解析概論/第2章/微分 導函数

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[編集] 13.微分 導函数

或る区間において,変数 x の函数 y=f(x) が与えられているとする.独立変数の二つの値 xx_1 に対応する函数の値を yy_1 として,

x_1-x=\Delta x, \; y_1-y=\Delta y

と略記する.然らば

\frac{\Delta y}{\Delta x} = \frac{y_1-y}{x_1-x}

xx_1 との間の区間における函数 y の平均の変動率である. 今 x を固定して,|\Delta x| を限りなく小さくするとき

\lim_{\Delta x\to 0} \frac{\Delta y}{\Delta x}

なる極限値が存在するならば,それは函数 y=f(x)x における変動率ともいうべきものであろう.この極限値を記号

\frac{dy}{dx}

で表わす. \Delta x\Delta y などは伝統的の記号であるが,もしも \Delta x の代りに h と書けば

\frac{dy}{dx}=\lim_{h\to 0} \frac{f(x+h)-f(x)}{h}.

上記の極限値が存在するとき,函数 y=f(x) は点 x において微分可能であるという.

もしも或る区間の各点 x において y=f(x) が微分可能ならば, f(x) はその区間において微分可能であるという.その場合,極限値 \tfrac{dy}{dx}x の函数である.その函数を f(x)導函数といい,それを記号 f'(x) で表わす.すなわち上記条件の下において

\frac{dy}{dx}=f'(x).
記号 \tfrac{dy}{dx}Leibniz からの伝統である.f'(x)Lagrange の用例である.f(x)y で表わす場合には,f(x)y' または \dot y で表わす.\dot yNewton の用例である.CauchyD_x y または D_x f(x) なる記号を用いた.独立変数を特記するに及ばないときには,添字を略して D と書く.
\frac{dy}{dx}=f'(x)=y'=\dot y=D_x y=Dy.

これらの記号は一長一短である.現今は拘泥しないで,場合に応じて便宜流用する.

導函数(derived function,略して derivative)とは‘微分法によって f(x) から導き出される函数’ということの略称である.導函数 f'(x) は区間に関する称呼であるが,一点 x における \tfrac{dy}{dx} すなわち \textstyle \lim\tfrac{\Delta y}{\Delta x}Newton のいわゆる‘流動率’(fluxion)である.ドイツ系統では,Leibniz の伝統に従って,この極限値 \tfrac{dy}{dx} を微分商(Differentialquotient)といっているが,英米系統では,それを改称して微分係数(differential coefficient)という.フランス系では,微分商も導函数も共に dériveé という.
接線の勾配

函数 y=f(x) のグラフにおいては,\Delta y/\Delta x は 点 (x,y) と点 (x+\Delta x, y+\Delta y) とを結ぶ弦の勾配で,\tfrac{dy}{dx} は点 (x,y) における接線の勾配である.

\Delta x\Delta y はグラフの上での点の座標の変動であるが,もしもグラフの代りに接線を取って,接線上における点 (X,Y) の座標の変動を dxdy で表わして,dx=X-x(それは\Delta xと同一),また,dy=Y-y(それは\Delta yとは違う)とするならば

(1)
dy=f'(x) dx

は点 (x,y) における接線の方程式にほかならない.そのように dxdy を単独に定義すれば,(1) の意味は明確である.しかし我々は点 (x,y) の近傍においてのみ (1) を用いるつもりであるから, dx を変数 x微分differential),dy をそれに対応する函数 y の微分という.

上文で接線というような耳慣れた言葉を用いて,\tfrac{dy}{dx} は接線の勾配などといったけれども,実際は,それは接線を定義したのにすぎない.すなわち \tfrac{dy}{dx} が存在するときに,点 (x,y)において \tfrac{dy}{dx} を勾配とする直線を y=f(x) の接線というのである.よって今一度 \tfrac{\Delta y}{\Delta x} から出直してみよう.

\lim\tfrac{\Delta y}{\Delta x}=f'(x) が存在するならば,\tfrac{\Delta y}{\Delta x}=f'(x)+\varepsilon,すなわち \Delta x \ne 0 のとき

(2)
\Delta y=f'(x) \Delta x +\varepsilon \Delta x

と置くとき,\varepsilonx\Delta x に関係するが,x を固定すれば,\Delta x \to 0 のとき \varepsilon \to 0. 今逆に \Delta x \ne 0 のとき

(3)
\Delta y=A\cdot\Delta x +\varepsilon\cdot\Delta x

で,Ax のみに関係して,\Delta x には関係しない係数,また \varepsilonx にも \Delta x にも関係するが,\Delta x \to 0 のとき \varepsilon\to 0 と仮定してみよう.もしも (3) が成り立つならば,\Delta x\to 0 のとき \tfrac{\Delta y}{\Delta x} = A + \varepsilon\to A,すなわち A=\lim \tfrac{\Delta y}{\Delta x},従って点 x において f'(x) が存在して,A=f'(x).故に (3) が成立するのは,f'(x) が存在するときに限り,その場合 (3)(2) と同じものである.よって f'(x) が存在するという仮定の下において (2) を考察する. さて (2) の右辺の第一項 f'(x)\Delta x\Delta x に関して一次式である(我々は今 x の値を固定している,従って変数は \Delta x である)が,第二項では \Delta x\to 0 のとき \Delta x の係数 \varepsilon が限りなく小さくなるのだから,その \varepsilon\Delta x との積なる \varepsilon\cdot\Delta x\Delta x よりも高度に徴小になる.すなわち \Delta x\to 0 に際して,(2) の右辺の第一項なる f'(x) \cdot \Delta x\Delta y の主要部である.そこで \Delta y の主要部なる f'(x)\cdot\Delta xx における函数 y=f(x) の微分と名づけて,それを dy で表わすことにする.すなわちこの定義によれば

(4)
dy=f'(x)\Delta x.

今同様の意味において,x それ自身を x の函数とみれば x'=1 だから

dx=\Delta x.

故に上記定義の下において,\Delta xx の函数なる x の微分である.これを (4) に代入すれば,

(5)
dy=f'(x) dx.

これを

(6)
\frac{dy}{dx}=f'(x)

と書くならば,記号 \tfrac{dy}{dx} において dx および dy が各〻独立の意味を有するから,\tfrac{dy}{dx} は商としての意味を有する.すなわち‘微分商’というものである.

このように,現代的の精密論法によって,Leibniz の漠然たる‘微分商’が合理化される.また (5) によれば,f'(x) は微分 dy における dx の係数であるから,それを‘徴分係数’というのも,もっともではある.

x が独立変数であるときには,上記の dx=\Delta x ということは,あまりに細工が過ぎるようであるが,後に至って独立変数を変換するときに \Delta x の代りに dx と書くことの意味が了解されるであろう.
[注意] 
上記 (2) によって,\varepsilonx\Delta x との函数 \varepsilon=\varepsilon (x,\Delta x) として,条件 \Delta x\ne 0 のもとで定義されたが,\Delta x\to 0 のとき \varepsilon\to 0 なのだから,\varepsilon の定義を \Delta x=0 まで延長して,\Delta x=0 のとき \varepsilon=\varepsilon (x,0)=0 とすれば,x を固定したとき \Delta x の函数として,\varepsilon\Delta x=0 において連続となる.(3) においても,\Delta x=0 のとき \varepsilon=0 という仮定を追加して,\varepsilon\Delta x=0 で連続性を保つようにするのが自然である.後に至って,(2) あるいは (3) の式を,\Delta x=0 のときも含めて考察する必要を生ずるが,そのとき,\Delta x=0 に対する \varepsilon の値は,上記のように定義されるものとする.



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