ふるさと (島崎藤村)

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   はしがき


とうさんがとほぐわいこくはうからかへつたときたらうじらうへのみやげばなしにとおもひまして、いろ/\なたびのおはなしをまとめたのが、とうさんの『をさなきものに』でした。あのときたらうはやうやく十三さいじらうは十一さいでした。

早いものですね。あのほんつくつたときから、もう三ねんつきひがたちます。たらうは十六さいじらうは十四さいにもなります。とうさんのうちには、いまたらうに、じらうに、すゑこの三にんます。すゑこかあさんがくなるともなくひたちはううばうちあづけられて、七ねんもそのうばのところにましたが、いまではとうさんのうちはうかへつてます。さぶらうはもうながいことしんしうきそをぢさんのうちやしなはれてまして、あにたらうじらうのところへとき/″\てがみなぞをよこすやうになりました。さぶらうはことし十三さいすゑこがもう十一さいにもなりますよ。

とうさんのうちではよくさぶらううはさをします。さぶらうきそはうはなしもよくます。あのきそやまなかとうさんのうまれたところなんですから。

ひとはいくつにつてもこどもじぶんべたものあぢわすれないやうに、じぶんうまれたとちのことをわすれないものでね。たとへそのとちが、どんなやまなかでありましても、そこでこんどとうさんはじぶんちひさじぶんのことや、そのこどもじぶんあそまはつたやまはやしのおはなしを一さつちひさなほん〈[#「に」は底本では「こ」]〉つくらうとおもちました。あの『をさなきものに』とおなじやうに、こんどほんたらうじらうなどにはなかせるつもりできました。それがこの『ふるさと』です。



〈[#改ページ]〉




   一 すずめのおやど


みんなおいで。おはなししませう。すずめのおやどからはじめませう。

すずめすずめ、おやどはどこだ。

すずめのおうちはやしおくたけやぶにありました。このすずめにはとうさまもかあさまもありました。たのしいおうちまへたけばかりで、あをいまつすぐなたけたくさんならんでえてました。すずめまいにちのやうにたけやぶにあそびましたが、そのたけあひだからると、たのしいおうちがよけいにたのしくえました。

そのうちに、すずめきなおうちまへにはたけえてました。かあさまのおせんたくするはうつてますと、そこにもたけてゐました。

『あそこにもたけ。ここにもたけ。』

すずめはチユウチユウきながら、たけのまはりをよろこんでをどつてあるきました。

わづひとばんばかりのうちにたけはずんずんおほきくなりました。すずめきて、またたけやぶへあそびにきますと、きのふまでえなかつたところにあたらしいたけたのがあります。きのふまでちひさなたけだとおもつたのが、わづひとばんばかりで、びつくりするほどおほきくなつたのがあります。

すずめはおどろいて、かあさまのところへんできました。かあさまにそのはなしをして、どうしてあのちひさなたけがあんなにきふおほきくなつたのでせうとたづねました。するとかあさまはかあいすずめきまして、

『おまへはじめてつたのかい、それがみなさんのよくふ「いのち」(生命)といふものですよ。おまへたちがおほきくなるのもみんなそのちからなんですよ。』

はなしてきかせました。


   二 ごぼくはやし  


たらうよ、じらうよ、おまへたちとうさんのうまれたやまちはうのおはなしを聞きたいとおもひますか。

ひのきさはらあすひまきねず――それをきそはうではごぼくといひまして、さういふえたもりはやしがあのふかたにあひしげつてるのです。ごぼくとは、いつつのおもしてふのですが、まだそのほかくりすぎまつかつらけやきなぞがえてます。もみつげえてます。それからとちえてます。たらうじらうは一とうさんにいて、さぶらうきそをぢさんのうちたづねたことがりましたらう。あのをぢさんのうちまへから、きそがはながれるところをましたらう。をじさんのうちのあるきそふくしままちおんたけさんちかいところですが、あれからきそがはについて十ばかりもかはしもみさかむらといふむらがあります。それがとうさんのうまれたむらです。


   三 やまなかるおしやうぐわつ


とうさんもむかしはおまへたちおなじやうに、おしやうぐわつるのをたのしみにしたこどもでしたよ。

しやうぐわつじぶんになると、とうさんのうまれたおうちではじぶんのところでおもちをつきました。そのおもちろばたにつゞいたにはでつきましたから、そこへぢいやがこやからきねをかついでました。うすもころがしてました。おもちにするおこめうらぐちかまどしましたから、そこへもてつだひのおばあさんがたのしいきました。

やがてせいろといふものにれてしたおこめがやはらかくなりますとおばあさんがそれをうすなかへうつします。ぢいやはきねでもつて、それをつきはじめます。だんだんおこめがねばつてて、おもちうすなかからうまれてます。ぢいやはちから一ぱいきねげて、それをちおろすたびに、うすなかのおもちにはおほきなあながあきました。おばあさんはまたこしりながら、ぢいやがきねげたときみはかつてはあなのあいたおもちをこねました。

『べつたらこ。べつたらこ。』

そのもちつきのおとくと、とうさんはこどもごゝころにもおしやうぐわつやまなかのおうちることをりました。


   四 こどもじぶん


これからとうさんはおまへたちに、じぶんこどもじぶんのことをおはなし〈[#ルビの「はなし」は底本では「はな」]〉しようとおもひます。

とうさんのちひさじぶんには、いまのやうにせうねんざつしといふものもりませんでした。おまへたちのやうにおもしろいおとぎばなしほんや、かあいらしいのついたざつしなぞをむこともできませんでした。んでたくも、なんにもさういふおとぎばなしほんざつしいんでせう、おまけに、とうさんのうまれたところはやまなかゐなかでせう、そのかはり、ちひさじぶんとうさんには、るものくものがみんなおとぎばなしでした。


   五 にもつはこうま


『もし/\、おまへさんはいまかへるところですか。』

とうさんがおうちもんそとますとうまきんじようまかたかれてとうさんのまへとほります。このうまゆふがたになると、きつとかへつてるのです。

『さうです。けふにもつをつけてとなりむらまでつてました。』

とそのうまとうさんにひました。

『おまへさんのくびにはおとのするすゞがついてますね。』

とうさんがいひますと、うまくびをふりながら、

『えゝ。わたしあるたびにこのすゞります。わたしはこのすゞおとながらおうちはうかへつてまゐります。うまにもつをつけてときはなか/\ほねれますが、一にちしごとをすましてやまみちかへつてるのはたのしみなものですよ。』

さううまつて、さもじまんさうにくびについてすゞらしてせました。とうさんのおうちまへきそかいだうつて、てつだうきしやもないじぶんにはみんなそのみちあるいてとほりました。たかやまうへでおまけにさかみちおほところですからにもつはこのとほうまはこびました。どうかすると五ひきも六ぴきにもつをつけたうまつゞいてとうさんのおうちまへとほることもありました。をとこをんなたびびとせたうまうまかたかれてとほることもありました。とうさんのこゑけたのは、きんじよはれてうまで、まいにち/\となりむらはうにもつはこぶのがこのうまやくめでした。

うまじぶんのおうちかへつたじぶんとうさんはよくしてつてました。

ごくらうごくらう。』

うまかたうまめまして、うませなかにあるくらをはづしてやつたりうまかほでゝやつたりしました。それからうまかたおほきなたらひつてまして、うまぎやうずゐをつかはせました。

『どうよ。どうよ。』

うまかたひますと、うまかたあしづゝたらひなかれます。うまぎやうずゐわらでもつて、びつしよりあせになつたからだながしてやるのです。とうさんはうまかたうちまへつて、たのしさうにぎやうずゐをつかつてもらつてうまながめました。そして、うまぎやうずゐはじまるじぶんにはやまなかむらゆふがたることをりました。それにがついては、とうさんはじぶんのおうちはうかへりませうとおもひました。


   六 おくやまえる


とうさんのゐなかでは、ゆふがたになるとよたかといふとりそら〈[#ルビの「と」は底本では「とび」]〉びました。そのよたかじぶんには、かうもりまでが一しよしました。

かうもり――い、い。』

ひながら、とうさんはかうもりと一しよになつてあるいたものです。どうかするときつねびといふものがえるのも、むらゆふがたでした。

ごらんきつねびえてますよ。』

むらひとはれて、とうさんはおうちまへからそのチラ/\とえるあをきつねびとほやまむかふのはうのぞんだこともありました。あれはきつねたいまつるのだともひましたし、おくやまくさつてひかるのをきつねくちにくはへてるのだともひました。とうさんはこどもで、なんにもりませんでしたが、あのあをうつくしいふしぎきつねびゆめのやうにおもひました。とうさんのうまれたところは、それほどふかやまなかでした。


   七 みづはなし


とうさんのゐなかきそかいだうなかうまかごたうげといふところで、しなのくにの一ばんにしはしにあたつてました。おしやうぐわつのおかざりをかたづけるじぶんには、むらぢうかどまつしめなはなどをむらのはづれへつてつて、一しよにしてきました。むらひとはめい/\おもちさをさきにさしてそのいてべたり、こどものおせいしよけむりなかげこんで、たかそらにあがつてかみきれながめたりしました。と、けむりとで、おせいしよたかくあがれば、それをいたもののがあがるとひました。まつえるけむりと一しよになつておせいしよたかく、たかくあがつてくのはちやうどたこでもあげるのをるやうでした。そのしやうぐわつのおかざりあつめてむらのはづれまできますと、そのへんにはびつくりするほどおほきないはいしたんぼあひだえました。そこからはもうしなのみのくにさかひちかいのです。とうさんのゐなかしなのやまぐにからたひらのはらおほみのはうおりたうげの一ばんうへのところにあつたのです。

さういふいはいしおほたうげうへできたおしろのやうなむらですから、まるではしごだんうへにおうちがあるやうに、いしがきをきづいては一けんづゝおうちてゝありました。どちらをいてもさかばかりでした。とうさんがおとなりさかやはうのぼつてくにもさか、おちうばあさんといふひとうちはうりてくにもさかでした。

このゐなかみづふじいうなところでした。たにそこはうまでけばやまあひだながれてたにがはがなくもありませんが、じんかちかくにはそれもありませんでした。そこでたうげはうからしみづいて、それをめるばしよつくつてあつたのです。なんといふしみづながとひとほつて、どん/\ながれてましたらう。とうさんがでもまはしながらあそびにつてますと、ながれてみづおほきなはこなかんでまつてます。そのみづはこからあふれてむらしもはうながれてきます。てんびんぼうりやうはうかたてをけをかついだきんじよをんなたちがそこへみづくみあつまつてます。みづふじいうなところにうまれたとうさんはとくべつにそのしみづのあるところをたのしおもひました。みんながゐせいよくみづんだりかついだりするのをるのもたのしおもひました。そればかりではありません。とうさんがこどもじぶんからみづといふものをたいせつおもひ、ずつとおほきくなつてもみづながれてるのをるのがきで、みづおとくのもきなのは、うしてみづふじいうゐなかうまれたからだとおもひます。

とうさんのおうちにはゐどつてありました。そのゐどひしやくみづめるやうなあさゐどではありません。いても、いても、なか/\つるべあがつてないやうな、ふかい/\ゐどでした。

とうさんのおばあさんのいんきよじよになつてた二かいどざうあひだとほりぬけて、うらきごやはうおりいしだんよこに、そのゐどがありました。そこもとうさんのきなところで、うちひとてをけをかついでたり、みづんだりするそばつて、それを見のをたのしおもひました。とうさんのちひさじぶんにはおうちにおひなといふをんなほうこうしてまして、はんぶんうばのやうにとうさんをおぶつたりいたりしてれたことをおぼえてます。そのおひなゐどからいしだんあがり、どざうよことほり、くはばたけあひだとほつて、おうちだいどころまでづゝみづはこびました。


   八 たこ


やまなかゐなかでは、きんじよおもちやみせもありません。むらこどもたこなぞもじぶんつくりました。

とうさんはまだちひさかつたものですから、おうちぢいやにてつだつてもらひまして、ざうさなくできたこつくりました。かみいととはおばあさんがくださる、ほねたけうらたけやぶからぢいやがつてれる、なにもかもおうちにあるものひました。ぢいやがあをたけほそけづつてれますと、それにとうさんがごはんつぶかみりつけまして、するめのかたちのたこつくりました。みんなのするやうに、たこにはやはりかみながつてさげました。

すゑこがくかうせんせい〈[#ルビの「せんせい」は底本では「せうせい」]〉からしゆこうならひませう、じぶんかみはこなどをつくるのは、じやうずできてもできなくても、たのしみなものでせう。とうさんがじぶんたこつくつたのは、ちやうどまへたちしゆこうたのしみでしたよ。ほそたけかみでこしらへたものが、だん/\凧たこのかたちにつてつたときは、どんなにとうさんもうれしかつたでせう。とうさんはそのたこいとめをつけまして、たんぼはうつてきました。

かぜ〈[#「風」は底本では「凧」]〉よ、い、い、たこあがれ。』

つて、きんじよこどもてづくりにしたたこげにます。たんぼわきれたくさなかには、ぼけなぞがかほしてまして、あそまはるにはたのしばしよでした。〈[#「。」は底本では「、」]〉

『あゝかぜ〈[#ルビの「かぜ」は底本では「たこ」]〉ました。このかぜはやげてください。』

たこひました。とうさんがおほいそぎでいとしますと、たこさいうくびつたり、ながかみをヒラ/\させたりしながら、さもこゝろもちよささうにあがつてきました。

たこそらはうて、とうさんにいろ/\なちうもんをします。『あゝわたしはめんくらひそうになりました。もつといとをたぐつてください。』とときには、とうさんはたこちうもんするとほりにいとをたぐつてやります。『こんどひだりはうかしぎさうになりました。はやみぎはういといてください。』とときには、とうさんはまたたことほりにみぎはういといてやります。そのうちにたこかぜをうけて、たかたかく、のしてきました。

たこさん、よくあがりましたね。そんなにたかいところへあがつたらそこいらがよくえませう。』

とうさんがしたからたづねますと、たこたかそらからえるたにそこはなしをしました。

たこさん、なにえます。ほうぼうのおうちえますか。』〈[#底本では「』」が脱字]〉

『えゝ、いしせてあるおうちやねから、たけやぶまでえます。うまかごむらが一えます。あらまちちんじゆもりまでえます。』

『おぢいさんのきなゑなやまどんなでせう。』

ゑなやまもよくえます。もつとむかふのやまえます。たかやまがいくつも/\えます。そのやまむかふには、みわたすかぎりひろ/″\としたのはらがありますよ。なにひかつてえるかはのやうなものもありますよ。』

『それはきつとおとなりくにです。』

とうさんのうまれたゐなかみのはうりようとするたうげうへにありましたから、おうちのおざしきからでもおとなりくにやまむかふのはうえました。くおてんきには、とほあふみくにいぶきやままで、かすかにえることがあると、おぢいさんがとうさんにはなしてれたこともありました。

『おかげで、たかいところからけんぶつしました。』

たこひました。

とうさんもたこあげたり、たこはなしいたりして、おもしろあそびました。じぶんつくつたたこがそんなによくあがつたのをるのもたのしみでした。

たこけんぶつくたびれました。もうそろ/\おろしてください。』

たこふものですから、とうさんがいとをたぐりますと、たこはフハ/\フハ/\そらふやうにして、たんぼのところまでうれしさうにりてました。


   九 さるばおり


さるばおりつて、とうさんのゐなかこどもは、おさるさんのそではおりのやうなものをました。さむくなるとそれをました。そのさるばおりゆきなかんであるくのは、ちやうどきそやまなかのおさるさんが、ゆきなかんであるくやうなものでした。


   十 ゆきをどりつゝある


とうさんのゐなかでは、どこうちでもいたやねいて、かぜゆきをふせぐためにおほきないしならべてやねうへせてありました。なんと、あのいしせたいたやねやまなかすまゐらしいでせう。やまにはおほきなひのきはやしもありますから、そのあつひのきかはいたのかはりにして、こややねなぞをくこともありました。ゆきればさういふおうちやねうづまつてしまひ、はたけしろくなり、やけやぶたやうになつてしまひます。

げんきすずめは、そんなうた〈[#ママ]〉とんちやくなしで、じぶんのおやども忘わすれたやうにゆきと一しよをどつてあるきます。

さかみちおほとうさんのむらでは、こほりすべりのできばしよさきにありました。むらこどもはみなとびぐちつてこゞつたさかみちすべりました。このこほりすべりがゆきたのしみの一つで、とうさんもぢいやにつくつてもらつたとびぐちもちだしてはきんじよこどもと一しよゆきなかあそびました。つもつたゆきこゞつたつちうへあつめて、それをげたでこするうちには、しろいタヽキのやうなみちできあがります。とびぐちにしながらさかうへはうからすべりますと、ツーイ/\とおもしろいやうにからだきました。もしかすべそこねてとびぐちからださゝそこねたばあひにはゆきなかころげこみます。さういふたびこどもどうしげるわらごゑくのもたのしみでした。じぶんきものについたゆきをはらつてまたすべりにくのもたのしみでした。どうかするとこゞつてかゞみのやうにひかつてます。そのうへしろゆきでもふりかゝるとこほりすべりのばしよともわからないことがあります。むらひとたちとほりかゝつて、らずにすべつてころぶことなぞもありました。

とうさんはおまへたちのやうに、たけうまつてあぞまはることもきでした。ゆきにはことにそれがたのしみでした。だいこくやてつさん、とひやの三らうさんなどゝといふきんじよこどもが、たけうまで一しよになるおともだちでした。そんなでも、うまにもつをつけ、かつぱむらうまかたかれてゆきみちとほることもありました。とうさんがたけうまうへから

こんにちは。』

ひますと、おなじみうまはなからしろいきしてわらひながら

『やあ、こんにちは、おまへさんもたけうまですね。』

あいさつしました。みのなかつがはといふまちはうから、いろ/\なものせなかにつけてれるのも、あのうまでした。ときにはおうさんのむらなぞにいめづらしいおもちやや、とうさんのきなはこいりやうかんとなりくにはうからみやげにつけてれるのも、あのうまでした。

ゆきつてたのしみでせうね。』

うまひましたが、ゆきればうまでもうれしいかととうさんはおもひました。やまなかふゆやおしやうぐわつには、おまへたちらないやうなたのしさもありますね。こほりすべりやたけうまこゞへたをおうちろばたにあぶるのもたのしみでした。


   一一 しやうきちぢいさん


まへたちくわうじんさまをつてませう。ほら、だいどころかまどうへまつかみさまのことをくわうじんさまとひませう。あゝしてしづめるかみさまばかりでなく、とうさんのゐなかではいろ/\なものをまつりました。

まゆだまのかたちを、しんこでつくつてそれをたけえだにさげて、おかいこさまをまもつてくださるかみさまをもまつりました。びやうきたふれたうまのためには、ばとうくわんおんまつりました。あるいてとほたびびとぶじいのるためには、だうそじんまつりました。

とうさんはぢいやにれられて、やまかみさまへおもちをあげにつたことおぼえてます。ゆぶねざはといふはうつたやまのはづれに、やまかみさまがまつつてありました。そのちひさなやしろまへに、こめつくつたおもちをあげてました。そのへんは、どつちをいてもふかやまばかりで、ぢいやにでもいてかなければ、とてもちひさじぶんとうさんがひとりでかれるところではありませんでした。

やまはやしとうさんのふるさとです。とうさんのやうにおほきくなつても、わすれずにるのは、そのふるさとです。とうさんはぢいやにれられてふかはやしはうへもつてました。そこへくとぢいやのつたがありました。まつばんだのもありました。ぢいやはそのしよつたり、まつばしよつたりして、おうちきごやはうかへつてるのでした。

このぢいやはしようきちといふで、とうさんのうまれないまへからおうちほうこうしてました。

『よ、どつこいしよ。』

ぢいやはやまからかついでをおろしました。きごやのなかでそれをりました。このぢいやのおほきなさむくなると、あかぎれれて、まるでかうやくだらけのザラ/\としたをしてましたが、でもそのこゝろしやうぢきな、そしてやさしいらうじんでした。

ぢいやはやまからつてきごやにしまつていて、たきつけにするまつばもしまつていて、るだけづゝおうちろばたはこびました。あか/\としたまいにちろばたえました。ひいばあさん、おぢいさん、おばあさん、おぢさん、おばさんのかほから、ほうこうするおひなかほまで、うちぢうのものゝかほたきびあかうつりました。そのたのしろばたには、ながたけつゝとおさかなかたなはとでできすゝけたじざいかぎるしてありまして、おほきなおなべものばしよでもありうちぢうあつまつてごはんべるばしよでもありました。とうさんのゐなかではさむくなるとまいあさいもやきもちといふものをいて、あさだけごはんのかはりにべました。そばさといもをまぜてつくつたそのやきもちげたところへだいこんおろしをつけてたきびにあたりながらホク/\べるのは、どんなにおいしいでせう。そのそばにほひのするきたてのおもちなかからおほきなさといもなぞがしろときは、どんなにうれしいでせう。ぢいやはごはんときでも、なんでも、わらぢばきのどそくのまゝでかたすみあしれましたが、ゆふがたしごところからわらぢをぬぎました。ろばたにあるふるべうぶわきぢいやのなべをするばしよときまつてました。ぢいやはそのべうぶわきあたらしいわらなぞをいて、とうさんのためにちひさなざうりつくつたり、じぶんではくわらぢつくつたりしました。ぢいやのおとぎばなしはそのときはじまるのでした。

とうさんはこのきならうじんから、はたけよりあらはれたたぬきむじなはなしやましたきじはなし、それからおくやまはうむといふおそろしいおほかみやまいぬはなしなぞをきましたが、そのうちにねむくなつて、ぢいやのはなしきながらろばたでよくてしまひました。


   一二 くさつみに


とうさんのちひさじぶんには、おあしといふものをたせられませんでしたから、それがくせになつて、おあしこどもつものでないとおもつてましたし、きんちやくからおあししてじぶんきなものをふこともりませんでした。おうちからおあしもらつてつてなにふのは、むらおまつりときぐらゐのものでした。

そのかはり、おにはにあるかきなしなぞがりたてのあたらしいくだものとうさんにごちそうしてれました。おばあさんがほほつゝんでくださるあつ〈[#「熱」の左上が「幸」、50-3]〉おむすびにほひでもいだはうが、おあししてつたおくわしよりよほどおいしくおもひました。おうちそとあるまはつても、いしがきのところにはきいろきいちごつてるし、たけやぶのかげのたかえのきしたには、かんばしいちひさなちてました。むらのはづれには「けんぽなし」といふもあつて、たかえだうへさんごじゆのやうなじぶんにはきそぢとほたびびとはめづらしさうにあうむいてきましたが、そのればべられてうまあぢがしました。そればかりではありません、やまにあるたんぼにあるくさなかにも『べられるからおあがり。』とつてくれるのもありました。

「スイ」とつて、あをなまべられるものもありました。くさでは「いたどり」や「すいこぎ」がべられましたが、あの「すいこぎ」のくきつてておうちしほづけをしてあそぶこともありました。

をおし。わたしもおいしいものをげますよ。』

とうさんがいしがきそばとほたびに、へびいちごさうつてはとうさんをさそひました。はびいちごどくだとひます。それをとうさんもいてつてました。あののさめるやうなあかへびいちごうまいことをつてよくとうさんをさそひましたが、そればかりはさはりませんでした。

とうさんのちひさじぶんいたりおぶつたりしてれたおひなは、ういふやまがうまれたをんなでした。たけのこかはを三かくたゝんで、なかしそけたのをれて、よくそれをとうさんにれたのもおひなでした。それをへばしそあぢがして、チユー/\ふうちに、だん/\たけのこかはあかそまつてるのもうれしいものでした。このおひなむらかみゆひむすめでした。おひなのおとうさんはかずゑといふで、をとこかみゆひでしたが、むらぢうで一ばんきたないといふひやうばんひとでした。そのきたなかみゆひいへのおひなそだてられるとつて、とうさんはひとからかはれたものです。

『やあかずゑだ。』

こんなことをつていたづらずきなひとたちとうさんまできたなかみゆひにしてしまひました。しかし、おひなちひさじぶんとうさんをよくれました。おひなうたこもりうたとうさんの一ばんきなうたでした。それをきながら、とうさんはおひなせなかてしまふこともありました。

とうさんがひとりでそこいらをあそまはじぶんにはおひなれられてよくよもぎみにつたこともあります。あたゝかいあたつたたんぼそばで、よもぎむのはたのしみでした。それをおうちつてかへつてて、うすでつけばくさもちできました。


   一三 つばめころ


つばめころでした。

たくさんつばめとうさんのむらへもんでました。一、二、三、四――とてもかんぢやうすることのできないなんといふつばめむらいたばかりのときには、ぐにじんかりようとはしません。はなれさうではなれないつばめむれは、ほそながかたちになつたり、まるかたちになつたりして、むらそらたかいところをそろつてつてます。そのうちに一そらからりたかとおもふと、なんといふつばめが一むらりてます。そしてたがひうれしさうなこゑつて、ふるなじみのきばたづがほに、おもひ/\にわかれてんできます。とうさんのおうちんでくのもあれば、おとなりだいこくやんでくのもあれば、そのまた一けんいておとなりやはたやはうんでくのもあります。ずつとさかしたはうの三うらやというやどやはうんでくのもあります。むらそめものをするみねやへも、たはらやのおばあさんのうちへも、いづみやわたらうさんのおうちへもんできました。とうさんがむらやくばまへとほりますと、そこへはねやすめてつばめもありました。つばめやくばまへてゝあるはしらながめて、さも/\とほりよかうをしてたやうなかほをしてました。

ながのけんにしちくまごほりきそみさかむら』とそのはしらにはいてあるのです。とうさんはつばめはなしいてたいとおもひまして、いろ/\にはなしかけましたが、まるでこのつばめゐじんでした。一かうことばつうじませんでした。

『もしもし、つばめさん、おまへさんは一ねんに一づゝ、このむらるではありませんか。とほくにはうつてて、にほんことばわすれたのですか。』ととうさんがひますと、つばめなつかしいくにことばものひたくても、それがへないといふふうで、ただ、ペチヤ、クチヤ、ペチヤ、クチヤ、ゐじんさんのやうなわからないことをひました。

つばめうれしさうにとうさんをしつぽはねさいうふりながら、とほそらからやうやくこのやまなかいたといふはなしでもするらしいのでした。それをくにことばへば、『みなさん、おかはりもありませんか、あなたのおうちおぢいさんもおたつしやですか。』とたづねるらしいのでしたがつばめふことははやぐちで、

『ペチヤ、クチヤ、ペチヤ、クチヤ。』

としかとうさんにはきこえませんでした。

うしたことばつうじないつばめも、むられて、いへ/\のきをつくり、くちばしのきいろかあいこどもそだてるじぶんには、だいぶことばがわかるやうになりました。つばめとうさんのところへなにふかとおもひましたら、こんなことを言ました。

わたしどもとほくにはうからまゐるものですから、なか/\ことばおぼえられません、でも、あなたがたがしんせつにしてくださるのを、なによりありがたおもひます。つぐみといふとりひわといふとりは、なんんでまゐりましても、みんなあみもちかゝつてしまひますが、わたしどもにかぎつてのきさきしてくだすつたりをかけさせたりしてくださいます。それがうれしさに、うしてまいねんたびをしてまゐるのです。』


   一四 えいしやうじ


こんにちは。』

きつねえいしやうじにはひました。えいしやうじとは、とうさんのむらのおてらです。そのおてらに、たうりんをしやうといふとしとつたをしやうさんがんでました。このばうさんこゝろひとでした。

『おまへなにしにました。』

たうりんをしやうたづねますと、きつねふことには、

『わたしはおてらはいけんにあがりました。』

とうさんがはじめてあがつたせうがくかうも、このをしやうさんのむおてらちかくにありました。せうがくかうせいときつねがついたとつて、一おほさわぎをしたことがありました。とうさんはそのじぶんはまだちひさくてなんにもりませんでしたが、そのきつねのついたといふせいとくちからあわし、かほいろあをざめ、ぶる/″\ふるへてしまひました。なんども/\もなまへばれて、やうやくそのせいとしやうきかへつたことがありました。たうりんをしやうはそのはなしいてつてりましたから、いづれきつねがまたなにいたづらをするためにおてらたづねてたにちがひないと、すぐかんづきました。

をしやうさん、をしやうさん、こちらはたいそういおすまゐですね。このむらたくさんうちがありましても、こちらにかなふところはありません。むらぢうだい一のたてものです。こんなおすまゐいらしやるをしやうさんはしあはせなかたですね。』

きつねひました。きつねからかふつもりでわざとたうりんをしやうきげんるやうにしましたが、かしこをしやうさんはなか/\そのりませんでした。

『ハイ、ごらんとほり、むらではおほきなたてものです。しかしこのおてらむらぢうひとたちめにあるのです。わたしはこゝにごほうこうしてるのです。おまへさんはわたしがこのすまゐごしゆじんのやうなことをひますがわたしたゞこゝのばんにんです。』

たうりんをしやうこたへましたので、きつねあたまき/\うらはやしはうへこそ/\かくれてきました。

たうりんをしやうごほうこうしてえいしやうじは、こだかやまうへにありました。そのおてらたかやねむらぢういへの一ばんたかいところでした。きつねつたとほり、むらぢうばんけんちくぶつでもありました。そこでかねおとたにからたにひゞけて、どこいへへもつたはつてきました。そのかねおとは、としとつたをしやうさんのまへだいにもき、そのまたまへだいにもいてたのです。もうなんねんといふことなく、ふるかねおとやまなかつてたのです。

えいしやうじのあるやまちうとには、むらぢうのおはかがありました。こんもりとしげつたすぎはやしあひだからは、いしせたむらいたやねや、かきや、たけやぶや、くぼたにまはたけまで、一えました。そこにはとうさんのおいへごせんぞさまたちも、あかつばきはななぞのくところでしづかにねむつてりました。


   一五 おちやをつくるいへ


すずめとうさんのおうちのぞきにました。ちやうどうちではおちやをつくるさいちうでしたから、すずめがめづらしさうにのぞきにたのです。

『おまへさんのおうちではおちやをつくるんですか。』

すずめひますから、

『えゝ、わたしうちではおちやつたことがりません。まいねんじぶんうちでつくります。』

とうさんがはなしてやりました。そのときとうさんがすずめに、あのおほきなおかまはうごらんつてせました。そこではおうちはたけれたおちやひとがあります。あのむしろ〈[#ルビの「むしろ」は底本では「むろ」]〉うへごらんつてせました。そこではおかまからしたおちやをひろげてうちはであほいでひとがあります。あのほいろはうごらんつてせました。そこではうへにかけたおちやりやうてんでひとがあります。

『チユウ、チユウ。』

とめづらしいことのきなすずめきました。そしてめづらしいことでさへあれば、すずめよろこびました。

うちではおばあさんやをば〈[#ルビの「をば」は底本では「おば」]〉さんやおひなまでてぬぐひかぶりまして、おぢさんやぢいやと一しよはたらきました。きんぢよからてつだひにはたらひともありました。いおちやにほひがするのと、いへぢうでみんなはたらいてるので、とうさんもすずめと一しよにそこいらををどつてあるきました。

とうさんのおうちではこのおちやばかりでなくべるものものじぶんのところでつくりました。おみそうちつくり、おしやうゆうちつくり、おばあさんやをばさんのかみにつけるあぶらまでにはつばきしぼつてつくりました。はやしにあるこなしかはつてて、きいろしるいとまでめました。とうさんのこどもじぶんにはおばあさんのつてくださるきものぢいやのつくつてれるざうりをはいて、それでがくかうかよひました。さうして、このてづくりにしたものゝたのしみをとうさんにをしへてれたのは、おばあさんでした。

おばあさんははたらくことがきで、みんなのさきつておちやもつくりましたし、きものこんきりました。おばあさんはとなりむらつまかごといふところから、とうさんのおうちへおよめひとで、ひいおばあ〈[#「ひいおばあ」は底本では「ひいおば」]〉さんほどのがくもんいとひましたが、でもみんなにかれました。りんごのやうにあかおばあさんのほゝぺたは、いへぢうのものゝこゝろをあたゝめました。

おばあさんのきものばしよはおうちげんくわんそばいたきまつてました。そのおにはえるあかるいしやうじそばおばあさんのこしかけはたいてありました。

『トン/\ハタリ、トンハタリ。』おばあさんのをさうごたびに、さういふおとこえてます。とうさんがげんくわんひろいたて、そのをさおときながらあそんでりますと、そこへもよくめづらしいものきのすずめのぞきにました。


   一六 なしかきはおともだち


とうさんのおうちにはにはいろ/\なうゑてありました。とうさんはそのじぶんのおともだちのやうにおもつておほきくなりました。おまへたちおぢいさんのおへやまへにあつたふるおほきなまつも、おもてにはにあつたつばきもみんなとうさんのおともだちでした。そのつばきそばにはなしもあつて、まいねんおほきななしがなりました。

あのあをなしのなつたしたへはとうさんもよく〈[#ルビの「い」は底本では「ゆ」]〉つたものです。

『もうべてもいゝかい。』

と父さんがなしきにきますと

『まだはやい、まだはやい。』

なしつて、なか/\べてもいゝとはひませんでした。そして、そのなしおほきくなつて、いろのつくじぶんには、ちやうどごしふげんばんはなよめさんのやうに、しろかみぶくろをかぶつてしまひました。これははちなしをたべるものですから、はちをよけるためにかみぶくろをかぶせるのです。おかつてよこにはおぢいさんのゑたきりがありました。そのきりしたは一めんくはばたけでした。おとなりたかいしがきしろかべなぞがそこへくとよくえました。くはじぶんにはとうさんはくはそばつて

べてもいゝかい。』

とたづねますと、くはかけによらないやさしいでした。

『あゝ、いゝとも。いゝとも。』

つてれました。とうさんはうれしくて、あのくはむらさきいろかあいちひさなえだからちぎつてくちれました。

どざうまへには、かきもありました。とうさんはよくそのかきしたつてあそびました。かきはまたなしきりとちがつて、にぎやかなで、とうさんがあそびにたびなにかしらあつめたいやうなものがしたちてました。かきはなじぶんくと、あのあまにほひのするちひさなはなが一ぱいちてます。じぶんくと、あのへたのついたあをちひさなかきたくさんちてます。そろ/\ちるじぶんくとおほきないろのついたかきがそこにもこゝにもちてます。とうさんはそれをひろひあつめるのがたのしみでした。それにほかのおうちかきへはのぼらうとおもつてものぼれませんでしたが、じぶんのおうちかきばかりはわるかほもせずにのぼらせてれました。とうさんはえだからえだをつたつてのぼつて、ときにゆすつたりしてもかきおこりもしないのみか、『もつとあそんでおいで。もつとあそんでおいで。』

とうさんにひました。


   一七 とりけものもおともだち


やまなかそだつたとうさんは、いろいろなをおともだちのやうにおもつておほきくなつたばかりではありません。おまへたちきなおとぎばなしほんざつしなかるやうな、とりけものまでちひさじぶんとうさんにはおともだちでした。

うちにはおいしいたまごごちそうしてれるにはとりつてありました。とうさんがうらにはて、きりしたあたりをあるまはつてますと、そのへんにはにはとりあそんでました。

『コツ、コツ、コツ。』

にはとりとうさんをかけるたびあいさつします。ときにはにはとりはおともだちのしるしにとつて、しろはねちやいろはねけたのをとうさんにいてつてれることもありました。

めづらしいおきやくさまでもあるときには、とうさんのおいへ〈[#「いへ」はママ]〉ではにはとりにくごちそうしました。やまがのことですから、にはとりにくへばたいしたごちそうでした。そのたびにおいへつてあるにはとりりました。あのめられたくびしろくしまして、はねをむしられるにはとりますと、とうさんはおなかなかでハラ/\しました。これはおきやくさまのごちそうですからしかたいとおもひましたが、きんじよのおいへでは、しやもにはとりしめころしてふといふことをよくやりました。むらにはずゐぶんいたづらきなひとたちがありました。さういふひとたちきてしやもをむしりまして、まへまはしておもしろがつたものです。あのあかはだかにかれたとりがヒヨイ/\あるくのをるほど、むごいものはいとおもひました。とうさんはこどもごゝろにも、そんないたづらをするむらひとたちなにほどにくんだかれません。

うちどざうにはとしをとつたしろへびんでりました。そのへびどざうの『ぬし』だから、かまはずにけとつて、いし一つげつけるものもありませんでした。ふしぎにもそのとしとつたへびどうぶつゑんにでもるやうにおとなしくしててついぞいたづらをしたといふことをきません。とうさんはめつたにそのへびませんでしたが、どうかするとあたつたどざういしがきあひだからだだけしまして、あたましつぽかくしながらひなたぼつこをしてるのをかけました。

このどざうについていしだんりてきますと、おうちきごやがありました。きごやまへにはいけがあつていしがきよこいてゆきしたや、そこいらにあそんではちかへるなぞが、とうさんのあそびにくのをつてました。うらきどそとますと、そこにはまたおいなりさまのあかちひさなやしろそばおほきなくりつてました。かぜでもいてくりえだれるやうなあさとうさんがおうちからかけだしてつてますと『たれないうちにはやくおひろひ。』とくりつて、三つづゝ一くみになつたくりいがと一しよちたのをとうさんにひろはせてれました。たかいところをると、ワンとくちいたくりいがえだうへからとうさんのはうわらつてまして、わざとちたくりばしよをしへずに、とうさんにさがまはらせてはよろこんでりました。

『あんなところにちてるのが、あれがえないのかナア。』とはくりいががよくとうさんにふことでした。くりはなからしてちやうちんをぶらさげたやうにこつけいでしたし、どうかするとあをくりむしなぞをおとしてよこして、ひとをびつくりさせることのきなでしたが、でもとうさんのきなでした。


   一八 えのき


うちうらにあるえのきちるじぶんでした。とうさんはそれをひろふのをたのしみにして、まだあのあをくてべられないじぶんから、はやあかくなれはやあかくなれとつてつてました。

ぢいやはやまへもりにくしはたけへもやさいをつくりにつて、なんでもよくつてましたから、

『まだえのきしぶくてべられません。もうすこしおちなさい。』とさうまをしました。

とうさんはえのきあかくなるのがつてられませんでした。ぢいやがめるのもかずに、かけだしてひろひにきますと、たかえだうへた一かしどりおほきなこゑしまして、

はやすぎた。はやすぎた。』ときました。

とうさんは、えだつてるのをおとすつもりで、いしころやぼうひろつてはげつけました。そのたびに、えのきと一しよになつて、パラ/\パラ/\ちてましたが、どれもこれも、まだあをくてべられないのばかりでした。

そのうちにとうさんはでかけてきました。『だいぢやうぶえのきはもうあかくなつてる。』とあんしんして、ゆつくりかまへてでかけてきました。ひろひにきますと、たかえだうへかしどりがまたおほきなこゑしまして、 

おそすぎた。おそすぎた。』ときました。

とうさんは、しきりとしたさがまはりましたが、あかえのきひとつもつかりませんでした。ゆつくりでかけてくうちに、したちてたのをみんほかこどもひろはれてしまひました。とうさんがこのはなしぢいやにしましたら、ぢいやがさうまをしました。

いちどはあんまりはやすぎたし、いちどはあんまりおそす〈[#ルビの「おそす」は底本では「はやす」]〉ぎました。ちやうどいときらなければ、えのきひろはれません。わたしがそのちやうどいときをしへてあげます。』とまをしました。

あるあさぢいやがとうさんに『さあはやひろひにおいでなさい、ちやうどいときました。』とをしへました。そのあさかぜいて、えのきえだれるやうなでした。とうさんがいそいでしたきますと、かしどりたかうへからそれをまして、

ちやうどいい。ちやうどいい。』ときました。

えのきしたには、あかちひさなたまのやうなが、そこにも、こゝにも、一ぱいちこぼれてました。とうさんはまはりまはつて、ひろつても、ひろつても、ひろひきれないほど、それをあつめてたのしみました。

かしどりくびかしげて、このありさまをましたが、

『なんとこのえのきしたにはちてませう。たくさんひろひなさい。ついでに、わたしひとごはうびしますよ。それもひろつてつてください。』とひながらあをぶちはいつたちいさなはねたかえだうへからおとしてよこしました。

とうさんはえのきばかりでなく、かしどりうつくしいはねひろひ、おまけにそのおほきなえのきしたで、『ちやうどいとき。』までおぼえてかへつてました。

 

   一九 きそはい


きそはいおほいところです。

きそにはまいとしうまいちつくらゐに、はう/″\うまひますから、それではいおほいといひます。

はいなんにでもつてりつきます。にもつをつけてとほうまにもりつけば、たびびときものにもりつきます。はいたれとでもこんいになりますが、そのかはりたれにでもうるさがられます。こんなうるさいはいでも、みちづれとなればなつかしくおもはれたかして、きそはいのことをほつくんだむかしたびゞともありましたつけ。


   二○ ぶよ


て、ちがふもの――はいぶよはいはうるさがられ、ぶよこはがられてます。ぶよひとをもうまをもします。あのながくてぢやうぶうましつぽふさ/\としたは、ぶよひ拂はらのにやくつのです。とうさんがちひさじぶんひるねをしてますと、どうかするとこのぶよはれることがりました。そのたびに、おまへたちおぢいさんがおほきなてのひらで、ぶよこらしてれました。


   二一 きそうま


きそのやうにやまさかおほいところには、そのとちてきしたうまがあります。いくらたいかくりつぱうまでも、へいちにばかりはれたどうぶつでは、きそのやうなとちにはてきしません。そこで、いしころのおほさかみちあるいてもつかれないやうなつよあしちからが、きそうまれのうまにはしぜんそなはつてるのです。

きそうまちひさいが、あしこしぢやうぶで、よくはたらくとつて、それをひにばくらうまいねんしよこくからあつまります。ばくらうとはうまうりかひしやうばいにするひとのことです。きそさんちそだつためつきかあいらしいどうぶつがそのばくらうかれながら、しよこくはたらきにるのです。


   二二 おんたけまゐ


『チリン/\。チリン/\。』

やまなつらしくなると、すゞおときこえるやうにります。おんたけさんのぼらうとするひとたちいくくみとなく父さんのおうちまへとほるのです。うまるか、かごるか、さもなければあるいてたびをしたいぜんきそかいだうじぶんには、とうさんのうまれたみさかむらえきまごめひました。きしやでんしやくところがこんにちのステエシヨンなら、うまかごいたとうさんのむらむかしきそかいだうじぶんのステエシヨンのあつたところです。ほら、なに/\えきといふことをよくふではりませんか。きそやまなかにあつたちひさなまごめえきでも、ことばいみかはりはいのです。ちやうど、おとなりでみのくにはうからきそぢはひらうとするたびびとのためには、いちばんさいしよいりぐちのステエシヨンにあたつてたのがまごめえきです。

おんたけまゐりがにしはうからきそいりくちくには、ろくきよくたうげといふたうげしてなければなりません。そこがしなのみのくにざかひで、とうさんのむらのはづれにあたつてます。まごめえきまでればおんたけさんはもうとほくはない、そのよろこびがみんなむねにあるのです。あのしろきものに、しろはちまきをしたやまのぼりのひとたちが、こしにさげたりんをちりん/\らしながらおほぜいそろつてとほるのは、いさましいものでした。


   二三 ばせをおうせきひ


まへたちばせをおういたことがりませう。あのばせをおうきそんだほつくいしりつけてあります。そのふるせきひまごめむらはづれにてゝあります。みのくにざかひちかいところに、それがあります。

あさおもひ、またゆふおもふべし。』

ばせをおうをしへたひとです。


   二四 おひやくさう


おんたけさんはうからかへひとたちは、おひやくさうといふくすりをよくみやげつてました。おひやくさうは、あのたかやまうへれるいろ/\なくさからせいしたねりぐすりで、それをたけかはうへべてあるのです。にがい/\くすりでしたが、おなかいたときなぞにそれをむとすぐなほりました。おくすりはあんなたかやまつちなかにもしまつてあるのですね。


   二五 ひのきかさ


むぎわらでさへばうしできるのに、ひのきかさつくれるのはふしぎでもありません。

きそひのき〈[#「檜木」は底本では「榎木」]〉めいしよですから、あのうすいたけづりまして、かさんでかぶります。そのかさあたらしいのは、ひのきにほひがします。きそひのき〈[#「は」は底本では「を」]〉ざいもくとしてりつぱなばかりでなく、あかみのあるあつかはやねいたかはりにもなります。まあ、あの一トかゝへもふたかゝへもあるやうなひのきそばへ、おまへたちれてつてせたい。


   二六 ふるさとのことば


やまはやしとうさんのふるさとですと、おまへたちにおはなししましたらう。やまはやしばかりでなく、ことばとうさんのふるさとです。へんぴやまなかむらですから、ことばのなまりもひなびてはますが、ひとなまへかたからしてまごめまごめらしいところがります。たとへば、すゑこのやうなちひさなをんなぶにも、

すゑさま。』

つたり、もつとしたしいあひだがらときには、

すゑさ』

つたりしまして、ひなびたことばなかにもどこやさしいところがいでもありません。

とうさんのゐなかには『どうねき』などといふことばもあります。もうしまつにおへないやうなひとのことを『どうねき』とひます。こんなことばきそにだけつて、ほかとちにはいのだらうかとおもひます。それから、『わやく』といふやうなことばもあります。『いたずらなこども』といふところを『わやくなこども』などゝひます。

ふるさとのことばはこひしい。それをくと、とうさんはじぶんこどもじぶんかへつてくやうながします。おまへたちおぢいさんでも、おばあさんでも、みんなそのことばなかきていらつしやるやうながします。


   二七 おひやくしやうめうじ


とうさんのゐなかはうにははたらくことのきなおひやくしやうんでます。いまでこそあのひとたちめうじひとはありませんが、むかししやうきちとか、はるきちとかのなまへばかりで、めうじひとたちたくさんあつたさうです。めいぢのはじめをごゐつしんときひまして、あのごゐつしんときから、どんなおひやくしやうでもりつぱめうじをつけることにつたさうです。

とうさんのおうちにもでいりのおひやくしやうがありまして、おもちをつくとか、おちやをつくるとかいふには、きつとてつだひにれました。あのひとたちはおまへたちおぢいさんのことを『おししやうさま、おししやうさま』とんでました。あのひとたちめうじをつけるときのことをいまからおもひますと、

『おししやうさま、まごこつたはることでございますから、どうかまあわたしどもにもささうなめうじを一つおねがまをします。』

うもあつたらうかとおもひます。そして、おほわき〈[#ルビの「おほわき」は底本では「おはわき」]〉わきけてもらふとか、はちやけてもらふとかして、いろ/\なめうじむらにふえてつたらうかとおもひます。


   二八 きつねみのうへばなし


いなりさまはごこくかみまつつたものですとか。ごこくとはなんなんでせう。こめに、むぎに、あはに、きびに、それからまめです。あはあはもちあはきびはおまへたちのおなじみもゝたらうこしにさげてきびだんごきびです。とうさんのおうちうらにも、のおひやくしやうかみさままつつてありました。あかとりゐおくにあるちひさなやしろがそれです。二ぐわつはつうまには、おうちぢいやがおほきなたいこもちだして、そのやしろわきさくらえだけますと、そこへきんじよこどもあつまりました。とうさんもそのたいこたゝくのをたのしみにしたものです。

まへたちはあのゑまつてますか。うまをかいたちひさながくはう/″\やしろけてあるのをつてますか。あのがくなかには『ほうなふ』といふもじと、それをげたひとうまれたとしなぞがいてあるのにがつきましたか。とうさんのおうちうらまつつてあるおいなりさまのやしろにも、あのゑまがいくつもかゝつてました。それから、しろきつねすがたをあらはしたおきものいてありました。そのしろぎつねはあたりまへのきつねでなくて、はうじゆたまくちにくはへてました。

『おまへさんがおいなりさまですか。』

とうさんがそのきつねにきいてました。さうしましたらしろぎつねこたへるには、

『どうしまして。わたしはおいなりさまのつかひですよ。このやしろばんにんですよ。わたしもこれでわかじぶんにはずゐぶんいたずらなきつねでして、はう/″\はたけあらしました。一たいわたしちひさじぶんには、ごくよわかつたものですから、このしろぎつねはこれでもそだつかしら、とみんなはれたくらゐださうです。そのわたしかあいさうにおもつて、おやぎつねわたしふなりにそだてゝれましたとか。わたしひとふことなぞをかないで、じぶんのしたいことをしました。にはとりべたければ、にはとりぬすんでました。そんなまねをして、もうわたまゝいつぱいにふるまつてりますうちに、だん/″\わたし〈[#「は」は底本では「ば」]〉ひとりぼつちにつてしまひました。たれわたしとはつきあはなくなりました。わたしめるじぶんには、だれわたしふことをほんたうにしてれるものはありませんでした。ごらんとほり、わたしいま、おいなりさまのやしろばんにんをしてます。わたしのやうなきつねでもうまかはつたやうになれば、うしてやしろばんにんをさせていたゞけるのです。わたしがもうわかじぶんのやうないたづらきつねでないしようこには、このわたしくちごらんになつても分ります。わたしがおいなりさまのおつかひをしてあるたびに、このくちにくはへてはうじゆたまひかります。』

とさうまをしました。


   二九 せいとさん、こんにち


むらがくかうせいといしがきあひだほそみちかへつてますと、こちらのいしがきからむかふのいしがきはうとほりぬけようとするねずみがありました。ちやうどむらではいたづらをしたねずみうはさつたはつてころでした。いかにそゝツかしいやまがねずみでも、そこにをんなひとはなまちがへて、おいもかなんかのやうにべようとしたなんて、そんなことはめつたにかないいたづらですから。

がくかうせいとつたねずみかしこねずみでした。よそねずみいたづらから、じぶんまでそのしかへしをされてはたまらないとおもひましたから、じぶんはなだいじ〈[#ルビの「だいじ」は底本では「なだいじ」]〉さうにおさへてまして、それからあいさつしました。

せいとさん、こんにちは。』


   三○ くろてふてふ


あるのことでした。とうさんはおうちうらきどそとをさん/″\あそまはりまして、きどのところまでかへつてますと、たかからたちうへはうたまごでもみつけようとしてるやうなおほきなくろてふ/\つけました。

いろ/\なかあいらしいてふ/\たくさんあるなかで、あのおほきなくろてふ/\ばかりはきみわるいものです。あれはけむしてふ/\だとひます。なんなしにとうさんはそのてふ/\おとすつもりで、きどうちはうからながたけざをさがしてました。ほら、からたちといふやつは、あのとほりトゲのた、えだんだでせう。とうさんがてふ/\をめがけてたけざをたびに、それがからたちえだつて、あをがバラ/\ちました。

そのうちにてふ/\とうさんのたけざをになやまされて、てきずつたやうでしたが、まだそれでもげてかうとはしませんでした。そこいらにはもうだれひとないころで、きどちかいおいなりさまのちひさなやしろから、おうちうらてにあるふかたけやぶはうへかけて、なにもかも、ひつそりとしてました。おほきなてふ/\だけがきみわるくろはねをひろげて、からたちのまはりをんでました。それをると、とうさんはそのてふ/\ころしてしまはないうちはあんしんできないやうながして、にしたたけざをで、めちや/\からたちえだはうつていて、それからきどうちみました。

いまだにとうさんはあのときのことをわすれません。もやいしがきしたにあるふるいけよこてから、ひつそりとしたきごやまへとほり、ゐどわきいしだんのぼるやうにしまして、おばあさんたちはういそいでかへつてつたときのことをわすれません。

それにつけても、とうさんはあるあめりかじんはなしおもします。

そのあめりかじんがまだこどもじぶんかめつたはなしおもします。うまれてはじめて『わるい』といふことをほんたうにつた、じぶんわるいとおもひながらぼうふりあげ/\してかめつのにむちうになつてしまつた、あんなこゝろもちはじめてだ、さうあめりかじんはなしなかいてあつたことをおもします。そのあめりかじんはゝおやからはれたことばいて、あれがじぶんの『りやうしんざめ』だ、じぶんが一しやううちのどんなできごとでもあんなにふかながつゞきのしてのこつたものはない、とそのはなしにもつてありましたつけ。 


   三一 なしした


こどもかたあしづゝげてあそぶことを、とうきやうでは『ちん/\まご/\』とひませう。とちによつては『あしけん』とふところもるさうです。とうさんのゐなかほうではあのあそびのことを『ちんぐら、はんぐら』とひます。

とんやの三らうさんはきんじよこどもなかでもとうさんとおなどしでして、あそともだちでした。とうさんがおうちおもてあそんでりますと、いつでもさかうへはうからりてて一しよるのは、この三らうさんでした。ふたりかたあしづゝげまして、さかになつたむらわうらいを『ちんぐら、はんぐら』とよくあそびました。

あるゆふがたこととうさんはなにかのことで三らうさんとあらそひまして、このあそともだちかせてしまひました。三らうさんのおばあさんといふひとひごろらうさんをかあいがつてましたから、たいそうりつぷくして、とうさんのおうちんでたのです。とんやおばあさんとへば、なか/\けてはないひとでしたからね。

とうさんはおうちかへればきつとしかられることをつてましたから、しょんぼりともんなかまでかへつてきました。おうちにはひろいたげんくわんと、ゐなかふうだいどころいりぐちと、いりぐちが二つになつてましたが、そのだいどころいりぐちからますと、ろばたではもうゆふはんはじまつてました。ところがだれとうさんに『おはいり』とひとがありません。『はやごはんをおあがり』とつてれるものりません。とうさんはじぶんのしたことで、こんなにみんなおこらせてしまつたかとおもひました。そのうちに、

『おまへはそこにつておで。』

といふおぢさんのこゑきつけました。あのおまへたちおぢさんが、とうさんにはいちばんうへにいさんにあたひとです。とうさんはとんやの三らうさんをかせたばつとして、にはたせられました。あか/\とえるたのしさうなも、みんながゆふはんべるさまも、にはなししたからよくえました。ぢいやはしんぱいして、とうさんをひなだめにれましたが、とうさんはだれことれずに、みんなのゆふはんむまでそこにちつくしました。

ういうばあひに、いつでもとうさんをれにれるのはあのおひなで、おひなとうさんのためにごはんまでつけてれましたが、たうとうそのばんとうさんはべませんでした。

おろかなとうさんは、好いことでもわることでもそれをじぶんでしてうへでなければ、そのいみをよくさとることができませんでした。そのかはり、いちどりたことは、めつたにそれをにどするにならなかつたのは、あのなししたたせられたばんのことをよく/\わすれずにたからでありませう。


   三二 おもちやにもはたけにも


とうさんのちひさときのやうにやまなかそだつたこどもは、めつたにおもちやふことができません。たとへしいとおもひましても、それをみせむらにはありませんでした。

おもちやしくなりますと、とうさんはうらたけやぶたけや、むぎばたけしてあるむぎわらや、それからぢいやがやさいはたけはうからつてなすだのたうなすだのゝなかへよくさがしにきました。

ぢいやがはたけからつてなすは、とうさんにへたれました。そのなすへたりやうあしおやゆびあひだにはさみまして、つまさきてゝあるきますと、ちやうどちひさなくつをはいたやうで、うれしくおもひました。

たうなすとうさんに、へたれました。

ごらんわたしへたかたいこと。まるでたけのやうです。これをおまへさんのにいさんのところへつてつて、このうらたひらなところへなにつておもらひなさい。それができたら、かみうへしてごらんなさい。おもしろいんぎやうできますよ。』

たうなすをしへてれました。

うらたけやぶたけとうさんにたけれました。それでたけてをけつくれ、とつて呉ました。

『こいつも、おまけだ。』

ほそたけつたのまでれてよこしました。そのほそたけけづりまして、たけてをけしますと、それでげられるやうにるのです。みづめます。とうさんはおもてにはなしつばきしたあたりへちひさなかはのかたちをこしらへました。あつめたすなつちふたれつりまして、そのなかみづながしてはあそびました。たけてをけげてつたみづがそのちひさなかはながれるのをたのしみました。

むぎばたけじゆくしたむぎは、とうさんにほさきはうほそむぎわらと、どうなかはうふとむぎわらとをれました。

これをどうするんですか。きいろむぎわらでなけりやいけないんですか。』

とうさんがきましたら、むぎふには、

『ナニ、あをいんでもかまひませんが、なるならきいろはうがいゝ。むぎじゆくするほどぢやうぶですからね。このほそむぎわらほさきはうかるつておきなさい。をつけてしないと、れて、とれてしまひますよ。それからふとむぎわらふしのあるしたのところを一すんばかりおまへさんのつめでおきなさい。これもをつけてしないと、みんなけてしまひますよ。ふとむぎわらにはかならいつぱうふしのあるのがります。それができましたら、ほそはうむぎわらふとむぎわらけたところへむやうになさい。』

なるほどむぎとほりにしましたら、こどもらしいおもちやできました。ほそむぎわらしたからたびに、むぎほさきうごきまして、『こんにちは、こんにちは』とふやうにえました。

とうさんは、いろ/\おもちやにもはたけにもあることりました。たけやぶからつてあをたけむぎばたけからつてきいろむぎわらで、おもちやてづくりにすることふにはれぬたのしいこゝろもちおぼえました。

はたけすみちやうちんをぶらさげたやうなほゝづきが、とうさんにほゝづきれまして、そのしんしてしまつてから、ふるふでぢくいてごらんをしへてれました。ふでぢくさきはうだけをこがたななにかでいくつにもりまして、あさがほのかたちにげるといゝのです。そのうけくちたまのやうにふくらめたほゝづきをのせ、したからきましたら、かるほゝづきがくる/\とひあがりました。そしてあさがほなりのくだうへおもしろいやうにちてました。


   三三 たびあめやさん


とうさんのむらへも、たまにはあめやさんがとほりました。たびあめやさんは、てんびんぼうでかついてむらいしがきわきにおろして、おもしろをかしくふえきました。

なんと、あめやさんのじやうずふえくこと。あめやさんはぼうさききつけたあめとうさんにもつてれまして、それからひました。

『さあ、おいしいあめですよ。これをべて、おとなしくしてくださると、わたしあめをかついでてあげますよ。』

けてたびをしてあるあめやさんは、どことほいところからかついでかたけて、ふえき/\でかけました。

あのあめやさんのふえは、そこいらのいしがきみてくやうなねいろでした。


   三四 すゐしやうのおみや


あるとうさんはひとれられてぼんてんやまといふはうきました。あかつゝじはななぞのいてやまみちとほりまして、そのぼんてんやまつてますと、そこはすゐしやうやまでした。とうさんはめづらしくおもひまして、あちこちとあるいてますと、みちばたにおほきないはがありました。そのいはとうさんに、あそこがらん、こゝをごらん、とひまして、はんぶんつちのついたすゐしやうがそこいらにらばつてるのをしてせました。

『あそこにもすゐしやうかたまりがありますよ。』

とまたいはとうさんにしてせました。そのすゐしやうせんぼんしめぢといふきのこのかたまつてえたやうに、えだえだがさしたやうになつてまして、そのえだの一つ一つが、みんなすゐしやうかたちをしてました。

『こんなところからすゐしやうるんですか。』

とうさんがきましたら、

『えゝ〈[#「ゝ」は底本では「う」]〉、さうです。すゐしやうはみんなうしてうまれてます。ひととほいところにばかりをつけて、あしもとちてほうせきらずにますよ。さういふおまへさんは、このやまはじめてゞすか。よくくださいました。やまみやげに、あそこにちてうつくしいすゐしやうでも一つひろつてつてください。』

うそのいはこたへました。

とうさんはそこいらをさがまはりまして、についたすゐしやうなかでもいちばんひかつたのをみやげつてかへりました。


   三五 おんどりばうけん


わかおんどりがありました。

ほかにはとりおなじやうに、このおんどりひとうちはれておほきくなりました。ちひさなひよじふんから、おんどりじぶんべないものとばかりおもつてましたが、だん/″\おほきくなるうちに、じぶんえてはねてびつくりしました。

おんどりはまだわかくてげんきがありましたから、こんなりつぱはねがあるなら一つこれでんでたいとおもふやうにりました。そこではやしはうでかけてきまして、ほかとりおなじやうにばうとしました。はやしにはもずあそんでました。もずおんどりはうてはわらひました。そこへひはつてました。ひはおんどりはうて、もずおなじやうにわらひました。なんどなんどおんどりえだのぼりまして、そこからばうとしましたが、そのたびはねをばた/″\させてりてしまひました。

もずにはわらはれる、ひはにもわらはれる、そのうちにおんどりしくなりましたが、はやしなかにあるむしはみんなほかとりはやひろはれてしまひました。だれおんどりのためにこめつぶひとつまいてれるものもりませんでした。でも、このおんどりわかかつたものですから、どうかしてんでたいとおもひまして、えだのぼつてつてははねをひろげました。そのたびりるばかりでした。

おんどりはもうたかこゑときをつくるやうなゆうきくじけまして、

『クウ/\、クウ/\。』

ひろもなくてきました。

そこへやまばととほりかゝりました。やまばとはやしなかれないにはとりなきごゑきつけまして、そばんでました。もずひはとちがひ、やまばとらずのおんどりをいたはりました。

『もうすこしのしんぼう――もうすこしのしんぼう――』

いて、やまばとはやしおくはうんできました。

かつえたおんどりいつしやうけんめいさがしはじめました。ほかとりひろはれないうちに、じぶんむしつけるためには、いやでもおうでもばなければりませんでした。そのときになつて、はじめておんどりはねうごいてました。そしてらしいにありつきました。

おんどりはこのはやしびにて、たかがあんなたかそらつてあるくのも、じぶんつけにくのだといふことをりました。


   三六 たなばたさま


ぐわつ、五ぐわつのおせつくは、たのしいこどものおまつりです。五ぐわつのおせつくには、とうさんのおうちでもいしせたいたやねしやうぶをかけ、ぢいやがまつばやしはうからつてさゝちまきをつくりました。七ぐわつになりますと、また、たなばたさまのおまつりやまなかむらへもました。

たなばたさまのおまつりかざたけは、あれはぐわいこくゐなかやかざるといふクリスマスのにもくらべてたいやうなものです。すみべにながしてめたいろがみ、またはあかあをいろがみたんざくかたちつて、あのあをたけあひだつたのは、こどもごゝろにもやさしくおもはれるものです。


   三七 はたんきやう


はたんきやうじぶんには、おうちうらのおいなりさまのよこてにあるふるにも、あのかたまつてりました。とうさんはじぶんこどもじぶんと、あのはたんきやうじぶんとを、べつ/\にしておもせないくらゐです。はたんきやうすもゝよりおほきく、あぢすもゝのやうにくはありません。あのは、さきはうすことがつてつのたやうな、たばかりでもおいしさうにじゆくしたやつをまいねんどつさりとうさんにごちそうしてれましたつけ。


   三八 かじかすくひ


とうさんのきやうだいなかに三つとしうへともをぢさんといふひとがありました。このともをぢさんに、となりだいこくやてつさん――このひとたちについて、とうさんもよくかじかすくひとでかけました。

くるみさはくるみなどゝいふは、ぶななぞとおなじやうに、ふかはやしなかにはえないで、むらさとつたはうえてです。うるしおほきくしたやうなあのくるみしげつたところは、かじかありからせるやうなものでした。なぜかといひますに、くるみえてるところへつてますと、きまりでそのへんにはみづながれてましたから。とうさんたちざるつてきまして、いしあひだかくれてかじかひました。

もしかしてざるのかはりにつりざををかついで、なにかもつとほかさかなをもりたいとおもときには、ぢいやにたのんでつりざをつくつてもらひました。

ういふあそびにかけては、ともをぢさんはなか/\ねつしん〈[#「熱」の左上が「幸」、142-2]〉でした。なにしろとうさんのむらにはつりだうぐ一つみせもなかつたものですから、つりざをさきにつけるいとでもなんでもみんなともをぢ〈[#「友伯父」は底本では「及伯父」]〉さんがぢいやにてつだつてもらつてつくりました。いとくりむしからりました。そのくりむしかられたいとけて、ばしますと、きごやまへぢいやのからむかふのふるいけわきともをぢさんのとゞくほどのながさがありました。それをして、つりざをいとつくることなどは、ともをぢさんもきでよくやりました。

つりだうぐげて、ともをぢさんたちいつしよくるみえるたにあひでかけますと、いつでもとうさんはさかなられてしまふか、さもなければもうめんだうくさくなつてつりざをいしあひだをかきまはすかしてしまひました。そしておうちはうかへつてたびに、

つりざをばかりでは、さかなれませんよ。』

ぢいやにわらはれました。


   三九 おばあさんのかぎ


まへたちおばあさんのことは、まへにもすこしおはなし〈[#ルビの「はなし」は底本では「はなた」]〉したとおもひます。おばあさんは、とうさんがこどもじぶんきものおびまでじぶんつたばかりでなく、べるもの――おみそからおしやうゆたぐひまでおうちつくおばあさんがじぶんかみにつけるあぶらまでにはつばきからしぼりまして、ものてづくりにすることのたのしみをとうさんにをしへてれました。『しつそ』をあいするといふことを、いろ/\なこととうさんにをしへてせてれたのもおばあさんでした。おばあさんはよくあつ〈[#「熱」の左上が「幸」、145-2]〉しほのおむすびをにははうにつゝみまして、とうさんにれました。にぎりたてのおむすびがあうするとにくツつきませんし、そのはうにほひぎながらおむすびをべるのはたのしみでした。

このおばあさんとへば、ひろげんくわんわきいたはたりながらこしかけてひとと、みそぐらわきどざうまへつておほきなかぎにしてひととが、いまでもすぐにとうさんのうかんでます。おばあさんのかぎかなあみつてあるおもくらけるかぎで、ひもいたきれをつけたかぎで、いろ/\なはこはひつたうつはくらからとりだかぎでした。おばあさんがおよめにときふるながもちから、おまへたちおぢいさんのあつめたたくさんほんばこまで、そのくらの二かいにしまつてりました。おばあさんはあのかぎようむと、くらまへいしだんりて、かきあひだとほりましたが、そこにとうさんがよくあそんでたのです。みそぐらうへにはすまゐできた二かいがありました。そこがおまへたちひいおばあさんのゐんきよべやになつてました。


   四○ おぢいさんのきなごへいもち


きそごへいもちとは、ひらたくにぎつたおむすびのちいさいのを二つ三つぐらゐづゝくしにさし、くるみしやうゆうをかけ、いたのをひます。そのかたちるからごへいもちでせう。ひと/″\ろばたあつまりまして、きたてのおいしいところをべるのです。

まへたちおぢいさんは、このごへいもちきでした。ひごろむらひとたちから『おししやうさま、おししやうさま。』としたしさうにばれてたのも、このごへいもちきなおぢいさんでした。

おぢいさんはがくもんひとでしたから、『さんもじ』だの『くわんがくへん』だのといふものをじぶんいて、それをせうねんとくほんのやうにして、ちひさじぶんとうさんにをしへてれました。やまなかにあつたとうさんのおうちでは、なにからなにまでてせいでした。てならひのおてほんからとくほんまで、おぢいさんのてせいでした。


   四一 おとなりのひとたち


となりのだいこくやさけつくうちでした。そこのうちでおふろてばとうさんのおうちびにましたし、とうさんのおうちでお