オウム真理教事件・麻原彰晃に対する判決文/chapter nine
Ⅸ B18事件(殺人,死体損壊)
(平成7年7月5日付け追起訴状記載公訴事実)
[第1(殺人)の犯行に至る経緯]
1 B18(昭和39年11月13日生)は,薬科大学薬学部を卒業後製薬会社に就職して 薬剤師の免許を取得したが,平成2年4月同社を退職して,妻子と共に教団に出家し, 同年夏ころから東京都中野区h1所在の教団附属医院(AHI)で薬剤師の業務に従事し ていた。
D6は,昭和62年にオウム神仙の会に入会した後,教団への入信出家や下向を繰り返 し,最終的には,平成4年春ころ,脱会したが,教団信者であった平成3年秋ころ,A35と 共に,難病にかかり栃木県で療養していた実母D7に対し教団附属医院に入院するよう 勧めた。D7は,同年11月ころ,教団に入信し教団附属医院に入院して治療を受けるよう になり,同所で薬剤師をしていたB18と知り合い,親しくしていた。
2 被告人は,平成5年12月末ころ,B18がD7と親密な関係になり性欲の破戒をしたと して,二人を引き離すためにD7をe1村の教団施設である第6サティアン3階の医務室に 移動させ,以後,D7は,同所で投薬治療のほか,教団信者に被らせるヘッドギアの電極 を通じて被告人の脳波を電流化したものを教団信者の頭部に流すPSIの修行を受けるよ うになった。
B18は,教団に不信感を抱いていた上,好意を寄せていたD7にPSIの修行をさせて いることを含め,適切な治療が行われているか疑問を持っていたことから,同人を教団施 設から連れ出して薬局店を開業し自分の手でD7の病気を治そうと考え,平成6年1月20 日ころ,教団施設から逃げ出し,同月24日ころまでに,D7の夫でありD6の実父であるD 8やD6に対し,教団の治療やPSI修行の問題点などを話し,同人らに対し,教団施設か らD7を連れ出したいのでこれに協力してくれるよう話を持ち掛け,D8及びD6は,協力 する旨約束した。
3 B18は,同月30日午前2時ころ,D6及びD8と共に,普通乗用自動車で第6サティ アン付近まで行き,D8を車で待たせ,同日午前3時ころ,D7を連れ出すために,D6と共に第6サティアンに侵入し,3階の医務室内に寝かされていたD7を抱えて部屋から出 ようとしたところ,教団信者に発見され,捕まえられそうになったため,あらかじめ用意して いた催涙スプレーを噴射するなどして抵抗した。しかし,騒ぎに気付いた教団信者が次 々と同所に駆け付けてきたため,結局,B18はA7とA35に,D6はA40とA41にそれぞ れ取り押さえられ,いずれも両手に前手錠を掛けられた。
4 A7は,A35らに対し,B18及びD6を監視するよう指示して,第6サティアン1階の被 告人の部屋に行き,B18らの侵入事件について報告した。被告人は,それを聞いて,B1 8が破戒をして脱走したにとどまらず,D6と共に,D7を無断で連れ出そうとし,そのため に被告人の居住する第6サティアンという神聖な場所に侵入して暴れるなどの教団ないし 被告人に対する敵対行為に及んだものであり,このままB18及びD6を放置するわけに はいかず,B18らを殺害するほかないと決意し,A7に対し,B18とD6を第2サティアン3 階に連れていくよう指示した。
その後,被告人は,A1に先導させてA20が運転する被告人専用車両に乗り込み,A2 0に「第2サティアンに行ってくれ。」と指示し,出発させた直後に「今から処刑を行う。」と 言った。
5 一方,A7は,被告人の指示を受け,A35やA41らと共に,B18及びD6をワゴン車 に乗せて第2サティアンまで搬送し,同サティアン3階のエレベータ前付近まで連れてい き,同所で,A41らにB18及びD6を監視させた。
6 被告人は,第2サティアンに到着した後,A1の先導で同サティアン3階の「尊師の部 屋」と呼ばれている東西方向約12m,南北方向約7.5mの広さの瞑想室(以下,「尊師 の部屋」ともいう。)に入り,同室内の東側に置かれているソファに座り,A6,A7,A28, A20,A35及びA40も同室に入った。被告人は,A6らからB18らの持ち物等について 報告を受けるなどした後,「これからポアを行うがどうだ。」と,B18及びD6を殺害するつ もりであることを話した。A6やA7は「尊師のおっしゃるとおりです。」「ポアしかないです ね。」などと相づちを打ち,A28は「泣いて馬謖を切る。」という言葉を使って賛意を表し, 他の者もすべて被告人に同調した。
7 続いて,被告人は,「その前にD6と話がしたいから。」と言って,A7に対し,D6を呼 び入れるよう指示した。3階エレベータ前付近でD6を監視していたA41は,A7から指示 を受け,前手錠をされたD6を尊師の部屋内の被告人の前まで連れていった。そのころま でにA14は被告人に呼び出され尊師の部屋に入っていた。
8 被告人は,相対して正座しているD6に対し,「なんでこんなことをしたんだ。」と理由 を尋ねると,D6が「B18さんに母親のことを聞いて,心配になったので。」と答えるので, 「なんでB18がこういうことをしたか分かるか。」と言ってB18が教団施設に侵入してD7を 連れていこうとした理由を聞くと,D6は,B18がD7のことを気遣ったのだろうと思ったが, とりあえず「分かりません。」と答えた。
被告人は,B18がD6にこのような悪業を積ませたのであるから,D6にB18を殺害させ ることによりそのカルマを清算させるのがカルマの法則(因果応報の法則)にかなうと説明 することによってB18を殺害することを弟子たちに正当化することができるし,D6にも口 封じをすることができると考え,D6に対し,「B18は,教団にいるときに,母親にイニシエ ーションだと偽って性的関係を持ったり,精液を飲まそうとしていたんだ。それで教団がB 18と母親を引き離したが,B18はそれを不服に思って,母親を連れ出して母親と結婚し ようともくろんでたんだ。もし,おまえや私がその結婚を止めるようなことがあったら,B18 はおまえや私を殺すつもりでいたんだ。だから,B18の言った母親の状態というのは全く うそっぱちなんだ。」などと言った上,「おまえは,B18のそういう思惑があるのも知らない で,B18にだまされて,ここに来て真理に対して反逆するという,ものすごい悪業を犯し た。ぬぐうことができないほどの重いカルマを積んでいる。間違いなく地獄に落ちるぞ。お まえは帰してやるから安心しろ。ただし条件がある。それはおまえがB18を殺すことだ。そ れができなければおまえもここで殺す。」などと言って,B18を殺害することを指示した。
D6が返事をしないで黙っていると,被告人は,B18がD6をだましてD6に大きな悪業 を積ませ,D7を破戒に巻き込んだのは大きな悪業であるから,ポア,すなわち殺害しな ければならない旨説明した。そして,被告人は,D6から,「それはどうやってやるんです か。」と尋ねられると,「ナイフで心臓を一突きにしろ。」と言い,さらに,D6から「やったらほ んとに帰してもらえるんですか。」と聞かれ,「私がうそをついたことがあるか。」と答えるな どした。D6は,このようなやり取りを経て,悩んだ末,B18を殺害することを承諾した。
9 そこで,被告人は,B18を尊師の部屋に入れるよう指示した。B18は,同室内に連 れてこられ,同室内の西寄りに敷かれた約2m四方のビニールシートの中央に前手錠の まま座らされた。D6がB18に目隠しをしてほしいと被告人に頼むと,被告人は,「それは 構わない。ただし,自分でやれ。」と言って「だれか目隠しするものを持ってきてくれ。」と指示し,D6が,用意されたガムテープでB18に目隠しをした。その後,被告人の弟子た ちによりロープが準備され,これで首を絞めて殺害する方法に変更してはどうかという提 案がされ,被告人もこれを了承した。
その際,被告人は,B18が催涙ガスを使ったことを指摘し,「それならばB18に対して も,催涙スプレーを使わないとまずいな。」と言い,催涙スプレーをB18に掛けるよう指示 した。そこで,D6は,催涙ガスが拡散しないようにA35と共にB18にビニール袋を被せ, その袋の中で催涙スプレーを噴射すると,B18はせき込みうめき声を上げ,体を揺すり立 ち上がろうとするなど暴れ出したので,周りにいた者数名でこれを取り押さえた。このとき 催涙ガスが袋の外に漏れたことから窓が開けられて換気がされたが,被告人が「なんで 窓を開けるんだ。閉めろ。」と言ったことから,直ちに窓が閉められた。
その後,D6は,A7から,二つ折りにされたロープを受け取った。
[罪となるべき事実第1(殺人)]
被告人は,D6らと共謀の上,B18(当時29歳)を殺害しようと企て,平成6年1月30日 未明,山梨県西八代郡e1村i5所在の第2サティアン3階の尊師の部屋において,D6 が,B18に対し,その頸部に二つ折りにしたロープを巻いて頸部を絞めたものの,手錠が 掛けられていたため十分に力が入らず,A7から助言を受けて,ロープの折り返し部分に 右足を掛け,他方の端を両手で引っ張る方法でB18の頸部を絞め続け,その間,周囲 にいたA28,A35,A40,A41ら数名がB18の身体を押さえ付け,被告人が,A14から B18の脈拍の有無について報告を受ける都度,D6に対しB18の頸部を更に絞め続ける よう指示するなどし,そのころ,同所において,B18を窒息死させて殺害したものである。
[第2(死体損壊)の犯行に至る経緯]
被告人は,B18の死亡をA14に確認させた後,A6と相談の上,第2サティアン地下室 にあるマイクロ波加熱装置とドラム缶等を組み合わせた焼却装置であるマイクロ波焼却装 置でB18の死体を焼却することとし,A6に対し,その焼却を指示した。被告人は,その 際,A6から人手が欲しいと言われたことから,外で待機している警備担当のA42とA43 を尊師の部屋に呼び入れ,同人らにB18を殺害した経緯等について説明した上,A42, A43及びA41の3名に対し,B18の死体を梱包して地下室に運び,A6の指示に従って B18の死体を処理するよう指示した。
その後,被告人は,D6を呼び寄せ,「これからは,また,入信して,週1回は必ず道場 に来い。おまえが今回積んだカルマはちょっとやそっとでは落とすことができないカルマ だから,一生懸命修行しなさい。」と言い,最後に「おまえはこのことは知らない。」と付け 加えてB18の殺害について口止めをし,D6を帰した。 A41ら3名は,B18の死体をビニールシートで梱包した後,同サティアン地下室にある マイクロ波焼却装置のそばまで運んだ。
[罪となるべき事実第2(死体損壊)]
被告人は,A6,A41らと共謀の上,同日,第2サティアン地下室において,B18の死体 をマイクロ波加熱装置とドラム缶等を組み合わせた焼却装置(マイクロ波焼却装置)の中 に入れ,これにマイクロ波を照射して加熱焼却し,もって,同人の死体を損壊したもので ある。
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