解析概論/第4章/絶対収束・条件収束
[編集] 43.絶対収束・条件収束
無限級数
の項の絶対値の級数
が収束するときは,原級数も収束する.――実際

で,仮定によって,右辺は
のとき,限りなく小さくなるから,左辺も同様である.この場合に,級数
は絶対収束をするという.
級数が収束して,しかも絶対収束をしないときは,それを条件収束という.
絶対収束の無限級数は,おおむね有限和と同様の性質を有するが,条件収束の場合は,一般に取扱いがやっかいである.
そもそも,無数の正数
が与えられているとき,番号にかまわず, 有限個の項を取って作られる部分和をかりに
と総称するならば,それら
の上限をもって和
を定義することは自然的であるが,正項級数の場合,この和は前節の定義における
と一致する.――実際
は部分和
の中の一つであり,また任意の部分和
の項は,十分大なる
に対する
の項の中に含まれるから,それは当然である.故に正項級数に関しては,和が項の順序に無関係であることは,有限和の加法の交換律と同様である.
もしも極限として
をも許すならば,正項級数は項の順序に無関係なる一定の和を有することになる.
正項級数
を無数の部分級数に分割するならば,収束の場合,部分級数も収束する.その和を
とすれば,
も収束して,その和は
に等しい.すなわち
.実際,
の部分和は,前節に述べたように,原級数の部分級数だから,
であるが,
は任意だから
は収束して,その和は
を越えない.一方任意の
の項は部分級数の間に分配されるから,十分大なる
を取れば,
.
は任意だから,上限へ行って
.故に (1) が成り立つのである.
の場合も同様である.この場合,任意の
に対して,十分大きく
を取れば,
になるから,上記の
,従って
である.すなわち (1) は
の意味で成り立つ.
約言すれば,正項級数の和に関して,広い意味で,加法の結合律が成り立つのである.
さて,
において項の符号が一定でないときには,正項を
,負項を
と書くとき,
として

とするならば,
が双方共に
なる場合を除いて,
は一定である.
が共に有限(
)なるときは,
で,
は本節の初めに掲げた定義に従って絶対収束であって,
の部分和は

のように書かれ,
のとき,
だから,極限において,上記の通り
になる.
において項の順序を変えても,
は変らないから,
も一定である.また
を部分級数に分割することは
を分割することに帰するから,(1) も成り立つ.
の中一方だけが
なるときには,
または
で,それはちょうど
に等しい.項の順序を変えても,または級数を部分級数に分割しても,この関係は動かない.
以上は絶対収束の場合である.条件収束の場合には,
も
も共に
で,
は無意味であるが,
において,正項と負項との配置のためにかろうじて
が確定するのである.従って項の順序が収束性に重大なる関係を有せねばならない.実際,条件収束の級数は,項の順序を適当に変更して,任意の和に収束せしめ,または収束性を失わしめることを,Dirichlet(1829)が指摘した.例えば,
の項の順序を次のように変更して,任意の正数
に収束せしめることができる.すなわち,まず正項
を順次に加えて,
に至って,和が初めて
よりも大きくなるとする.次に負項
を加えて,
に至って,和が初めて
よりも小さくなるとする.次にはまた和が
よりも大きくなるまで正項
を加え,次に和が
よりも小さくなるまで,負項
を加える.
も
も
だから,このような操作を限りなく継続することができるが,そのようにして生ずる級数

において
は少くとも
以上だから,
のすべての項が,いつかは一度用いられて,(2) は実際
の項の順序の変更である.さてこの級数 (2) が
に収束することは,その構成から明かであろう.実際,今二つの負項
と
との間に正項
が挟まれているとして,それらの項に対する部分和を考察する.そのとき
までの部分和は
より小さいが,それと
との差は
を超えない.そこへ正項
を加えて行けば,部分和は増大するが,
に達せぬうちは,部分和は
より小(大でない)で,
との差は
を超えない.
に至って部分和は初めて
を超えるが,
との差は
を超えない.正項の間に挟まれた負項に対する部分和も同様で,部分和
と
との差は,符号の変わるところにある
を超えない.然るに,
は収束するから,番号が限りなく大きくなるとき,
も
も限りなく小さくなる.故に (2) は
に収束する.
同じようにして,部分和を任意の値
に集積せしめ,または絶対値において限りなく大きくすることもできるであろう[* 1].
収束する無限級数において,
を和といっても,それは単に称呼であって,
は有限個の数の和ではないから,有限個の数の加法に関する法則が,そのまま無限級数の和にも通用することは,もちろん期待されない.然るに絶対収束の場合には,無限級数の和に関しても,交換律が成立することは上記の通りである.Riemann がいったように,“絶対に収束する級数にのみ有限数の和の法則が適用されて,それのみが項の総計とみなしうるのである.”収束性を度外において,無限級数を有限級数のように放漫に取扱って,しばしば不可解の矛盾に逢着したことは,18世紀数学の苦い経験であったのである.
絶対収束をする無限級数に関しては,有限級数と同じように,積が分配律によって求められる.今

を絶対収束とする.分配律の意味は

で,かつ右辺の級数が絶対収束をするのである.すなわち番号
のすべての組合せを取って
を任意の順序に並べるとき,級数
が収束して,その和は常に
に等しいのである. 今その証明を述べる.
の部分和に含まれる番号
の最大のものをそれぞれ
とすれば,その部分和の項は有限級数の積
を分配律によって展開するときにでてくる項の一部分であるから,この部分和に関して,
.然るに仮定によって,
は絶対収束をするから,部分和
は有界,従って無限級数
は絶対収束をする. 級数
が絶対収束だから,その和
を求めるためには,項の順序を任意に取ってよく,またそれらの項を任意にくくってもよい.よって今
の第
項までの部分和を
として

で示されるように,
の項を排列する. すなわち

然らば
,従って
.
において
なるものをまとめて一項として,それを
として級数

が収束して,そのうち一方が絶対収束ならば,
も収束して
(Mertens).この定理は本書で応用の機会がないから,説明を省略する. またもし
が収束しかつ
も収束するならば,
(§52参照).数列または級数の収束は複素数にも適用される.複素数の四則および複素数
を平面(
平面)上の点
で表す方法は既知とする[* 2].今一,二の要項を述べるならば,点
の極座標を
とすれば,
で,
を
の絶対値といい,それを
と記るす.また
を
の偏角といい,それを
と書く.然らば
.特に重要なのは不等式
,あるいは一般に

である.
複素数列
において,
とすれば,それは
平面上の点列
で表わされる.数列
の極限が
であるとは,点列
の極限が点
であることを意味する.すなわち
のとき
であるが,むしろ実数部と虚数部とに分けないで,距離
と考えるがよい.
は
に等しいから Cauchy の判定律は
のとき
で,すなわち実数の場合と同じである.
級数
の収束は数列
の収束にほかならないから,その意味は明白である.絶対収束は,むしろ複素数の範囲において,その意味が真に了解されるというべきであろう.すなわち正項級数
が収束すれば,

だから,
が収束するのであるが,そのとき項の順序が和の値に影響しないことも,実級数の場合と同様である.実際,
において
だから,
が収束すれば,
は有界,従って収束する.すなわち
は絶対収束をする.
そのほか絶対収束に関して本節で述べたことはすべて複素級数にも通用する.証明の根拠が不等式 (4) にあるからである.条件収束の問題は,それと違って,複素級数の場合,いっそうむずかしい.