解析概論/第1章/連続的変数に関する極限

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[編集] 9.連続的変数に関する極限

P の函数 f(P) が或る区域内において定義されているとする.そのとき P がこの区域内において変動して,限りなく一つの定点 A に近づくとき,それに伴って f(P) が限りなく一定の値 \alpha に近づくならば,\alphaA における f(P) の極限という.記号では

P\to A のとき f(P)\to\alpha.

または二次元を例に取って P=(x,y),A=(a,b) とすれば,


  \lim_{(x,y)\to(a,b)}f(x,y)=\alpha.

詳しくいえば,\varepsilon>0 を任意に取るとき,それに対応して \delta>0 を定めて

|x-a|<\delta,|y-b|<\delta,P\ne A なるとき |f(x,y)-\alpha|<\varepsilon

ならしめることをうるのである[* 1]

このような極限に関しても,定理 5 と同様なる定理が成り立つこと明白である.すなわち

P\to A のとき f(P)\to\alpha,g(P)\to\beta ならば,
f(P)\pm g(P)\to\alpha\pm\beta,\quad
   f(P)g(P)\to\alpha\beta,\quad \frac{f(P)}{g(P)}\to\frac{\alpha}{\beta}
   (ただし \beta\ne0).

極限値としての +\infty,-\infty の意味も,数列の場合と同様である.

次の二つの例は基本的だから,周知であろうけれども,一応述べて置く.

[例 1]

  \lim_{x\to\infty}\left(1+\frac{1}{x}\right)^x=e.

en が自然数なるとき \lim(1+\tfrac{1}{n})^n として定義されたのであったが(§4,[例 5]),連続的変数 x に関しても標記の等式が成り立つのである.

それを証明するために n\leqq x<n+1n は自然数)とすれば,

  \left(1+\frac{1}{n+1}\right)^n <\left(1+\frac{1}{x}\right)^x <\left(1+\frac{1}{n}\right)^{n+1},
すなわち

  \cfrac{\left(1+\frac{1}{n+1}\right)^{n+1}}{1+\frac{1}{n+1}}
 <\left(1+\frac{1}{x}\right)^x
 <\left(1+\frac{1}{n}\right)^n\cdot\left(1+\frac{1}{n}\right).
n\to\infty のとき,第一辺と第三辺とは極限値 e に収束する(定理 5).故に任意の \varepsilon>0 に対して一つの正数 N を取って,n\geqq N なるとき

  e-\varepsilon<\left(1+\frac{1}{n+1}\right)^n,\quad
  \left(1+\frac{1}{n}\right)^{n+1}<e+\varepsilon
ならしめうる.然らば x\geqq N なるとき

  e-\varepsilon<\left(1+\frac{1}{x}\right)^x<e+\varepsilon,
すなわち

  \left|\left(1+\frac{1}{x}\right)^x-e\right|<\varepsilon.
故に

  \lim_{x\to\infty}\left(1+\frac{1}{x}\right)^x=e.
[例 2]
\lim_{x\to0}\frac{\sin x}x=1.

半径 1 なる円において弧 2x を張る弦が 2\sin x であるから,これは弧,従って弦が限りなく小さくなるとき,弦と弧との比の極限が 1 に等しいというのである.これは弧長の定義(後述,§40)からの当然の帰結であるが,通常次のように説明する.

まず x>0 として証明をすれば十分である.さて 0<x<\tfrac{\pi}2 なるときは
0<\sin x<x<\tan x.
\mathrm{AB} の長さは,弧に内接する折線の長さの上限として定義されるから,それは弦 \mathrm{AB} よりも大で,折線 \mathrm{ACB} よりも小である.
従って
(1)
1>\frac{\sin x}{x}>\cos x.
さて 0<\sin x<x から,\textstyle\lim_{x\to 0}\sin x=0.故に \cos^2 x=1-\sin^2 x を用いて \textstyle\lim_{x\to 0}\cos x=1.故に (1) から標記の関係を得る.
(証終)

連続的変数に関しても,Cauchy の収束条件は適用される.それを説明するために,まず次の考察をする.

\textstyle\lim_{P\to A}f(P)=l とするならば,A に収束する任意の点列 \{P_n\},P_n\ne A,に関して \textstyle\lim_{n\to\infty}f(P_n)=l なることは明白である.さて逆に A に収束するすべての点列 \{P_n\},P_n\ne A,に関して f(P_n) が収束すると仮定する.然らば \textstyle\lim_{n\to\infty}f(P_n) は点列 \{P_n\} の選択に無関係な一定の値を有するであろう.なぜなら,もしも
P_n\to A のとき f(P_n)\to l,
P'_n\to A のとき f(P'_n)\to l'
とすれば,\{P_n\}\{P'_n\} とを合併して作られる点列(例えば P_1,P'_1,P_2,P'_2,\ldots)を \{P''_n\} と書けば,\{P''_n\}A に収束するから,仮定によって f(P''_n) も収束する.その極限を l'' とする.然らば \{f(P_n)\}\{f(P'_n)\}\{f(P''_n)\} の部分数列であるから,l=l'',l'=l''定理 3).従って l=l',すなわち極限値 l は一定である.
さてこの l に関して,P が任意に A に近づくとき,
(2)
\lim_{P\to A}f(P)=l
であることを証明することができる.それを間接法でするために,(2) を否定してみよう.(2) を否定することは何を意味するか.それは或る \varepsilon>0 が存在して任意の \delta>0 に対して
AP<\delta,P\ne A でかつ |f(P)-l|\geqq\varepsilon
なる点 P が存在することである.然らば \tfrac{1}n\,(n=1,2,\ldots) に対応して
(3)

  AP_n<\frac{1}n,\quad P_n\ne A,\quad |f(P_n)-l|\geqq \varepsilon
なる P_n が存在するはずである.さて (3) によれば点列 \{P_n\}A に収束するが,f(P_n)l に収束しない.これは不合理である.故に (2) が成り立つ.
(証終)

さて Cauchy の収束条件は次のように述べられる.

\textstyle\lim_{P\to A}f(P) が存在するために必要かつ十分なる条件は \varepsilon\delta が対応して
0<PA<\delta,\ 0<P'A<\delta なるとき |f(P)-f(P')|<\varepsilon
なることである.

実際,この条件の下において,\{P_n\},P_n\ne A,を A に収束する任意の点列とすれば,f(P_n) は収束する(定理 8).故に (2) によって \textstyle\lim_{P\to A}f(P) は存在する.条件が必要なることは明白であろう.

[附記] 
連続的変数に関する上極限,下極限
P が限りなく定点 A に近づくとき,f(P) の上極限,下極限が,数列の場合と同様に定義される.今 AP<t,P\ne A なる点 P に対応する f(P) の値の全体を f の値域と名づける.t が小さくなれば,値域は減縮するから,値域の上限 l(t) は単調に減少(不増大)し,下限 m(t) は単調に増大(不減少)する.t\to 0 のときそれらの極限 \lambda,\mu が,それぞれ上極限,下極限である.記号で書けば[* 2]
\begin{align}
  &\lambda=\varlimsup_{P\to A}f(P)=\lim_{t\to 0}(\sup_{0<AP<t}f(P)),\\
  &\mu=\varliminf_{P\to A}f(P)=\lim_{t\to 0}(\inf_{0<AP<t}f(P)).
\end{align}
故に A に収束する任意の点列 \{P_n\},P_n\ne A,から生ずる数列 f(P_n) の上極限の上限,下極限の下限がそれぞれ \lambda,\mu に等しい.\textstyle\varlimsup_{P\to A}f(P)P が限りなく A に近づくとき,f(P) がついには上越しえない最小限界で,\textstyle\varliminf_{P\to A}f(P)f(P) がついには下越しえない最大限界である.

上限,下限として \pm\infty をも許すならば,\varlimsup,\varliminf は常に確定する.

\varlimsup f(P),\varliminf f(P) が一致すれば,その共通の値はすなわち \lim f(P) である.

  1. \varepsilon\text{-}\delta 式の陳述で,\varepsilon,\delta が正数であることを一々ことわらないこともある.
  2. \sup は上限(supremum)の略記.\textstyle\sup_{0<AP<t}f(P)0<AP<t なる P に対応する f(P) の上限の意.従って,この上限は t の函数である.また \inf は下限(infimum)の略記である.近頃,英語の文獻では \sup\mathrm{l.u.b.} また \inf\mathrm{g.l.b.} とも書く.それらは最小上界(least upper bound)および最大下界(greatest lower bound)の略記である(§3 参照).



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