解析概論/第9章/微分法の定義

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[編集] 122.微分法の定義

R^n において,集合函数 f が与えられたとき,点 x における f の密度ともいうべきものを考察して,R^n における点函数を導き出すことができる.例えば,x を中心とする n 次元立方体(区間の意味でいう)を e として,ex に収束するとき

\frac{f(e)}{m(e)}

の極限を考察する.そうして me\to 0 のとき,


  \bar{D}_{f}(x)=\varlimsup\frac{f(e)}{m(e)},\quad
  \underline{D\!}\,_{f}(x)=\varliminf\frac{f(e)}{m(e)}

を点 x における f の上・下微分商といい,両者が一致するとき,その共通の値

D_f(x)=\lim\frac{f(e)}{m(e)}

を単に微分商という.x が変動するとき,これらの微分商を点 x の函数とみて,それを f の導函数という[* 1]

上記の定義において,x に収束させる e を立方体に限る必要はない.例えば,x を中心とする n 次元の球としてもよい.これらはいわゆる対称的微分商であるが,最も一般には,x を含む任意の集合 e を取ってもよい.ただし me\to 0 なるとき,e の形に若干の制限を加えることが適切でもある.e があまりに極端な形を取ることを防ぐためには,集合 e を包む最小の立方体を w として,

\alpha(e)=\frac{m(e)}{m(w)} > 0

をかりに e正則性の指数 と名づけて,それが 0 でないことを要求する.これは十分寛大な制限である.以下,我々は x に収束する閉集合の列 \{e_n\} において,\alpha(e_n) が一定の正数(\ne 0)よりも小でないとき,\{e_n\}正則といい,\alpha(e_n) の下限 \alpha(>0)\{e_n\} の正則性の指数という[* 2]

以下,集合函数 f は少なくともすべての B 集合に対して定義されているものとし,また微分商に関しては x に収束する集合 e を正則なる閉集合に限定して

(1)

  \bar{D}_f(x)=\varlimsup_{me\to 0}\frac{f(e)}{m(e)},\quad
  \underline{D\!}\,_f(x)=\varliminf_{me\to 0}\frac{f(e)}{m(e)},
D_f(x)=\lim_{me\to 0}\frac{f(e)}{m(e)}

を一般的に上,下,または単に導函数という.極限値として \pm\infty を許容すれば,\bar{D}_f,\underline{D\!}\,_f は各点 x において確定するが,D_f は必らずしも存在しない.D_f が存在するとき,fx において微分可能であるという.通例は D_f(x)\ne\pm\infty を要求するが,広義では D_f(x)=\pm\infty をも許容する.

導函数を導くために集合 e に課せられる制限が加重するに従って,\underline{D\!} は増大(不減少)し,\bar{D} は減少(不増大)することは当然である.

[附記] 
上記 (1) における \varlimsup の意味は明瞭であろうけれども,念のために説明をする.簡明のために f(e)/m(e)F(e) と略記する.x を含んで x に収束する正則なる閉集合を一般的に e と書いたのだが,なお精密に x を中心とする半径 \rho の円(二次元に即していう)に含まれる e の全体を S(\rho) とする(点 x をも正則なる閉集合と見られないでもなかろうが,それは S(\rho) から除外する).そうして S(\rho) に属する e に対する F(e) の値の集合(値域)の上限を M(\rho) とすれば,それは \rho が減少するに従って単調に減少する.そこで \textstyle M=\lim_{\rho\to 0}M(\rho) とすれば,
(2)
\bar{D}_f(x)=M.

これが (1) の意味である.\bar{D}_f(x) はまた数列の \varlimsup に基づいて

(3)
\bar{D}_f(x)=\sup_{\{e_n\}}\bigl(\varlimsup_{n\to\infty}F(e_n)\bigr) \quad (e_n\to x)

としても定義される.ここで \{e_n\}x に収束する正則なる閉集合の列である.(3)(1) の左の式と同等である.実際,まず e_n を含む上記の円の最小半径を \rho_n とすれば e_n\in S(\rho_n).従って F(e_n)\leqq M(\rho_n).故に \textstyle \varlimsup_{n\to\infty}F(e_n)\leqq \lim_{n\to\infty}M(\rho_n)=M

さて,一方において,\rho_n\to 0 とすれば,\textstyle e_n\in S(\rho_n), M(\rho_n)-\varepsilon < F(e_n)\leqq M(\rho_n) なる e_n があるが,n\to\infty の極限へ行って \textstyle M-\varepsilon \leqq \varliminf_{n\to\infty}F(e_n) \leqq \varlimsup_{n\to\infty}F(e_n) \leqq M\varepsilon >0 は任意に取れるから \textstyle \lim_{n\to\infty}F(e_n)=M.すなわち (3) における \sup は実は \mathrm{Max} で,\bar{D}_f(x) は或る集合列 \{e_n\} に関する \textstyle \lim_{n\to\infty}F(e_n) に等しい.

\underline{D\!}\,_f(x) に関しても同様である.


  1. 微分法,微分商,導函数は,意味よりも言葉の響きにたよって,仮用する.元来,点 x_0 における D_f(x_0) 等も,その x_0 を動かして生ずる点函数 D_f(x) 等も,統一的に dérivée(導き出されたもの)と呼ぶフランス式が最も簡潔である.この意味では,D_f(x_0) を(微分商の代りに)導来数,D_f(x) を導来函数,また集合函数 f(e) から点函数 D_f(x) を導き出す算法を(微分法の代りに)導出法(derivation)とでもいうべきであろう.ここでは,単独に‘微分’というものはない.従って微分係数も困る.我々は思想の実質を重視して,用語の詮議にあまり多くの関心を有しないが,D_f, \bar{D}_f,\underline{D\!}\,_f など,明確な表現があるから,安心である!
  2. \alpha\ne 0 だけが要求される場合,\alpha(e) の定義において w を,立方体の代りに,球にしてもよい.
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