解析概論/第5章/解析的延長

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[編集] 63.解析的延長[* 1]

定理 62.
領域 K において f(z),g(z) は正則で,K 内の小領域 K_0 においては f(z)=g(z) とする.然らば K において常に f(z)=g(z)
[証]
f(z)-g(z)=\varphi(z) と置けば,仮定によって,\varphi(z)K において正則で,K_0 においては \varphi(z)=0 である.故に今 K 内の一点 z_1 において \varphi(z)\ne 0 とするならば,そこから矛盾が生ずることを示せばよい. K_0 内の一点を z_0 とし,K 内で z_0z_1 とを曲線 L で結ぶ.明白のために L を折線としてもよい.さて L の起点 z_0 の近傍では \varphi(z)=0 で,終点 z_1 では \varphi(z_1)\ne 0,従って \varphi(z) の連続性によって z_1 の近傍では \varphi(z)\ne 0.今 zL の上を z_0 から z_1 の方へ進むとき,z_0 から z までは \varphi(z)=0 であるような点 z の上端を z' とする[* 2].然らば z'\ne z_1 で,z'z_0z_1 との中間にあるが,\varphi(z) の連続性によって \varphi(z')=0 である.z' より手前ではもちろん \varphi(z)=0.そうして L の上で z' の任意の近傍に,\varphi(z)\ne 0 なる z が,z' よりも先にある.(さもなければ,z' はもっと先にあるはずであるから.)すなわち z' において正則なる \varphi(z)z' の近傍で常に 0 でなくて,しかも \varphi(z) の零点 z' が孤立しない.それが矛盾である(219 頁,[注意]).
(証終)
[注意] 
定理 62 において,f(z)g(z) とが K 内の小領域 K_0 において一致すると仮定したが, K 内の一つの線の上で,あるいはなお一般に,K 内の一点 a に集積する集合 M の点だけで,f(z)g(z) とが一致することを仮定すれば十分である.そのとき,\varphi(z)a の近傍で無数の零点を有するから,a を中心とする或る円内で常に \varphi(z)=0.その円を K_0 とすればよい.
今領域 K_0 で正則なる函数 f(z) が与えられているとする.そのとき K_0 においては f(z) と一致して K_0 を含む領域 K において正則なる函数があるとするならば,定理 62 によって,それはただ一つに限る.このようにして K_0 を含む領域 K において確定する正則なる函数を領域 K への f(z)解析的延長という.

このような延長が可能ならば,それは一意的に可能なのだから,それを f(z) の定義の K_0 から K への拡張とみて,やはり f(z) で表わすことにする.今 K_0 を含む領域 K_1,K_2f(z) が延長されるとする.そのとき K_1K_2 との共通部分 D一つの領域[* 3]を成すならば,f(z)K_1K_1 とを合併した領域 K へ一意的に延長される.――実際 K_1,K_2 への延長をひとまず f_1(z),f_2(z) とすれば,共通部分 D においては定理 62 によって f_1(z)=f_2(z) であるが,今 K において,K_1 に属して K_2 に属しないところ K_1-D では f(z)=f_1(z) とし,また K_2 に属して K_1 に属しないところ K_2-D では f(z)=f_2(z) とし,また K_1 にも K_2 にも属するところ D では f(z)=f_1(z)=f_2(z) とすれば,f(z)K において正則である.それは K_0 における f(z)K への一意的なる延長である.

例えば巾級数 \textstyle\sum a_nz^n の収束円を C とすれば,それは C 内で正則なる函数 f(z) を表わす.この函数の解析的延長を試みるために aC 内の一点とすれば,f(z)a において巾級数 P(z-a) に展開され,それは少くとも a を中心として C に内接する円内では収束するが,その収束円 C_a はそれよりも大きいこともあろう.その場合には f(z)CC_a とを合併した領域 K_1 に延長される.さらに K_1 内に点 b を取って b における f(z)Taylor 展開 P(z-b) を作るとき,もしもそれの収束円 C_bK_1 外へも出るならば,f(z)K_1C_b とを合併した領域 K_2 へ延長される.f(z) の延長が可能なるときには,このような方法を繰返えして(理論的には)その延長が求められる.しかし一つの巾級数によって表わされる函数 f(z) をその級数の収束円を全く内部に含む領域 K に延長することはできない(それができれば収束円はもっと大きいはずであるから).この意味において巾級数 \textstyle f(z)=\sum a_n(z-\alpha)^2 の収束円の周上には f(z) の特異点がある.

局所的に与えられた f(z) のすべての可能なる解析的延長を総括して,それによって一つの函数が定められるとみて,Weierstrass がそれを単性解析函数monogene analytische Funktion)と名づけた.このような拡張は任意の規約による形式的の拡張とは全く違う.すなわち拡張された広範囲の各部局において,函数が種々の様式によって表わされることがあっても,それらの間に本質的の関係があって,一部局における函数の一つの砕片から,全局における函数が自然に確定するのである.それを強調するために単性といったのであろうが,しかし解析函数はすべて単性だから,形容詞‘単性’は実は不要である.

解析函数の上記の性質を,Dirichlet 式の実変数の函数(§8)と比較するならば,そこに根本的の差別が見出される.或る区域において定義された実変数の函数は微分可能性を要求しても自由に区域外へ拡張される[* 4]から,原区域における函数を律する法則は拡張された区域外に及ばない.これに反して,或る一点の近傍において与えられた解析函数は,それの解析的延長が可能なる全領域において一定であるから,拡張の及ぶ限り一定の法則によって支配されるというべきである. 18世紀には函数は天賦であるかのように考えられていたいのであろう.従って各函数はそれぞれ天賦の法則に支配されるものと信ぜられた.それをEuler 式の連続性という.それは数量的の連続以上,いわば法則上の連続である.18世紀の数学で無意識的に夢想されたていた法則上の連続性が解析函数によって,最初の一例として,実現されたのである.

我々は局所的に正則性(微分可能性)をもって解析函数を定義した.その場合に函数の一意性は当然の仮定であったが,もし上記のような解析的延長を遂行するならば,全局においては函数の一意性が失われることが可能である.例えば f(z)a の近傍から b の近傍にまで(曲線 L および L' に沿って)領域 K および K' に延長されるとき,K,K' の共通部分に連結性がない場合,b において相異なる函数値が生ずることが可能である.その一例は 0 を含む領域における \log x である(後述).

このような意味での解析函数の多意性は本質的である.

実変数の場合に y^2=x によって y=+\sqrt{x}y=-\sqrt{x} なる二つの函数が定められるといい,あるいはまた 2=x^4 によって二意なる函数 y=\pm x^2 が定義されるというのは純規約的である.我々の立場においては,y^2=xx 平面上においてただ一つの二意的なる解析函数 y=\sqrt{x} を定義するが,y^2=x^4 は別々の一意的解析函数(x^2 および -x^2)を定義するのである.

前に述べる機会を得なかった一つの定理を,解析的延長に連繋して,ここにつけ加える.

定理 63.
f(z) が正則(一意的)なる領域内の任意の閉域 [K] において,|f(z)| はその最大値を [K] の境界上において取る.またもし [K] において f(z)\ne 0 ならば |f(z)| はその最小値を境界上において取る.
[証]
[K] における |f(z)| の最大値(定理 13)を M とする.もしも [K] の内点 a において |f(a)|=M ならば,a を中心として [K] 内に画かれる任意の円を C とするとき,Cauchy の積分公式によって

  |f(a)|=\frac{1}{2\pi}\left|\int_C\frac{f(z)}{z-a}\,dz\right|
  \leqq \frac{M}{2\pi}\int_0^{2\pi}d\theta=M.

|f(a)|=M ならば,ここで等号が成立しなければならないから,C の周上において常に |f(z)|=MC は任意だから a の近傍で常に |f(z)|=M,従って f(z)=c(常数)(§55,[例 3])故に解析的延長の原則によって K において f(z)=c.要約すれば,f(z) が定数である場合のほかは,[K] の内部においては |f(z)|<M で,|f(z)|=M なる点は境界上にある.

もしも [K] において f(z)\ne 0 ならば,\tfrac{1}{f(z)}[K] において正則だから,|f(z)| は境界上において最小値を取る.

定理の終の部分を応用して代数学の基本定理が証明される: f(z)=a+bz+\cdots を一次以上の多項式として,かりに f(z) が根を有しないとすれば,f(0)=a\ne 0.さて |z|=R を十分大きく取れば |f(z)|>|a||f(z)| は閉域 |z|\leqq R の境界線 |z|=R のうえで最小値をとるから,これは不合理である.

  1. 解析接続ともいう.
  2. これは切断法である.z_0 から計った L の弧長を s として,L 上の点 zs の函数とみて,0\leqq s\leqq\sigma に対応する z に関して,常に \varphi(z)=0 であるような \sigma に上限がある.その上限を s' とすれば,z' はすなわち s' に対応する L 上の点である.
  3. 互に隔離された部分に分かれない(連結されている)のである.従って K_0 内の点 z_0D 内の点 z_1 とが D 内の曲線 L で結ばれる.
  4. 例えば,滑らかな曲線を滑らかに延長することは自由である.
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