解析概論/附録I/複素数

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[編集] 10.複素数

二つの実数の取り合せ (x,y) としてのベクトルの加法は,既知のように,交換律,結合律に従い,かつ一意的の逆算法としての減法が可能で,そこで零の役目をするのは,ベクトル (0,0) である.この加法の上に,或る特別なる第二の算法として,乗法を定義すれば,複素数が生ずる.

複素数 (x,y)\ne (0,0) の座標 x,y に対して,関係式

(1)
x=\rho\cos\theta,\quad y=\rho\sin\theta,\quad \rho>0

から,\rho\theta2\pi の整数倍なる差を無視して,すなわち \mathrm{mod.}\, 2\pi に関して)とが確定する.極座標 \rho, \theta がすなわち複素数 (x,y) の絶対値および偏角である.(0,0) に対しては,\rho=0 で,\theta は任意である.この極座標を用いて,かりに (x,y)=[\rho,\theta] と書いて,二つの複素数の積を

(2)
[\rho_1,\theta_1]\cdot[\rho_2,\theta_2]=[\rho_1\rho_2,\theta_1+\theta_2]

によって定義する(すなわち,幾何学的に約言すれば,[\rho_2,\theta_2] を掛けることは,ベクトル [\rho_1,\theta_1]\theta_2 だけ正の向きに回転させて,かつその長さを \rho_2 倍することである).

この定義によれば,乗法は交換律,結合律に従い,また,[\rho_2,\theta_2]\ne (0,0) なるとき,除法 [\rho_1,\theta_1]/[\rho_2,\theta_2]=[\rho_1/\rho_2,\theta_1-\theta_2] が一意に可能である.積の定義 (2)Descartes 座標で表わすために

(a,b)=[r,\alpha],\quad (x,y)=[\rho,\theta]

とすれば,(1)(2) を用いて

\begin{align}
 (a,b)\cdot(x,y) &=[r,\alpha]\cdot[\rho,\theta]=[r\rho,\alpha+\theta]\\
                 &=\bigl(r\rho\cos(\alpha+\theta),r\rho\sin(\alpha+\theta)\bigr),
\end{align}

さて

\begin{align}
 r\rho\cos(\alpha+\theta)&=r\cos\alpha\cdot\rho\cos\theta-r\sin\alpha\cdot\rho\sin\theta=ax-by,\\
 r\rho\sin(\alpha+\theta)&=r\sin\alpha\cdot\rho\cos\theta+r\cos\alpha\cdot\rho\sin\theta=bx+ay,
\end{align}

従って

(a,b)\cdot(x,y)=(ax-by,bx+ay).

これから,乗法が加法に関して分配律に従うことがわかる(x,yx_1,y_1 および x_2,y_2 を代入して加える).

y=0 なる複素数に関しては


 (x_1,0)+(x_2,0)=(x_1+x_2,0),\quad (x_1,0)(x_2,0)=(x_1x_2,0)

で,加法,乗法が実数 x_1,x_2 のそれらと全く同型であるから,(x,0)x と同一視して,複素数を実数の拡張とみるのである.

a\cdot(x,y) = (ax,ay) は,いわゆる,スカラー乗法(伸縮の意味での乗法)で,それは (a,0)\cdot(x,y) に等しい.

(1,0)=1,(0,1)=i と書けば,(x,y)=x+yi で,


  i^2=(0,1)\cdot(0,1)=\left[1,\frac\pi2\right]\cdot\left[1,\frac\pi2\right]=[1,\pi]=(-1,0)=-1.

故に形式的には,複素数の四則算法は,実数のそれと同様で,ただ,随所 i^2-1 で置き換えて,標準形 x+yi を維持することに帰する.このような便宜上の規約を,18世紀には,天賦の法則のように考えていたのである.

複素数は伝統によって代数学的に導入される.上記の解説で,三角函数の加法定理を幾何学から引用したのは,方法上不純であるが,それを顧慮しないで,簡明を主としたのである.

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