解析概論/第7章/写像

提供:Wikisource
移動: 案内, 検索

[編集] 84.写像

前節 (1) のように xn 次元空間の或る領域 K において連続的微分可能なる n 個の函数

(1)
u_i=f_i(x_1,x_2,\ldots,x_n),\quad(i=1,2,\ldots,n)

が与えられているとすれば,K の点 P=(x_1,x_2,\ldots,x_n)u 系空間の点 Q=(u_1,u_2,\ldots,u_n) が対応する.約言すれば,点 Q が点 P の‘函数’である.よって (1)

(2)
Q=f(P)

と略記すればわかりよいであろう.このような対応関係を写像といい,QP,逆に PQ原像という.上記のように函数 f_i が連続ならば,P が連続的に変動するとき,点 P の像なる点 Q も連続的に変動するから,写像 (2) を連続的の写像という. 写像 (2) において,各点 P の像 Q は確定であるが,逆に一点 Q が相異なる点 P に対応することが可能である.すなわち Q の原像は必らずしも一意でない.もしも Q の原像 P が一意に確定するならば,すなわち PQ とが一対一に対応する(1-1 対応をする)ならば,(2) の逆写像

(3)
P=\varphi(Q)

が可能である.さて函数行列式 J(P)=\tfrac{D(u_1,u_2,\ldots,u_n)}{D(x_1,x_2,\ldots,x_n)}P_0 において 0 でない(J(P_0)\ne 0)ならば,P_0 の近傍で (2) が一対一の写像である.それを見るために,簡単のため n=2 として,写像

(4)
u=f(x,y),\quad v=g(x,y)

を考察する.上記のように,一般的に P=(x,y),Q=(u,v) と書いて,xy 平面から uv 平面への写像 (4)

(5)
Q=F(P)

と略記する.さて P_0=(x_0,y_0)Q_0=(u_0,v_0) が対応して,かつ J(P_0)\ne 0 とする.そのとき xy 平面で P_0 を含む十分小さい領域 K_0 と,uv 平面で Q_0 を含む領域 K_0' とを取って,K_0' の任意の点の原像は K_0 内では一つより多くはないようにする.それは可能である. 実際,さもなければ,uv 平面において,Q_0 に収束する点列 \{Q_i\} を適当に取れば,Q_i の相異なる原像 P_i(x_i,y_i),P_i'=(x_i',y_i'),(P_i\ne P_i') があって,P_i\to P_0,P_i'\to P_0 となる.然らば平均値の定理によって,線分 P_iP_i' 上の点 R_i,S_i を適当に取れば,

\begin{alignat}{3}
  0&=f(P_i)-f(P_i')&&=(x_i-x_i')f_x(R_i)&&+(y_i-y_i')f_y(R_i),\\
  0&=g(P_i)-g(P_i')&&=(x_i-x_i')g_x(S_i)&&+(y_i-y_i')g_y(S_i).
\end{alignat}

然るに P_i\ne P_i' であるから,x_i-x_i',y_i-y_i' が共に 0 であることはない.故に


  \begin{vmatrix}f_x(R_i)&f_y(R_i)\\g_x(S_i)&g_y(S_i)\end{vmatrix}=0
  \quad(i=1,2,\ldots).

ここで,極限 i\to\infty へ行けば,R_i\to P_0,S_i\to P_0 だから J(P_0)=0.これは仮定に反する.

ファイル:図

さて定理 74 によれば,K_0' 内で Q_0 を含む十分小なる領域 G' を取れば,G' の点 Q の原像は K_0 内では一意に確定するから,(5) の逆写像 P=\varphi(Q)G' において確定する.今 uv 平面の領域 G' の点 QK_0 内にある現像 P の集合を G とすれば,Gxy 平面において P_0 を含む領域である.――実際,G の任意の点 P_1Q_1 に対応するならば,K_0 において P_1 に十分近く任意の点 P を取れば,写像 F(P) の連続性によって P の像 QG' に属するから,P は集合 G に属する.これは G の各点 P_1 が内点であることを意味するから,G は開集合である.G が連結されていることは,G の任意の二点 P_1,P_2 に対応する Q_1,Q_2 を領域 G' で連結する曲線(Jordan 曲線,例えば折線)に,G において P_1,P_2 を結ぶ曲線が対応することからわかる.故に G は連結された開集合すなわち領域である.

さて G' 内に Q_0 を含みその閉包が G' に含まれる領域を任意に取って,それを G' に代用すれば,上記と同様に,その G' に対応する領域 G の点と領域 G' の点とが一対一連続に対応するが,今度は G,G' の閉包は,いずれも一対一連続に写像される領域内にある.このとき,G の境界点には G' の境界点が一対一連続に対応することは写像 F,\varphi の連続性からの簡単なる帰結である.故に境界をも入れていえば K_0 内の閉域 [G]K_0' 内の閉域 [G'] との間に一対一の連続的写像ができて,内点には内点が,境界点には境界点が対応する.特に [G] の境界が Jordan 閉曲線ならば,[G'] の境界も同様である.

上記考察は局所的であるから,K において常に J(P)\ne 0 であっても,K の全局において写像が一対一であることは保証されない.例えば
u=x^2-y^2,\quad v=2xy
とする(その出所は u+iv=(x+iy)^2 である),然らば
J=\frac{D(u,v)}{D(x,y)}=\begin{vmatrix}2x&-2y\\2y&2x\end{vmatrix}=4(x^2+y^2)
で,(x,y)\ne(0,9) ならば J\ne 0 であるが,(x,y)(-x,-y) とには同じ (u,v) が対応するから,K(x,y) と同時に (-x,-y) を含むときには一対一対応はない.一般に K において正則な解析函数 f(z)=f(x+yi)=u+iv の実部と虚部とを u(x,y),v(x,y) とすれば,Cauchy-Riemann の微分方程式(203 頁)によって
\frac{D(u,v)}{D(x,y)}=\begin{vmatrix}u_x&u_y\\v_x&x_y\end{vmatrix}=u_x^2+u_y^2=|f'(z)|^2
f'(z)\ne 0 なるところでは,これは 0 でないけれども,f(z) の逆函数は必らずしも一意でない.

上記考察は局所的(localim Kleine)であったけれども,それを応用して若干大局的(grobalGrossen)の結論を導くことができる.

(1º)
まず写像 Q=f(P) によって xy 平面の領域 Kuv 平面の領域 K' との間に一対一対応が成り立つと仮定する.然らば逆写像 P=\varphi(Q) が確定するが,f が連続ならば \varphi も連続である(下記[注意]および295 頁参照).この場合にも,K 内の閉域と K' 内の閉域とは対応して,内点は内点に,境界点は境界点に対応することが,上記と同様にして証明される.
[注意] 
一対一の連続的な写像では,n 次元の領域が n 次元の領域に対応する(Brouwer).それは明白のようでも,証明は意外にむずかしい.今 (1º) ではそれを仮定した.特に,K が領域ならば,K' が領域であることの証明を省略したのである.
(2º)
写像 (2) に関して函数行列式 J0 にならないとする.然らば有界なる閉域 K を有限個の小閉域に分割して,各小区域において一対一対応を成立せしめることができる.――実際 K 内の任意の点 P において J(P)\ne 0 だから,P の近傍で局所的には一対一対応が成り立つ。今 P を中心とする半径 \rho の円内では一対一対応が成り立つとして,その半径の最大値を \rho(P) とすれば,\rho(P)P に関して連続であることは定理 14 のようにして証明される: すなわち |\rho(P)-\rho(P')|\leqq PP'.よって閉区域 K における \rho(P) の最小値を \rho_0 とすれば \rho_0>0.然らば K を辺長が \sqrt{2}\rho_0 より小なる方眼に分割するとき,各方眼において一対一対応が成り立つであろう.
(3º)
写像 (2) によって K において一対一対応が成り立つときには(上記[注意]参照).K 内のいかなる小領域においても常に J(P)=0 なることはありえない(定理 75).しかし,例えば K 内の孤立する点またはある線上において J=0 なることは可能である.
[例 1]
u=x,v=y^3 とすれば,全平面において一対一対応が成り立つが,
J=\begin{vmatrix}1&0\\0&3y^2\end{vmatrix}=3y^2
で,x 軸上では J=0
[例 2]
原点からの半直線上に P=(x,y),Q=(u,v) を取って OQ=OP^2 とすれば,全平面で一対一対応が成り立つが,
u=\sqrt{x^2+y^2},\quad v=y\sqrt{x^2+y^2}\qquad J=2(x^2+y^2)
で,(x,y)=(0,0) において J=0
(4º)
KK' との間の全局的一対一対応の場合,K において J0 になりえても,K が連結されている限り,JK 内で反対の符号を取ることはできない(上記の例参照).それをみるために,函数行列式 J の符号の幾何学的の意味を考察する.K 内の一点 P から出る曲線 l と,それに対応して K' の点 Q から出る曲線 \lambda との接線上において
\left.\begin{align}
  du&=\varphi_x\,dx+\varphi_y\,dy\\ dv&=\psi_x\,dx+\psi_y\,dy
\end{align}\right\} 従って \frac{dv}{du}
  =\frac{\psi_x+\psi_y\dfrac{dy}{dx}}{\varphi_x+\varphi_y\dfrac{dy}{dx}}.
\tfrac{dy}{dx},\tfrac{dv}{du}P および Q における l,\lambda の勾配である.l が変動して \tfrac{dy}{dx} が増大するとき,J(P)=\varphi_x\psi_y-\varphi_y\psi_x\gtrless 0 に従って \tfrac{dv}{du} は増大または減少する.
これは一次変換の性質である.すなわち \eta=\tfrac{r+s\xi}{p+q\xi} から \tfrac{d\eta}{d\xi}=\tfrac{ps-qr}{(p+q\xi)^2},従って \tfrac{d\eta}{d\xi} の符号は行列式 ps-qr の符号と同じである.ここで \xi,\eta にそれぞれ \tfrac{dy}{dx},\tfrac{dv}{du} を当てはめるのである.

故に P および Q において互いに対応する回転の向きは J(P)\gtrless 0 に従って,同意または反対である.

さてかりに K において J が反対の符号の値を取るとするならば,中間値の定理によって JK において 0 にもなるが,J(P)=0 なる点は K において,いかなる小領域をも満たし得ないのだから,任意の \varepsilon に関して P_1P_2<\varepsilon,J(P_1)>0,J(P_2)<0 なる点 P_1,P_2 が存在する.今 P_1P_2 上の点 M において P_1P_2 に垂直に MN を引いて,K' において,それらに対応する点 Q_1,Q_2 および曲線 M'N' が,次の図のように配置されるとする.ファイル:図然らば PMN の上を動くとき,仮定 J(P_1)>0 によれば,P に対応する QM'N' の上を M' から N' への向きに動かねばならないが,一方 J(P_2)<0 によれば Q は反対に N' から M' への向きに動かねばならない.そこに矛盾があって J(P_1)>0,J(P_2)<0 は不合理である.要約すれば一対一対応の場合 K,K' において互いに対応する回転の向きは,各所同意または各所反対で,従って常に J(P)\geqq 0 または常に J(P)\leqq 0
上記の説明は直観的(粗雑)であるが,問題の要点は明瞭であろう.また適当なる補足によって三次元以上にも拡張されるであろう.
個人用ツール
名前空間

変種
操作
案内
印刷/エクスポート
ツールボックス