解析概論/第5章/対数logz 一般の巾za

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[編集] 65.対数 \log z 一般の巾 z^a

指数函数の逆函数として \log z を複素変数にまで拡張することは §54 で述べた.それは実函数 \log x の解析的延長であるが,それを簡明に示すべき算式が幸に存在する.それは定積分

(1)
\log z=\int_1^z\frac{dz}z

である[* 1]z が正の実数なるとき (1) は古典的である.然るに右辺の積分において \tfrac{1}{z}z=0 以外では正則だから,この積分は 1 を含んで 0 を含まない単連結の領域 K において正則である.そのようにして K 内で定義される \textstyle\int_1^z\frac{dz}z は実数に関する \log zK 内への唯一に可能なる解析的延長である.

ファイル:図

例えば z 平面を実数軸の負の部分に沿って截断して,それを境界とする領域を K とするならば,(1) によって K 内に延長される \log z は主値である.実際,K 内で 1z=re^{\theta i}\,(-\pi<\theta\leqq\pi) とを結ぶ任意の曲線 C に関する積分 (1) は実数軸上を 1 から r へ,それから 0 を中心とする円周上を z まで行く積分路に関する積分に等しい(定理 51).すなわち


  \int_C\frac{dz}z=\int_1^r\frac{dx}x+i\int_0^\theta d\theta=\log r+i\theta.

もちろん上記のような截断線を超えて (1) を延長とすることも可能である.例えば次の図のように,\theta>\pi なる扇形内でも


  \log z=\int_C\frac{dz}z=\int_1^r\frac{dx}x+i\int_0^\theta d\theta=\log r+i\theta

であるが,\theta>\pi だからこれは \log z の主値ではない.主値の虚部は -i(2\pi-\theta) だから,\log z=\mathrm{Log}\,z+2\pi i

もしもこの扇形において \theta がたえず増大してついに 2\pi を超えるならば,\log z の虚数部 \theta>2\pi であるが,動径(0z)が回転を続けて \theta(2n-1)\pi を超えるならば,\log z\mathrm{Log}\,z+2n\pi i になる.動径が負の向きに回転するとしても同様で,上記截断線を n 回越せば \log z\mathrm{Log}\,z-2n\pi i になる.このようにして,積分 (1) によって log z の多意性が活動的に説明される.

一般に z=0 を含まない単連結の領域 K 内の一点 z_0 における \log z_0 の値をきめておけば,K 内において \log z が正則なる解析函数として一意的に確定する.それを(K における)\log z の一つのという.もしも Kz=0 を含むならば,K 内で z が正または負の向きに点 0 を一周して出発点に帰るごとに \log z の値は \pm2\pi i だけ変わる.\log zz=0 の近傍で一意的でない.z=0\log z分岐点である.

\mathrm{Log}(1+z) の展開
幾何級数

  \frac{1}{1+z} = 1-z+z^2-\cdots = \sum_{n=0}^\infty(-1)^n z^n
|z|<1 なる円内で収束する.この円内で 0 から z まで項別に積分すれば

  \int_0^z\frac{dz}{1+z}=\frac{z}1-\frac{z^2}2+\frac{z^3}3-\cdots.
右辺は |z|<1 において収束するが,左辺は \textstyle\int_1^{1+z}\frac{d\zeta}\zeta に等しく,その積分変数 \zeta=1+z\zeta=1 を中心とする半径 1 の円内にあるから,左辺は \log(1+z) の主値である.すなわち
(2)

  \mathrm{Log}(1+z)=\frac{z}1-\frac{z^2}2+\frac{z^3}3-\cdots,
  \quad(|z|<1).
実数に引直していえば,これは次のような意味を有する.z=re^{i\theta},\,0\leqq r<1,\,-\pi\leqq\theta\leqq\pi とすれば

  \frac12\log(1+2r\cos\theta+r^2)
  = r\cos\theta-\frac{r^2\cos2\theta}2+\frac{r^3\cos3\theta}3-\cdots,

  \varphi=r\sin\theta-\frac{r^2\cos2\theta}2+\frac{r^3\cos3\theta}3-\cdots,
ただし \varphi は右の図に示す角(の弧度)である.
収束円の周上において上記展開を考察すれば興味ある結果を得る.級数 (2) は収束円の周上 z=-1 を除けば収束する.実際 \zeta=e^{\theta i},|\theta|<\pi として

  \frac{1}{1+z}=1-z+z^2-\cdots\pm z^{n-1}\mp\frac{z^n}{1+z}
0 から \zeta まで直線に沿って積分すれば

  \mathrm{Log}(1+z)=\zeta-\frac{\zeta^2}2+\frac{\zeta^3}3-\cdots
    \pm\frac{\zeta^n}n \mp\int_0^\zeta\frac{z^n}{1+z}\,dz.
積分路上において z=re^{\theta i},\,0\leqq r\leqq1,\,|1+z|\geqq|\sin\theta|,特に |\theta|\leqq\tfrac\pi2 ならば |1+z|\geqq 1 だから
(3)
\begin{align}
  \left|\int_0^\zeta\frac{z^n}{1+z}\,dz\right|
  &\leqq \int_0^1\frac{r^n}{|\sin\theta|}\,d\theta
  =\frac{1}{(n+1)|\sin\theta|}, & &\left(\frac\pi2<|\theta|<\pi\right)\\
  &\leqq \int_0^1 r^n\,dr=\frac{1}{n+1}. & &\left(|\theta|\leqq\frac\pi2\right)
\end{align}
故に
(4)

  \mathrm{Log}(1+\zeta)=\zeta-\frac{\zeta^2}2+\frac{\zeta^3}3-\cdots.
両辺の虚数部を比較すれば,この場合,上図において r=1,従って \varphi=\tfrac\theta2 だから,
(5)

  \frac\theta2=\sin\theta-\frac{\sin2\theta}2+\frac{\sin3\theta}3-\cdots,
(-\pi<\theta<\pi).
もしも |\theta|\leqq\alpha<\pi とすれば,(3) からみえるように,この級数は \theta に関して一様に収束する(156 頁[*]参照).

(5)-\pi<\theta<\pi なる仮定のもとにおいて証明されたのであるが,\theta=\pm\pi ならば級数の和はもちろん 0 に等しい.\sin の周期性によって (5) の右辺の級数のグラフは次のようになる(実線).

\theta\pi-\theta を代入すれば
(6)

  \frac{\pi-\theta}2=\sin\theta+\frac{\sin2\theta}2+\frac{\sin3\theta}3+\cdots.
これは 0>\theta<2\pi なるときに限って成り立つ.右辺の級数のグラフは上の図の破線で示される. (5)(6) から和の半分を取れば
(7)

  \frac\pi4=\sin\theta+\frac{\sin3\theta}3+\frac{\sin5\theta}5+\cdots.
これは 0<\theta<\pi において成り立つ.級数のグラフは次の通りである.
ついでに (4) の両辺の実数部を比較しよう.\mathrm{Log}(1+\zeta) の実数部は
\begin{align}
  \log|1+\zeta|
  &= \log\{(1+\cos\theta)^2+\sin^2\theta\}^\frac12
   = \log(2+2\cos\theta)^\frac12\\
  &= \log\left(2\cos\frac\theta2\right)=\log 2+\log\cos\frac\theta2.
\end{align}
故に (4) から
(8)

  \log\cos\frac\theta2
 =-\log 2+\cos\theta-\frac{\cos2\theta}2+\frac{\cos3\theta}3-\cdots,
(-\pi<\theta<\pi).
すなわち z=-1 なるとき,z-\tfrac{z^2}2+\tfrac{z^3}3-\cdots が収束しないのは,実数部の責任であったのである.
f(\theta)=\cos\theta-\frac{\cos2\theta}2+\frac{\cos3\theta}3-\cdots のグラフ
一般の巾 z^az\ne 0a は任意の複素数)
これは
(9)
z^a=e^{a\log z}
によって定義される.それは(一般には)多意なる解析函数であるが,もしも \log z を主値とすれば,一意的なる一つの枝が定まる.それを z^a主値という.

指数 a が実数ならば,それは正なる実変数 x の巾函数 x^a の解析的延長である.

主値に限らないならば,\log z=\mathrm{Log}\,z+2n\pi i だから
\begin{align}
  z^a &= e^{a\,\mathrm{Log\,z}}\cdot e^{2na\pi i}\\
  &= e^{a\,\mathrm{Log}\,z}\cdot(e^{2a\pi i})^n.
\end{align}
ここで因子 (e^{2a\pi i})^nz^a の多意性を示す.z0 を正の向きに一周して出発点に帰れば,z^a には因子 e^{2a\pi i} が掛かる.z=0z^a の分岐点である.ただし,a が整数ならば,この因子は 1 に等しいから,z^a はもちろん一意的である.
一例として,i^i=e^{i\log i} の主値は i^i=e^{i\frac{\pi i}2}=e^{-\frac\pi2}.一般の値は
i^i=e^{-\frac\pi2}(e^{2i\pi i})^n=e^{\frac\pi2(1+4n)}.
z\ne 0 の近傍で,z^a の各〻の枝は正則である.その微分商は

  \frac{dz^a}{dz}=\frac{d}{dz}e^{a\log z}=e^{a\log z}\cdot\frac{a}z=az^{a-1}.
ただし,右辺の z^{a-1}=e^{(a-1)\log z} で,肩の \log zz^a=e^{a\log z} におけると同一である.例えば z^a が主値ならば,z^{a-1} も主値. 高階微分商
\frac{d^nz^a}{dz^n}=a(a-1)\cdots(a-n+1)z^{a-n}
も同様である.
二項定理
指数 m が任意の(実数または)複素数なるとき,(1+z)^m|z|<1 なる円内で正則である(そこでは 1+z\ne 0 だから).故に (1+z)^m|z|<1 において収束する Taylor 展開を有する. さて (1+z)^m の主値は z=0 のとき 1 である.今それの展開 \textstyle\sum a_nz^n の係数を求めるために,(1+z)^m を逐次微分して z=0 と置けば

  a_n=\frac{m(m-1)\cdots(m-n+1)}{n!}=\binom{m}{n},\quad a_0=1=\binom{m}0
を得る.故に (1+z)^m の主値は
(10)

  (1+z)^m=\sum_{n=0}^\infty\binom{m}{n}z^n.
これが一般の二項定理である.m が自然数でないならば,右辺は無限級数である.それは |z|<1 なるとき収束するが,z=-1 において (1+z)^m は正則でないから,収束半径は 1 である.
[例]
\begin{align}
  \frac{1}{1+x} &= 1-x+x^2-x^3+\cdots,\\
  \frac{1}{(1+x)^2}&= 1-2x+3x^2-4x^3+\cdots,\\
  \sqrt{1+x} &= 1+\frac{x}2-\frac12\,\frac{x^2}4
   +\frac{1\cdot3}{2\cdot4}\,\frac{x^3}6
   -\frac{1\cdot3\cdot5}{2\cdot4\cdot6}\,\frac{x^4}8+\cdots,\\
  \frac{1}\sqrt{1+x} &= 1-\frac12\,x+\frac{1\cdot3}{2\cdot4}\,x^2
   +\frac{1\cdot3\cdot5}{2\cdot4\cdot6}\,x^3
   +\frac{1\cdot3\cdot5\cdot7}{2\cdot4\cdot6\cdot8}\,x^4+\cdots.
\end{align}
[附記] 
多意函数に関しても,その一意的なる枝には,Cauchy の積分公式が適用される.今その一例として次の積分を計算する.
[例]

  \int_0^\infty\frac{x^{a-1}}{1+x}\,dx=\frac{\pi}{\sin a\pi},\quad(0<a<1).
z^{a-1}=e^{(a-1)\log z}z=0 において分岐点を有するが,図に示すように実軸上の線分 AB と円 C,c とで囲まれた閉域では一意的で,\tfrac{z^{a-1}}{1+z}z=-1 において一次の極を有する.その境界に沿って積分すれば

  \frac{1}{2\pi i}\int\frac{z^{a-1}}{1+z}\,dx=e^{(a-1)\pi i}=-e^{a\pi i}.
右辺は z=-1 における z^{a-1}/1+z の留数である.(すなわち (-1)^{a-1} の主値.) さて OA=\varepsilon,OB=R とすれば,左辺の積分は

  \int_{AB}+\int_C+\int_{BA}+\int_c
で,R\to\infty,\varepsilon\to 0 のとき

  \left|\int_C\right|
  < \frac{R^{a-1}}{R-1}\cdot2\pi R\to 0,\quad
  \left|\int_c\right|
  < \frac{\varepsilon^{a-1}}{1-\varepsilon}\,2\pi\varepsilon\to 0
また \textstyle\int_{BA} においては x^{a-1}=e^{(a-1)(\log x+2\pi i)}. 故に

  \int_{AB}+\int_{BA}
 =\int_\varepsilon^R\frac{x^{a-1}}{1+x}\,dx\cdot(1-e^{(a-1)2\pi i}).
よって結局

  \int_0^\infty\frac{x^{a-1}}{1+x}
  =\frac{-2\pi ie^{a\pi i}}{1-e^{2a\pi i}}=\frac{\pi}{\sin a\pi}.
(上記計算の理論は211 頁と同様であるが,ABBA とに関する積分が相殺しない.)
上記積分は \mathit\Beta(a,1-a) に等しい(§33,[例 3]).

  1. 積分 (1) によって \log z を複素数にまで延長することは,すでに Gauss(1811)が指摘した.
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