解析概論/第7章/解析函数への応用

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[編集] 85.解析函数への応用

陰伏函数の解析性を考察することはもちろん重要であるが,ここでは最も簡単な場合において,しかも §82 の定理との連絡を主眼として,若干の解説を試みる.
定理 76.
複素数平面(z 平面)の或る領域 K において
(1)
w=f(z)
は正則で,K 内の一点 z=z_0 において w=w_0 とする.もしも z_0 において f'(z_0)\ne 0 ならば,w=w_0 の近傍で正則なる逆函数 z=g(w) が確定する.
[証]
複素変数 z,w の実部と虚部とを分けて
z=x+yi,\quad w=u+vi
として,(1)
(2)
u=\varphi(x,y),\quad v=\psi(x,y)
と書く.然らば

  \varphi_x=\psi_y,\quad\varphi_y=-\psi_x,

  f'(z)=\varphi_x+i\psi_x=\psi_y-i\varphi_y

  \frac{D(u,v)}{D(x,y)}
 =\begin{vmatrix}\varphi_x &\psi_x\\ \varphi_y &\psi_y\end{vmatrix},
 = \varphi_x^2+\psi_x^2=|f'(z)|^2.
仮定によって f'(z_0)\ne 0 だから,(x_0,y_0) において
\frac{D(u,v)}{D(x,y)}\ne 0.
故に定理 74 の意味で,(2) の逆函数(逆写像)が (u_0,v_0) の近傍で確定する.すなわち複素変数 z=x+yiw=u+vi の函数 z=g(w) として与えられる.それが解析的(正則)であることをみるには,g(w) の微分可能性を示せばよいが,それは明白である.すなわち,
f'(z)=\lim_{z_1\to z}\frac{w_1-w}{z_1-z}\ne 0
z=z_0 の近傍では確定であるのだから,

  g'(w)=\lim_{w_1-w}{z_1-z}=\frac{1}{f'(z)}
も確定である.
(証終)

なお一般に F(w,z) を複素変数 z,w の函数として,その実部と虚部とを分けて


  F(w,z)=\mathit\Phi(u,v,x,y)+i\mathit\Psi(u,v,x,y)

とする.今 F(w_0,z_0)=0 として,F(w,z)zz_0 の近傍にあるとき w に関して正則,また ww_0 の近傍にあるとき z に関して正則とする.然らば

(3)
\left.\begin{align}
  \mathit\Phi_u &= \mathit\Psi_v, & \mathit\Phi_v &= -\mathit\Psi_u,\\
  \mathit\Phi_x &= \mathit\Psi_y, & \mathit\Phi_y &= -\mathit\Psi_x,\quad
\end{align}\right\}
(4)

  F_w=\frac{\partial F}{\partial w}=\mathit\Phi_u+i\mathit\Psi_u,\quad
  F_z=\frac{\partial F}{\partial z}=\mathit\Phi_x+i\mathit\Psi_x.

これが F_w,F_z の意味である. さて上記のように

F(w_0,z_0)=0

とするとき,もしも F_w(w_0,z_0)\ne 0 ならば,z_0 の近傍で,方程式 F(w,z)=0 によって,w=f(z)z の陰伏函数として定義されて,しかも wz=z_0 の近傍で正則な解析函数である.すなわち言葉の上では定理 71 と同じようだが,実数に引き直していえば,条件はまず F(w,z)=0 から

(5)
\left.\begin{align}
  \mathit\Phi(u,v,x,y)&=0,\\ \mathit\Psi(u,v,x,y)&=0
\end{align}\right\}

次に F_w(w_0,z_0)\ne 0 から,(u_0,v_0,x_0,y_0) において


  \frac{D(\mathit\Phi,\mathit\Psi)}{D(u,v)}
  =\begin{vmatrix}
     \mathit\Phi_u & \mathit\Psi_u\\ \mathit\Phi_v & \mathit\Psi_v 
   \end{vmatrix}
  =\mathit\Phi_u^2+\mathit\Psi_u^2=|F_w|^2\ne 0.

故に定理 73 によって (x_0,y_0) の近傍で (5) を満足せしめる x,y の函数として u,v が確定する. 従って wz の函数として確定するのであるが,それの解析性すなわち微分可能性を考察するために299 頁の計算を引用する.すなわち

\begin{align}
  \mathit\Phi_udu+\mathit\Phi_vdv+\mathit\Phi_xdx+\mathit\Phi_ydy=0,\\
  \mathit\Psi_udu+\mathit\Psi_vdv+\mathit\Psi_xdx+\mathit\Psi_ydy=0.
\end{align}

(3) を用いて書き直せば

(6)

  \mathit\Phi_udu+\mathit\Psi_udv+\mathit\Phi_xdx+\mathit\Psi_xdy=0,
(7)

  \mathit\Psi_udu+\mathit\Phi_udv+\mathit\Psi_xdx+\mathit\Phi_xdy=0.

(7)i を掛けて (6) に加えて


  (\mathit\Phi_u+i\mathit\Psi_u)(du+idv)+(\mathit\Phi_x+\mathit\Psi_y)(dx+idy)=0,

すなわち


  \frac{du+idv}{dx+idy}
 =-\frac{\mathit\Phi_x+i\mathit\Psi_x}{\mathit\Phi_u+i\mathit\Psi_u}.

従って

\frac{dw}{dz}=-\frac{F_z}{F_w}.

故に wz の函数として解析的(正則)である.

§82 の定理から導かれた上記の結果は局所的であるが,解析性を利用すれば,いくぶん精密な結論が得られる.

(1º)
定理 76 において簡単のために z-z_0,w-w_0z,w を代用すれば,f'(0)\ne 0 を用いて,z=0 の近傍で
(8)

  w=f(z)=a_1z+a_2z^2+\cdots,\quad(a_1\ne 0).
さて w=0 の近傍で逆函数が正則であることが知られているから,
(9)
z=b_1w+b_2w^2+\cdots
と置いてよい.これを (8) に代入すれば,定理 58 によって (8) の右辺が w の巾級数になるから,巾級数の一意性によって係数 b_1,b_2,\ldots が逐次に計算される(未定係数法).そのようにして得られる巾級数 (9)w=0 の近傍で収束することはもちろん既知であるが,少なくとも (9) が収束する限り,逆函数が一意的である(解析的延長の原則).
(2º)
上記逆函数が確定である z 平面の領域内において,原点を中心とする円を C とすれば,(9) における係数 bn が見やすい形に書き表される.今 z_1C 内の点とし,また w_1=f(z_1) として
(10)

  I=\frac{1}{2\pi i}\int_C\frac{zf'(z)dz}{f(z)-w_1}
と置けば,被積分函数は C 内で z=z_1 において一次の極を有するだけだから,Iz=z_1 における留数に等しく,従って

  I=\lim_{z\to z_1}\frac{z(z-z_1)f'(z)}{f(z)-w_1}=z_1.
さて (10) において

 \frac{zf'(z)}{f(z)-w_1}
 =\frac{zf'(z)}{f(z)}\left\{1+\frac{w_1}{f(z)}+\frac{w_1^2}{f(z)^2}+\cdots\right\}
の一様収束性[* 1]を用いて項別積分をすれば,I すなわち z_1w_1 の巾級数に展開される.すなわち (9) において
(11)

  b_n=\frac{1}{2\pi i}\int_C\frac{zf'(z)dz}{f(z)^{n+1}},
または

  \frac{d}{dz}\frac{z}{f(z)^n}=\frac{1}{f(z)^n}-\frac{nzf'(z)}{f(z)^{n+1}}
を用いて

  nb_n=\frac{1}{2\pi i}\int_C\frac{dz}{f(z)^n}.
右辺は z=0 における f(z)^{-n} の留数である.従って
(12)

  b_n=\frac{1}{n!}\left[
    \frac{d^{n-1}}{dz^{n-1}}\left(\frac{z}{f(z)}\right)^n
  \right]_{z=0}.
これが (9) における係数 b_n の値である[Lagrange の展開].
応用上しばしば遭遇するように,zw との関係が
(13)
z=a+w\varphi(z)
の形で与えられる場合に順応するために,書き換えるならば,

  z_0=a,\quad w_0=0,\quad \varphi(a)\ne 0
として(もちろん \varphi(z)z=a の近傍で正則とする)
(14)
\left.\begin{align}
  &z=a+b_1w+b_2w^2+\cdots\\
  &b_n=\frac{1}{n!}\frac{d^{n-1}}{da^{n-1}}\varphi(a)^n.
\end{align}\quad \right\}
[附記] 
展開 (9) の収束半径の一つの限界が,次のようにして得られる.今 z 平面において,原点を中心として原点以外 f(z) の零点を含まない円 C の周上で |f(z)| の最小値を m>0 とすれば,|w|<m なるとき,w=f(z)C 内にただ一つの根を有する[* 2].すなわち w 平面の円 \mathit\Gamma(|w|<m) の内では,逆函数 z=g(w) が確定だから,(9) の収束変形は少くとも m である. 一例として天文学で出てくる Kepler の方程式
z=a+w\sin z
を取る.a\ne n\pi ならば (14) によって
(15)

 z=a+w\sin a+\frac{w^2}{2!}\frac{d\sin a}{da}+\cdots
    +\frac{w^n}{n!}\frac{d^{n-1}(\sin a)^n}{da^{n-1}}+\cdots.
a は実数,0<a<\pi とすれば,
w=\frac{z-a}{\sin z}
z=a を中心として半径 ra および \pi-a を超えない円 C において正則であるが,その円周上で

 |w|=\left|\frac{z-a}{\sin z}\right|\geqq \frac{2r}{e^r+e^{-r}}.
さて \tfrac{2r}{e^r+e^{-r}} の最大値を求めるならば,それは
(16)
r>0,\quad e^{2r}=\frac{r+1}{r-1} なるときの \sqrt{r^2-1}
である.Stirltjes の計算によれば,その値は
r_0=1{.}1996\ldots,\quad \sqrt{r^2-1}=0{.}66274\ldots.
これから (15) の収束半径の限界が得られる.
(3º)
なお一般に z=0 において f'(z)=0 なるとき
w=f(z)=az^k(1+a_1z+\cdots).
k>1,\quad a\ne 0
とする.然らば
W^k=\frac{w}{a}
と置けば
W=z(1+a_1z+\cdots)^{\frac{1}{k}}
から,二項定理によって z=0 の近傍で
W=z(1+c_1z+\cdots).
従って (1º) によって W=0 の近傍で
z=W+b_1W^2+\cdots.
故に,この場合には逆函数 zw^{\frac{1}{k}} の巾級数として表わされる.すなわち zw の函数として w=0 の近傍で多意(k 意)である.

  1. C において zw とは一対一対応で,z=0w=0 に対応するから,C の周上では,f(z)\ne 0,従って |f(z)| の最小値 m>0.故に |w_1|<m とすれば,|\tfrac{w_1}{f(z)}|\leqq \tfrac{|w_1|}{m}<1.これから一様収束性が得られる.ただし,仮定 |w_1|<m は証明の手段で,(9) を拘束するのではない.
  2. Rouché の定理(267頁).
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