解析概論/第9章/M函数

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[編集] 107.M 函数

σ 系 \mathrm{M} に属するある M 集合 e において,点函数 f(x) が定義されているとする.すなわち x は集合 e の元である: x\in e, e\in \mathrm{M}. そのとき,一つの実数 a に関して,f(x)>a なる x の全体の集合 E は一般には必らずしも M 集合を成さないであろう.もしも,その集合 E が各〻の実数 a に関して M 集合ならば,f(x)M 函数と略称する.

これより後,或る指定された性質 P を有する(または条件 P に適合する)点 x の全体の集合を


  \{x; P\} または E\{x; P\}

と書く.例えば,上記 M 函数の定義においては,集合 E を定義する条件 P


  x\in e,\quad e\in\mathrm{M},\quad f(x)>a

で,f(x) が M 函数であるとは,すなわち,すべての実数 a に関して


  E\{x; x\in e, e\in\mathrm{M}, f(x)>a\}\in\mathrm{M}

となることである.今ここでは集合 E の元は x,ただしその xx\in ee\in\mathrm{M} であるが,これらは当然として省略すれば,簡明に

(1)

  E\{f(x)>a\}\in\mathrm{M}.

さて,すべての実数 a に関して

(2)

  E\{f(x)>a\},\quad E\{f(x)\geqq a\},\quad E\{f(x)\leqq a\},\quad E\{f(x)<a\}

が M 集合なることは,同等なる条件である.――第一と第三と,また第二と第四とは e に対して互に余集合だから,もちろんだが,

\begin{align}
 E\{f(x)\geqq a\}&=\bigcap_{n\geqq 1}E\!\left\{f(x)>a-\frac1n\right\},\\
 E\{f(x)\leqq a\}&=\bigcap_{n\geqq 1}E\!\left\{f(x)>a+\frac1n\right\}
\end{align}

だから,すべてが同等である.故に M 函数の定義において,(2) の四つの集合のうち,どれを取ってもよい.

f(x) が M 函数ならば,E\{f(x)=a\}=E\{f(x)\geqq a\}-E\{f(x)>a\} は M 集合である.逆は成り立たない.

\begin{align}
  x&\in E\{f(x)\geqq 0\}\\[5pt]
  x&\in E\{f(x)< 0\}
\end{align}
なるとき
\begin{align}
  f^+(x)&=f(x),\\[5pt]
  f^+(x)&=0,
\end{align}
\left.\begin{align}
  f^-(x)&=0\\[5pt]
  f^-(x)&=-f(x)
\end{align}\right\}
なるとき

として,f^+(x),f^-(x)f(x) の正の部分,負の部分という.すなわち f(x)=f^+(x)-f^-(x) であるが,f が M 函数ならば,f^+,f^- も M 函数である.

定理 82.
f(x) が M 函数なるためには,(1) において, a を有理数だけに限っても十分である(あるいは,一般に実数の範囲内に稠密に分布される数,例えば小数部の桁数が有限なる十進数に限ってもよい).
[証]
a に収束する単調減少の有理数列を r_n とすれば,\textstyle E\{f(x)>a\}=\bigcup_n E\{f(x)>r_n\} だから.

次の定理は,証明の手段として,しばしば応用される.

定理 83.
正なる(負でない)[* 1] M 函数 f(x) は階段的なる M 函数の増大列[* 2] \{f_n(x)\} の極限である.階段的なる函数とはその函数の取る相異なる値が有限個に限ること(値域が有限集合なること)をいう.
[証]
f(x) の値を十進数で書き表して,小数点の上下共に n 位で打切って,それを f_n(x) の値とすればよい.f_n(x) は多くとも 10^{2n} この相異なる値を取る.すなわち階段的だから,それが M 函数であることをみるには,f_n(x) のとる各〻の値 a に関し E\{f_n(x)=a\} が M 集合であることを確かめればよいが,この集合は \textstyle \sum_{h=0}^\infty E\!\left\{a+10^nh\leqq f(x)<a+\frac1{10^n}+10^nh\right\} に等しいから,よろしい.\textstyle f_n(x)\leqq f_{n+1}(x),\lim_{n\to\infty}f_n(x)=f(x) は明白である.

一定の M 集合 e を共通の定義域として有する函数のみを考察するとき,次の諸定理が成り立つ.

定理 84.
f,g が M 函数ならば,
E\{f(x)>g(x)\}\in \mathrm{M}.
[証]
f(x)>g(x) ならば,f(x)>r>g(x) なる有理数 r がある.よって

  E\{f(x)>g(x)\}=\bigcup_r(E\{f(x)>r\}\cap E\{g(x)<r\})\in\mathrm{M}.
定理 85.
M 函数は実係数を持って環を成す.すなわち f(x),g(x) が M 函数ならば,
(1º) af(x),(a は実数), (2º) f(x)+g(x), (3º) f(x)\cdot g(x)
も M 函数である.有限個の函数の和および積に関しても同様.
[証]
(1º)
af(x),特に -f(x) に関しては明白.
(2º)
E\{f(x)+g(x)>a\}=E\{f(x)>a-g(x)\} で,a-g(x) が M 函数であることは明白だから(定理 84).
(3º)
fg=\tfrac14((f+g)^2-(f-g)^2) だから,一般に M 函数の平方が M 函数であることを示せばよいが,E\{f^2>a\} は,a>0 ならば E\{f>\sqrt a\}\cup E\{f<-\sqrt a\}a=0 ならば E\{f\gtrless 0\},また a<0 ならば,e だから,よろしい.
定理 86.
M 函数の列 \{f_n(x)\} に関して
\sup f_n(x),\quad \inf f_n(x),\quad \varlimsup f_n(x),\quad \varliminf f_n(x),
従って,それが存在するとき,\lim f_n(x) も M 函数である.
[証]
\sup f_n(x)=g(x) と置けば \textstyle \{g(x)>a\}=\bigcup E\{f_n(x)>a\}\in\mathrm{M}\inf も同様.また \textstyle g_n(x)=\sup_{i\geqq n}f_i(x) と置けば,g_n(x) は M 函数で減少列をなす.従って \varlimsup f_n(x)=\lim g_n(x)=\inf g_n(x) は M 函数である.\varliminf も同様(または \varliminf f_n(x)=-\varlimsup(-f_n(x)) から).
(証終)
函数値が極限として定義される場合に順応するために,便宜上 +\infty,-\infty を函数値として許容する.これは場合の区別から生ずる煩雑を緩和して,陳述を簡明にする手段にほかならない.そこで \pm\infty と差別するために,個々の実数 a有限という.函数 f(x) は有限とは,それが +\infty または -\infty なる値を取らないことをいう.故に有限は有界とは違う.なお運用上,次の規約を設ける.
\begin{align}
 & +\infty>a,\quad -\infty<a.\\
 & a+(\pm\infty)=(\pm\infty)+a=\pm\infty,\quad \pm\infty-a=\pm\infty.\\
 & (+\infty)+(+\infty)=+\infty,\quad (-\infty)+(-\infty)=-\infty.\\
 & a\cdot(\pm\infty)=(\pm\infty)\cdot a
   =\begin{cases}\pm\infty,&(a>0),\\ \mp\infty,&(a<0).\end{cases}\\
 & 0\cdot(\pm\infty)=(\pm\infty)=0.
\end{align}
これらは便宜上の規約である.特に,最後の規約は後に至って便利である. (+\infty)-(+\infty),(-\infty)-(-\infty) は無意味とする.+\infty を略して \infty とも書く.
[附記] 
これに準じて,無限級数 \textstyle\sum a_n の項にも +\infty,-\infty を許容する.級数 \textstyle\sum a_n の項に +\infty または -\infty が含まれる場合には,+\infty をも込めて,\textstyle\sum a_n のすべての正の項の和を s とし,-\infty をも込めて,すべての負の項の和を -t とするとき,s-t\infty-\infty となる場合を除いて,\textstyle\sum a_n の値は確定で,s-t\textstyle\sum a_n の値と規約する. M 函数 f(x) が有限でないときにも
\begin{align}
  E\{f(x)<+\infty\}&=\bigcup_{n\geqq 1}E\{f(x)<n\}\in\mathrm{M}.\\
  E\{f(x)>-\infty\}&=\bigcup_{n\geqq 1}E\{f(x)>-n\}\in\mathrm{M}.\\
  E\{f(x)=+\infty\}&=\mathrm{C}E\{f(x)<+\infty\}\in\mathrm{M}.\\
  E\{f(x)=-\infty\}&=\mathrm{C}E\{f(x)>-\infty\}\in\mathrm{M}.
\end{align}
\mathrm{C}e に対する余集合の記号である.
[注意] 
定理 82 以下の定理は函数値として \pm\infty を許容した場合にも成り立つ.ただし,定理 85\pm\infty を顧慮して主張を緩和することを要する.

任意の集合 E において与えられた点函数 f(x) に対応する E 内の集合

(3)

  E(t)=E\{f(x)\geqq t\}

t の函数とみるとき,それは単調減少,すなわち

t'<t なるとき E(t')\supset E(t)

であるが,なお (3) によれば

(4)
\left.\begin{matrix}
  E(t)=\displaystyle\bigcap_{t'<t}E(t'),\\[10pt]
  E(-\infty)=E\qquad E(\infty)=\displaystyle\bigcap_{t'<\infty}E(t').
\end{matrix}\right\}

今逆に条件 (4) に適合する集合 E(t)E において与えられているとすれば,それから (3) に適合する点函数 f(x) を定義することができる.それには x_0\in E(t) なる t の上限が t_0 なるとき,f(x_0)=t_0 とすればよい.――それは明白であろう.実際,x_0\in E(t) ならば,t\leqq t_0=f(x_0),従って x_0\in E\{f(x)\geqq t\}.故に E(t)\subset E\{f(x)\geqq t\}.また x_0\in E\{f(x)\geqq t\} ならば,f(x_0)\geqq t,すなわち t_0\geqq t だから,t>t' なら x_0\in E(t').従って (4) から x_0\in E(t).故に E\{f(x)\geqq t\}\subset E(t).すなわち (3) が成り立つ.

t_0=\infty なるときは,f(x_0)=\infty とするのであるが,そのときには,すべての t に関して x_0\in E(t) だから (3)t=\infty でも成り立つ.また t=-\infty ならば,(3)E=E となる.

t_0 が有限なるときには,x_0\in E(t) なる t は実数の一つの切断の下組で,t_0 がその下組の最大数である.それは x_0\in E(t_0) を意味する.

さて,すべての有理数 r(あるいは,実数内に稠密に分布されている数の可算集合に属する r)に対応して,E 内に集合 e_r が与えられているとき,任意の実数 t および t=\infty に対して

(5)
E(t)=\bigcap_{r<t}e_r

によって E(t) を定義し,また E(-\infty)=E とすれば,E(t) は条件 (4) に適合する.実際,t\ne-\infty のとき t'<t とすれば,


  E(t)=\bigcap_{r<t}e_r\cdot\bigcap_{t'\leqq r<t}e_r\subset E(t'),

従って

E(t)\subset \bigcap_{t'<t}E(t').

逆に \textstyle x\in\bigcap_{t'<t}E(t') とする.今 r<t として,r<t'<t なる t' を取れば,x\in E(t') だから,(5) によって x\in e_rr<tr は任意の有理数だから x\in E(t).故に (4) が成り立つ.

もしも e_r が M 集合ならば,(5) は M 集合の列の共通部分だから,E(t) が M 集合,従ってそれから定義される点函数 f(x) が M 函数である.


  1. ‘正’を広義に,負でない(non-negative\geqq)の意味に用いる.厳密に正(>0)に限定する必要のある場合には,それをことわることにする.
  2. 増大列は f_1(x)\leqq f_2(x)\leqq\cdots\leqq f_n(x)\leqq \cdots の意.減少列も同様.
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