おつ母さんと兄弟

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本文[編集]

おつ母さんと兄弟
萩原恭次郎

弟の黄色いズボンと僕の黒いズボンの下から
夜のまつくろい心臓の匂ひをなすりつけて
首のない金が引きづり出される

この金で飯も食ひ 切手も買ひ 洗濯代も払ふ
何が光明で生きてるんかわからない
父親は若くて骨になつて泥になつた
母親は炊事番から 原稿や雑誌を片づけたり
新聞を読んだり お茶をのんだり
おつ母さん!
然し僕が右眼にナイフをさゝれてめつこ・・・
弟は眼球が突び出す近眼で げつそり腰から下が痩せてゐる
ズボンから出て来る金は
踏みにぢつた自分達のにごつた血潮だ
怖ろしい下痢と目迷ひが二人をそそつてゐる事は
おつ母さんは何も知りやしない

不具になつてゐる兄弟が単物に着かへても
おつ母さんの眼には幽霊にもうつらない

————おつ母さん
————ご飯にしませう

解題[編集]

作者:萩原恭次郎

底本:萩原恭次郎『死刑宣告』日本図書センター〈愛蔵版詩集シリーズ〉(2004年3月25日初版第1刷発行) ISBN 978-4-8205-9599-1

表記について:旧仮名遣いは初版本(1925年10月18日発行、長隆舎書店)のまま、漢字は常用漢字に改めてある。