解析概論/第5章/Cauchyの積分定理

提供:Wikisource
移動: 案内, 検索

[編集] 57.Cauchy の積分定理

Cauchy の積分定理は解析学において最も重要な定理の一つである.最も簡単な場合として,まずそれを次の形にいい表わそう.

定理 51.
解析函数 f(z) は領域 K において正則で,単純な閉曲線 C も,その内部も,すべて K に属するとする[* 1].然らば
(1)
\int_C f(z)\,dz=0.
[証]
証明をする前にまず問題を単純化する.

前節 (5º) によれば,C の代りに,それに内接する閉折線 \mathit\Gamma に関して証明すれば十分である: \textstyle|\int_C-\int_\mathit\Gamma| はそれほどでも小ならしめることができるから \textstyle\int_\mathit\Gamma=0 ならば \textstyle\int_C=0 でなければならない.

ただし \mathit\Gamma は領域 K 内になければならないが,接点を十分密に取れば,その条件は満たされる.また閉折線 \mathit\Gamma には重複点が生ずることもあろうが,折線ならば,重複点の数は有限だから,\textstyle\int_\mathit\Gamma は単純な閉折線に関する有限個の積分の和に分解される.故に C を(単純なる)多角形の周として証明をすればよい.

多角形は三角形に分割されるから,前頁[注意]によって,C が三角形の周であるとして証明をすれば十分である.

よって C を三角形 \Delta として \textstyle\int_\Delta f(z)\,dz を証明する.ただし,\Delta の内部および \Delta の周上の各点において f(z) は正則.

\textstyle|\int_\Delta f(z)\,dz|=M と置いて,M=0 を証明する.それには若干技巧を要するが,今 Pringsheim の考案を紹介する: 区間縮小法を巧みに活用するのである.

\Delta の各辺の中点を結んで,それを四つの合同なる三角形 \Delta_1,\Delta_1',\Delta_1'',\Delta_1''' に分ける.然らば \textstyle\int_\Delta=\int_{\Delta_1}+\int_{\Delta_1'}+\int_{\Delta_1''}+\int_{\Delta_1'''}.右辺の四つの積分のうちで絶対値の最大なるもの(の一つ)を \textstyle\int_{\Delta_1} とすれば
M=\left|\int_\Delta\right|\leqq 4\left|\int_{\Delta_1}\right|, すなわち \left|\int_{\Delta_1}\right|\geqq\frac{M}4.
同じように \Delta_1 を四等分して \textstyle|\int_{\Delta_2}|\geqq\frac{M}{4^2} なる三角形 \Delta_2 を得る.このような操作を限りなく継続すれば
\left|\int_{\Delta_n}\right|\geqq\frac{M}{4^n}
なる三角形 \Delta_n を得るが,\Delta\supset\Delta_1\supset\Delta_2\supset\cdots だから,\Delta_n は一点 z_0 に収束する(定理 10).z_0 は三角形 \Delta に属し,従って K の内点である. さて,仮定によって z_0 において f(z) は微分可能であるから,
f(z)=f(z_0)+f'(z_0)(z-z_0)+o(z-z_0),
すなわち任意の \varepsilon>0 に対して
|z-z_0|<\delta なるとき |f(z)-\{f(z_0)+f'(z_0)(z-z_0)\}|<\varepsilon|z-z_0|
であるように \delta が取られる.然るに n を十分大きく取れば \Delta_n は全く |z-z_0|<\delta なる円の中に入る.故に(§56,(2º)

  \left|\int_{\Delta_n}[f(z)-\{f(z_0)+f'(z_0)(z-z_0)\}]\,dz\right|
  < \varepsilon\int_{\Delta_n}|z-z_0|\,ds.
左辺の積分記号の下で括弧 \{\} の中は z の一次式だから,それに関する \textstyle\int_{\Delta_n}0 である(207 頁,[例]).また右辺では,z\Delta_n の周上にあって,z_0\Delta_n の内部または周上にあるから,|z-z_0|<L_n.ただし L_n\Delta_n の周の長さである,すなわち L/2^n に等しい.故に右辺は

  \varepsilon\int_{\Delta_n}|z-z_0|\,ds < \varepsilon L_n\int_{\Delta_n}ds
  = \varepsilon L_n^2 = \varepsilon\frac{L^2}{4^n}.
故に

  \left|\int_{\Delta_n} f(z)\,dz\right| < \varepsilon\frac{L^2}{4^n}.
然るに上記のように,

  \left|\int_{\Delta_n} f(z)\,dz\right| \geqq \frac{M}{4^n}.
故に
M<\varepsilon L^2.
\varepsilon は任意であったから M=0
(証終)

上記の証明では,点 z_0 において f(z) が正則であることが絶対に必要であった.故に定理の仮定において,C の内部が f(z) の正則なる領域 K に属することを特記したのである.もしも C の内部の一点においてでも f(z) が正則でないならば,証明は拘束力を失うから,定理は必らずしも成立しない.

[例]
f(z)=\tfrac{1}{(z-a)^n}a は定数,n は自然数とする.z=a 以外では f(z) は正則である.今 Ca を中心とする半径 r の円周とすれば,C の上では(すなわち zC 上にあるとき)
z-a=r(\cos\theta+i\sin\theta),\quad dz=r(-\sin\theta+i\cos\theta)d\theta,
従って
\frac{dz}{z-a}=id\theta.
(1º)
n=1 ならば
\int_C\frac{dz}{z-a}=i\int_0^{2\pi}d\theta=2\pi i.
それは 0 でない.C の内部の点 z=a において f(z)=\tfrac{1}{z-a} が正則でないからである.
(2º)
n>1 ならば
\begin{align}
  \int_C\frac{dz}{(z-a)^n} &= \int_C\frac{1}{(z-a)^{n-1}}\frac{dz}{z-a}
  = i\int_0^{2\pi}\frac{d\theta}{r^{n-1}(\cos(n-1)\theta+i\sin(n-1)\theta)} \\
  &= \frac{i}{r^{n-1}}\int_0^{2\pi}(\cos(n-1)\theta-i\sin(n-1)\theta)d\theta=0
\end{align}
f(z)=\tfrac{1}{(z-a)^n}z=a において正則でないにもかかわらず,(偶然にも)\textstyle\int_C=0 である.それは定理に抵触するのではない.

閉曲線の内部に f(z) の正則でない点(特異点)がある場合にも,Cauthy の定理を拡張することができる.

閉曲線 C の内部に閉曲線 C' があって,CC' との間に挟まれる環状の閉域 K_0(境界線 C,C' をも入れていう)において,f(z) が正則ならば,
(2)
\int_C f(z)\,dz=\int_{C'} f(z)\,dz.
ただし,積分路 C,C' は同意の向き(例えば共に正の向き)を取るのである.
[証]
K_0 内で CC' とを二つの互に交わらない曲線 L_1, L_2 で結べば,K_0 が二つの区域 K_1,K_2 に分かたれるであろう. K_1,K_2 に関しては定理 51 が適用されるから,K_1,K_2 の周を正の向きに取った積分は 0 に等しい.すなわち図において
K_1
\int_{PQR}+\int_{Rr}+\int_{rqp}+\int_{pP}=0,
K_2
\int_{RSP}+\int_{Pp}+\int_{psr}+\int_{rR}=0,
加えて

  \left(\int_{PQR}+\int_{RSP}\right)+\left(\int_{pqr}+\int_{rpq}\right)
  +\left(\int_{Rr}+\int_{rR}\right)+\left(\int_{Pp}+\int{pP}\right)=0.
第一の括弧内は \textstyle\int_C,第二の括弧内は \textstyle-\int_{C'},第三,第四の括弧内は 0 に等しいから,結局
\int_C f(z)\,dz=\int_{C'} f(z)\,dz.

同じように考えて,次の定理を得る.

定理 52.
閉曲線 C の内部に,互に交わらない閉曲線 C_1,C_2,\ldots,C_n があって,それらに挟まれた閉域(C の内部で,C_i の外部にある部分,および C,C_i)が f(z) の正則なる領域に属するならば,

  \int_C f(z)\,dz=\int_{C_1}f(z)\,dz+\int_{C_2} f(z)\,dz+\cdots+\int_{C_n}f(z)\,dz,
ただし積分はすべて正の向きに取るのである.
Cauchy の定理から,正則な函数に関して不定積分の定理を得る.今一つの閉曲線の内部の領域 K において正則とする.然らば Cauchy の定理によって K 内において \textstyle\int_a^z f(z)\,dz は積分路に無関係である(§56 参照).故に \textstyle F(z)=\int_a^z f(z)\,dz と置けば,F'(z)=f(z).従って F(z)K において正則であるが,もしも逆に \mathit\Phi'(z)=f(z) ならば,\tfrac{d}{dx}(F(z)-\mathit\Phi(z))=0. 従って,F(z)-\mathit\Phi(z)=C は定数である(§55,[例 2]).

すなわち \mathit\Phi(z)=f(z) ならば,\textstyle\int_a^z f(z)\,dz=\mathit\Phi(z)+C.そこで z=a とすれば,\mathit\Phi(a)=-C.従って,上記仮定の下では,f(z) の原始函数 \mathit\Phi(z) は確かに存在して

(3)

  \int_a^z f(z)\,dz=\mathit\Phi(z)-\mathit\Phi(a).
すなわち領域 K において微分積分法の基本公式 (3) が成り立つのであるが,ここでは領域 K に条件がつく.上文では K は一つの閉曲線の内部としたが,一般に K単連結simply connectedeinfach zusammehnhängend)であればよい.領域 K はもちろん連結されているが(§12),それが単連結であることは,K 内に引かれるすべての閉曲線 C の内部の各点が K に属することをいう.例えば,(1) 円の内部(2) 矩形の内部,または一般に一つの閉曲線の内部などは単連結である.これらは有界なる領域であるが,有界でなくても,例えば,(3) 半平面,あるいは一つの角の内部(4) 一つの半直線で截られた平面(5) 平行帯(二つの平行線の中間)なども単連結である.単連結でない領域を複連結multiply connectedmehrfach zusammehnhängend)の領域という.例えば,(6) 一つの円の内部から一つ以上の互に交わらない円を除いた環状の領域は複連結である.円の代わりに閉曲線を取っても同様である.(7) 円の内部からただ一つの点を除いても複連結になる.また,(8) 円の外部は複連結である.これは全平面からひとつの円を除いたのであるが,(9) 全平面からただ一つの点を除いても,すでに複連結である.

この後,複連結の領域を横截線(cross cutQuerschnittcoupure)で截って,それを単連結の領域に化することがある.例えば (6) では各内円の周上の一点を外円の周上の一点に結ぶ互いに交わらない線分を引いて,それらの線分を境界に編入すれば,単連結の領域が生ずる.(7) では円内の除外点から円周の一点へ横截線を引けばよい.(8) では円周上の一点から円外への一つの半直線を引く,(9) では除外点から一つの半直線を引く,等々.

連結の理論を展開することは我々の目的でないが,陳述の便宜上単連結なる名称を説明したのである.

さて公式 (3)であるが,K が複連結ならば,K 内の閉曲線で,その内部に K の外点,または K の境界点を含むものに関しては積分定理 \textstyle\int_C f(z)\,dz=0 は必らずしも成立しないから,それから導かれた公式 (3) も成立が保証されない.

ただし zK の一点とすれば,z は内点だから,z の近傍,例えば z を中心とする或る円 K_0 の内部は K に属し,K_0 は単連結だから,K_0 においては (3) は成り立つ.すなわち局所的には (3) は成り立つが,ただ K の全局にわたって一つの原始函数 \mathit\Phi(z) の存在が保証されないのである.それは複連結に起因する制限であるから,単連結の場合においては不安はない.

要約すれば: 単連結の領域 K において f(z) が正則ならば,K 内の閉曲線 C に関して積分定理 \textstyle\int_C f(z)\,dz=0 が成り立ち,従って K の全局において原始函数 F(z) は存在する.そのとき,K において F'(z)=f(z) で,F(z) は微分可能だから,F(z)K において正則である.

  1. 単純とは重複点を有しないことをいう.すなわち CJordan の閉曲線(§12)である.ただし 204 頁脚注参照.本節では一々ことわらないで単に閉曲線と略称することもある.閉曲線 C と同時に C に包まれる区域が考察される.今 C の内部の領域を (C) と書き,それに C 上の点をつけ加えた閉域を [C] と書くならば,定理の仮定は [C]\subset K である.
個人用ツール
名前空間

変種
操作
案内
印刷/エクスポート
ツールボックス