解析概論/附録I/複素数
[編集] 10.複素数
二つの実数の取り合せ
としてのベクトルの加法は,既知のように,交換律,結合律に従い,かつ一意的の逆算法としての減法が可能で,そこで零の役目をするのは,ベクトル
である.この加法の上に,或る特別なる第二の算法として,乗法を定義すれば,複素数が生ずる.
複素数
の座標
に対して,関係式

から,
と
(
の整数倍なる差を無視して,すなわち
に関して)とが確定する.極座標
がすなわち複素数
の絶対値および偏角である.
に対しては,
で,
は任意である.この極座標を用いて,かりに
と書いて,二つの複素数の積を
![[\rho_1,\theta_1]\cdot[\rho_2,\theta_2]=[\rho_1\rho_2,\theta_1+\theta_2]](http://upload.wikimedia.org/wikisource/ja/math/1/8/c/18c38ee9fc4351a2250d9f9de9dfcab7.png)
によって定義する(すなわち,幾何学的に約言すれば,
を掛けることは,ベクトル
を
だけ正の向きに回転させて,かつその長さを
倍することである).
この定義によれば,乗法は交換律,結合律に従い,また,
なるとき,除法
が一意に可能である.積の定義 (2) を Descartes 座標で表わすために
![(a,b)=[r,\alpha],\quad (x,y)=[\rho,\theta]](http://upload.wikimedia.org/wikisource/ja/math/1/e/7/1e7eb46841e61373665363d6d410d27e.png)
![\begin{align}
(a,b)\cdot(x,y) &=[r,\alpha]\cdot[\rho,\theta]=[r\rho,\alpha+\theta]\\
&=\bigl(r\rho\cos(\alpha+\theta),r\rho\sin(\alpha+\theta)\bigr),
\end{align}](http://upload.wikimedia.org/wikisource/ja/math/0/a/a/0aa77f0ac75358900724cbd3330828a8.png)
さて

従って

これから,乗法が加法に関して分配律に従うことがわかる(
に
および
を代入して加える).
なる複素数に関しては

で,加法,乗法が実数
のそれらと全く同型であるから,
を
と同一視して,複素数を実数の拡張とみるのである.
は,いわゆる,スカラー乗法(伸縮の意味での乗法)で,それは
に等しい.
と書けば,
で,
![i^2=(0,1)\cdot(0,1)=\left[1,\frac\pi2\right]\cdot\left[1,\frac\pi2\right]=[1,\pi]=(-1,0)=-1.](http://upload.wikimedia.org/wikisource/ja/math/5/e/8/5e88cb22ed2255aab6ea37b408e0ef5c.png)
故に形式的には,複素数の四則算法は,実数のそれと同様で,ただ,随所
を
で置き換えて,標準形
を維持することに帰する.このような便宜上の規約を,18世紀には,天賦の法則のように考えていたのである.
複素数は伝統によって代数学的に導入される.上記の解説で,三角函数の加法定理を幾何学から引用したのは,方法上不純であるが,それを顧慮しないで,簡明を主としたのである.