解析概論/第3章/不定積分の計算

提供:Wikisource
移動: 案内, 検索

[編集] 37.不定積分の計算

通例微積分法で‘不定積分ができる’というのは,f(x) が初等函数であるとき,その原始函数が初等函数の範囲内に存在することをいうのであるが,そのような場合には,変数を適当に変換すれば,たいがい有理函数の積分に帰するのである.その意味において,有理函数の積分は初等解析において重要なる問題であるが,複素数を用いないと,見通しよく了解することができない.それは後(第 5 章)に延ばして,ここでは二,三の例を掲げる.

(I)
F を有理函数として
\int F(\cos x,\sin x)\,dx
を考察する.媒介変数として
t=\tan\frac{x}2
を取れば,
\cos x=\frac{1-t^2}{1+t^2},\quad\sin x=\frac{2t}{1+t^2}.
逆に
t=\frac{\sin x}{1+\cos x}
x-\pi から +\pi まで変動するときは,t-\infty から +\infty まで単調に増大する.さて
x=2\mathrm{Arc\,tan\,}t,\quad dx=\frac{2dt}{1+t^2}.
従って
\int F(\cos x,\sin x)\,dx
  =\int F\!\left(\frac{1-t^2}{1+t^2},\frac{2t}{1+t^2}\right)\frac{2dt}{1+t^2}.
定積分の場合には \cos x,\sin x の周期性を利用して,左辺の積分区間を (-\pi,\pi の内に直して,t に関する積分の限界を定めねばならない.
[例 1]

  \int\frac{dx}{\sin x}=\int\frac{1+t^2}{2t}\cdot\frac{2dt}{1+t^2}
  =\int\frac{dt}t=\log|t|=\log\left|\tan\frac{x}2\right|,
  \quad (x\ne n\pi,\,n=0.\pm1,\ldots).
[注意] 
F(\cos x,\sin x)\pi を周期とするときには,t=\tan x としてすでに有利化ができる.その場合には F(u,v)=F(-u,-v) で,それは u^2,v^2 および uv の有理函数になり,従って F(\cos x,\sin x)\cos2x\sin2x との有理函数として表わされるからである.次に一例を掲げる.
[例 2]

  \int\frac{dx}{a\cos^2x+b\sin^2x}
  =\int\frac{dt/(1+t^2)}{(a+bt^2)/(1+t^2)}
  =\int\frac{dt}{a+bt^2},\quad(t=\tan x).
a>0,b>0 ならば t=\sqrt{\tfrac{a}b}\,\tau として

  \int\frac{dt}{a+bt^2}=\frac{1}\sqrt{ab}\int\frac{d\tau}{1+\tau^2}
  =\frac{1}\sqrt{ab}\,\mathrm{arc\,tan\,}\tau.
a>0,b<0 ならば,b-b と書き換えて,

  \int\frac{dx}{a\cos^2x-b\sin^2x}=\int\frac{dt}{a-bt^2}
  =\frac{1}\sqrt{ab}\int\frac{d\tau}{1-\tau^2}
  =\frac{1}\sqrt{ab}\log\left|\frac{1+\tau}{1-\tau}\right|,

  \left(a>0,\,b>0;\;t=\tan x,\,\tau=\sqrt\frac{b}a\,t.\right)
(II)
F(x,y) は有理式として
\int F(x,\sqrt{ax^2+bx+c})\,dx
を考察する.変数の一次変換によって,二次式から一次の項を消去して,a の正負に従って平方根を \sqrt{x^2\pm p^2} または \sqrt{p^2-x^2} の形にすることができる.そこで x=p\tan\theta,x=p\sec\theta または x=p\sin\theta とすれば,積分は (I) の場合に帰する.従って有理化される. しかしながら,三角函数を経由しないで,代数的変換によって直接に有理化することもできる.今上記平方根を y と書けば
(1)
y^2=ax^2+bx+c.
さて有理化の理論は幾何学的に考えれば明白である.(1) は二次曲線を表わすから,曲線上の任意の一点 (x_0,y_0) を通る截線
(2)
y-y_0=t(x-x_0)
(x_0,y_0) 以外の一点 (x,y) において曲線 (1) に交わる.従ってその交点 (x,y)t とは一対一に対応するが,座標 x,y を計算すれば,x=\varphi(t),y=\psi(t)t の有理式で

  \int F(x,\sqrt{ax^2+bx+c})\,dx=\int F(\varphi(t),\psi(t))\varphi'(t)\,dt.
すなわち問題の積分は変換 (2) によって有理化される.
(1º)
特に二次式が実根を有するとき.
y=ax^2+bx+c=a(x-\alpha)(x-\beta)\quad(\alpha\ne\beta)
とすれば,上記の (x_0,y_0)(\alpha,0) としてよいから,(2)
y=t(x-\alpha).
すなわち変換
t=\sqrt\frac{a(x-\beta)}{x-\alpha}
で有理化ができる.
(2º)
二次式が実根を有しないときには,それが正なるためには a>0 を要するが,a>0 ならば一般に変換
(3)
y=\pm\sqrt a\,x+t
すなわち
t=\mp\sqrt a\,x+\sqrt{ax^2+bx+c}
で有理化ができる.

この場合,(1) は双曲線で,截線 (3)(1) の漸近線に平行だから,(3)(1) とはただ一つの点 (x,y) で交わり,従ってその交点 (x,y) の座標が媒介変数 t の有理式として表わされるのである.

基本的なる不定積分(90 頁

 \int\frac{dx}\sqrt{x^2\pm1}=\log|x+\sqrt{x^2\pm1}|
はこの範疇に属する.上記のように
t=x+\sqrt{x^2-1}
とすれば
t^{-1}=x-\sqrt{x^2-1},
従って

  2x=t+t^{-1},\quad 2\sqrt{x^2-1}=t-t^{-1},\quad 2dx=(1-t^{-2})dt.
故に
\begin{align}
  \int\frac{dx}\sqrt{x^2-1} 
 &=\int\frac{(1-t^{-2})dt}{t-t^{-1}}=\int\frac{dt}t=\log|t|\\
 &=\log|x+\sqrt{x^2-1}|.
\end{align}
同様に
t=x+\sqrt{x^2*1}
として
\int\frac{dx}\sqrt{x^2+1}=\log(x+\sqrt{x^2+1})
を得る.
[注意] 
\textstyle\int F(x,\sqrt{ax+b},\sqrt{cx+d})dx は変換 ax+b=t^2 によって上記の場合に帰する. なお一般に,F は有理式で,
y=\frac{ax+b}{cx+d},
\alpha,\beta,\ldots は有理指数なるとき,
\int F(x,y^\alpha,y^\beta,\ldots)\,dx
は変換 t=y^\frac1n によって有理化される.ただし,n\alpha,\beta,\ldots の公分母である.

上記 (I)(II) の積分の有理化の理論を述べた.実際の計算に当たっては,上記の一般的方法に拘泥する必要はないが,有理化の可能なる理由の認識なしに盲算することはよろしくない.それでは計算の統制ができないであろう.

F(x,\sqrt{P(x)}\,) において P(x) が,平方因子を有しない三次または四次の多項式ならば,その積分は初等函数でない.それはいわゆる楕円積分である.P(x) がなお高次ならば超楕円積分である.互に一次独立な一次式の平方根が三つ以上含まれる場合も同様である.

(III)
二項微分の積分.これは
\int x^m(ax^n+b)^q\,dx
の形の積分で,m,n,q が有理数なるとき,すでに Newton が考察したものである.x^n=t として変形すれば,定数因子を外にして
\int t^p(at+b)^q\,dt,\quad p=\frac{m+1}n-1
の形を得る.p,q が有理数でかつ p,q または p+q が整数(正,負または 0)ならば,これは有理函数の積分に帰する.まず q が整数ならば,p=\tfrac{h}k として変換 t=s^k によって

  k\int s^{h+k-1}(as^k+b)^q\,dx
を得る.ただし q が正の整数ならば,初めから (at+b)^q を展開するがよい.また p が整数ならば at+b を変数とすれば前の場合に帰する.また p+q が整数ならば 1/t を変数にすればよい.これらの場合のほか,二項微分の不定積分は初等函数ではできないことが証明されている[* 1].元の形でいえば,m,n,q が有理数で,q または \tfrac{m+1}n または \tfrac{m+1}n+q が整数であるときに限って‘不定積分ができる’のである.
[例]
\sin^\mu x\,\cos^\nu x\,dx は変換 \sin x=\sqrt{t} によって二項微分 
  \tfrac12 t^\frac{\mu-1}2 (1-t)^\frac{\nu-1}2\,dt になる.従って,\mu,\nu が有理数で,\mu または \nu が正または負の奇数,または \mu+\nu が偶数であるときに,有理化ができる. \textstyle\int\frac{dx}\sqrt{\cos x} においては \mu=0,\nu=\tfrac12 で有理化ができない(89 頁).

  1. Tschebyscheff, journal de Liouville,18 巻,1853.
個人用ツール
名前空間

変種
操作
案内
印刷/エクスポート
ツールボックス