解析概論/第9章/集合算

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[編集] 105.集合算

我々の目標は Euclid 空間の点集合にあるのだけれども,本節(§105-112)の概括論においては,まず抽象的に任意の集合を考察する.任意といっても,一つの集合 \Omega を取って,それの部分集合のみを考察の対象とする.

以下,集合 \Omega と,その元 x とを,一つの空間 (\Omega) と,その空間の点 (x) とに当てはめて考えるならば,わかりよいだろう.もっとも,\Omega をただちに一つの(抽象的)空間,x をその空間の点と称することに,何等の差し障りもない[* 1]

x が集合 A の元であることを x \in A と書く.x \in A の否定を x \notin A と書く.

AB の部分集合なること(x \in A ならば x \in B)を A \subset B と書き,AB に含まれるという.A \subset B かつ B \subset A のとき,集合 AB とは相等しいという:記号 A = B.従って A = B なる場合にも A \subset B である.

合併(和)
集合 A, B, \ldots のどれかに属する元の全部をもって,一つの集合を作ることができる.それを A, B, \ldots合併といい,A \cup B \cup \cdots と書く.集合の合併は交換律および結合律に従う.

集合が有限個または可算個あるときには,それらに番号をつけて A_n (n=1,2,\dots) と書いて,その全体を集合の列 \{ A_n\} という.この列の集合の合併を \textstyle \bigcup_{n=1}^{\infty}A_n(あるいは略して \textstyle \bigcup A_n)と書くが,番号のつけ方は随意である.なかんずく,重要なのは  A_i, A_j (i \neq j) に共通の元がない場合で,そのとき \{ A_n\}単純列,またその合併を単純和[* 2]と省略して,特に記号 \textstyle +, \sum を用いる.

共通部分(積)
集合 A, B, \ldots のどれにも属する元の全部をもって,一つの集合を作ることができる.それを A, B, \ldots共通部分または交わりといい,A \cap B \cap \cdots(または積の形に AB\cdots)と書く.集合列 \{ A_n\} の場合には \textstyle\bigcap_{n=1}^{\infty}A_n と書く.A,B に共通の元がないときは,交わりはないが,陳述の便宜上,交わりは空集合であるといい,数字 0 を流用して,それを 0 と書く.集合の積に関しても,交換律および結合律が成り立つ.
余集合
集合 A に属しない\Omega の元全体は一つの集合を成す.それを A の余集合といい,それを \mathrm{C}A と書く[* 3]のが慣例であるが,本書ではおりおり簡明に A' とも書く.

\Omega の各元 x は,AA' か,どちらか一方に属する.すなわち x \notin Ax \in A' と同値である.もちろん,(A')' = A

次の互に双対的なる二つの等式は明白であろう.
(1)
(A \cup B)' = A' \cap B',\quad(A \cap B)' = A' \cup B'.
無数の集合に関しても同様である.特に集合列に関しては
(2)

 \left(\bigcup A_n\right)' = \bigcap A'_n,\quad 
 \left(\bigcap A_n\right)' = \bigcup A'_n.
実際,\textstyle x \in \bigcup A_n ならば或る n に関して x \in A_n.故に \textstyle x \in (\bigcup A_n)'すべてn に関して x \notin A_n すなわち x \in A'_n を意味する.従って \textstyle x \in \bigcap A'_n を意味する.すなわち \textstyle \bigcup A_n\textstyle \bigcup A'_n とは互に余集合である.A_nA'_n を代用すれば,第二の等式を得る.
集合の差
集合 A に属して,B に属しない元の全体を A-B と書く.従って
(3)
A-B = A-AB = AB' = B'-A',
B-A = B-AB = BA' = A'-B',
A \cup B = (A-B)+(B-A)+AB.

最後の等式の右辺は単純和である.

A \supset B なるときは,A-BA に対するB の余集合という.A,BK に含まれるとき,K に対する A,B の余集合に関しても(1)は成り立つ(\OmegaK を代用してもよいから).
分配律
集合の和と積との間には,互に双対的なる二つの分配律が成り立つ.すなわち
(4)
\left.
   \begin{align}
      (A \cup B) \cap C = (A \cap C) \cup (B \cap C), \\
      (A \cap B) \cup C = (A \cup C) \cap (B \cup C).
   \end{align} \right\}

これらは合併および共通部分の意味から,(2)のようにして導かれる.また(2)を適用して,一方の等式の両辺の余集合を作れば,他の等式が得られる.ファイル:図

集合列に関しても分配律は成り立つ.すなわち

 \begin{align}
 \bigcap_i\bigg(\bigcup_j A_j^{(i)}\bigg)
 =\bigcup(A_{j_1}^{(1)}\cap A_{j_2}^{(2)}\cap A_{j_3}^{(3)}\cap\cdots),\\
\bigcup_i\bigg(\bigcap_j A_j^{(i)}\bigg)
 =\bigcap(A_{j_1}^{(1)}\cup A_{j_2}^{(2)}\cup A_{j_3}^{(3)}\cup\cdots).
 \end{align}\quad (j_1,j_2,\ldots = 1,2,3,\ldots)
定理 81.
集合の積は和と差とで表わされる.すなわち,集合列に関していえば,
(5)

  \bigcap_{n\geqq 1}A_n=A_1-\bigcup_{n\geqq 2}(A_1-A_n).
[証]
(3)による.
右辺
  =A_1-\bigcup_{n\geqq 2}A_1A_n'
分配律および(3)

  =A_1-A_1\bigcup_{n\geqq 2}A_n'=A_1-\bigcup_{n\geqq 2}A_n'
(3)および(2)による.

  =A_1\bigg(\bigcup_{n\geqq 2}A_n'\bigg)'
  =A_1\bigcap_{n\geqq 2}A_n

  =\bigcap_{n\geqq 1}A_n.
[注意] 
集合列の合併 \textstyle E=\bigcup E_n を単純和 \textstyle E=\sum e_n, e_n\subset E_n に修正することができる.例えば e_1=E_1,\,e_n=E_n-(E_1\cup E_2\cup\cdots\cup E_{n-1}),\,(n=2,3,\ldots) とすればよい.
集合の上・下極限
集合列 \{A_n\} に関して,上極限 \varlimsup下極限 \varliminf および極限 \lim を次のように定義する:
(6)

  \varlimsup A_n=\bigcap_{n\geqq 1}\bigg(\bigcup_{i\geqq n}A_i\bigg),\quad
  \varliminf A_n=\bigcup_{n\geqq 1}\bigg(\bigcap_{i\geqq n}A_i\bigg).
\varlimsup A_n=\varliminf A_n なるとき,それを \lim A_n とする.

この定義からみえるように,\varlimsup,\varliminfA_n の順序には関係しない.すなわち \varlimsup A_n は無数の A_n に共通なる元の全体で,\varliminf A_n は有限個を除いたほかの全ての A_n に共通な元の全体である(除かれる集合は元によって違いうる).故に \varliminf A_n\subset \varlimsup A_n

\{A_n\}が増大列,すなわち A_1\subset A_2\subset\cdots\subset A_n\subset\cdots ならば,
(7)

 \lim A_n = \bigcup_{n\geqq 1}A_n,
\{A_n\} が減少列,すなわち A_1\supset A_2\supset\cdots\supset A_n\supset\cdots ならば
(8)

 \lim A_n= \bigcap_{n\geqq 1}A_n
であることは,定義によって明らかである.従ってまた一般に,
(9)

  \varlimsup A_n=\lim\bigcup_{i\geqq n}A_i,\quad
  \varliminf A_n=\lim\bigcap_{i\geqq n}A_i.
また余集合に関して
 
  (\varlimsup A_n)'=\varliminf A_n',\quad
  (\varliminf A_n)'=\varlimsup A_n'.
集合の定義函数(特徴函数[* 4]
集合 E の各元 x に,一つの数 f(x) が対応するとき, fE における点函数という.

特に x\in A なるとき \varphi(x)=1x\in A'(余集合)なるとき \varphi(x)=0 なる函数 \varphi(x)A の定義函数という.逆に,1 または 0 なる値のみをとる点函数 \varphi(x)\Omega において与えられるならば,\varphi(x)=1 なる点 x の全部を A とすれば,\varphi(x) はすなわち A の定義函数で,また \varphi'(x)=1-\varphi(x) は余集合 A' の定義函数である.

集合列 \{A_n\} において,A_n の定義函数を \varphi_n(x) とすれば,
 
  \sup\varphi_n(x),\quad \inf\varphi_n(x),\quad
  \varlimsup\varphi_n(x),\quad \varliminf\varphi_n(x),\quad \lim\varphi_n(x)
は,それぞれ

  \bigcup A_n,\qquad \bigcap A_n,\qquad
  \varlimsup A_n,\qquad\varliminf A_n,\qquad\lim A_n
の定義函数である.

  1. 然らば,その空間\Omegaにおいて,‘初めから在るもの’は,点と集合と,点の間の互に排反する関係 x = y, x \neq y および点 x と集合 A との間の互に排反する関係 x \in A, x \notin A とである.本節の集合算は,それに基づいて公理式に組立てられるであろう.
  2. 単純和は代数学の direct sum を連想して,本書で仮用する.ただし direct を直訳しないほうがよいと考えた.
  3. ‘余’= complement は余角,余弦,等々と同系の用語.Cはその頭字.
  4. fonction caractéristique (de la Vallée-Poussin).
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