解析概論/第4章/二重級数

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[編集] 50.二重級数

二重数列 a_{m,n} から二重級数が生ずる.形式的に単級数 \textstyle\sum a_n の場合をまねて


  s_{m,n}=\sum_{\mu=1}^m\sum_{\nu=1}^n a_{\mu,\nu}

と置いて,\textstyle\lim_{m\to\infty,n\to\infty}s_{m,n}=s が存在するとき,暫定的に二重級数は和 s に収束するともいうが,二重級数の総和法としては \textstyle\sum_{m=1}^\infty(\sum_{n=1}^\infty a_{m,n}),\sum_{n=1}^\infty(\sum_{m=1}^\infty a_{m,n}) なども考えに浮かぶであろう.これらはすべて形式的で,二重級数総和の特別なる方法に過ぎない.応用上重要なのは,収束性が項の順序に無関係なる場合,すなわち絶対収束の場合である.

第一象限の格子点 (m,n) 全体の集合を K と名づけるならば,K の各点に一つの番号をつけて,それを一つの無限点列にすることができる.すなわち K はいわゆる可算(countable, denumerable, abzählbar)集合である.

次の図は,このような番号づけの例を示すものである.
ファイル:図 ファイル:図
(平方式) (対角線式)

一般に,しだいに拡大する K の有限部分集合の一列


  K_1\subset K_2\subset\cdots\subset K_p\subset\cdots

があって,K の各点 (m,n) はついには或る K_p 従って q>p なる各 K_q に含まれるとする.このような状態を,K_p単調に K に収束するといえば印象的であろう.そのとき K_p に含まれる格子点の数を k_p として,まず K_1 に含まれる点に 1 から k_1 までの番号をつけ,次には K_2 に含まれ,K_1 に含まれない点に k_1+1 から k_2 までの番号をつけるというようにして,K の点が一列化される.上記第一の例では,\mathrm{Max}(m,n)\leqq p なる点が K_p を組成し,また第二の例では,m+n\leqq p+1 なる点が K_p を組成する.このような K の一列化は無数の仕方で可能である.――実際,一つの一列化ができる以上,それの順序の任意の変換によって他の一列化が生ずるから,それは当然である. さて K の一列化において (m,n) の番号が p であるとして

a_{m,n}=b_p

と書けば,二重級数 \textstyle\sum a_{m,n} が単級数 \textstyle\sum b_p になる. このようにして生ずる一つの級数 \textstyle\sum b_p が絶対収束をするとして,その和を s とするならば,\textstyle\sum b_p の項の順序を変えても和は変わらないから,\textstyle\sum a_{m,n} の任意の一列化において s は一定である.この場合に,二重級数 \textstyle\sum a_{m,n} は和 s に絶対収束するという.この意味において,絶対収束の判別条件は |a_{m,n}| の有限部分和が一様に有界であることで,それはつまり


  \sum_{\mu,\nu=1}^n|a_{\mu,\nu}|<M

n に無関係なる定数 M に関して成り立つことにほかならない. 絶対収束の場合,前に述べたように集合列 K_p を単調に K に収束するものとして,K_p に属する (m,n) に関する a_{m,n} の和を

s_p=\sum_{K_p}a_{m,n}

とするならば,

\lim_{p\to\infty}s_p=s.

上記のように,集合列 K_p に従って K を一列化して \textstyle\sum a_{m,n}\textstyle\sum b_p にするならば,s_p\textstyle\sum b_p の部分和であることを考えれば,これは明白であろう.\textstyle a_{m,n} を対角線式に


 s=a_{11}+(a_{12}+a_{21})+(a_{13}+a_{22}+a_{31})+\cdots

として総和するのは,これの一例である. それにも増して興味のあるのは,K を無数の無限集合に分割して \textstyle\sum a_{m,n} を総和する方法である.今そのような分割を(略記式に)

K=H_1+H_2+\cdots+H_p+\cdots

と書く: すなわち H_p は無数の格子点を含んでもよいが,各点 (m,n)H_p のうちのいずれかに,しかもただ一つにのみ属するのである. 絶対収束の場合,H_p に対応する部分級数はもちろん絶対に収束する.その和を

\sigma_p=\sum_{H_p}a_{m,n}

とする.この和は H_p に属する格子点 (m,n) の上にわたるのである.しからば

(1)

  \sum_{p=1}^\infty\sigma_p = \sigma_1+\sigma_2+\cdots =s.

例えば,行列 a_{m,n} の行による総和法 \textstyle\sum_{m=1}^\infty(\sum_{n=1}^\infty a_{m,n}) または列による総和法 \textstyle\sum_{n=1}^\infty(\sum_{m=1}^\infty a_{m,n})(1) の特別の場合である.これはすでに述べた通りである(§43).

上記の考察は三重以上の級数 \textstyle\sum a_{m,n,p,\ldots} にも通用する.また添字 m,n,p,\ldots は区間 (-\infty,\infty) の整数でもよい.一般的に n 次元空間 K に属する格子点 P=(x_1,x_2,\ldots,x_n)――すなわち x_i は任意の整数――に対応する級数 \textstyle\sum_P a_P の絶対収束に関して,同様の考察を行うことができる.議論の根拠は K の格子点の一列化 (P_1,P_2,\ldots) にある.

一列化の方法は前に述べた通りである.一例として


  \mathrm{Max}(|x_1|,|x_2|,\ldots,|x_n|)\leqq p

なる点 P=(x_1,x_2,\ldots,x_n) をもって部分集合 K_p を組み立ててもよい(立方式).または


  |x_1|+|x_2|+\cdots+|x_n|\leqq p

によってもよい(対角式).

[注意] 
一次元においては,両方に無限なる級数
(2)
\sum_{\nu=-\infty}^\infty a_\nu
が収束するというのは,(定義として)
\lim_{n\to\infty,m\to\infty}\sum_{\nu=m}^n a_\nu
の存在を意味する.すなわちそれは各別に収束する二つの単級数 \textstyle\sum_{\nu=0}^\infty a_\nu,\sum_{\nu=1}^\infty a_{-\nu} の和である.故に収束の場合には和は

  a_0+(a_1+a_{-1})+(a_2+a_{-2})+\cdots
に等しいが,逆は真でない.(例えば \cdots+1-1+a_0+1-1+\cdots は収束しない.)
[例 1]
Eisenstein の級数)
(3)
\sum\frac{1}{(x_1^2+x_2^2+\cdots+x_n^2)^s}.
ここで x_i-\infty から +\infty までの整数で,(0,0,\ldots,0) なる組合せだけは除く.すなわち (x_1,x_2,\ldots,x_n)n 次元空間において,原点以外のすべての格子点の上にわたるのである.

この級数は s>\tfrac{n}2 なるとき収束し,s\leqq\tfrac{n}2 なるとき発散する.

[証]
k を自然数とすれば,各座標が |x_i|\leqq k なる格子点の総数は (2k+1)^n であるから,そのうち少くとも一つの座標が |x_i|=k なる格子点,換言すれば \mathrm{Max}(|x_1|,|x_2|,\ldots,|x_n|)=k なる格子点の数は
(4)
T(k)=(2k+1)^n-(2k-1)^n
である.故に今

  S_m=\sum_{|x_i|\leqq m}\frac{1}{(x_1^2+x_2^2+\cdots+x_n^2)^s}
と置けば
(5)

  \sum_{k=1}^m\frac{T(k)}{(nk^2)^s}<S_m<\sum_{k=1}^m\frac{T(k)}{k^{2s}}.
さて T(k) は,(4) からみえるように,k に関する n-1 次の正係数の多項式である.すなわち
(6)

  T(k)=a_0k^{n-1}+a_1k^{n-2}+\cdots+a_{n-1},\quad (a_i\geqq 0).
故に (5) から

  S_m < a_0\sum_{k=1}^m\frac{1}{k^{2s-n+1}}
       +a_1\sum_{k=1}^m\frac{1}{k^{2s-n+2}}+\cdots
       +a_{n-1}\sum_{k=1}^m\frac{1}{k^{2s}}.
故に 2s-n+1>1 すなわち s>\tfrac{n}2 なるとき S_m は有界,従って (3) は収束する. s\leqq\tfrac{n}2 なるときは,(5)(6) から
S_m>\frac{a_0}{n^s}\sum_{k=1}^m\frac{1}{k}.
故に (3) は発散する.
上記定理は x_1^2+x_2^2+\cdots+x_n^2 の代りに正値二次形式[* 1]

  Q(x_1,x_2,\ldots,x_n)=\sum_{p,q=1}^n a_{p,q}x_px_q\quad(a_{pq}=a_{qp})
をとる場合にも成り立つ.すなわち

 \sum_{1}{Q(x_1,x_2,\ldots,x_n)^s}
s>\tfrac{n}2 なるとき収束し,s\leqq\tfrac{n}2 なるとき発散する. この場合 Q の固有方程式[* 2]
\begin{vmatrix}
  a_{11}-\lambda & a_{12} & \cdots & a_{1n}\\
  a_{21} & a_{22}-\lambda & \cdots & a_{2n}\\
  \cdots & \cdots & \cdots & \cdots\\
  a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn}-\lambda
\end{vmatrix}=0
の根(Q の固有値)はすべて正であるが,そのうち最小のものを \lambda_1,最大のものを \lambda_2 とすれば
\lambda_1\leqq\frac{Q(x_1,x_2,\ldots,x_n)}{x_1^2+x_2^2+\cdots+x_n^2}\leqq\lambda_2.
故に \textstyle\sum Q^{-s}\textstyle\sum(x_1^2+x_2^2+\cdots+x_n^2)^{-s} と同時に収束または発散するのである.

例えば ax^2+bxy+cy^2 が正値二次形式ならば(a>0,c>0,ac-b^2>0),格子点 (x,y)\ne(0,0 にわたる級数

\sum\frac{1}{(ax^2+bxy+cy^2)^s}  は  \begin{cases}s>1\\s\leqq 1\end{cases} のとき収束,
のとき発散.
[例 2]
絶対収束をしない級数の一例として,Kelvin が取扱った級数

  \sum\frac{(-1)^{m+n}mn}{(m+n)^2}\quad(m,n=1,2,3,\ldots)
を取ってみる.\textstyle 1=\mathit\Gamma(2)=\int_0^\infty e^{-x}x\,dx において,積分変数を mx に変換すれば,
\frac{1}{m^2}=\int_0^\infty e^{-mx}x\,dx.
故に上記級数の一般項は

  a_{m,n}=(-1)^{m+n}\int_0^\infty mne^{-(m+n)x}x\,dx.
従って
\begin{align}s_{m,n}
 &= \int_0^\infty\sum_{\mu,\nu}(-1)^{\mu+\nu}\mu\nu e^{-(\mu+\nu)x}x\,dx
    \qquad\left({\mu=1,2,\ldots,m\atop\nu=1,2,\ldots,n}\right)\\
 &= \int_0^\infty\Bigl(\sum_\mu(-1)^\mu\mu e^{-\mu x}\Big)
                 \Big(\sum_\nu(-1)^\nu\nu e^{-\nu x}\Bigr)x\,dx\\
 &= \int_0^\infty\varphi(m,x)\varphi(n,x)\frac{xe^{-2x}dx}{(1+e^{-x})^4},
\end{align}
ただし \varphi(m,x)\cdot\varphi(n,x) を展開すれば s_{m,n} は九つの積分の和になる.そのうち一つは
(7)
である.これを I と書く.他の八つは

  \pm(m+h)\int_0^\infty\frac{e^{-(m+r)x}x\,dx}{(1+e^{-x})^4},\quad
  \pm(n+k)\int_0^\infty\frac{e^{-(n+r)x}x\,dx}{(1+e^{-x})^4},

  \pm(m+h)(n+k)\int_0^\infty\frac{e^{-(x+n+r)x}x\,dx}{(1+e^{-x})^4}
の形で h,k0 または 1,また r2,3,4 である.さて

  \int_0^\infty\frac{e^{-\mu x}x\,dx}{(1+e^{-x})^4}
 <\int_0^\infty e^{-\mu x}x\,dx=\frac{1}{\mu^2}
だから,s_{m,n} における (7) 以外の八つの項は絶対値において

  \frac{m+h}{(m+r)^2},\ \frac{n+k}{(n+r)^2}
 または \frac{(m+h)(n+k)}{(m+n+r)^2}
よりも小である.従って

  \lim_{m\to\infty}(\lim_{n\to\infty}s_{m,n})
 =\lim_{n\to\infty}(\lim_{m\to\infty}s_{m,n})
 =\int_0^\infty\frac{e^{-2x}x\,dx}{(1+e^{-x})^4}=l.

すなわち行列 a_{m,n} の横列の和を総和しても,または縦列の和を総和しても,同一の極限値 l を得る.しかし級数は絶対収束しない.

例えば,\textstyle\lim_{m\to\infty}s_{m,m}=l+\frac{1}{16}s_{m,m} においては \varphi(m,x)^2 から

  (m+h)(m+k)\int_0^\infty\frac{e^{-(2m+r)x}x\,dx}{(1+e^{-x})^4}
のような積分がでてくる.この積分は変数を x/(2m+r) に変換すれば

 \frac{(m+h)(m+k)}{(2m+r)^2}
 \int_0^\infty\frac{e^{-x}x\,dx}{(1+e^{-\frac{x}{2m+r}})^4}
になり,m\to\infty のとき極限値は \textstyle
 \frac14\int_0^\infty\frac{e^{-x}x\,dx}{16}=\frac{1}{64}
になる(定理 42).s_{m,m} においてはこのような積分が符号 + を持って四つ出るから s_{m,m}\to l+\tfrac{1}{16}. 同様にして s_{m,m+1}\to l-\tfrac{1}{16} を得る.
[附記] 
本節の初めに述べた純規約的なる s_{m,n} の極限としての \textstyle\sum a_{m,n} によれば,任意の b_n(例えば b_n=n,または b_n=(-1)^n 等)をもって級数
\begin{alignat}{5}
       &b_1   & &+b_2    & &+\cdots & &+b_n    & &+\cdots\\
  {}-{}&b_1   & &-b_2    & &-\cdots & &-b_n    & &-\cdots\\
  {}+{}&a_{11}& &+a_{12} & &+\cdots & &+a_{1n} & &+\cdots\\
  {}+{}&a_{21}& &+a_{22} & &+\cdots & &+a_{2n} & &+\cdots
\end{alignat}
を作っても,収束性にも和にも影響しない.(b_n),(-b_n) のような二行(または二列)をどこへいくつ(有限個)入れても同様である.形式的定義の不実用性をみるべきである.

  1. 高木: 代数学講義改訂新版 304 頁参照.
  2. 310 頁.
  3. これは
    \textstyle
  1+x+x^2+\cdots+x^n=\frac{1-x^{n+1}}{1-x}
    から微分して得られる.すなわち
    \textstyle
  1+2x+3x^2+\cdots+nx^{n-1}=\frac{1-(n+1)x^n+nx^{n+1}}{(1-x)^2}.
    そこで x-e^{-x} を代用すれば \textstyle
  \sum_{\nu=1}^n(-1)^\nu\nu e^{-\nu x}=\frac{-e^{-x}\varphi(n,x)}{(1+e^{-x})^2}
を得る.
  4. 不定積分ができる.e^{-x}=t として計算するがよい.練習問題(3) (6) 参照.
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