解析概論/第6章/直交函数列によるFourier式展開
[編集] 73. 直交函数列による Fourier 式展開
区間
において正規直交函数列が与えられているとする:

もしも
において

なる展開が可能で,級数の項別積分が許されるならば,§70 と同様に

によって係数
が確定する.逆に与えられた
から

と置いて,級数

を
から生ずる Fourier 式級数といい,
を
の Fourier 式係数という.さて
から生ずる Fourier 式級数は,はたして
に収束するであろうか?
これは難問題であるが,その解決の糸口を得るために次の考察を試みる.
をもって,有限級数
を作って,


だから,

は
なるとき最小である.また
だから,

は収束して,



に関して

は完備(または完全)(complete,vollständig)であるといい,(9) を完備条件(または Parseval の等式)という.
完備というのは,直交列
に他の函数を追加して,それを直交列にする余地がないことを意味する.実際
ならば,(9) から
,従って
である.
精密にいえば,考察する函数を或る特定の種類
に限定して,
が
に属して (9) が成り立つとき,
は
に関して完備条件を満たすというべきである.我々は今区間
において連続なる函数のみを
に入れている.
とすれば,(5) によって
.故に上記 (9) は,詳しく書けば,



から生ずる Fourier 式級数

において一様に収束するならば,完備条件 (10) から (11) が得られる.──実際,一様収束の仮定の下において,項別積分が許されるから

と置けば,

に適用すれば
,すなわち

は連続だから
.従って (11) を得る.
において連続なる函数の集合
を無限次元の空間とみて,
に属する個々の函数
を空間
の点またはベクトルとする.そうして
をベクトル
の長さ,従ってまた,
を点
の距離とする.然らば正規直交函数列
は二つずつ互に直交する単位ベクトルであるが,
として
によってベクトル
を二つの成分
と
とに分解すれば

は
の
軸上への正射影というべきものである.
正規直交列
が完備条件 (9) を満たすことは,
が,あたかも函数空間
の一つの座標系の各軸上の単位ベクトルであるかのようであって,(9) はすなわち空間
における Pythagoras の定理である.三次元空間に関して §27 で述べた記号を用いて,座標軸上の単位ベクトルを
,任意のベクトルを
とすれば,
であるが,
は
に当り,‘スカラー積’
は
に当る.もしも Fourier 式展開
が可能ならば,それはすなわち上記の
に相当するのだが,
の場合,この展開が無条件では行かないところにおいて,有限次元の幾何学との類似が中絶する.このおような函数空間の系統的な考察は,Hilbert 空間論の研究目標である.
上記一般的の考察を三角函数系

に適用するために,次の二つの問題を目標にする.
が
を周期とする滑らかな函数ならば,
から生ずる Fourier 級数は一様に収束する.滑らか(glatt)とは
が連続なることをいう.
もしも (I),(II) が証明されるならば,上記一般的の考察によって,滑らかな周期函数
は Fourier 級数に展開されることが確定するであろう.