解析概論/附録II

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[編集] 附録 II 二,三の特異な曲線

1.
本書 §12 において Peano の曲線に触れたが,その趣意は次のようであった.

区間 a\leqq t\leqq b において \varphi(t),\psi(t) が連続であるとき

(C)
x=\varphi(t),\quad y=\psi(t)
なる点 P=(x,y) の集合(軌跡)として,一つの平面曲線 C を定義するならば,我々が直観的に連続曲線と考えるものはみなこの定義に適合するが,逆にこの定義に適合するものをすべて線というならば,意外なものが線の名目の下に包括される.その一例が Peano の曲線で,それは平面上の区域の各点を通過する.すなわち一つの曲線で或る面積が塗りつぶされるのである.このようなものを曲線の仲間に入れるのは迷惑であるとするならば,上記連続函数 \varphi(t),\psi(t) による曲線 C の定義が悪いのである,不十分なのである.

Peano の曲線の実列を作る簡明な方法を Knopp が考案した.次にその要領を述べる.

一つの線分 T と,一つの二等辺直角三角形 \mathit\Delta とを取る.媒介変数 tT 上を動くとき,曲線 C をして \mathit\Delta を塗りつぶさせようとするのである.

線分 TT_0,T_1 に二等分し,また \mathit\Delta の直角頂から斜辺への垂線を引いて \mathit\Delta\mathit\Delta_0,\mathit\Delta_1 に二等分して,T_0,T_1 にそれぞれ \mathit\Delta_0,\mathit\Delta_1 を対応させる.

次に線分 T_0T_{00},T_{01} に,また T_1T_{10},T_{11} に二等分し,同時に \mathit\Delta_0 および \mathit\Delta_1 をそれぞれ \mathit\Delta_{00},\mathit\Delta_{01} および \mathit\Delta_{10},\mathit\Delta_{11} に二等分して,四つの線分 T_{00},T_{01},T_{01},T_{11} にそれぞれ \mathit\Delta_{00},\mathit\Delta_{01},\mathit\Delta_{10},\mathit\Delta_{11} を対応させる.ただし四つの線分は上記の順に並び,互に接する線分には,一辺をもって互に接する三角形が対応するようにするのである.すなわち対応は次の図のようになる.

同じ条件の下で,今一回二等分をすれば,八つの線分 T_{abc} と八つの三角形 \mathit\Delta_{abc} とが次のように対応する.

このような手順を続けるならば,線分 T_{abc\dots l} は記号 (abc\dots l) を二進数 0{\cdot}abc\dots l と見るときの大きさの順に並んで,相接する線分には,一辺をもって相接する三角形が対応する.

さて区間 0\leqq t\leqq 1 において,変数 t を二進数で
(1)
t=0{\cdot}c_1c_2c_3\ldots c_n\ldots
と書くならば,
(2)

  \mathit\Delta_{c_1}\supset \mathit\Delta_{c_1c_2}\supset
  \mathit\Delta_{c_1c_2c_3}\supset \cdots \supset
  \mathit\Delta_{c_1c_2\dots c_n}\supset \cdots
でこれらは一点 P に収束する.今三角形 \mathit\Delta の平面において,任意に座標系をきめて(例えば斜辺上に x 軸を取って直角の頂点を (0,1) とする),P の座標を (x,y) とすれば,上記のようにして,t の函数として
x=\varphi(t),\quad y=\psi(t)
が確定する.

ただし,このところ,t\tfrac{a}{2^n}(線分の分点)に関する二進法の二意性にかかわらず,t に対応する点 P は一意的に定まる.例えば

t=0.0101000\dots=0.0100111\dots=\frac{5}{16}
には
P=\left(0,\frac12\right)
が対応する(次の図,参照).

このようにして定義された函数 \varphi(t),\psi(t) が連続であることは,その構成によって明白であろう.実際,|t-t'|<\tfrac{1}{2^{2n}} とするならば,t,t' に対応する P,P' の距離は \tfrac{1}{2^{n-2}} よりも小さい.また,三角形 \mathit\Delta の各点 P(2) のような区域列に属するから,区間 [0,1]t の値 (1) に対応することは明白である.しかし tP との対応は一対一ではなくて,同一の点 Pt の相異なる値に対応することが可能で,そのような点 P が三角形 \mathit\Delta の辺および各分割線上に稠密に分布されている.例えば P=(0,\tfrac12) には t=0.0101\,;\;0.0111\,;\;0.1001\,;\;0.1011 が対応する.

2.
上記の作図法を少しく変更して Helge von Koch の曲線を得る.それは接線が一つも引けない Jordan 曲線である.

こんどは底角 30^\circ の二等辺三角形 \mathit\Delta から出発する.その底辺を三等分して \mathit\Delta を三つの三角形に分割して,中の三角形を捨てて,両端の二つの三角形を \mathit\Delta_0,\mathit\Delta_1 とする.それらは \mathit\Delta と相似である.\mathit\Delta_0,\mathit\Delta_1 を同様に分割して,四つの三角形 \mathit\Delta_{00},\mathit\Delta_{01} および \mathit\Delta_{10},\mathit\Delta_{11} を得る.

この操作をくりかえして無数の \mathit\Delta_{abc\ldots l} を得る.番号のつけ方は前回と同様で,接続する線分に対応する三角形は,その一つの頂点において互に接続する.

さて前のように,二進法で
(1)
t=0{\cdot}c_1c_2c_3\dots c_n\dots
とすれば
(2)

  \mathit\Delta_{c_1}\supset\mathit\Delta_{c_1c_2}\supset
  \mathit\Delta_{c_1c_2c_3}\supset\cdots\supset
  \mathit\Delta_{c_1c_2\dots c_n}\supset \cdots
は一点 P=(x,y) に収束して,座標
(C)
x=\varphi(t),\quad y=\psi(t)
は連続函数になるが,こんどは tP との間に一対一の対応が成り立って,CJordan 曲線になる.それを次の図のように三つ繋げば,一つの Jordan 閉曲線を得る.

この曲線の特色は,その各点において接線が存在しないことである.実際今 (1) に対応する点を P_0 とすれば,P_0(2) の無数の三角形 \mathit\Delta_{c_1c_2\dots c_n} に属するが,それらの三角形の各頂点 P_1,P_2,P_3 が曲線 C の点なのだから,弦 P_0P_1,P_0P_2,P_0P_3 は一定の方向に収束しない.従って P_0 において接線は不可能である.P_0\mathit\Delta_{c_1c_2\dots c_n} の辺上にあっても,またはその頂点であっても同様である.

上記の作図において,二等辺三角形の底角を 30^\circ とする必要はない.一般に底角を \alpha<\tfrac\pi44\alpha+\beta=\pi として,\mathit\Delta の頂角を \alpha,\beta,\alpha の三つに分ければ \mathit\Delta_0,\mathit\Delta_1 等,逐次に作られる三角形は \mathit\Delta と相似である.このような三角形の連鎖からも Koch の曲線が得られる.\alpha=\tfrac\pi4,\beta=0 なる極限の場合には Peano の曲線が生ずるが,その場合,中間の三角形が消滅するために,連鎖の三角形が接着して,Pt との間の一対一対応が失われるのである.

[注意] 
このような曲線があるから,各所で微分不可能なる連続函数があるといっても,もはやそれは驚くに足るまい(39 頁参照).このような函数の簡単なる実例を,筆者はかつて二進法を用いて作った(東京数学物理学科記事,1903).その後,van der Waerden 君は,十進法によって,全く同様な函数を発表した(Mathematische Zeitschrift, 32, 1930).上記 469 頁または 470 頁の函数 \varphi(t),\psi(t) も,同様の函数であろうけれども,簡明でない.
3.
上記作図において,我々は簡明のために相似三角形を用いたけれども,作図の要点は計量的よりもむしろ位相的だから,\mathit\Delta_a,\mathit\Delta_{ab},\mathit\Delta_{abc},\ldots が相似でなくとも,その辺(点集合としての径)が,ついに限りなく小さくなれば,Jordan 曲線を得る.特に毎回取り除くべき中央の三角形の面積を,適当な速度で小さくして行くならば,Osgood が指摘したような,Jordan 曲線で囲まれて,しかも面積が確定でない区域の簡単な例が作られる.今作図の各階段において,三角形 \mathit\Delta_{ab\dots l} の中央から除くべき三角形の面積の比率 k_n<1 を適当にあんばいして,無限積 \textstyle\prod(1-k_n)=p\ne 0 ならしめるならば(例えば k_n=\tfrac{1}{2^n}),最初出発の三角形の面積を 1 として,曲線 C の外面積p に等しい(§91).従って,このような Jordan 曲線を境界とする区域は面積確定(Riemann 式)である.
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