解析概論/第6章/直交函数列によるFourier式展開

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[編集] 73. 直交函数列による Fourier 式展開

区間 [a,b] において正規直交函数列が与えられているとする:

(1)
\varphi_1(x), \varphi_2(x), \ldots, \varphi_n(x), \ldots.

もしも [a,b] において

(2)
f(x) = \sum_{n=1}^\infty c_n\varphi_n(x)

なる展開が可能で,級数の項別積分が許されるならば,§70 と同様に

(f,\varphi_n) = \sum_{\nu=1}^\infty c_\nu(\varphi_\nu,\varphi_n) = c_n

によって係数 c_n が確定する.逆に与えられた f(x) から

(3)
c_n = (f, \varphi_n)

と置いて,級数

\sum c_n\varphi_n(x)

f(x)から生ずる Fourier 式級数といい,c_n=(f,\varphi_n)f(x)Fourier 式係数という.さて f(x) から生ずる Fourier 式級数は,はたしてf(x)に収束するであろうか?

これは難問題であるが,その解決の糸口を得るために次の考察を試みる.

(1º)
まず任意の係数 \gamma_i をもって,有限級数 \textstyle\sum_{i=1}^n \gamma_i\varphi_i(x) を作って,
(4)
J=\int_a^b \left\{ f(x)-\sum_{i=1}^n \gamma_i \varphi_i(x) \right\}^2 dx
を計算する.§71 の略記法によれば,
J = (f,f)-2\sum_{i=1}^n \gamma_i (f,\varphi_i) + \sum_{i=1}^n \gamma_i^2(\varphi_i, \varphi_i) + \sum_{i\neq j} \gamma_i \gamma_j(\varphi_i, \varphi_j).
仮定によって (f,\varphi_i)=c_i, (\varphi_i, \varphi_i)=1, (\varphi_i, \varphi_j)=0\;(i\neq j) だから,
(5)
\begin{align}
J &= (f,f)-2\sum_{i=1}^n c_i\gamma_i + \sum_{i=1}^n \gamma_i^2 \\
  &= (f,f)-\sum_{i=1}^n c_i^2 + \sum_{i=1}^n (c_i-\gamma_i)^2.
\end{align}
故に J\gamma_i=c_i なるとき最小である.また g \geqq 0 だから,
(6)
(f,f) \geqq \sum_{i=1}^n c_i^2.
故に無限級数\textstyle\sum_{i=1}^\infty c_i^2は収束して,
(7)
\sum_{i=1}^\infty c_i^2 \leqq (f,f).
これを Bessel の不等式という. 特に
(8)
\lim_{n\to\infty}c_n = 0.
例えば
\begin{align}
\pi a_n &= \int_{-\pi}^\pi f(x) \cos nx\,dx \to 0,\\
\pi b_n &= \int_{-\pi}^\pi f(x) \sin nx\,dx \to 0.
\end{align}
(2º)
もしも任意の f(x) に関して
(9)
\sum_{i=1}^\infty c_i^2 = (f,f)
ならば,正規直交列 \varphi_n(x)完備(または完全)(completevollständig)であるといい,(9)完備条件(または Parseval の等式)という.

完備というのは,直交列 \varphi_n に他の函数を追加して,それを直交列にする余地がないことを意味する.実際 (f,\varphi_i)=c_i=0, (i=1,2,\ldots) ならば,(9) から (f,f)=0,従って f(x)=0 である.

精密にいえば,考察する函数を或る特定の種類 C に限定して,\varphi_n(x), f(x)C に属して (9) が成り立つとき,\varphi_n(x)C に関して完備条件を満たすというべきである.我々は今区間 [a,b] において連続なる函数のみを C に入れている.

(4) において \gamma_i=c_i とすれば,(5) によって\textstyle J=(f,f)-\sum_{i=1}^n c_i^2.故に上記 (9) は,詳しく書けば,
(10)
\lim_{n\to\infty} \int_a^b \left\{ f(x) - \sum_{i=1}^n c_i\varphi_i(x) \right\}^2 dx=0
である.しかし,連続函数の範囲内でも,(10) だけからは
f(x) = \lim_{n\to\infty} \sum_{i=1}^n c_i\varphi_i(x),
すなわち
(11)
f(x) = \sum_{i=1}^\infty c_i\varphi_i(x)
は出て来ないが,もしも f(x) から生ずる Fourier 式級数
\sum_{i=1}^\infty c_i\varphi_i(x)
が,[a,b] において一様に収束するならば,完備条件 (10) から (11) が得られる.──実際,一様収束の仮定の下において,項別積分が許されるから
\begin{align}
\left( \sum_{i=1}^\infty c_i\varphi_i, \varphi_n\right) &= \int_a^b \left( \sum_{i=1}^\infty c_i\varphi_i(x) \right)\varphi_n(x) dx = \sum_{i=1}^\infty \int_a^b c_i\varphi_i(x)\varphi_n(x) dx \\
&= \sum_{i=1}^\infty c_i(\varphi_i, \varphi_n) = c_n.
\end{align}
そこで \textstyle r(x)=f(x)-\sum_{i=1}^\infty c_i\varphi_i(x) と置けば,
(r, \varphi_n) = (f, \varphi_n) - \sum_{i=1}^\infty c_i(\varphi_i, \varphi_n) = c_n-c_n = 0.
故に完備条件 (9)r(x) に適用すれば (r,r)=0,すなわち
\int_a^b r(x)^2 dx = 0.
r(x) は連続だから r(x)=0.従って (11) を得る.
[附記] 
§§71-73 において展開した計算は,Euclid 幾何学との類似を念頭に置いて考えれば,わかりよい.一定区間 [a,b] において連続なる函数の集合 C を無限次元の空間とみて,C に属する個々の函数 f(x), g(x), \ldots を空間 C の点またはベクトルとする.そうして \|f\|=\sqrt{(f,f)} をベクトル f(x) の長さ,従ってまた,\|f-g\| を点 f(x), g(x) の距離とする.然らば正規直交函数列 \varphi_1(x), \varphi_2(x), \ldots は二つずつ互に直交する単位ベクトルであるが,\|\varphi\|=1, (f,\varphi)=c として f(x)=\{f(x)-c\varphi(x)\}+c\varphi(x) によってベクトル f を二つの成分 f-c\varphic\varphi とに分解すれば
(f-c\varphi, \varphi) = (f, \varphi) - c(\varphi,\varphi) = 0
だから,それらの成分は互に直交する.すなわち c\varphi(x)f(x)\varphi(x) 軸上への正射影というべきものである.

正規直交列 \varphi_1(x), \varphi_2(x), \ldots が完備条件 (9) を満たすことは,\varphi_i(x) が,あたかも函数空間 C の一つの座標系の各軸上の単位ベクトルであるかのようであって,(9) はすなわち空間 C における Pythagoras の定理である.三次元空間に関して §27 で述べた記号を用いて,座標軸上の単位ベクトルを \boldsymbol i, \boldsymbol j, \boldsymbol k,任意のベクトルを \boldsymbol v = a\boldsymbol i+b\boldsymbol j+c\boldsymbol k とすれば,|\boldsymbol v|^2=a^2+b^2+c^2 であるが,|\boldsymbol v|\|f\| に当り,‘スカラー積’ a=\boldsymbol{vi}c_1=(f,\varphi_1) に当る.もしも Fourier 式展開 \textstyle f(x)=\sum_{i=1}^\infty c_i\varphi_i(x) が可能ならば,それはすなわち上記の \boldsymbol v=a\boldsymbol i+b\boldsymbol j+c\boldsymbol k に相当するのだが,C の場合,この展開が無条件では行かないところにおいて,有限次元の幾何学との類似が中絶する.このおような函数空間の系統的な考察は,Hilbert 空間論の研究目標である.

上記一般的の考察を三角函数系

(12)
1,\ \cos x,\ \sin x,\ \ldots,\ \cos nx,\ \sin nx,\ \ldots

に適用するために,次の二つの問題を目標にする.

(I)
三角函数系 (12) はすべての連続函数f(x)に関して完備条件を満たす.
(II)
もしも f(x)2\pi を周期とする滑らかな函数ならば,f(x) から生ずる Fourier 級数は一様に収束する.

滑らか(glatt)とは f'(x) が連続なることをいう.

もしも (I)(II) が証明されるならば,上記一般的の考察によって,滑らかな周期函数 f(x)Fourier 級数に展開されることが確定するであろう.

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