解析概論/第5章/Cauchyの積分公式 解析函数のTaylor展開

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[編集] 58.Cauchy の積分公式 解析函数の Taylor 展開

Cauchy の積分定理から解析函数の著しい性質が容易に導かれる.

定理 53.
閉曲線 C の内部および周上で f(z) が正則で,aC の内部の任意の点ならば
(1)

  f(a)=\frac{1}{2\pi i}\int_C\frac{f(z)}{z-a}\,dz.
これをCauchy の積分公式という.
[証]
被積分函数 f(z)/(z-a)C の内部の点 a において不連続であるが,a を中心として半径 \rho の円周 \mathit\GammaC の内部に画くならば(定理 52),

  I=\int_C\frac{f(z)}{z-a}\,dz=\int_\mathit\Gamma\frac{f(z)}{z-a}\,dz.
故に右辺の積分 \textstyle\int_\mathit\Gamma\rho に関係のない一定の値(すなわち I)を有する.今 \rho を十分小さく取って \mathit\Gamma の上で
|f(z)-f(a)|<\varepsilon
とする.さて

 I=\int_\mathit\Gamma\frac{f(z)}{z-a}\,dz
  =f(a)\int_\mathit\Gamma\frac{dz}{z-a}+\int_\mathit\Gamma\frac{f(z)-f(a)}{z-a}\,dz,
右辺の第一の積分は 2\pi if(a) に等しい(§57,[例]).第二の積分に関しては

  \left|\int_\mathit\Gamma\frac{f(z)-f(a)}{z-a}\,dz\right|
  < \frac{\varepsilon}{\rho}\int_\mathit\Gamma\,ds
  = \frac{\varepsilon}{\rho}\,2\pi\rho=2\pi\varepsilon,
\varepsilon は任意だから
I=2\pi if(a).
(証終)
定理 54.
解析函数は,それが正則なる領域内の任意の点において Taylor 級数に展開される.
[証]
f(z) は領域 K において正則とする.aK 内の任意の点,a を中心として a に最も近い K の境界点を通る円を K_0,その半径を r_0 とし,K_0 内の任意の点を \zeta|\zeta-a|=\rho, \rho<r<r_0 なる半径 r をもって a を中心として画いた円を c とする. さて zc の上にあるとき,
\begin{align}\frac{1}{z-\zeta}
  &=\frac{1}{(z-a)-(\zeta-a)}=\frac{1}{z-a}\cdot\cfrac{1}{1-\cfrac{\zeta-a}{z-a}}\\
  &=\frac{1}{z-a}+\frac{\zeta-a}{(z-a)^2}+\frac{(\zeta-a)^2}{(z-a)^3}+\cdots
\end{align}
において |\tfrac{\zeta-a}{z-a}|=\tfrac{\rho}{r}<1 だから,この幾何級数は収束するが,

  \frac{f(z)}{z-\zeta}
 =\frac{f(z)}{z-a}+\frac{(\zeta-a)f(z)}{(z-a)^2}+\frac{(\zeta-a)^2f(z)}{(z-a)^3}+\cdots
c 上の z に関して一様に収束する.――実際 c の上で |f(z)|<M とすれば

  \left|\sum_{\nu=n}^\infty\frac{(\zeta-a)^\nu f(z)}{(z-a)^{\nu+1}}\right|
  \leqq \frac{M}r\sum_{\nu=n}^\infty\left(\frac{\rho}r\right)^nu
  = \frac{M}{r-\rho}\left(\frac\rho{r}\right)^n.
故に項別積分(§56,(4º))をして 2\pi i で割れば

  \frac{1}{2\pi i}\int_c\frac{f(z)}{z-\zeta}\,dz
  = \sum_{n=0}^\infty\frac{(\zeta-a)^n}{2\pi i}\int_c\frac{f(z)dz}{(z-a)^{n+1}}.
左辺は f(\zeta) に等しい(定理 53)から
(2)
f(\zeta)=\sum_{n=0}^\infty A_n(\zeta-a)^n,
ただし
(3)

  A_n=\frac{1}{2\pi i}\int_c\frac{f(z)dz}{(z-a)^{n+1}}.

(2) において aK 内の任意の点で,\zetaa を中心とする円 c 内の任意の点であった.今 a を固定して \zeta を変数とみれば,(2) はすなわち f(\zeta)a における Taylor 展開である(定理 49).

このように,f(z)a の近傍で巾級数に展開されるから,何回までも微分可能で,導函数 f^{(n)}(z)a において正則であるが,a は領域 K の任意の点であったから次の定理が成り立つ.

定理 55.
領域 K において f(z) が正則ならば,K において各階の導函数 f^{(n)}(z) が存在して,それらは K において正則である.

換言すれば,領域 K において §55 の意味で f(z) が一回微分可能ならば,各階の微分が可能である[Goursat,1900].

第 2 章で述べたような実函数では,このように簡明な事態は思いも及ばぬことである.

さて (2)n 回微分して \zeta=a と置けば

f^{(n)}(a)=n!A_n,

故に (3) によって


  f^{(n)}(a)=\frac{n!}{2\pi i}\int_c\frac{f(z)dz}{(z-a)^{n+1}}.

ここで ca を中心とする任意に小なる半径の円周であったが,一般に K 内に引かれた a を包む閉曲線を C とすれば[* 1]定理 52


  \int_c\frac{f(z)dz}{(z-a)^{n+1}}=\int_C\frac{f(z)dz}{(z-a)^{n+1}},

従って

(4)

  f^{(n)}(a)=\frac{n!}{2\pi i}\int_C\frac{f(z)dz}{(z-a)^{n+1}}.

これは導函数 f^{(n)}(z) への Cauchy の積分公式の拡張である.

定理 56. [Morera の定理]
領域 K において f(z) は連続で \textstyle\int_{z_0}^z f(z)\,dz が積分路に依存しない値を有するならば,f(z)K において正則なる解析函数である.
[証]
この仮定の元において,\textstyle F(z)=\int_{z_0}^z f(z)\,dz と置けば,F'(z)=f(z) なることはすでにいった(§56,(6º)).すなわち F(z)K において正則であるが,定理 55 によって F'(z) すなわち f(z)K において正則である.

§47 に述べた一様収束に関する定理は,解析函数の場合には,はなはだ簡明である.

定理 57.
領域 K において正則なる函数列 \{f_n(z)\}K において一様に収束するとき,その極限を f(z) とすれば,
A
f(z)K において正則である.
B
K における任意の曲線 C に関して

  \int_C f(z)\,dz=\lim_{n\to\infty}\int_C f_n(z)\,dz.
C

  f'(z)=\lim_{n\to\infty}f_n'(z).
[証]
B§56(4º) ですでに述べた.

K_0K 内の任意の単連結の領域とし,CK_0 内の任意の閉曲線とする.然らば Cauchy によって \textstyle\int_C f_n(z)\,dz=0.従って極限へ行っても,\textstyle\int_C f(z)\,dz=0.故に Morera によって f(z)K_0 において正則である.K_0 は任意であったからAが証明されたのである.

Cが無条件で成り立つことが最も著しい.K 内において a を任意の点とし,Ca を含む閉曲線,例えば a を中心とする円周とする.然らば f_n(z)/(z-a)^2C 上において一様に収束する.故に

  \int_C\frac{f(z)}{(z-a)^2}\,dz=\lim_{n\to\infty}\int_C\frac{f_n(z)}{(z-a)^2}\,dz.
故に (4) によって
f'(a)=\lim_{n\to\infty}f_n'(a).
aK 内の任意の点だからCが成り立つ.
(証終)

(z-a)^2 の代りに (z-a)^k を取っても同様だから,逐次の導函数に関してもCが成り立つ.特に k=1 とすればAを得る.

[注意] 
n の代りに連続的補助変数 t を取っても同様である.すなわち f(z,t)z\in K なるとき正則で,t\to t_0 のとき一様に f(z) に収束すれば,f(z) に収束すれば,f(z)K において正則でBCn\to\infty の代りに t\to t_0 としても成り立つ. 実変数の場合にも,(実用上,ほとんど常に,そうであるように)解析函数の実数値に関しては,鈍重な定理 40(Cの代りに定理 57(Cを用いるがよい.偉大なる簡約!
定理 58. [Weierstrass の二重級数定理]
|z-z_0|<r なるとき

  f_n(z)=\sum_{k=0}^\infty a_k^{(n)}(z-z_0)^k\quad (n=1,2,\ldots)
は正則で,また
F(z)=\sum_{n=0}^\infty f_n(z)
|z-z_0|\leqq\rho\rho\rho<r なる任意の正数)なるとき,一様に収束するとする.然らば

  a_k^{(0)}+a_k^{(1)}+\cdots+a_k^{(n)}+\cdots=\sum_{n=0}^\infty a_k^{(n)}=A_k
は収束して,|z-z_0|<r なるとき

  F(z)=\sum_{k=0}^\infty A_k(z-z_0)^k.

要約すれば,巾級数 f_n(z) を項別に加えてもさしつかえないのであるが,それには \textstyle\sum f_n(z) の一様収束を(十分)条件とする.

[証]
定理 57(Aによって F(z)|z-z_0|<r において正則で,またCによって \textstyle F(z)=\sum f_n(z) を項別に微分してよい.故に

 F^{(k)}(z_0)=\sum_{n=0}^\infty f_n^{(k)}(z_0)=k!\sum_{n=0}^\infty a_k^{(n)}=k!\,A_k.
(証終)
実変数の函数においては,微分がとかくめんどうで,積分は一般に簡単であった.これは標語的だけれども,我々がしばしば経験したところである.例えば連続性は導函数に遺伝しない(§18)が,積分函数は自然に連続性を獲得する(§32).それが一般的実函数の世界である.解析函数の世界では,正則性は微分しても積分しても動揺しない.そこに解析函数の実用性がある.18世紀には,その根拠を認識しないで,解析函数を実数の断面において考察していたのであった. 我々は微分可能性によって解析函数を定義した.微分可能性は,約言すれば,zz_0 に近づく経路に関係なく \tfrac{f(z)-f(z_0)}{z-z_0} の極限が一定であることを意味する.今同様に z_0z とを結ぶ通路に関係なく \textstyle\int_{z_0}^z f(z)\,dz が一定であることを(この場限り)かりに積分可能ということにしてみよう.然らば Cauchy の定理(定理 51)は,複素変数の函数 f(z) が微分可能ならば,積分可能であることを示し,また Morera の定理(定理 56)は,f(z) が積分可能ならば,微分可能なることを示すものである.この意味において,複素数の世界では,微分可能も積分可能も同意語である.驚嘆すべき朗らかさ! Cauchy およびそれに先立って Gauss が虚数積分に触れてから約百年を経て,我々はこの玲瓏なる境地に達しえたのである.


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