解析概論/第7章/陰伏函数(陰函数)

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[編集] 82.陰伏函数(陰函数)

二つの変数 x, y の間に関係式 F(x, y)=0が与えられているときは, xy とが各別に任意の値を取る事はできない.もしも x の函数 y=f(x)y に代入するとき,上記の関係が在る区間において常に成り立つならば, f(x)F(x, y)=0 によって陰伏的に定められるという.もしもこのような函数 f(x) が二つ以上あるならば,それらを陰伏函数のという.その場合,それらの枝を総括して yx多意函数(または多価函数)という.

簡単な一例として x^2+y^2=a^2 を取る.このとき y=\pm \sqrt{a^2-x^2}が区間 [-a, a] における陰伏函数 y の二つの枝である.符号 \pm によって二つの枝を区別するのは連続性の要求に基づく(もしも連続性を要求しないのならば, x の各々の値に対して任意に符号をきめても,さしつかえないはずである).

他の一例として, y^2=x^2(x+1) を取る.然らば y=\pm \sqrt{x^2(x+1)} であるが,今 x > 0 なるときは平方根の正の値,また x<0 なるときは平方根の負の値をとることにするならば,それは区間 [-1, \infty) において滑らかな一つの枝である.もしも符号を反対にすれば,他の滑らかな一つの枝を得る(図 (1)).

もしも y=\pm \sqrt{x^2(x+1)} において平方根を常に正,または常に負とするならば, yx=0 において連続ではあるが,微分可能性を失うであろう(図 (2)).

(1) (2)
滑らかな枝 連続ではあるが原点で微分可能でなくない枝

平方根は常に正の値を取るというようなことは安価な規約ではあるけれども,必らずしも幸福をもたらさない!

定理 71.
或る領域において F(x, y) および導函数 F_x, F_y は連続であるとする.領域内の一点 P_0=(x_0, y_0) において F(x_0, y_0)=0 で,かつ F_x(x_0, y_0)F_y(x_0, y_0) とのうち少なくとも一つは 0 でないとする.例えば y に関する偏微分商 F_y(x_0, y_0)\neq 0 とする.然らば方程式 F(x, y)=0 によって, y が次のように x の一つの陰伏函数 y=f(x) として一意に定められる.
P_0の近傍で定まる陰伏函数
1)
y=f(x)x_0 を含む或る区間 x_1\le x \le x_2 における x の連続函数で,その区間において常に F(x, f(x))=0
2)
y_0=f(x_0).
3)
\frac{dy}{dx}=-\frac{F_x(x, y)}{F_y(x, y)}.
[証]
仮定によって F_y(x_0, y_0)\neq 0 であるが,今 F_y(x_0, y_0)>0 とする.(反対の場合も同様である.あるいは F-F を代用すればよい.)

仮定によって F_y(x, y) は連続だから,(x_0, y_0) を含む在る領域 K において F_y(x, y)>0

その領域内において x=x_0 として,y のみを変動せしめるならば,仮定によって F_y(x_0, y)>0 だから F(x_0, y)y に関して単調に増大し,しかも y=y_0 のとき 0 になるから, K 内の或る点 A=(x_0, y_1), y_1 < y_0 において F(x_0, y_1)<0,また B=(x_0, y_2), y_2>y_0 において F(x_0, y_2)>0

仮定によって F(x, y) は連続で, A において負だから, A を通る横線上,A を含む或る区間内において常に負である.また B において正だから,B を含む或る区間内において常に正である.故に x_0 を含む或る区間 x_1\le x \le x_2 において
F(x, y_1)<0, F(x, y_2)>0.

よってこの区間 [x_1, x_2] において, x の値を固定して, yy_1 から y_2 まで変動させるならば,その際 F_y>0 だから, F(x, y)y に関して単調増大で,しかも F(x, y_1)<0, F(x, y_2)>0 だから y_1<y<y_2 なる区間において F(x, y)=0 になるような y の値がただ一つある.

このようにして,区間 x_1\le x \le x_2 における x の任意の値に対して,区間 y_1<y<y_2 における y の値が F(x, y)=0 なる条件によって確定される.すなわちその y の値は x の函数である.それを y=f(x) とする.

この函数が連続であることはほとんど明白であろうが,一般の証明法を述べておこう.今,上記区間において x に収束する任意の数列 \{x_n\}, x_n\pm x ,を取って,それに対応する y の値を \{y_n\} とする.然らば点列 \{x_n, y_n\} は有界だから集積点を有する.今 (x, \eta) を一つの集積点とすれば, \{x_n, y_n\} の部分列 \{x_{a_n}, y_{a_n}\}(x, \eta) に収束するものがある.然らば F(x_{a_n}, y_{a_n})=0 で, F は連続だから F(x, \eta)=0 .故に \etax に対応する y の値で,それは一定である.故に集積点は (x, y) ただ一つ,従ってそれは {x_n, y_n} の極限である(14 頁,[注意]).すなわち x_n\to x のとき y_n\to y 従って y は連続である.

これまでは少しも F_x(x, y) を用いなかったが,今仮定の様に F_x(x, y) が連続であるとすれば,平均値の定理によって領域 K において
(1)
F(x+\Delta x,y+\Delta y)-F(x,y)=\Delta xF_x(x+\theta\Delta x,y+\theta\Delta y)+\Delta yF_y(x+\theta\Delta x,y+\theta\Delta y),
ただし 0<\theta <1.特に (x,y) および (x+\Delta x,y+\Delta y)F(x,y)=0 を満足せしめるならば,左辺は 0 だから

  \frac{\Delta y}{\Delta x}
 =-\frac{F_x(x+\theta \Delta x, y+\theta \Delta y)}
        {F_y(x+\theta \Delta x, y+\theta \Delta y)},
仮定によって F_y\neq 0,またもちろん \Delta x \neq 0 だから,このように書かれるのである.F_x, F_y は連続だから,\Delta x\to 0 のとき
(2)
\frac{dy}{dx}=-\frac{F_x(x, y)}{F_y(x, y)}.
すなわち定理の全ての部分が証明された.――
[注意] 
(1) で左辺を 0 とおけば, F_x, F_y は連続だから,

  \Delta xF_x(x, y)+\Delta yF_y(x, y)+o(\rho)=0, 
  \quad \rho=\sqrt{(\Delta x)^2+(\Delta y)^2}
従って仮定 F_y\neq 0 により, y は微分可能で
F_x dx+F_y dy=0.
これからも (2) が得られる.

もしも F_x, F_y が微分可能ならば,独立変数 x に関して (2) の右辺を微分して \tfrac{d^2y}{dx^2} を得る.それを計算するには, (2)

F_x(x, y)+F_y(x, y)y'=0

なる形を書いて, x に関して微分して


  F_{xx}+F_{xy}y'+(F_{yx}+F_{yy}y')y'+F_{y}y''=0.

よって


  y''=-\frac{F_{xx}+2F_{xy}y'+F_{yy}{y'}^2}{F_y}.

ここへ (2) から y' の値を持ち込めば, y''F の第二階までの偏微分商で表される(第三階以上も同様である).

定理 71 は三次元以上にも拡張される.例えば三次元においては次の定理を得る.

定理 72.
(x_0, y_0, z_0) の近傍において F(x, y, z) が連続的微分可能で
F(x_0, y_0, z_0)=0
F_z(x_0, y_0, z_0)\neq 0
とすれば,xy 平面上,(x_0,y_0) の近傍において,次の条件に適する陰伏函数
z=f(x,y)
が確定する.すなわち
1)
F(x, y, f(x, y)),
2)
z_0=f(x_0, y_0),
3)
\frac{\partial z}{\partial x}=-\frac{F_x}{F_z}, \frac{\partial z}{\partial y}=-\frac{F_y}{F_z}.
すなわち F_x, F_y が存在すれば, zx, y の函数として微分可能で,全微分 dz
F_{x}dx+F_{y}dy+F_{z}dz=0
から求められる(前頁,[注意]).従って上記のように
(3)

    \frac{\partial z}{\partial x}
  =-\frac{F_x}{F_z}, \frac{\partial z}{\partial y}
  =-\frac{F_y}{F_z}.
もしも Fの高階微分が可能ならば,x, yに関して zの同階までの微分も可能で,それは (3) を微分して求められる.

上記の考察を一般化して次の定理を得る.

定理 73.
n+p 個の変数 x_1, x_2, \cdots , x_{n+p} の間の n 個の関係式
(4)
F_i(x_1, x_2, \cdots , x_{n+p})=0\quad  (i=1, 2, \cdots , n)
が点 P_0=({x_{1}}^0, {x_{2}}^0, \cdots , {x_{n+p}}^0) において満足せしめられ, F_i は点 P_0 の近傍で連続的微分可能とする.また P_0 において函数行列式
\frac{D(F_1, F_2, \cdots , F_n)}{D(x_{\alpha}, x_{\beta}, \cdots , x_{\lambda})}=\begin{vmatrix}
\dfrac{\partial F_1}{\partial x_{\alpha}}, & \dfrac{\partial F_1}{\partial x_{\beta}}, & \ldots , & \dfrac{\partial F_1}{\partial x_{\lambda}} \\[10pt]
\dfrac{\partial F_2}{\partial x_{\alpha}}, & \dfrac{\partial F_2}{\partial x_{\beta}}, & \ldots , & \dfrac{\partial F_2}{\partial x_{\lambda}} \\[10pt]
\cdots & \cdots & \cdots & \cdots \\[10pt]
\dfrac{\partial F_n}{\partial x_{\alpha}}, & \dfrac{\partial F_n}{\partial x_{\beta}}, & \ldots , & \dfrac{\partial F_n}{\partial x_{\lambda}}
\end{vmatrix}
\alpha, \beta, \cdots, \lambda1, 2, \cdots, n+p の中の n 個の互いに異なる番号)が,少なくとも一つは 0 に等しくないとする.――例えば x_1, x_2, \cdots, x_n に関する函数行列式が P_0 において
(5)
\frac{D(F_1, F_2, \cdots , F_n)}{D(x_{\alpha}, x_{\beta}, \cdots , x_{\lambda})}=\begin{vmatrix}
\dfrac{\partial F_1}{\partial x_{1}}, & \dfrac{\partial F_1}{\partial x_{2}}, & \ldots , & \dfrac{\partial F_1}{\partial x_{n}} \\[10pt]
\dfrac{\partial F_2}{\partial x_{1}}, & \dfrac{\partial F_2}{\partial x_{2}}, & \ldots , & \dfrac{\partial F_2}{\partial x_{n}} \\[10pt]
\cdots & \cdots & \cdots & \cdots \\[10pt]
\dfrac{\partial F_n}{\partial x_{1}}, & \dfrac{\partial F_n}{\partial x_{2}}, & \ldots , & \dfrac{\partial F_n}{\partial x_{n}}
\end{vmatrix} \neq 0
とする.然らば上記関係 (4) によって x_1, x_2, \cdots, x_n がその他の変数 x_{n+1}, \cdots, x_{n+p} の函数として,次のように確定される.今簡明のために記号を換えて x_{n+1}, x_{n+2}, \cdots, x_{x+p} の代わりに u, v, \cdots, w と書けば,点 (u^0, v^0, \cdots, w^0) の近傍で, p 個の変数 u, v, \cdots, wn 個の函数
x_i=\phi(u, v, \cdots, w)\ \ (i=1, 2, \cdots, n)
が確定して
1)
F_i({\phi}_1, {\phi}_2, \cdots, {\phi}_n, u, v, \cdots, w)=0,
2)
{x_i}^0={\phi}_i(u^0, v^0, \cdots, w^0),
3)
u, v, \cdots, w に関する全微分 dx_i は次の連立一次方程式から求められる,すなわち
\frac{\partial F_i}{\partial x_1}dx_1+\frac{\partial F_i}{\partial x_2}dx_2+\cdots+\frac{\partial F_i}{\partial x_n}dx_n + \left(
\frac{\partial F_i}{\partial u}du+\frac{\partial F_i}{\partial v}dv+\cdots+\frac{\partial F_i}{\partial w}dw
\right)=0 \quad (i=1, 2, \cdots, n)
[証]
まず簡明のために,二つの方程式
(6)
F(x, y, u)=0,
(7)
G(x, y, u)=0
において,独立変数 u の函数として x, y を考察する. (x_0, y_0, u_0) がこれらの方程式を満足せしめ,かつ (x_0, y_0, u_0) において
(8)
\frac{D(F, G)}{D(x, y)}=\begin{vmatrix}
\dfrac{\partial F}{\partial x}, & \dfrac{\partial F}{\partial y} \\[10pt]
\dfrac{\partial G}{\partial x}, & \dfrac{\partial G}{\partial y}
\end{vmatrix}\neq 0
とする.然らばこの点 (x_0, y_0, u_0) において \tfrac{\partial F}{\partial x}, \tfrac{\partial F}{\partial y} が共に 0 に等しくはないから,例えば \tfrac{\partial F}{\partial x}\neq0 とする:すなわち
F_x(x_0, y_0, u_0)\neq 0
とする.然らば定理 72 によって,点 (y_0, u_0) の近傍で (6) から
(9)
x=f(y, u)
なる函数が定まる.これを G に代入すれば, y, u の函数
G(f(y, u), y, u)=H(y, u)
が生ずる.さて
H_y=G_y\frac{\partial f}{\partial y}+G_y, \frac{\partial f}{\partial y}=-\frac{F_y}{F_x},
故に
H_y=-\frac{G_{x}F_{y}}{F_x}+G_y=\frac{1}{F_x}\begin{vmatrix}
\dfrac{\partial F}{\partial x}, & \dfrac{\partial F}{\partial y} \\[10pt]
\dfrac{\partial G}{\partial x}, & \dfrac{\partial G}{\partial y}
\end{vmatrix}
で,(8) によって,それは (x_0, y_0, u_0) において 0 に等しくない. よって u=u_0 を含む在る区間内において, H(y, u)=0 を満足せしめる函数 y=\phi(u) が定まる.それを (9) に持ち込んで x=\phi(u) とすれば x=\phi(u), y=\psi(u)(6), (7) を満足せしめる.もちろん
x_0=\phi(u_0), y_0=\psi(u_0)
\tfrac{dx}{du}, \tfrac{dy}{du} の存在証明も計算法も前記(296頁)と同様である.すなわち
(10)
F_{x}dx+F_{y}dy+F_{u}du=0.\ \ G_{x}dx+G_{y}dy+G_{u}du=0
から
dx:dy:du=\begin{vmatrix} F_y, & F_u \\ G_y, & G_u
\end{vmatrix}:\begin{vmatrix} F_u, & F_x \\ G_u, & G_x
\end{vmatrix}:\begin{vmatrix} F_x, & F_y \\ G_x, & G_y\end{vmatrix}.
F, G の高階微分が可能ならば,同じ階数まで x,yu に関する微分商を得る.例えば
\begin{align}\left(
   \frac{dx}{du}\frac{\partial}{\partial x}
  +\frac{dy}{du}\frac{\partial}{\partial y}
  +\frac{\partial}{\partial u}\right)^2 F 
 &+\frac{\partial F}{\partial x}\frac{d^{2}x}{du^2}
  +\frac{\partial F}{\partial y}\frac{d^{2}y}{du^2}=0,\\
\left(
   \frac{dx}{du}\frac{\partial}{\partial x}
  +\frac{dy}{du}\frac{\partial}{\partial y}
  +\frac{\partial}{\partial u}\right)^2 G
 &+\frac{\partial G}{\partial x}\frac{d^{2}x}{du^2}
  +\frac{\partial G}{\partial y}\frac{d^{2}y}{du^2}=0.
\end{align}
これを解いて \tfrac{d^{2}x}{du^2}, \tfrac{d^{2}y}{du^2} を得る.なお逐次微分して, \tfrac{d^{n}x}{du^n}, \tfrac{d^{n}y}{du^n} を求めるための連立二元一次方程式を得る.それを解けば分子は恐ろしく長い式になるが,分母はいつも F_{x}G_{y}-F_{y}G_{x} で,仮定によってそれが 0 に等しくない.それ故 x^{(n)}, y^{(n)} が得られるのである. 上記関係式 (6), (7)x, y 以外にいくつの変数を含むとしても,同様である.例えば変数 u, v の場合 (10)
F_{x}dx+F_{y}dy+(F_{u}du+F_{v}dv)=0, G_{x}dx+G_{y}dy+(G_{u}du+G_{v}dv)=0,
になる.dx,dy に関して,それを解けば
\begin{align}
  &\begin{vmatrix}F_x, &F_y\\G_x, &G_y\end{vmatrix}dx
  =\begin{vmatrix}F_y, &F_u\\G_y, &G_u\end{vmatrix}du
  +\begin{vmatrix}F_y, &F_v\\G_y, &G_v\end{vmatrix}dv,\\
  &\begin{vmatrix}F_x, &F_y\\G_x, &G_y\end{vmatrix}dy
  =\begin{vmatrix}F_u, &F_x\\G_u, &G_x\end{vmatrix}du
  +\begin{vmatrix}F_v, &F_x\\G_v, &G_x\end{vmatrix}dv
\end{align}
を得る.すなわち

   \frac{\partial x}{\partial u}
  =\frac{D(F, G)}{D(y, y)}\bigg/\Delta.\quad
   \frac{\partial x}{\partial v}
  =\frac{D(F, G)}{D(y, v)}\bigg/\Delta.

   \frac{\partial y}{\partial u}
  =\frac{D(F, G)}{D(x, y)}\bigg/\Delta .\quad
   \frac{\partial y}{\partial v}
  =\frac{D(F, G)}{D(x, v)}\bigg/\Delta.
分母は \Delta=\tfrac{D(F, G)}{G(x, y)}=\tfrac{D(G, F)}{D(y, x)} で,仮定によって \Delta \neq 0

一般の場合における定理 73 は,数学的帰納法によって証明される.その方法は,上記 n=1 の場合から n=2 の場合を導き出したのと同様である.

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