解析概論/第1章/数の概念

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[編集] 1.数の概念

数の概念および四則算法は既知と仮定する[* 1].初めのうちは実数のみを取扱うから一々ことわらない.次の用語は周知である.

自然数
1, 2, 3 等.物の順位または物の集合の個数を示すために用いられる.
整数
0, \pm1, \pm2 等.自然数は正の整数である.
有理数
0 および \pm\frac{a}{b},ただし a,b は自然数.b=1 なるとき,それは整数である.
無理数
有理数以外の実数.例えば
\begin{align}
 \sqrt{2} &= 1.4142135\ldots,\\
        e &= 2.718281828\ldots,\\
      \pi &= 3.1415926535\ldots,
\end{align}
(ただし,それらが有理数でないことは証明を要する.)
十進法
実数を十進法で表すことも周知である.有理数を十進法で表わせば,数字は有限か,または無限ならば循環小数になる.ただし,有限位数の十進数を循環小数の形に表わすこともできる.例えば 0.6=0.5999....無理数を十進数で表わすならば,無限の位数を要し,数字は決して循環しない.

我々が十進法によって数を表わすに至ったのは,手指の数にその原因があるのであろうが,理論上は1以外の任意の自然数を基本として,十進法と同様の方法によって,数を表わすことができる.

特に二進法では,数字は 01 とだけで足りる.有理数を二進法で表わせば,分母が 2 の巾[* 2]になるもののほかは,循環二進数になる.

[例]
\begin{align}
 \frac{5}{8} &= \frac{1}{2} + \frac{1}{2^3} = (0.101).\\[10pt]
 \frac{5}{8} &= \frac{1}{2} + \frac{1}{2^4} + \frac{1}{2^5} + \cdots = (0.100111\ldots).\\[10pt]
 \frac{2}{3} &= \frac{1}{2} + \frac{1}{2^3} + \frac{1}{2^5} + \cdots = (0.101010\ldots).
\end{align}
数の幾何学的表現
解析学では便宜上自由に幾何学の術語を流用する.例えば座標法によって実数を直線上の点で表現する.その方法は周知である.直線 XX' の上で,0 を表わす点 O は座標の原点で,また 1 が半直線 OX 上の点 E で表わされるとすれば,OE は長さの単位である.一般に x を表す点 P は,x が正あるいは負なるに従って,半直線 OX あるいは OX' の上にあって,OP の長さがすなわち x の絶対値である.それを |x| と書く.このようにして実数 x,x' が点 P,P' で表わされるならば,|x-x'|PP' の長さである. 絶対値に関する次の関係は,しばしば引用される.
|x| + |x'| \geqq |x+x'| \geqq |x| - |x'|.
これも周知である.

二つの実数 x,y を一組として,それを (x,y) と書くならば,個々の組 (x,y) と平面上の個々の点 P との間に,座標法によって一対一の対応が成立する.このとき (x,y) を点 P と略称する.通常は直交座標を用いる.

同じように,三つの実数の組 (x,y,z) は空間の一点によって表わされる.

なお一般に,n 個の実数の一組 (x_{1},x_{2},\ldots,x_{n})n 次元空間の一点といい,それを一つの文字 P で表わす.

P=(x_{1},x_{2},\ldots,x_{n}),P'=(x_{1}',x_{2}',\ldots,x_{n}') なるとき
\sqrt{(x_{1}-x_{1}')^2 + (x_{2}-x_{2}')^2 + \cdots + (x_{n}-x_{n}')^2}
なる数を P,P' の距離と略称して,それを PP' と書く.然らば‘三角関係’ PP' + P'P'' \geqq PP'' が成り立つ.もしも P を固定すれば
PP'^2=(x_{1} - x_{1}')^2 + (x_{2} - x_{2}')^2 + \cdots + (x_{n} - x_{n}')^2 < \delta
なる点 P' は,P を中心とする半径 \delta なる ‘n 次元の球’の内部にあるという.もしまた
|x_{1} - x_{1}'| < \delta,\quad |x_{2} - x_{2}'| < \delta,\quad \ldots ,\quad |x_{n} - x_{n}'| < \delta,
いい換えれば
\mathrm{Max}( |x_{1} - x_{1}'|, \ldots, |x_{n} - x_{n}'|) < \delta
ならば[* 3]P'P を中心として稜が座標軸に並行で,その長さが 2\delta なる‘n 次元の立方体’の内部にあるという.
我々は言語の短縮を欲するために,上記のような幾何学的の表現法を用いるのであるから,文字に拘泥して,n 次元空間に関して奇怪な空想をほしいままにする必要はない.しかし,このような表現法が印象を鮮明にすることの効果は,容易に承認されるであろう.

  1. 付録(I)を参照.
  2. 巾は冪の仮字(和算の用例による).
  3. \mathrm{Max}(a_{1},a_{2},\ldots,a_{n})a_{1},a_{2},\ldots,a_{n} の最大の値を表わす記号.同様に \mathrm{Min} は最小の値を示す.



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