解析概論/第5章/解析函数の孤立特異点

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[編集] 59.解析函数の孤立特異点

a の近傍で,a だけは別として,f(z) は正則とする.その領域内に,a を中心とする同心円 C_1,C_2 を画けば,f(z)C_1,C_2 の間に挾まれる円環および C_1,C_2 の周上の各店で正則である.今この円環内に点 \zeta を取って

\frac{f(z)}{z-\zeta}

を考察する.然らば定理 52 によって

(1)

  \int_\mathit\Gamma\frac{f(z)}{z-\zeta}\,dz
  = \int_{C_1}\frac{f(z)}{z-\zeta}\,dz-\int_{C_2}\frac{f(z)}{z-\zeta}\,dz.

ただし \mathit\Gamma\zeta を中心とする円環内の円で,積分は三つともに各円周上を正の向きに取るのである.さて左辺の積分に関しては(定理 53


  \frac{1}{2\pi i}\int_\mathit\Gamma\frac{f(z)}{z-\zeta}\,dz=f(\zeta).

まら右辺で C_1 に関する積分は \zeta-a の巾級数に展開される(214 頁参照).すなわち


  \frac{1}{2\pi i}\int_{C_1}\frac{f(z)}{z-\zeta}\,dz=\sum_{n=0}^\infty a_n(\zeta-a)^n,
(2)

  a_n=\frac{1}{2\pi i}\int_{C_1}\frac{f(z)}{(z-a)^{n+1}}\,dz

で,これは \zeta が円 C_1 の内部にあるときには確かに存在する. 右辺の C_2 に関する積分では,\zetaC_2 の外部にあるから,少し違う.この場合 C_2 の上の z に関しては

\left|\frac{z-a}{\zeta-a}\right|<1

で,幾何級数


  \frac{1}{z-\zeta}=\frac{1}{(z-a)-(\zeta-a)}
  =\frac{-1}{\zeta-a}\biggl(
    1+\frac{z-a}{\zeta-a}+\biggl(\frac{z-a}{\zeta-a}\biggr)^2+\cdots
  \biggr)

C_2 の上で z に関して一様に収束するから,(214 頁と同様に)


  -\int_{C_2}\frac{f(z)}{z-\zeta}\,dz
 = \frac{1}{z-a}\int_{C_2}f(z)\,dz+\frac{1}{(z-\zeta)^2}\int_{C_2}f(z)(z-a)\,dz

  +\frac{1}{(z-\zeta)^3}\int_{C_2}f(z)(z-a)^2\,dz+\cdots,

すなわち


  -\frac{1}{2\pi i}\int_{C_2}\frac{f(z)}{z-\zeta}
  =\sum_{n=1}^\infty a_{-n}(\zeta-a)^{-n},
(3)

  a_{-n}=\frac{1}{2\pi i}\int_{C_2}f(z)(z-a)^{n-1}\,dz

で,この \tfrac{1}{\zeta-a} の巾級数は \zetaC_2 の外にあるとき,確かに収束する. よって (1) から,円環内の \zeta に関して

(4)
f(\zeta)=\sum_{n=-\infty}^\infty a_n(\zeta-a)^n.

ここで係数 a_nn の正負に従って (2) または (3) で与えられる.しかし C_1 の内部にあって,全く C_2 を含む任意の閉曲線を C とすれば,(2) でも (3) でも積分路を C に換えてもよい(定理 52).すなわち (2)(3) の代りに


  a_n=\frac{1}{2\pi i}\int_C\frac{f(z)\,dz}{(z-a)^{n+1}},
  \quad (n=0,\pm 1,\pm 2,\ldots).

(4) において \zetaz と書き換えて

(6)
f(z)=\sum_{n=-\infty}^\infty a_n(z-a)^n,

z は円環内の任意の点である.右辺の級数で正巾項の部分

(7)
a_0+a_1(z-a)+a_2(z-a)^2+\cdots

は通常の巾級数で,それは C_1 の内部では収束する.また負巾項の部分

(8)

  \frac{a_{-1}}{z-a}+\frac{a_{-2}}{(z-a)^2}+\cdots+\frac{a_{-n}}{(z-a)^n}+\cdots

\tfrac{1}{z-a} の巾級数で,それは C_2 の外部では確かに収束する.よって (6) が円環内において収束するのである.

展開 (6) を点 a に関する f(z)Laurent 展開という.

(6) の両辺に (z-a)^k を掛けて,a を中心とする円環内の円周 C 上で積分すれば

(9)
\begin{align}
  \int_C f(z)(z-a)^k\,dz &= \sum_{n=-\infty}^\infty a_n\int_C(z-a)^{n+k}\,dz\\
  &= 2\pi ia_{-k-1},\quad (k=0,\pm1,\pm2,\ldots).
\end{align}

右辺における積分は n+k=-1 なるとき 2\pi i に等しく,その他は 0 に等しい(§57,[例]参照).故に Laurent 展開の各係数は一意的に確定する.

[附記] 
上記証明からわかるように,f(z) が円周 C_1,C_2 の間に挾まれる円環内で正則ならば,円環内の任意の点 z に関し (6) は成り立つ. さて本節の初めに述べたように,或る領域 K 内で,点 a を除けば f(z) は正則であるとする.然らば (5) における積分路 CK 内にあって a を含む任意の閉曲線でよい.また展開 (6) の正巾項の部分は a を中心として K の境界に触れる最大な円の内部で収束する.それは a においても正則である.さてこの場合,内円 C_2 はどれほど小さくも取れるから,負巾項の部分

  \frac{a_{-1}}{z-a}+\frac{a_{-2}}{(z-a)^2}+\cdots+\frac{a_{-n}}{(z-a)^n}+\cdots
z=a 以外,すべての z に対して収束するが,それが z=a における特異性を誘起する原因なのだから,それを特異点 z=a に関する f(z)主要部と名づける.

さて,ここで次のように三つの場合を区別する.

(1º)
主要部なし:
すなわち
f(z)=a_0+a_1(z-a)+a_2(z-a)^2+\cdots,\quad (z\ne a).

z=a は初めから除いてあったのであるけれども,もしも f(a)=a_0 ならば,f(z)z=a においても正則である.もしも f(z)z=a だけで不正則であるならば f(a)\ne a_0 であるが,しかし f(z)z=a における値だけを a_0 になおすならば,z=a における f(z) の不正則を除き去ることができる.このような不正則点を Riemann除きうる特異点と名づけた.

このような特異点はなんらの重大性をも有しない.今 f(z) が正則なる領域内の一点 a において,故意に f(a) の値を変更するならば,そこに特異点が生ずる.それが除きうる特異点である.
(2º)
主要部は有限級数,
すなわち
f(z)=\frac{a_{-k}}{(z-a)^k}+\cdots+\frac{a_{-1}}{z-a}+P(z-a),\quad(a_{-k}\ne 0).
この場合,af(z)k 次のという.ここで (z-a)^kf(z)a において正則で,0 と異なる値 a_{-k} を有する.故に z\to a のとき f(z)\to\infty.それは,z がどのようにして a に近迫するとしても |f(z)|\to\infty なることを意味する.
[注意] 
f(z)z=a において正則で f(a)=0 とする.f(z) が常に 0 に等しい場合を除けば,その Taylor 展開は

  f(z)=(z-a)^k\{a_k+a_{k+1}(z-a)+\cdots\},\quad(a_k\ne 0,k\geqq 1).
このとき af(z)k 次の零点という.仮定 a_k\ne 0 によって,z=a の近傍では右辺 \{\} の中の巾級数は 0 にならないから,f(z)a 以外では零にならない.すなわち f(z) の零点は a において孤立する.この場合 a_k+a_{k+1}(z-a)+\cdots の逆数は a の近傍で正則であるから,\tfrac{1}{f(z)}a において k 次の極を有する.
(3º)
主要部は無限級数,
すなわち
f(z)=\sum_{n=-\infty}^\infty a_n(z-a)^n
において a_{-n}\ne 0\,(n>0) なる負巾項が無数にあるとする.この場合,z=a の近傍における f(z) の行動は,はなはだ複雑である.よって Weierstrassaf(z)真性特異点(それに対して (2º) で述べた極を仮性特異点)と名づけた.
a が真性特異点ならば,z\to a のとき f(z) は一定の極限を有しない.また f(z)\to\infty でもない.しかし a に収束する数列 \{z_n\} を適当に取れば f(z_n)\to\infty にもなり,また任意の c に対して f(z_n)\to c にもなる(Weierstrass の定理).

次にその証明を述べる.

(A)
f(z_n)\to\infty なる数列 \{z_n\} が存在すること. 間接証明をするために,或る正数 r_0,M_0 に対して
(10)
0<|z-a|<r_0 なるとき |f(z)|<M_0
と仮定してみる.然らば (9) によって

  a_{-n}=\frac{1}{2\pi i}\int_C f(z)(z-a)^{n-1}\,dz.
この場合 C の半径はどんなに小さくてもよいから,それを \rho<r_0 とすれば,(10) から

  |a_{-n}|<\frac{M_0\rho^{n-1}}{2\pi}\int_C\,ds=M_0\rho^n.
\rho はどのようにも小さく取れるから a_{-n}=0 \,(n=1,2,3,\ldots).それは仮定に反する.
(B)
f(z_n)\to c なる数列 \{z_k\} が存在すること. 任意の正数 r,\varepsilon に対して,0<|z-a|<r,かつ |f(z)-c|<\varepsilon なる z が存在すればよいのだが,間接証明をするために,或る r_0,\varepsilon_0 に対して
(11)
0<|z-a|<r_0 なるとき |f(z)-c|\geqq \varepsilon_0
と仮定してみる.然らば 0<|z-a|<r_0 なる z に対して
\varphi(z)=\frac{1}{f(z)-c}
と置くとき,
(12)
0<|z-a|<r_0 ならば |\varphi(z)|\leqq \frac{1}{\varepsilon_0}.
さて z=a の近傍で a を除けば (11) によって \varphi(z) は正則である.然るに (12) によれば,a\varphi(z) の極ではなく.また (A) によって \varphi(z) の真性特異点でもない.故に z=a おいて \varphi(z) は正則,あるいは a\varphi(z) に関しては除きうる特異点である.すなわち \textstyle\lim_{z\to a}\varphi(z)=\lambda は確定である.もしも \lambda\ne 0 ならば,\lambda=\tfrac{1}{f(a)-c} 従って f(a)=c+\tfrac{1}{\lambda} とすれば,f(z)a において正則である.またもし \lambda=0 ならば f(z)-c=\tfrac{1}{\varphi(z)} において,z=a\varphi(z) の零点,従って f(z)-c の極である(前頁[注意]).いずれにしても,それは仮定に反する(Laurent 展開の一意性).
上記を綜合すれば,逆に次のようにいわれる[* 1]

f(z)z=a の附近で a 以外では正則とする.そのとき

(1º)
もしも f(z)z=a において連続なら z=a においても正則である(Riemann の定理).
(2º)
もしも z\to a のとき f(z)\to\infty ならば a は極である.
(3º)
もしも \textstyle\lim_{z\to a}f(z) は不確定ならば,a は真性特異点である(Weierstrass の定理の逆).
上記 Weierstrass の定理は通常次のようにいい表される.
解析函数 f(z) は孤立した真性特異点 z=a のどれほど近いところででも,任意の値 c に限りなく近づく.
実際は a の近傍において f(z)=c は一般に無数の根を有する.ただし c のただ一つの値だけが例外であることもある(Picard).
[例 1]

  e^{\frac{1}z}=1+\frac{1}z+\frac{1}{2z^2}+\cdots+\frac{1}{n!\,z^n}+\cdots.

故に z=0 は真性特異点である.実数軸上,z が正の方面から 0 に近づけば,e^{\frac{1}z}\to\infty.また負の方面から 0 に近づけば e^{\frac{1}z}\to 0 で,極限が不確定である.

c\ne 0 として \log c=\alpha とすれば,e^{\frac{1}z}=c の解は z=\tfrac{1}{\alpha+2n\pi i} で,それらは n\to\infty のとき 0 に集積する.この場合 c=0 が上記 Picard の例外値である.
[例 2]
\sin\tfrac{1}z に関しても同様に z=0 が真性特異点である.この場合には例外値はない.c-1+1 との間の実数であるとき,\sin\tfrac{1}z の根の配置はしばしば引用した.

  1. 転換法.すなわち上記 (1º)(2º)(3º) の逆がすべて成り立つのである.
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