解析概論/第2章/Taylorの公式

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[編集] 25.Taylor の公式

定理 28.
或る区間において,f(x) は第 n 階まで微分可能とする.然らばその区間において,a は定点,x は任意の点とするとき
(1)

f(x)=f(a)+(x-a)\frac{f'(a)}{1!}
 + (x-a)^2\frac{f''(a)}{2!}
 + \cdots
 + (x-a)^{n-1}\frac{f^{(n-1)}(a)}{(n-1)!}
 + (x-a)^n\frac{f^{(n)}(\xi)}{n!}.
ただし
\xi = a+\theta(x-a),\quad 0<\theta<1
すなわち \xiax との中間の或る値である.

これを Taylor の公式という.

上記公式の右辺で,最後の項だけは,他の項と違って,a の代わりに ax の中間値 \xi に対する導函数 f^{(n)} の値が書いてある.この最後の項を剰余項という.それを R_n と書けば
(2)

 R_n = (x-a)^n\frac{f^{(n)}(\xi)}{n!}.
問題の核心はこれの証明である.
[証]
(3)
F(x) = f(x)
  -\left\{
     f(a)
     + (x-a)\frac{f'(a)}{1!} + \cdots
     + (x-a)^{n-1}\frac{f^{(n-1)}(a)}{(n-1)!}
  \right\}
と置く.F(x) がすなわち R_n である.さて仮定によって,F(x) は第 n 階まで微分可能であるが,計算してわかるように
(4)

\begin{align}
 F(a)=F'(a)=&\cdots=F^{(n-1)}(a)=0 \\
 F^{(n)}(x)&=f^{(n)}(x).
\end{align}
さて定理 21F(x)G(x)=(x-a)^n とに応用する.然らば F(a)=0, G(a)=0 だから

 \frac{F(x)-F(a)}{G(x)-G(a)} = \frac{F(x)}{(x-a)^n} = \frac{F'(x_1)}{n(x_1-a)^{n-1}},
x_1ax との中間値である.同様に,F'(a)=0, G'(a)=0 から

 \frac{F'(x_1)}{n(x_1-a)^{n-1}} = \frac{F''(x_2)}{n(n-1)(x_2-a)^{n-2}},
x_2ax_1 の,従って ax との中間値である. これは右辺に F^{(n)} がでてくるところまで続けられるから,結局 (4) によって

 \frac{F(x)}{(x-a)^n} = \frac{F^{(n)}(\xi)}{n!} = \frac{f^{(n)}(\xi)}{n!},
を得る.ここで \xiax との中間値である.すなわち
(5)
F(x)=(x-a)^n\frac{f^{(n)}(\xi)}{n!}
左辺の F(x)(3) によって詳しく書けば (1) を得る.
(証終)
Taylor の公式 (1) で,n=1 とすれば
f(x)=f(a)+(x-a)f'(\xi).
これは平均値の定理である.すなわち,定理 28平均値の定理の拡張である.

上記証明において f^{(n)}(x)(5) でのみ用いたから,f^{(n)}(x)a を一端とする開区間で存在するとしても十分である.

もしも反対に,第 n 階に関しては x=a においてのみ f^{(n)}(a) の存在を仮定するならば,それからさかのぼって a の近傍で n-1 階までの導函数は存在することになるが,その場合,次の定理が成り立つ.

定理 29.
x=a を含む或る区間において f(x) が第 n-1 階まで微分可能で,点 x=a において f^{(n)}(a) が存在するならば
(6)

 f(x) = f(a)+(x-a)\frac{f'(a)}{1!}
  + (x-a)^2\frac{f''(a)}{2!}
  + \cdots
  + (x-a)^n\frac{f^{(n)}(a)}{n!}
  + o(x-a)^n.
[証]
F(x)(3) の通りとすれば,平均値の定理によって,前のように

 \frac{F(x)}{(x-a)^n} = \frac{F^{(n-1)}(\xi)}{n!(\xi-a)},\ \ a \lessgtr \xi \lessgtr x,
までは得られる.今度は F^{(n)}(a)=f^{(n)}(a) が存在するのだが,前の通り F^{(n-1)}(a)=0 だから,x \to a 従って \xi\to a のとき

 \lim_{x \to a}\frac{F^{(n-1)}(\xi)}{\xi-a}
  = \lim_{\xi \to a}\frac{F^{(n-1)}(\xi)-F^{(n-1)}(a)}{\xi-a}
  = F^{(n)}(a)
  = f^{(n)}(a).
すなわち

 \lim_{x \to a}\frac{F(x)}{(x-a)^n}
  =\frac{f^{(n)}(a)}{n!},
すなわち

 F(x)=(x-a)^n\frac{f^{(n)}(a)}{n!}+o(x-a)^n,
それが証明すべき事であった.

定理 28 においては,f^{(n)}(x) が区間内で存在することを仮定したが,もしもその上に f^{(n)}(x)x=a において連続であることを仮定するならば,R_n(2) のように書かれるから,定理 29 が得られる.しかし f^{(n)}(a) の存在だけを仮定して,定理 29 は既に成り立つのである.

定理 29n=1 とすれば

 f(x) = f(a)+(x-a)f'(a)+o(x-a).
f'(a) が存在すれば,これは成り立つ(f'(a) の定義!).定理 29 はそれの拡張である.しかし高階導函数は導函数の導函数として間接に定義された. f'(a) の例に倣って

 f(x) = f(a)+A_1(x-a)+A_2\frac{(x-a)^2}{2}+\cdots+A_n\frac{(x-a)^n}{n!}+o(x-a)^n
における係数 A_i として逐次の f^{(i)}(a) が定義されたのではない.一般函数の場合,そうは行きかねる.そこに導函数の複雑性がある. 定理 28 または定理 29 を区間 a \leqq x < b に適用する場合には f^{(i)}(a) は右への微分商の意味で存在すればよい.区間  b <x \leqq a の場合には左への微分商でよい.そのつもりで証明を読み返えしてみればわかるであろう.
[附記] 
定差
y=f(x) において,x に一定の増加 \Delta x (ただし  \Delta x \gtrless 0) を与えるとき,それに対応する y の増加

 \Delta y = \Delta f(x) = f(x+\Delta x)-f(x)
y定差difference)または差分という.\Delta yx の函数とみて,増加 \Delta x に対するそれの定差を y の第二階の定差といい,それを \Delta^2 y と書く.すなわち
\begin{align}
  \Delta^2 y 
    &= \Delta f( x + \Delta x ) - \Delta f( x ) \\
    &= \{f(x+2\Delta x)-f(x+\Delta x)\}-\{f(x+\Delta x)-f(x)\} \\
    &= f(x+2\Delta x)-2f(x+\Delta x)+f(x).
\end{align}
同様にして,第 n 階の定差は
(7)
 \begin{align}
  \Delta^n y 
    &= \Delta^{n-1}f(x+\Delta x)-\Delta^{n-1}f(x) \\
    &= f(x+n\Delta x)-\binom{n}{1}f(x+(n-1)\Delta x)
      + \binom{n}{2}f(x+(n-2)\Delta x)+\cdots+(-1)^nf(x).
\end{align}
例えば,g(x)=ax^n+\cdotsn 次の多項式として,\Delta x=h と書けば

  \Delta g(x) = nahx^{n-1} + \cdots,\ \ \Delta^2g(x) = n(n-1)ah^2x^{n-2} + \cdots,
(8)

  \Delta^n g(x) = n!ah^n.\ \ \Delta^{n+1}g(x)=0.
さて定理 29 の仮定の下において,十分小なる \Delta x に関して

  f(x+k\Delta x) = \sum^n_{\nu=0}(k\Delta x)^\nu\frac{f^{(\nu)}(x)}{\nu!}+o(\Delta x)^n.
これを (7) へ持ち込めば
(9)
\begin{align}
  \Delta^n y 
  &= \sum^n_{k,\nu=0}(-1)^{n-k}\binom{n}{k}
     k^\nu\Delta x^\nu\frac{f^{(\nu)}(x)}{\nu!}
     +o(\Delta x)^n \\
  &= \sum^n_{\nu=0}\Delta x^\nu\frac{f^{(\nu)}(x)}{\nu!}
     \left(\sum^n_{k=0}(-1)^{n-k}\binom nk k^\nu\right)
     +o(\Delta x)^n.
\end{align}
さて

  \sum^n_{k=0}(-1)^k\binom nk k^\nu = \begin{cases}
   0,\ \ (\nu=0,1,\cdots,n-1)\\
   (-1)^n n!\ \ (\nu=n)
  \end{cases}
これは y=x^n とすれば,(9) から得られる.そのとき (8) によって \Delta^n y = n!\Delta x^n であるから.
故に
\Delta^n y = (\Delta x)^nf^{(n)}o(\Delta x)^n,
従って

  \lim_{\Delta x\to0}\frac{\Delta^n y}{\Delta x^n} = f^{(n)}(x).
これは \textstyle \frac{\Delta y}{\Delta x} \to f'(x) の拡張であるが,ここでも定理 29 と同様に f^{(n)}(x) の存在を仮定して証明したのだから,\textstyle \frac{\Delta^n y}{\Delta x^n} が存在するとき,それが f^{(n)}(x) であるというのではない.換言すれば f^{(n)}(x) が高階の定差によって直接に定義されたのではない.
二次元以上における Taylor の公式
Taylor の公式は二次元以上にも拡張される.今二次元としていう.或る領域において f(x,y)n 回まで微分可能であるとき A=(x,y) を領域内の一点とし,また |h|, |k| を十分小さく取って,点 B=(x+h,y+k) もまた線分 AB も全く領域内にあらしめるならば
F(t) = f(x+ht, y+kt)
は区間 0 \leqq t \leqq 1(線分 AB 上)における t の函数で,その区間において定理 28 の仮定が成り立つ,すなわち

  F'(t) = \left( h\frac{\partial}{\partial x} + k \frac{\partial}{\partial y} \right) f(x+ht, y+kt), \cdots ,

  F^{(n)}(t) = \left( h\frac{\partial}{\partial x} + k \frac{\partial}{\partial y} \right)^n f(x+ht, y+kt).
故に

  F(t) = F(0) + tF'(0) + \cdots + \frac{t^{n-1}}{(n-1)!}F^{(n-1)}(0) + \frac{t^n}{n!}F^{(n)}(\theta t), \ \ 0<\theta<1.
そこで t=1 とすれば
\begin{align} f(x+h,y+k) =
  & f(x,y) + df(x,y) + \frac{1}{2} d^2f(x,y) + \cdots \\
  & +\frac{1}{(n-1)!}d^{n-1}f(x,y)
    +\frac{1}{n!} d^n f(x+\theta h, y+\theta k).
\end{align}
略記法 d^\nu f§24 の通りである.すなわち
\begin{align}
  df(x,y) &= hf_x(x,y) + kf_y(x,y) \\
 d^2(x,y) &= h^2 f_{xx}(x,y) + 2hkf_{xy}(x,y) + k^2f_{yy}(x,y), \cdots .
\end{align}
ただし最後の項(剰余項)においては,変数 xy のところへ x+\theta hy+\theta k を入れるのである. 特に n=1 とすれば

  f(x+h,y+k) - f(x,y) = h f_x(x+\theta h, y+\theta k) + k f_y(x+\theta h, y+\theta k)
(x+\theta h, y+\theta k) は線分 AB 上の或る点である.これが二次元における平均値の定理である. もしも定理 29 のように,第 n 階の微分に関しては点 A=(x,y) においてのみ,その可能性を仮定するならば

  f(x+h,y+k) = f(x,y) + df(x,y) + \frac{d^2f(x,y)}{2!} + \cdots + \frac{d^n(x,y)}{n!} + o\rho^n,

  \rho = \sqrt{h^2+k^2}.
これを証明するには

  F(t) = f \left(x+\frac{h}{\rho}t, y+\frac{k}{\rho}t\right)
と置いて

  F(t) = F(0) + tF'(0) + \cdots + \frac{t^n F^{(n)}(0)}{n!} + ot^n
において t=\rho とすればよい.ここで ot^n/t^n は線分 AB の方向に無関係に(一様に)0 に収束する.それは定理 29 の証明を参照して容易に証明される.
Taylor 級数
定理 28 において,f(x) の各階の微分が可能で,区間内のすべての x に関して
\lim_{n \to \infty}R_n = 0,
すなわち

  f(x) = \lim_{n \to \infty} \sum^n_{\nu=0}(x-a)^\nu\frac{f^{(\nu)}(a)}{\nu!}
であるとき,右辺を無限級数の形に書けば,区間内で
(10)

f(x)=f(a)+(x-a)\frac{f'(a)}{1!}
 + (x-a)^2\frac{f''(a)}{2!}
 + \cdots
 + (x-a)^n\frac{f^{(n)}(a)}{n!}
 + \cdots .
これを f(x)Taylor 級数という.特に a=0 であるときは Maclaurin の級数という.

Taylor 級数は解析学において最も重要である.実用上の函数は Taylor 級数に展開されるが,その展開を定理 28 のみによって直接の計算で求める事は技術上得策でない.それは後に譲って(第 5 章),ここでは最も簡単な一,二の例を挙げておく.

[例 1]
f(x)n 次の多項式ならば f^{(n+1)}(x)=0 だから,(10) は有限級数である.それは f(x)(x-a) の多項式で表すものにほかならない.
[例 2]
f(x)=e^x この場合にはすべての n に関して f^{(n)}(x)=e^x.故に a=0 とすれば f^{(n)}(0)=1
R_n = \frac{x^n}{n!}e^{\theta x},\ \ 0<\theta<1.
故に
|R_n| < \frac{|x|^n}{n!}e^{|x|}.
x を固定すれば \textstyle \lim\frac{|x|^n}{n!}=0[例 3]).故に -\infty < x < \infty において

  e^x = 1 + \frac{x}{1!} + \frac{x^2}{2!} + \cdots + \frac{x^n}{n!} + \cdots .
特に x=1 のとき,剰余項を入れて書けば
(11)

  e = 1 + \frac{1}{1!} + \frac{1}{2!} + \cdots + \frac{1}{n!} + R_{n+1},
R_{n+1} = \frac{e^\theta}{(n+1)!} < \frac{3}{(n+1)!}.
\begin{align}
  1+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}&=2.5\\[5pt]
  \frac{1}{3!}&=0.1666666\\[3pt]\frac{1}{4!}&=0.0416666\\[3pt]
  \frac{1}{5!}&=0.0083333\\[3pt]\frac{1}{6!}&=0.0013888\\[3pt]
  \frac{1}{7!}&=0.0001984\\[3pt]\frac{1}{8!}&=0.0000248\\[3pt]
  \frac{1}{9!}&=0.0000027\\[3pt]\frac{1}{10!}&=0.0000002\\[3pt]\hline
   e &\fallingdotseq 2.7182814
\end{align}
e の計算
e\textstyle\lim(1+\frac 1n)^n として定義されたけれども,この数列は収束緩慢だから計算に適しない.今 (11) を用いて\textstyle\frac1{n!} を小数第七位まで計算して行けば,n=10 までは右のようになる.それらを加えて e の近似値を得るが,n \geqq 3 なる 8 項において各 \textstyle \frac1{10^7} 未満の誤差があり,また剰余項

  R_{11} < \frac{3}{11!} = \frac{1}{10!}\frac{3}{11} < \frac{1}{10^7}
だから,誤差は \textstyle \frac1{10^6} 以下である.実際は e=2.718281828\cdots
e が無理数である事の証明
仮りに e を有理数として,\textstyle e=\frac mn としてみる.m, n は整数である.然らば n!e は整数.従って (11) によって
n!R_{n+1} = \frac{e^\theta}{n+1} > 0\quad (0<\theta<1)
は整数でなければならない.従って
1 \leqq \frac{e^\theta}{n+1} < \frac{3}{n+1},
すなわち n+1<3, n<2, n=1.然らば e=m で,e は整数でなければならない.2<e<3 だから,これは不合理である.
[例]
 \begin{align}
   \sin x &= x - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} -+ \cdots, \\
   \cos x &= x - \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} -+ \cdots, 
\end{align}
x は任意である.ここでも |R_n| \to 0
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