解析概論/第5章/解析函数

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[編集] 55.解析函数

§8に述べたのは函数のDirichlet式定義である. それをそのまま複素数にまで拡張するならば, 或る区域に属する各々の複素数z = x + yiに, それぞれ確定の複素数w = u + viを対応せしめる或る法則が与えられるとき, wzの函数ということになるであろう. しかし,それだけでは,二つの実変数x,yの二つの実函数u,vが組合わせられるに過ぎなくて, 特に複素数を用いるには及ばない. 複素変数を考察するに当って,我々は,函数の連続性はもちろんであるが, なおそれの微分可能性を要求する.

微分可能の意味は形式上実数の場合と全く同様である. すなわちf(z)zにおいて微分可能であるとは


\lim_{h \to 0}\frac{f(z + h) - f(z)}{h} = f'(z)

が確定であることをいう. 換言すれば

(1)

f(z + h) = f(z) + hf'(z) + o(h)

で,f'(x)zのみに関係してhには関係しない定数, またo(h)zにもhにも関係するが, h \to 0のとき,hよりも高度に微小なる数である. すなわちo(h) = \varepsilon hと置けばh \to 0のとき\varepsilon \to 0, それはすなわち|h| \to 0のとき|\varepsilon| \to 0を意味する.

上記微分可能の定義は,形式上実数の場合と同様であるけれども, 複素数の範囲においては,h \to 0というのは, hの絶対値|h|が限りなく小さくなることであって, 偏角\arg hは任意である, すなわちhがどの方面から, どのような過程を経て0に近づくとしても, それには無関係に


\frac{f(z + h) - f(z)}{h}

が一定の極限f'(z)に近づくのである.

複素数平面上の或る領域Kの各点において微分可能な函数をKにおいて正則な解析函数という. あるいは略して単に正則ともいう.

形容詞‘解析’(analytic)は,むしろ全局的の意味において用いられる. 局所的には簡便に正則(regular)という. フランス系では整型(holomorphe)ともいう.

この後,函数が或る点において正則というのは, その点の近傍(その点を含む或る領域)において正則(微分可能)なることを意味する.

微分法に関する定理15および合成函数の微分に関して§15に述べたことは, 複素変数に関しても,もちろん,通用する. 微分可能なる函数は,もちろん,連続で,また閉区域において連続は一様である,等々.

微分可能な函数の最も簡単なものは

f(z) = z^{n} (nは自然数)

である. 実際,実変数の場合と同様に

h \to 0 のとき  \frac{(z + h)^{n} - z^{n}}{h}
= nz^{n - 1} + \frac{n(n - 1)}{2}hz^{n - 2} + \cdots + h^{n - 1} \to nz^{n - 1}

すなわち

f'(z) = nz^{n - 1}

このようにz^{n}が微分可能だから, 有理函数は微分可能である. ただし,分母が0になる点zは除いていう(定理15).

なお重要な場合は,巾級数


P(z) = \sum_{n = 0}^{\infty} a_{n}z^{n}

で表わされる函数で,それは微分可能である. 前章(定理49,[注意1])に述べた証明法は複素数にも通用する. 故に巾級数は収束円内で正則で,かつその逐次の導函数がすべて同一円内で正則である.

上記の意味で,f(z) = u + viz = x + yiに関して微分可能であることを, 実数の関係に引き直してみるために, f'(z) = p + qiとし,またh = \Delta z = \Delta x + i\Delta yと置けば, (1)から

\Delta u + i\Delta v = (p + qi)(\Delta x + i\Delta y) + o(|h|),\quad
 (|h| = \sqrt{\Delta x^{2} + \Delta y^{2}}).

故に実部と虚部とを分けて

\Delta u = p\Delta x - q\Delta y + o(|h|),\quad 
      \Delta v = q\Delta x + p\Delta y + o(|h|).

すなわち,uvは実変数xyの函数として§22の意味で微分可能で

u_{x} = v_{y} = p,\quad -u_{y} = v_{x} = q,

従って

f'(z) = u_{x} + iv_{x} = -i(u_{y} + iv_{y}).

すなわちf(z)が正則ならば,その実部uおよび虚部vの間に

(2)
u_{x} = v_{y},\quad u_{y} = -v_{x}

なる関係が成り立つ. これは微分可能の必要条件である. (2)Cauchy--Riemannの微分方程式という.

逆にuvの実函数として,§22に述べた意味で微分可能で, かつ(2)が成り立つならば,h = \Delta x + i\Delta yとして

\Delta u = u_{x}\Delta x + u_{y}\Delta y + o(|h|)
\Delta v = v_{x}\Delta x + v_{y}\Delta y + o(|h|)

従って(2)を用いて

\Delta u + i\Delta v = (u_{x} + iv_{x})(\Delta x + i\Delta y) + o(|h|)

故に

\frac{\Delta u + i\Delta v}{\Delta x + i\Delta y} \to u_{x} + iv_{x}

すなわちu + viは複素変数z = x + yiに関して微分可能である.

これは明白である. さて,後にわかるように,f(z)が正則ならば, 導函数f'(z)も正則である. 従って何階までも導函数が正則だからuvは何階までも連続的微分可能である.

今しばらくそれを仮定すれば,(2)からu_{xx} = v_{yx}u_{yy} = -v_{xy}. 従って(定理27)

\frac{\partial^{2}u}{\partial x^{2}} + \frac{\partial^{2}u}{\partial y^{2}} = 0,  \frac{\partial^{2}v}{\partial x^{2}} + \frac{\partial^{2}v}{\partial y^{2}} = 0

すなわちuvLaplaceの微分方程式\frac{\partial^{2}w}{\partial x^{2}} + \frac{\partial^{2}w}{\partial y^{2}}を満足せしめねばならない. 故に解析函数f(z)の実部および虚部 u(x,y)v(x,y)は実変数xyの函数としては 非常に特別なる函数(いわゆる調和函数)である.

[例1] 

z = x + yiと共役な\bar{z} = x - yiは, §8の意味ではzの函数であるけれども,それは解析的でない. この場合,u = xv = -yで,(2)が成り立たない.

|z|\Re(z) = xzの実部),\Im(z) = yzの虚部)などもzの函数であるが, それらも解析的でない. 一般に,或る領域で常に実数値を有するf(z)は(それが定数である場合を除けば)解析的でない.---v = 0ならば, (2)からu_{x} = 0u_{y} = 0を得る.

[例2] 

或る領域でf(z)が正則でf'(z)が常に0ならば, f(z)は定数である.---f'(z) = u_{x} + iv_{x}だから, u_{z} = 0v_{x} = 0を得る.

[例3] 

或る領域でf(z)が正則で,かつ|f(z)| = cが定数ならば, f(x)がそれ自身が定数である.---c = 0ならばもちろんf(z) = 0. よってc > 0とする. 然らば領域内で,u^{2} + v^{2} = c^{2}. 従ってuu_{x} + vv_{x} = 0uu_{y} + vv_{y} = 0. それからvまたはuを逐い出せば, (2)からu({u_{x}}^{2} + {v_{x}}^{2}) = 0v({u_{x}}^{2} + {v_{x}}^{2}) = 0. すなわちu|f'(z)|^{2} = 0v|f'(z)|^{2} = 0. 領域内でu = v = 0でないのだから,f'(z) = 0. 故にf(z)は定数である[例2].

[附記] 

z = x + yiw = f(z) = u + viとすれば,(2)から


\frac{D(u,v)}{D(x,y)}
= \left|
 \begin{array}{cc}
u_{x} & v_{x} \\
u_{y} & v_{y}
\end{array}
 \right|
= {u_{x}}^{2} + {v_{x}}^{2} = |f'(z)|^{2}

これはf'(z) = 0なるときのほかは常に正である. 故にf'(z) \neq 0なる点zの近傍では, f(z)の逆函数が一意的に可能である(§83,§84参照). すなわち局所的にzw = f(z)との間に1対1対応が成り立つ.

この対応を写像と見れば,f'(z) = p + qi = \kappa = ke^{i\alpha} \neq 0とするとき

du = pdx - qdy
dv = qdx + pdy

複素数で書けば,簡明に

dw = \kappa dz = dz \times k \times e^{i\alpha}

すなわち微分(微小微分)に関しては,z系からw系に移るには, k倍に拡大して,角\alphaだけ正の向きに回転すればよい. 約言すれば,この写像は極限において相似になる.

微分可能といえば,一語簡単であるが,含蓄は多大である. だから有理函数や巾級数やに関しても, その‘解析性’を伏せておいては,真相がわかるものではあるまい!

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