解析概論/第9章/III

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目次

[編集] III.集合函数の微分法

[編集] 122.微分法の定義

R^n において,集合函数 f が与えられたとき,点 x における f の密度ともいうべきものを考察して,R^n における点函数を導き出すことができる.例えば,x を中心とする n 次元立方体(区間の意味でいう)を e として,ex に収束するとき

\frac{f(e)}{m(e)}

の極限を考察する.そうして me\to 0 のとき,


  \bar{D}_{f}(x)=\varlimsup\frac{f(e)}{m(e)},\quad
  \underline{D\!}\,_{f}(x)=\varliminf\frac{f(e)}{m(e)}

を点 x における f の上・下微分商といい,両者が一致するとき,その共通の値

D_f(x)=\lim\frac{f(e)}{m(e)}

を単に微分商という.x が変動するとき,これらの微分商を点 x の函数とみて,それを f の導函数という[* 1]

上記の定義において,x に収束させる e を立方体に限る必要はない.例えば,x を中心とする n 次元の球としてもよい.これらはいわゆる対称的微分商であるが,最も一般には,x を含む任意の集合 e を取ってもよい.ただし me\to 0 なるとき,e の形に若干の制限を加えることが適切でもある.e があまりに極端な形を取ることを防ぐためには,集合 e を包む最小の立方体を w として,

\alpha(e)=\frac{m(e)}{m(w)} > 0

をかりに e正則性の指数 と名づけて,それが 0 でないことを要求する.これは十分寛大な制限である.以下,我々は x に収束する閉集合の列 \{e_n\} において,\alpha(e_n) が一定の正数(\ne 0)よりも小でないとき,\{e_n\}正則といい,\alpha(e_n) の下限 \alpha(>0)\{e_n\} の正則性の指数という[* 2]

以下,集合函数 f は少なくともすべての B 集合に対して定義されているものとし,また微分商に関しては x に収束する集合 e を正則なる閉集合に限定して

(1)

  \bar{D}_f(x)=\varlimsup_{me\to 0}\frac{f(e)}{m(e)},\quad
  \underline{D\!}\,_f(x)=\varliminf_{me\to 0}\frac{f(e)}{m(e)},
D_f(x)=\lim_{me\to 0}\frac{f(e)}{m(e)}

を一般的に上,下,または単に導函数という.極限値として \pm\infty を許容すれば,\bar{D}_f,\underline{D\!}\,_f は各点 x において確定するが,D_f は必らずしも存在しない.D_f が存在するとき,fx において微分可能であるという.通例は D_f(x)\ne\pm\infty を要求するが,広義では D_f(x)=\pm\infty をも許容する.

導函数を導くために集合 e に課せられる制限が加重するに従って,\underline{D\!} は増大(不減少)し,\bar{D} は減少(不増大)することは当然である.

[附記] 
上記 (1) における \varlimsup の意味は明瞭であろうけれども,念のために説明をする.簡明のために f(e)/m(e)F(e) と略記する.x を含んで x に収束する正則なる閉集合を一般的に e と書いたのだが,なお精密に x を中心とする半径 \rho の円(二次元に即していう)に含まれる e の全体を S(\rho) とする(点 x をも正則なる閉集合と見られないでもなかろうが,それは S(\rho) から除外する).そうして S(\rho) に属する e に対する F(e) の値の集合(値域)の上限を M(\rho) とすれば,それは \rho が減少するに従って単調に減少する.そこで \textstyle M=\lim_{\rho\to 0}M(\rho) とすれば,
(2)
\bar{D}_f(x)=M.

これが (1) の意味である.\bar{D}_f(x) はまた数列の \varlimsup に基づいて

(3)
\bar{D}_f(x)=\sup_{\{e_n\}}\bigl(\varlimsup_{n\to\infty}F(e_n)\bigr) \quad (e_n\to x)

としても定義される.ここで \{e_n\}x に収束する正則なる閉集合の列である.(3)(1) の左の式と同等である.実際,まず e_n を含む上記の円の最小半径を \rho_n とすれば e_n\in S(\rho_n).従って F(e_n)\leqq M(\rho_n).故に \textstyle \varlimsup_{n\to\infty}F(e_n)\leqq \lim_{n\to\infty}M(\rho_n)=M

さて,一方において,\rho_n\to 0 とすれば,\textstyle e_n\in S(\rho_n), M(\rho_n)-\varepsilon < F(e_n)\leqq M(\rho_n) なる e_n があるが,n\to\infty の極限へ行って \textstyle M-\varepsilon \leqq \varliminf_{n\to\infty}F(e_n) \leqq \varlimsup_{n\to\infty}F(e_n) \leqq M\varepsilon >0 は任意に取れるから \textstyle \lim_{n\to\infty}F(e_n)=M.すなわち (3) における \sup は実は \mathrm{Max} で,\bar{D}_f(x) は或る集合列 \{e_n\} に関する \textstyle \lim_{n\to\infty}F(e_n) に等しい.

\underline{D\!}\,_f(x) に関しても同様である.


  1. 微分法,微分商,導函数は,意味よりも言葉の響きにたよって,仮用する.元来,点 x_0 における D_f(x_0) 等も,その x_0 を動かして生ずる点函数 D_f(x) 等も,統一的に dérivée(導き出されたもの)と呼ぶフランス式が最も簡潔である.この意味では,D_f(x_0) を(微分商の代りに)導来数,D_f(x) を導来函数,また集合函数 f(e) から点函数 D_f(x) を導き出す算法を(微分法の代りに)導出法(derivation)とでもいうべきであろう.ここでは,単独に‘微分’というものはない.従って微分係数も困る.我々は思想の実質を重視して,用語の詮議にあまり多くの関心を有しないが,D_f, \bar{D}_f,\underline{D\!}\,_f など,明確な表現があるから,安心である!
  2. \alpha\ne 0 だけが要求される場合,\alpha(e) の定義において w を,立方体の代りに,球にしてもよい.

[編集] 123.Vitali の被覆定理

定理 113.
R^n において任意の集合 A の各点 x に収束する正則なる閉集合の列が与えられたとき,それらの集合の中から単純列 \{E_n\} を抽き出して,それだけで,ほとんど全く A を覆うことができる.すなわち \textstyle\sum E_n に含まれない A の点は零集合を成すのである:
(1)
m\!\left(A-\sum E_n\right)=0.
これを Vitali の被覆定理という.
[証]
二次元に即して,Banach の証明法を紹介する.言語節約のために,定理にいう閉集合を \mathrm{C} と総称する.
1º.
A は有界で,集合 \mathrm{C} に正則性の指数は一定の正数 a より大きいとする.

A を含む一つの有界なる開集合を S として,集合 \mathrm{C}S に含まれるもののみをとっても差し支えない.

\mathrm{C} から任意に一つの集合 E_1 を取り出して,E_1 に触れない集合 \mathrm{C} の径の上限を \delta_1 とし,それらの集合 \mathrm{C} の中から E_2 の径 \delta E_2>\tfrac12\delta_1 なる一つの集合 E_2 を取り出す.同じようにして,次々に \{E_n\} を定めて行く.すなわちすでに E_n までが定められたとき,E_1+E_2+\cdots+E_n なる閉集合がまだ全く A を覆っていないならば,それに触れない集合 \mathrm{C} の径の上限 \delta_n>0 だから,その中から \delta E_{n+1}>\tfrac12\delta_n なる E_{n+1} が取り出されるのである.このようにして,\mathrm{C} から取り出される有限または無限の単純列 \{E_n\} が定理の条件 (1) に適合するのである.

まず仮定によって,E_n を包んで mE_n>cmW_n なる円 W_n があるが[* 1]\textstyle\sum mE_n\leqq mS だから,\textstyle\sum mW_n<mS/c は収束する.従って n\to\infty のとき,(円 W_n の直径)\delta W_n\to 0,故に \delta E_n\to 0

さて,A に属して \textstyle\sum E_n に属しない点 x があるとして,その x に収束する集合 \mathrm{C} の中の任意の一つを E とすれば,E\{E_n\} の中のどれかと交わる.――さもなければ,すべての n に対して 0<\delta E\leqq\delta_n<2\delta E_{n+1} で,\delta E_n\to 0 に矛盾する.

今かりに (1) が成り立たないとして,

  A'=A-\sum E_n,\quad \bar{m}A'>0.
とするならば,上記の各円 W_n を同心の W_n' にまで k 倍(k\geqq 5,後述)に拡大するとき,\textstyle\sum mW_n'=k^2\sum mW_n<\tfrac{k^2}{c}mS は収束するから,十分大きい N に対して,
\sum_{n>N}mW_n'<\bar{m}A'.
故に
(2)

  x\in A',\quad x\notin\bigcup_{n>N}W_n'
なる点 x がある.この点 x\textstyle\sum E_n に属しないから,x を含んで E_1,E_2,\ldots,E_N に交わらない \mathrm{C} の集合 E があるが,前にいったように,E\{E_n\} の中のどれかと交わるのだから,\{E_n\} の中で E と交わる最初のものを E_p とすれば,p>N で,EE_1,E_2,\ldots,E_{p-1} とは交わらない.従って
(3)
\delta E\leqq\delta_{p-1}.
そうして xW_p' には属しないのだから,EW_p' の外部の点 x を含む.また EW_p 内にある E_p と交わるから,W_p の内部の点をも含む.従って

   \delta E\geqq \frac12(k-1)\delta W_p
  \geqq\frac12(k-1)\delta E_p > \frac14(k-1)\delta_{p-1}.
k\geqq 5 とすれば,これは (3) と矛盾する.すなわち \bar{m}A'>0 は不合理である.故に (1) が成り立つ.
2º.
一般の場合.原点 O を中心とする半径 n の円の内部を S_n とする.A の点 xS_n に含まれ,かつ x に収束する \mathrm{C} の集合列の正則性の指数が \tfrac1n よりも大きいとして,そのような点 x の集合を A_n とする.従って \{A_n\} は増大列で,\textstyle A=\lim_{n\to\infty}A_n. さて によって,集合 \mathrm{C} の単純和 \textstyle\sum E_i でほとんど A_n が覆われる.すなわち
(4)

  \bar{m}\!\left(A_n-\sum_{i=1}^\infty E_i\right)=0.
単純和 \textstyle\sum_{i=1}^\infty E_i は有界だから \textstyle\sum_{i=1}^\infty mE_i は収束する.よって十分大きく p を取って
(5)

  \sum_{i>p}mE_i <\frac{1}{n}
とする.然らば \textstyle F_n=\sum_{i=1}^p E_i と置くとき
(6)

  \bar{m}(A_n-F_n)<\frac{1}{n}
である.実際,

  A_n-F_n\subset\left(A_n-\sum_{i=1}^\infty E_i\right)+\sum_{i>p}E_i
だから,(4)(5) によって

  \bar{m}(A_n-F_n)\leqq
  \bar{m}\!\left(A_n-\sum_{i=1}^\infty E_i\right)+\sum_{i>p}mE_i
   <\frac{1}{n},
すなわち (6) が成り立つ. さて,集合 A_{n+1}-F_n は開集合 S_{n+1}-F_n に含まれ,その各点に正則性の指数が \tfrac{1}{n+1} より大きい集合 \mathrm{C} の列が収束するから,前と同じようにして,それらの \mathrm{C} 集合の中から単純なる有限列 \textstyle\sum_{i=1}^q E_i' を取り出して

  \bar{m}\!\left(A_{n+1}-F_n-\sum_{i=1}^q E_i'\right)<\frac{1}{n+1}
にすることができる.ここで E_i' は閉集合 F_n の外にあるから,
(7)

  F_{n+1}=F_n+\sum_{i=1}^q E_i'
と置けば,F_{n+1} は集合 \mathrm{C} の有限単純列で,

  \bar{m}(A_{n+1}-F_{n+1})<\frac{1}{n+1}.
このような操作は,n=1 から始めて,どこまでも続けられるから,記号を変えて,集合 \mathrm{C} の或る単純列 \{E_n\} に関し,各〻の n に対して,(6) が成り立つと見てよい.そのとき,(7) によって \{F_n\} は増大列だから,

  B=\lim_{n\to\infty}F_n=\sum_{i=1}^\infty E_i
と置けば,B は集合 \mathrm{C} の単純和で,
(8)
\bar{m}(A-B)=0.
実際,n を決めておいて,任意に r>n を取れば,F_r\subset B,A_n\subset A_r から

  A_n-B\subset A_n-F_r\subset A_r-F_r,

  \bar{m}(A_n-B)\leqq\bar{m}(A_r-F_r)<\frac{1}{r}.
r は任意であったから,\bar{m}(A-B)=0 を得る.これから \textstyle A-B=\bigcup_n(A_n-B) を用いて

  \bar{m}(A-B)\leqq\sum_n\bar{m}(A_n-B)=0
を得る.よって (8) が成り立ち,\textstyle B=\sum_{i=1}^\infty をもって,(1) を得る.

  1. c は正則性の指数 a に関係する定数.二次元では c=2a/\pi でよい.

[編集] 124.加法的集合函数の微分法

準備として,B 集合に関する次の考察を挿入する.F(e)\geqq 0 を正なる加法的集合函数[* 1]とする.一般的に開集合を G,閉集合を E で表せば,

\inf_{G\supset e}F(G)\geqq F(e)\geqq \sup_{E\subset e}F(E)

であるが,B 集合 e に関しては

(1)
\inf_{G\supset e}F(G) = \sup_{E\subset e}F(E)

が成り立つ.それを見るために,(1) を成立せしめる L 集合 e の一類を S とする.

任意の閉区間 wS に属する.実際,G_n\darr w なる列 \{G_n\} があるから,定理 95によって,

\inf_{G\supset w}F(G)=F(w)=\sup_{E\subset w}F(E).

さて,S は σ 系をなす.G\supset e\supset E から G'\subset e'\subset E' だから,e と共に余集合 e'S に属する.次に,\textstyle e_i\in S, e=\bigcup e_i とすれば,e\in S である.実際,\textstyle \varepsilon_i > 0, \sum \varepsilon_i =\varepsilon とすれば,(1) によって,e_i\in S から

G_i\supset e_i\supset E_i,\quad F(G_i-E_i) < \varepsilon_i

なる G_i,E_i がある.今,\textstyle G=\bigcup G_i, H=\bigcup E_i とすれば,

G\supset e\supset H,\quad G-H\subset\bigcup(G_i-E_i),
F(G-H)\leqq \sum F(G_i-E_i) < \sum\varepsilon_i = \varepsilon.

然るに H は閉集合の増加列の極限だから,

H\supset H, \quad F(H-E) < \varepsilon

なる E があって(定理 95),F(G-E)=F(G-h)+F(H-E)<2\varepsilon である.すなわち

G\supset e\supset E,\quad F(G-H)< 2\varepsilon

なる G,E がある.\varepsilon は任意だから,(1) が成り立ち,e\in S である.

任意の閉区間が S に属するから,S は少なくともすべての B 集合を含む.すなわち e が B 集合なら (1) が成り立つ.

定理 114.
(予備定理) F(e)\geqq を正なる加法的集合函数とし,任意の集合 A の各点において \bar{D}_F(x)\geqq a > 0 とすれば,\bar{m}A<\infty で,A を含む B 集合 e 関して,F(e)\geqq a\bar{m}A
[証]
e を集合 A を含む B 集合とする.然らば,任意の \varepsilon > 0 に対応して,(1) によって,
(2)
e\subset G,\quad F(e)>F(G)-\varepsilon

なる開集合 G がある.また任意に 0<b<a なる b を取れば,仮定によって,A の各点 x に収束する正則なる閉集合 E の列があって,F(E)>bmE.これらの集合の中から G に含まれる単純列 \{E_n\} を取って,ほとんど A を覆うことができる(定理 113).故に (2) から

(3)
F(e) > F(G)-\varepsilon \leqq \sum F(E_n)-\varepsilon > b\sum mE_n-\varepsilon \leqq b\bar{m}A-\varepsilon.

仮定により F(e)<\infty だから \bar{m}A<\infty,また \varepsilon は任意,b < a も任意だから,F(e)\leqq a\bar{m}A

[注意] 
もしも A において \bar{D}_F(x)=\infty ならば,\bar{m}A=0.実際,この場合,任意の M > 0 に関して F(e)\leqq M\bar{m}AF(e) は有限だから \bar{m}A=0
定理 115.
(予備定理) F は前の定理の通りとする.任意の集合 A において \underline{D\!}\,_F(x)\leqq a, (a>0),ならば,ほとんど A を覆う B 集合 e が存在して
A\simeq A_0\subset e,\quad F(e)\leqq a\bar{m}A
になる。
[証]
\bar{m}A<\infty として証明すればよい.そのとき任意の \varepsilon>0 に対して,
A\subset G,\quad \bar{m}A > mG-\varepsilon

とする.b>aとすれば,仮定によって,A の各点に収束する正則なる閉集合 E の列があって,F(E)\leqq bmE だが,それらのうち,G に含まれる単純列 \{E_n\} を取って,ほとんど A を覆うことができる(定理 113).そこで \textstyle e=\sum E_n とすれば

 F(e)\leqq b\sum mE_n = bme\leqq bmG < b(\bar{m}A+\varepsilon).

今,\varepsilon=\tfrac{1}{n}, b=a+\tfrac{1}{n} に対応する ee_n と書いて,改めて \varliminf e_n とする.すなわち


  A\simeq A_n\subset e_n,\quad 
  F(e_n)\leqq \left(a+\frac{1}{n}\right)\left(\bar{m}A+\frac{1}{n}\right),

従って A_0=\varliminf A_n とすれば,

A\simeq A_0\subset e, \quad
  F(e)=F(\varliminf e_n)\leqq \varliminf F(e_n)\leqq a\bar{m}A.
定理 116.
加法的なる集合函数は,ほとんど各所で微分可能である[Lebesgue の定理].
[証]
F\geqq 0 を加法的なる集合函数とする.今
\bar{D}_F(x)>\underline{D\!}^\,_F(x)

なる点 x の集合を A とする.もしも \bar{m}A\ne 0 とするならば,或る有理数 r,s(>0) に関して

\bar{D}_F(x)>r>s>\underline{D\!}\,_F(x)

なる点 x の集合を A_0 とするとき,\bar{m}A_0>0.また,\bar{m}A_0<\infty定理 114).

然らば,ほとんど A_0 を覆う或る B 集合 e に関して(定理 115

F(e)\leqq s\bar{m}A_0,

一方,A_0\cap e\subset e から(定理 114

F(e)\geqq r\bar{m}(A_0\cap e)=r\bar{m}A_0.

従って

r\bar{m}A_0\leqq s\bar{m}A_0.

r>s,\infty >\bar{m}A_0>0 だから,これは不合理である.故に mA=0,すなわち

\bar{D}_F(x)\simeq \underline{D\!}\,_F(x).

F の符号が一定でないならば,

F(e)=F^+(e)+F^-(e),\quad F^+(e)\geqq 0,\quad -F^-(e)\geqq 0

で,D_F(x)=D_{F^+}(x)+D_{F^-}(x).故に定理は成り立つ.

[注意] 
D_F(x) はほとんど常に有限である(前頁,[注意]).
定理 117.
\{F_n\} が加法的集合函数の単調列で,
\lim_{n\to\infty}F_n(e)=F(e)

ならば

D_F(x)\simeq \lim_{n\to\infty}D_{F_n}(x).
[証]
\{F_n\} を増大列として,
f_n(e)=F(e)-F_n(e)

と置けば(減少列の場合には f_n=F_n-F と置く),f_n\geqq 0, f_n\to 0 で,\{f_n\} は減少列である.故に \bar{D}_{f_n}(x)\geqq 0n に関して減少列である.そこで

\lim_{n\to\infty}\bar{D}_{f_n}(x)\simeq 0

を示せばよい.

もしも,これが真でないとするならば,或る a>0 に関して


  x\in A,\quad \bar{m}A>0,\quad \bar{D}_{f_n}(x)>a.\quad (n=1,2,\ldots)

なる集合 A が存在すべきである.然らば(定理 114),A\subset e なる任意の B 集合 e に対して,

f_n(e)\geqq a\bar{m}A.\quad(n=1,2,\ldots)

f_n(e)\to 0 だからこれは不合理である.

定理 118.
F(e) は加法的で,L 集合 E の内で常に 0 に等しいとする.すなわち e\subset E ならば F(e)=0.然らば,E において D_F(x)\simeq 0
[証]
F\geqq 0 として十分である.或る B 集合 B をとって,E\supset B, m(E-B)=0 とする(§117).x\in B かつ D_F(x)>\tfrac{1}{n} なる x の集合を A_n とすれば,F(B)\geqq \tfrac{1}{n}\bar{m}A_n定理 114).仮定により F(B)=0 だから,\bar{m}A_n=0.さて,x\in B, D_F(x)>0 なる x の集合は \{A_n\} の合併であるから,それは零集合である.故に B において D_F(x)\simeq 0.然るに m(E-B)=0 だから,E において D_F(x)\simeq 0
定理 119.
特異函数 F に関しては D_F(x)\simeq 0
[証]
F\geqq0 として十分である.今 mN=0,F(N')=0 とする.ただし N'N の余集合である.然らば,N' において D_F(x)\simeq 0定理 118).mN=0 だから,これは全空間で成り立つ.

  1. L 集合に対して定義される,完全に加法的で,有限なる集合函数の意.以下同様.m はもちろん L 測度である.

[編集] 125.不定積分の微分法

定理 120.
[密度定理].L 集合 E の定義函数を \varphi(x) として,F(e)=m(Ee) と書けば,
D_F(x)\simeq \varphi(x).

すなわち E の内では D_F(x)\simeq 1,余集合 E' の内では D_F(x)\simeq 0

[証]
F'(e)=m(E'e) と置けば
F(e)+F'(e)=m(Ee)+m(E'e)=m(e).

故に F,F' が微分可能なる点において,すなわち,ほとんど各所(定理 116),

(1)
D_F(x)+D_{F'}(x)\simeq 1.

さて,E' においては F(e)=m(Ee)=m(0)=0.従って(定理 118D_F(x)\simeq 0.また E においては F'(e)=0,従って D_{F'}(x)=0,従って (1) から D_F(x)\simeq 1[* 1]

(証終)
定理 121.
f(x) を積分可能(有限)なる点函数,
F(e)=\int_e f(x)\,dm

とすれば,

D_F(x)\simeq f(x).
[証]
(1º)
E の定義函数を \varphi(x) とすれば
F(e)=m(Ee)=\int_e f(x)\,dm
密度定理に帰する.
(2º)
f(x) が階段的で,x\in E_i なるとき,f(x)=a_i\,(i=1,2,\ldots, p) とする.然らば \varphi_i(x)E_i の定義函数とすれば,

  f(x)=\sum_{i=1}^{n}a_i\varphi_i(x).
故に

  F(e)=\int_e f(x)dm = \sum a_i\int_e \varphi(x)dm.
従って (1º) によって

  D_F(x)\simeq \sum a_i\varphi_i(x) = f(x).
(3º)
一般の場合には,f(x)\geqq 0 として証明すればよいから,f(x) を階段的なる函数 f_m(x) の増大列の極限とする(定理 83).然らば

  F(e)=\int_e f(x)dm.\quad F_n(e)=\int_e f_n(x)dm
と置くとき,
定理 88

  F(e)=\lim F_n(e).
故に(定理 117

  D_F(x)\simeq \lim_{n\to\infty}D_{F_n}(x)\simeq \lim_{n\to\infty}f_n(x)= f(x).
定理 122.
加法的なる集合函数 F(e) の導函数 D_F(x) は積分可能で,F(e)D_F(x) の不定積分と一つの特異函数との和に等しい.
[証]
定理 99100 によって
F(e)=F(eH)+\int_e f(x)\,dm

で,F(eH) は特異函数である.故に定理 119定理 121 によって

D_F(x)\simeq f(x).

従って

F(e)=F(eH)+\int_e D_F(x)\,dm.

右辺の積分において,e 内の或る零集合 e_0 では D_F(x) が存在しないこともありうるが,そのような e_0 は積分範囲 e から除くべきである.それを了解の上で,上記のように書いた.\bar{D}_F(x),\underline{D\!}\,_F(x) は常に存在して,


  \bar{D}_F(x)\simeq \underline{D\!}\,_F(x)\simeq D_F(x)

であるから,積分記号の下へ \bar{D}_F(x) または \underline{D\!}\,_F(x) を入れてもよい.

以上,我々は D_F(x)446 頁に述べた一般的の意味に取ったが,あるいはそれを狭義にしても,結果は同じである.狭い意味を,かりに記号 {}^0 で示せば,


  \bar{D}_F(x)\simeq \bar{D}_F^0(x)\simeq 
  \underline{D\!}\,_F^0(x)\simeq \underline{D\!}\,_F(x).

  1. この定理においては,F,F' は有限でないから,449頁脚注の条件は満たされないが,(1) を出すには,x を含む或る矩形の外部において,F,F' の値を 0 に変更して,定理116を適用すればよい.

[編集] 126.有界変動・絶対連続の点函数

R^1 において加法的なる集合函数 F(e) に対応して点函数 f(x) が定義される.すなわち e=(-\infty,x) なるとき F(e)=f(x) とするのである.今最も興味ある場合として,F(e) を連続と仮定する.すなわち \delta e\to 0 なるとき F(e)\to 0 とするのである.\delta e は集合 e の径,すなわち R^1 においては,e を含む区間の幅(長さ)の下限である.故に e が一点から成り立つとき,F(e)=0 で,f(x) は点函数として連続である.

さて,F(e) が有界なる e に対して有限,したがって有界(定理 94)であることを仮定するならば,F に対応する f(x)e において有界変動である.F の正負の変分 F^+,F^- および絶対変分 V=F^+ +|F^-| に対応する点函数を,それぞれ f^+(x),f^-(x) および v(x) と書けば,


 f(x)=f^+(x)+f^-(x),\quad v(x)=f^+(x)+|f^-(x)|

で,f^+(x),|f^-(x)| は単調増大である(§111). さて,F(e) を既述の意味([[解析概論/第9章/絶対連続性 特異性|§112)で絶対連続とする.すなわち me=0 なるとき,F(e)=0F の加法性のために,それは me\to 0 のとき,F(e)\to 0 を意味するのであった(419 頁).F(e) のこの絶対連続性は,それに対応する点函数 f(x) の性質として次のようにいい表わされる.――今互に重なり合わない小区間 w_i=[x_i,x_i'] の有限列の合併を w とし,それら小区間 w_i における f(x) の変動の絶対値の和を

V(w)=\sum|f(x_i)-f(x_i)|

と書くならば,

mw=\sum|x_i'-x_i|

で,F(e) の絶対連続性によって,mw\to 0 のとき,V(w)\to 0.詳しくいえば,任意の \varepsilon>0 に対応して \delta が定められて,

(1)
mw<\delta なるとき V(w)<\varepsilon

ならしめうるのである.函数 f(x) のこの性質を Vitali が絶対連続と名づけた.これが絶対連続という用語の由来である.すなわち,Vitali の意味で絶対連続なる点函数に対応する集合函数 F(e) が絶対連続と名づけられたのである.

逆に f(x) が絶対連続ならば,F(e) も絶対連続である.――まず f(x) が絶対連続だから,(1) において \varepsilon を固定して,それに対応する \delta を取って,任意の区間を長さが \delta を超えない小区間に分けて,それらの区間の数を p とするならば,その区間における任意の小区間群 \textstyle w=\sum w_i に関して,V(w)\leqq p\varepsilon だから,f(x) は有界変動である.故に f(x) が単調増大なる場合を考慮すればよいが,そのとき F(e)\geqq 0 だから,今 mE=0 とするならば,E\subset G_n,mG_n\to 0 なる開集合 G_n の列があって,F(G_n)\to 0.故に F(E)=0.すなわち F は絶対連続である.

同様の意味で,特異なる集合函数 F(e) に対応する点函数 f(x) をも特異というならば,f(x) に関しては,K を任意の区間とするとき,任意の \varepsilon>0 に対して m(K-w)<\varepsilon で,V(w)<\varepsilon なる区間列 wK 内に存在する.

さて区間 K において f(x) を連続とする.その区間内で x を固定し,h を動かして,

  \Delta(x,h)=\frac{f(x+h)-f(x)}{h}
と書いて,
1)

  \bar{D}_f^+(x)=\varlimsup_{h\to+0}\Delta(x,h),
2)

  \underline{D\!}\,_f^+(x)=\varliminf_{h\to+0}\Delta(x,h),
3)

  \bar{D}_f^-(x)=\varlimsup_{h\to-0}\Delta(x,h),
4)

  \underline{D\!}\,_f^-(x)=\varliminf_{h\to-0}\Delta(x,h)
と置く.h\to+0 は‘h>0,h\to 0’の略記,h\to-0 は‘h<0,h\to 0’の略記である.

もしも 1)2) が一致するならば,その共通の値を D_f^+(x) と書く.それは x における f(x) の右への微分商である.同様に3)4)が一致すれば,その共通の値 D_f^-(x) は左への微分商である.もしも 1)―4)がすべて一致すれば,その共通の値 D_f(x) はすなわち x における f(x) の微分商で,その場合 f(x)x において微分可能である.狭い意味では,D_f(x) が有限なることを要求し,広い意味では \pm\infty をも許容する.

今,f(x) が集合函数 F(e) に対応するとするならば,1)―4)§122 に述べた F(e) の微分商の特別の場合,あそこの e[x,x+h] または [x-h,x] に限定した場合で,これらの e の正則性の指数は \tfrac12 である.

このように h が限定された結果として,導函数は B 函数である.例えば \bar{D}^+ に関していえば \varlimsup の意味によって,h を有理数に限ってもよいが,f の連続性から,\Delta(x,h)x に関して連続で、\bar{D}^+(x) は連続函数列の \varlimsup として B 函数である(§117).

以上を前置きとして,f(x) を区間 K=[a,b] において連続かつ有界変動として,f(x) に対応する(完全)加法的集合函数 F(e)§121 参照)に §§124125 の定理を適用すれば,次のような結果が得られる.

1.
区間 K において連続かつ有界変動なる函数 f(x) は,ほとんど常に微分可能で,微分商はほとんど常に有限である.
2.
区間 t_0\leqq t\leqq t_1 において \varphi(t),\psi(t) が連続かつ有界変動ならば,x=\varphi(t),y=\psi(t) によって定義される曲線はほとんど各点で接線を有する.
3.
区間 [a,b] の点を x とすれば
f(x)-f(a)=\mathit\Phi(x)+\int_a^x\Delta(x)\,dx.
右辺の \Delta(x)前頁 1)―4)の四つの微分商の中のどれでもよい.\textstyle \int_a^x[a,x] における L 積分で,\mathit\Phi(x) は特異函数である. 特に f(x)f'(x)Lebesgue の意味の不定積分であるためには,f(x) が絶対連続であることが必要かつ十分である.
4.
特異函数は,ほとんど常に微分可能で,微分商は 0 に等しい.

最後に,特異函数 \mathit\Phi(x) のなるべく手近な実例を作るために,§115 に述べた三進集合 E を考察する.区間 K=[0,1] において三進集合 E を作るために,次々に K から取り去った区間は第 n 回には 2^{n-1} 個であったが,それらの区間において \mathit\Phi(x) の値を左から順に 1/2^n,3/2^n,\ldots,(2^n-1)/2^n とする.すべての n に関して,このように \mathit\Phi(x) の値を決めるならば,\mathit\Phi(x)K において稠密に分布される E'(余集合)において決定するが,それを K において連続なる \mathit\Phi(x) に拡張することができる.この \mathit\Phi(x)K において単調に 0 から 1 まで増大し,零集合 E 以外の各点では \mathit\Phi'(x)=0E の点では一般に \mathit\Phi'(x)=\infty であるが,E' を組成する区間の端では,右または左への微分商が 0 になるであろう.

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