヨハネの黙示録』の第16章までを完璧に解き明かした。そこに書かれている内 容は,人類が滅亡するであろうということであり,生き残る人の条件というのは,仏教的な 戒めを守ることと禁欲,もう一つはシヴァ神に対する帰依,あるいはグルに対する帰依だ った。つまり,聖書に書かれている預言中の預言と言われている『ヨハネの黙示録』の中 には,タントラ・ヴァジラヤーナの精髄が説かれていた。そして今,世界のどこを探しても そのことを最も激しく実践しているのは,オウム真理教の信徒だけだ。私達の欲求をつぶ し,戒を守り,グルに帰依し,シヴァ神に帰依し,瞑想をすること。これ以外に本当の幸福 はないし,高い世界へ至る道はないことが説かれていたというわけだ。」と述べ,平成元 年2月発行の「滅亡の日」と題する書籍の中で,「人間の悪業が満ちてくると神は火元素 を操ることで火山を噴火させて部分的にカルマ落としをしている。何よりも怖いのは,この ような自然の噴火でカルマを落とし切らなくなったときだ。神は人工的な火を使ってカル マ落としをさせるだろう。それがハルマゲドン(人類最終戦争)だ。」「『今やヨハネの黙示録 の封印を解くべき時が来た。その示唆を受け取り,オウム真理教の救済計画を固めよ。』 私のグルであられるシヴァ神があまりに突然にこう告げた。」「力で良い世界をつくる。これ こそ,タントラ・ヴァジラヤーナの世界だ。シヴァ神は,シヴァ神への強い信仰を持ち続け たタントラ修行者が,諸国民を支配することを望んでいらっしゃるんだ。」と説き,平成元 年5月発行の「滅亡から虚空へ」と題する書籍の中では,「ハルマゲドンは回避できない。 しかし,オウムが頑張って多くの成就者を出すことができれば,その被害を少なくすること ができる。ハルマゲドンで死ぬ人々を,世界人口の4分の1に食い止めることができる。残 りの4分の3の人口の中のどれだけが生き残れるかは,オウムの救済活動次第だ。私は, 私に与えられたこの使命に命を懸けている。」などと,ハルマゲドン(人類最終戦争)が不 可避であるとして終末感をあおりながらオウムによる救済活動の重要性について説いた。
10 平成元年ころまでには,オウムの出家制度は,シヴァ神及び尊師である被告人に 生涯にわたって,心身及び自己の全財産を委ね,肉親,友人,知人等との直接及び間 接の接触など現世における一切のかかわりを断つことであるとされ,教団への出家手続 の際には,「出家中は教団に迷惑を掛けない。親族とは絶縁する。損害を与えた場合に は一切の責任を取る。すべての遺産,財産は教団に寄贈する。葬儀等は被告人が執り 行う。事故等で意識不明になったときはその処置を被告人に任す。慰謝料,損害賠償も すべて被告人に任す。」という趣旨の内容の誓約書,遺言書等を見本を見て書くように指 導がされた。
11 被告人は,教団が宗教法人となれば社会的にも認知されるほか,税制上も優遇措 置を受けられることから,かねてから,教団を法人化しようと考え,出家信者を介して東京 都の担当部署との間で相談ないし折衝をしていたが,平成元年3月1日,宗教法人設立 のために教団の宗教法人規則認証申請書を東京都知事あてに提出し,紆余曲折を経て 同年8月25日教団の宗教法人規則認証書の交付を受け,同月下旬ころ,宗教法人登記 手続をし,教団は法人格を取得した。その教団の規則及び設立登記における教団の目 的は,「主神をシヴァ神として崇拝し,創始者A5(別名=A2)はじめ真にシヴァ神の意志 を理解し実行する者の指導の下に,古代ヨーガ,原始仏教,大乗仏教を背景とした教義 を広め,儀式行事を行い,信徒を教化育成し,すべての生き物を輪廻の苦しみから救済 することを最終目標とし,その目標を達成するために必要な業務を行う」こととされた。
12 また,被告人は,教団の勢力をより一層拡大するためには,宗教活動をするだけで はなく,政治力を付ける必要があると考え,次期衆議院議員総選挙に大師ら教団幹部と 共に立候補することとし,同月16日,自らを代表者とし政治団体を真理党として政治資 金規正法6条1項の規定による政治団体設立届を提出するなどし,選挙の準備を始め た。
13 このころのワークは,信徒勧誘活動や選挙準備活動のほか,CBI(コスミック・ビル ディング・インスティテュート)に係る建設関係,CSI(コスミック・サイエンス・インスティテュ ート)に係る科学関係,CMI(コスミック・メディカル・インスティテュート)に係る生化学関 係,AFI(アストラル・フード・インスティテュート)に係る食糧関係,AMI(アストラル・ミュー ジック・インスティテュート)に係る音楽関係,教団刊行物の編集・出版関係,車両関係,生活関係等多種類のものがあり,出家信者らは,グルである被告人に対する絶対的な帰 依に努めながら,被告人の言う3万人の成就者の中に入ることを目指して,日夜修行をし ながらそれぞれに課せられたワークに従事していた。
14 被告人は,平成元年9月24日,世田谷道場で行われた説法の中で,「例えば,Aさ んという人がいて,Aさんは生まれて功徳を積んでいたが慢が生じてきて,この後悪業を 積み,寿命尽きるころには地獄に堕ちるほどの悪業を積んで死んでしまうだろうという条 件があったとしましょう。このAさんを,成就者が殺したら,Aさんは天界へ生まれ変わる。 しかし,このAさんを殺したという事実を他の人たち,人間界の人たちが見たならば,これ は単なる殺人。そして,もしこのときにAさんは死に天界へ行き,そのときに偉大なる救世 主が天界にいて,その人に真理を解き明かしAさんが永遠の不死の生命を得ることがで きたとすると,このときに殺した成就者は何のカルマを積んだことになりますか。すべてを 知っていて,生かしておくと悪業を積み,地獄へ堕ちてしまう。ここで,例えば生命を絶た せた方がいいんだと考え,ポアさせた。この人はいったい何のカルマを積んだことになり ますか,殺生ですか,それとも高い世界へ生まれ変わらせるための善行を積んだことにな りますか。人間的な客観的な見方をするならば,これは殺生です。しかし,ヴァジラヤー ナの考え方が背景にあるならば,これは立派なポアです。そして,智慧ある人─ここで大 切なのは智慧なんだよ。─智慧ある人がこの現象を見るならば,この殺された人,殺した 人,共に利益を得たと見ます。ところが,智慧のない人,凡夫の状態でこれを見たならば 『あの人は殺人者』と見ます。…ここにいる人を,今,人間界の低次元から天界へ上げる。 しかも,そこには偉大な救世主がいて,その人と縁があって,その天界へ行った人は永 遠不死,マハー・ニルヴァーナに入ることができるとしましょう。そこに一人送り込んだわけ だから,大変な功徳を積んだことにならないですか。だから,そういう偉大な功徳の積み 方,これができるのがヴァジラヤーナあるいはタントラヤーナであると考えてください。しか し,それは最後にあなた方がなす修行である。今は,修行としては小乗(ヒナヤーナ)の 実践をなして初めて次のステージの大乗(マハーヤーナ)の真の意味合いというのが分 かるようになってくるということを理解しなければならない。」と説き,ヴァジラヤーナの考え 方によれば,成就者が,地獄に堕ちるほど悪業を積んだ者を殺して天界へ上昇させた場 合,これは立派なポアであり,偉大な功徳となる旨述べ,殺人をポアと称し,これを容認 する考え方としてヴァジラヤーナの教えを用いた。
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