解析概論/第3章/古代の求積法

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[編集] 28.古代の求積法

特殊の曲線曲面に関する求積法は,古代から知られていた.Archimedes が球の面積及び体積を計算した方法は有名であるが,Archimedes はまた次のような方法を考案して,ひとつの弦で限られた放物線の截片の面積をみごとに計算した.

AB を放物線の弦,OM をその中点を通る径とすれば,放物線と弦とで囲まれる截片の面積 S は三角形 OAB の面積 T\tfrac{4}{3} に等しい.すなわち

S=\frac{4}{3}T.

今現代的に座標法を用いて,径 OMx 軸,O における接線を y 軸にとれば放物線の方程式は y^2=cxOM=a とすれば, AB の極は N=(-a,0) である.すなわち ONM の中点で,弦 AB とその両端における接線とが作る三角形 NAB の面積は \triangle OAB の面積の二倍に等しい.

同様の関係はもちろん弦 OA,OB に関して成り立つから,図上の記号でいえば O_1M_1=\tfrac{1}{2}N_1M_1=\tfrac{1}{4}OM.故に \triangle OO_1'A=\tfrac{1}{4}\triangle OAM.同様に \triangle OO_1'B=\tfrac{1}{4}\triangle OBM.今 \triangle OO_1A,\triangle OO_1'B の面積の和を T_1 とすれば

T_1=\frac{1}{4}T.

同じように弦 O_1A,OO_1,OO_1',O_1'B を底として同様の三角形を作って,それらの面積の和を T_2 とすれば

T_2=\frac{1}{4}T_1=\frac{1}{4^2}T.

このような操作を限りなく継続して,T,T_1,T_2,\ldots によって,求めるところの面積 S を搾り出してしまおうというのである.古代の求積法の秘訣であって,いわゆる搾出法(method of exhaustion)である.すなわち


  S=T+\frac{T}{4}+\frac{T}{4^2}+\cdots
   =T\left(1+\frac{1}{4}+\frac{1}{4^2}+\cdots\right)
   =\frac{4}{3}T.

ただし,このように放漫に結論を出してしまっては,18世紀式になる.T,T_1,T_2 等をいつまで作って行くとしても,それらは決して面積 S を覆いきらない,という論点に関しては,ギリシア数学は神経質であった.搾っても搾っても搾りきれないではないか,というのである.Archimedes においても,この論点はもちろん重大であった.彼は次のように考えた.今,図の記号でいえば,面積 T+T_1 では S の一部分にすぎないが,もしも \triangle OAB の上にさらに \triangle OAN_1\triangle OBN_1' とを加えるならば,それは S よりも大きい.これらの二つの三角形はそれぞれ \triangle OAO_1,\triangle OBO_1' の二倍だから,その和は 2T_1 に等しい.すなわち T+T_1<S<T+2T_1 .同様のことが上記操作の各段階において成り立つから,

T+T_1+\cdots+T_{n-1}+T_n<S<T+T_1+\cdots+T_{n-1}+2T_n,
T\left(1+\frac{1}{4}+\cdots+\frac{1}{4^n}\right)<S<T\left(1+\frac{1}{4}+\cdots+\frac{1}{4^n}+\frac{1}{4^n}\right),
\frac{4}{3}T\left(1-\frac{1}{4^{n+1}}\right)<S<\frac{4}{3}T\left(1-\frac{1}{4^{n+1}}\right)+\frac{T}{4^n},
(1)
-\frac{1}{3}\cdot\frac{T}{4^n}<S-\frac{4}{3}T<\frac{2}{3}\cdot\frac{T}{4^n}.

n は任意だから,S\tfrac{4}{3}T より他のどんな数でもありえない.

このような精密論法はギリシア数学の一つの特徴であったのだが,17,18世紀における近世数学の創世記には,そこまで行くいとまがなくて,19世紀も半ばを過ぎたあとにいたって,ようやく復興されたものである.上記 Archimedes の考察法は解析概論において方法論上重要であるから,少し詳しく述べておこう.上記 (1) から

(2)
\left|S-\frac{4}{3}T\right|<\frac{2T}{3}\cdot\frac{1}{4^n}

を得て,それから |S-\tfrac{4}{3}T|=0,従って S=\tfrac{4}{3}T を得るのであるが,ここでは ST も定数で,任意の自然数なる n だけが変数である.今左辺の定数 |S-\tfrac{4}{3}T| を略して \varepsilon と書き,また右辺における定数 \tfrac{2}{3}T を略して a と書くならば, \varepsilon\geqq 0,a>0 だが, 4^n>n を用いるならば,(2) から

(3)
\varepsilon<\frac{a}{n}

を得る.これから \varepsilon=0 がでてくるのであるが,それは次の原則による.

\varepsilona が与えられた正数ならば,(\varepsilon がいかに小さく,a がいかに大きくても)n\varepsilon>a になるような自然数 n が必ず存在する.現今それを Archimedes の原則といっている.

この原則を承認するならば,(3) から \varepsilon=0 を得る.なぜなら: 今かりに \varepsilon>0 とするならば,すべての自然数 n に関して

\varepsilon<\frac{a}{n}, 従って n\varepsilon<a

でなければならない.これは Archimedes の原則に矛盾する.故に \varepsilon>0 なる仮定は不合理である.然るに \varepsilon\geqq 0 .故に \varepsilon=0 である.

Archimedes の原則は実数の連続性(§2)の中に含まれている.もしかりに Archimedes の原則が成り立たないとするならば,すべての自然数 n に関して n\leqq\frac{a}{\varepsilon}.すなわち,すべての自然数の集合が有界,従ってその集合に上限 s があり(定理 2),従って s-1<n\leqq s なる或る自然数 n があり,従って s<n+1n+1 も自然数だから,これは不合理である.故に Archimedes の原則を承認せざるを得ない!
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