第十「カフィズマ」


第七十聖詠[編集]

しゅよ、われなんぢたのむ、ねがはくはわれ世世よよはぢざらん。

なんぢりてわれたすけ、われまぬかれしめ、なんぢみゝわれかたぶけてわれすくたまへ。

ためけんなる避所かくれがとなりて、われつねかくるるをしめたまへ、なんぢわれすくはんことをめいぜり、けだしなんぢ防固かため能力ちからなり。

かみよ、われ悪者あくしゃより、ほうしゃおよ迫害者はくがいしゃよりすくたまへ、

けだししゅかみよ、なんぢわれのぞみなり、いとけなきよりわれたのみなり。

われはらまるるときよりなんぢまもられ、なんぢわれはゝはらよりいだせり、われなんぢげてめざらん。

おほくのものためわれかいごとものとなれり、しかれどもなんぢわれかたのぞみなり。

ねがはくはくちさんてられて、われなんぢ光榮こうえいうたひ、日日ひびなんぢげんうたはん。

ゆるときわれつるなかれ、ちからおとろふるときわれのこなかれ、

一〇けだしてきわれろんじ、たましいうかゞものあひはかりて

一一ふ、かみかれてたり、ひてかれとらへよ、すくものなければなり。

一二かみよ、われとほざかるなかれ、かみよ、すみやかわれたすたまへ。

一三たましいあだするものは。ねがはくははづかしめられてえん、われがいせんとはかものは、ねがはくははづかしめあなどりとをこうむらん。

一四たゞわれつねなんぢたのみ、ますますなんぢげん。

一五くちなんぢつたへ、日日ひびなんぢおんつたへん、けだしわれそのかずらず。

一六われしゅかみのうりょくおもひ、なんぢひとりなんぢおくせん。

一七かみよ、なんぢいとけなきよりわれおしたまへり、われいまいたるまでなんぢせきつたふ。

一八かみよ、としかみしろきまでわれてずして、なんぢ能力のうりょくに、なんぢ権能けんのうおよ将来しょうらいものつたふるにおよべ。

一九かみよ、なんぢきはめてたかし、なんぢおほいなることおこなへり、かみよ、たれなんぢたくらぶるをん。

二〇なんぢおほかつはげしきなんわれつかはせり、しかれどもまたわれを生かし、またわれふちよりいだせり。

二一なんぢわれげ、われなぐさめ、われふちよりいだせり。

二二かみよ、われきんもつなんぢなんぢ真実しんじつとを讃榮さんえいせん、イズライリのせいなるものよ、われしつもつなんぢさんしょうせん。

二三われなんぢうたときくちよろこび、なんぢすくひしたましいよろこぶ。

二四した日日ひびなんぢつたへん、けだしわれがいせんとはかものはぢこうむり、はづかしめけたり。

第七十一聖詠[編集]

ソロモンの事。(ダワィドの詠)

神よ、爾の裁判を王に賜い、爾の義を王の子に賜え、

裁判の時彼に義を以て爾の民と爾の貧しき者とを裁かしめよ。

願わくは山は民に平安を施し、邱は義を施さん、

願わくは彼は民の貧しき者を判き、乏しき者の子を救い、暴虐者を抑えん。

日月の在る間、人々爾を世々に畏れん。

彼は芟りたる草場に降る雨の如く、土を潤す雨滴の如く降らん。

彼の日には義人榮え、多くの平安ありて月の畢るに至らん。

彼は宰どること海より海に至り、河より地の極に至らん。

曠野に居る者は彼の前に俯伏し、彼の敵は塵を舐めん。

一〇ファルシスと島々との諸王は貢ぎを彼に獻げ、アラワィヤとサワとの諸王は禮物を奉らん。

一一列王彼に伏拝し、萬民彼に奉事せん、

一二蓋彼は貧しき者と呼ぶ者と苦しめられて助けなき者とを援けん。

一三彼は貧しき者と乏しき者とを憐れみ、乏しき者の霊を救わん、

一四其の霊を詭詐と暴虐より援けん、其の血は彼の目の前に寶とならん。

一五彼は生活せん、人々アラワィヤの金を以て彼に饋り、恒に彼の爲に祈祷し、日々彼を崇め讃めん。

一六地には穀物豊かならん、山の頂には其の穂の揺くことリワンの林の如く、城邑には人の殖ゆること地の草の如くならん。

一七彼の名は崇め讃められて世々に至らん、日の在る間は彼の名伝わらん、地上の萬族は彼に縁りて福を獲、萬民は彼を称讃せん。

一八主神、イズライリの神、独り奇迹を行う者は崇め讃めらる、

一九彼の光榮の名も世々に崇め讃めらる、全地は彼の光榮に満てられん。「アミン」、「アミン。」

光榮讃詞
イエセイの子ダワィドの祈祷畢れり。

第七十二聖詠[編集]

アサフの詠。

神は何ぞイズライリ人に、心の浄き者に仁慈なる。

唯我は我が足幾んど躓き、我が歩み殆ど失えり、

我悪者の安楽を見て、狂妄の者を嫉めり、

蓋彼等は死に至るまで苦しみなく、其の力も健やかなり、

彼等は人の苦労に与らず、人と偕に撃たれず。

故に驕慢は彼等を環ること首飾りの如く、強暴は彼等を纏うこと衣の如し、

其の目は其の肥えたるに因りて出で、其の思いは心の中に彷徨う、

嘲りて息めず、悪を懐きて讒言を敷き、高ぶりて言う、

其の口を天に騰げ、其の舌は地に往来す。

一〇故に主の民も彼処に向かい、満ちたる器より水を飲みて

一一云う、神は如何にして知らん、至上者に知ることあるか。

一二視よ、此の悪者は斯の世に安楽して、其の財を増す。

一三我は謂えり、我豈に徒に我が心を浄め、我が手を無罪の中に盥い、

一四毎日傷を受け、毎朝責めを被りしに非ずや。

一五然れども我若し此くの如く計らんと云はば、我爾の諸子の族の前に罪を得ん。

一六我思えり、如何にして之を悟らん、唯是れ我が目の前に難くして、

一七我が神の聖所に入りて、彼等の終わりを悟るに及べり。

一八然り、爾彼等を滑らかなる途に立てて、彼等を淵に陥し入る。

一九何ぞ彼等は俄に壞れ、消え、懼れに依りて滅びたる。

二〇夢の覚むるが如く、主よ、爾彼等を覚まして、其の想像を消さん。

二一我が心の沸き、我が中情の裂くる時、

二二我無知にして悟るなく、畜の如く爾の前に在りき。

二三然れども我は常に爾と偕にし、爾は我が右の手を執る、

二四爾の訓諭にて我を導き、後我を光榮に納れん。

二五天には我に誰かある、地にも爾と偕にせば願う所なし。

二六我が身と我が心とは弱れり、神は我が心の固めなり、世々に我の分なり。

二七蓋視よ、爾に遠ざかる者は亡び、凡そ爾に離るる者は爾之を滅ぼす。

二八我に在りては神に近づくは善し。我主神に我が恃みを負わせたり、爾悉くの行爲をシオンの女の門の内に伝へん爲なり。

第七十三聖詠[編集]

アサフの教訓きょうくん

かみよ、なんれぞながわれて、なんぢいかりはなんぢくさひつじえたる。

なんぢいにしへよりたるかいあがなひてなんぢぎょうへいとなししものすなはちなんぢところのシオンざんおくせよ。

なんぢあし歴代れきだいやぶれあとうごかせ、てき聖所せいしょおいことごとこぼてり。

なんぢてきなんぢかいうちえ、はたへておのれ記號しるしてたり。

おのれあらはすこと、たかおのげてまじはりたるえだらんとするものごとくせり。

いまかれおのもつまさかりもつて、いちことごとくの彫刻ほりものこぼてり。

なんぢ聖所せいしょし、まつたなんぢ住所すまひけがせり。

そのこゝろへり、まつたかれやぶらんと、つひじょうにあるかみかいところことごとけり。

われはたず、預言者よげんしゃすでになし、われうちたれくのごときことのいづれれのときいたらんとするをものなし。

一〇かみよ、てきそしることいづれときいたらんか、あだながなんぢあなどらんや。

一一なんぢなんれぞなんぢなんぢみぎくる、なんぢふところうちよりかれたまへ。

一二かみせいよりのおうすくひなかものよ、

一三なんぢおのれちからもつうみき、なんぢへびかしらみづうちくだけり。

一四なんぢわにかしらくだき、これこうひとあたへてしょくとなせり。

一五なんぢいづみながれとをいだし、なんぢおほいなるかわかららせり。

一六ひるなんぢぞくし、よるなんぢぞくす、なんぢもろもろひかりとをそなへたり。

一七なんぢことごとくのさかいて、なつふゆとをもうけたり。

一八おくせよ、てきしゅそしり、無智むちたみなんぢあなどる。

一九なんぢ班鳩やまばとたましい野獣やじゅうとうずるなかれ、ながなんぢまづしきものかいわするるなかれ。

二〇なんぢやくかへりみよ、けだしおよくらところ強暴きょうぼう住所すまいてられたり。

二一迫害はくがいせられしものはぢかへらしむるなかれ、ねがはくはまづしきものとぼしきものとはなんぢげん。

二二かみよ、きてなんぢことまもれ、無智むちもの日日ひびなんぢそしるをおくせよ、

二三なんぢてきこえわするるなかれ、なんぢさかもの譁騒さわぎおこりてまず。

光榮讃詞

第七十四聖詠[編集]

伶長れいちょううたはしむ。ほろぼなかれ。アサフのえいうた

かみよ、われなんぢ讃榮さんえいし、なんぢ讃榮さんえいす、けだしなんぢちかし、なんぢせきこれしめす。

われときえらびて、もつ審判しんぱんおこなはん。

これものみなうごく、われそのはしらけんにせん。

われ無智むちものふ、無智むちおこななかれ、悪者あくしゃふ、つのぐるなかれ、

たかなんぢつのぐるなかれ、かたくなかみことなかれ、

けだしたかくするはひがしるにあらず、西にしるにあらず、こうるにあらず、

すなはちかみ審判者しんぱんしゃにして、かれひくくし、これのぼす。

けだししゃくしゅり、まじりあるさけそのうちき、かれこれよりむ、ことごとくの悪者あくしゃそのかすをもしぼりてこれまん。

一〇ただわれながつたへて、イアコフのかみうためん、

一一悪者あくしゃつのわれことごとこれらん、義者ぎしゃつのげられん。

第七十五聖詠[編集]

伶長に琴を弾きて歌わしむ。アサフの詠。歌。

神はイウデヤに知られ、其の名はイズライリに大いなり。

三一其の住所はサリムに在り、其の居所はシオンに在りき。

彼は彼處に於いて弓の矢と盾と剱と戦いとを壞れり。

爾は光榮なり、爾の能力は掠め者の山に勝る。

心の剛き者は獲物となり、其の寝るを以て寝ねたり、力の壮んなる人は皆其の手を尋ねて得ざりき。

イアコフの神よ、爾の恐嚇に由りて車も馬も眠りに就けり。

爾は畏るべし、爾が怒りの時孰か爾が顔の前に立たん。

爾は天より審判を告げしに、地は懼れて鎮まれり、

一〇此れ神が審判の爲に起きて、凡そ地に迫害せらるる者を救わん時に在り。

一一人の怒りも爾の光榮に帰せん、怒りの余りは爾之を止めん。

一二主爾等の神に誓いを作して償えよ、凡そ彼を繞る人は畏るべき者に禮物を獻ぐべし。

一三彼は牧伯の気を抑う、彼は地の諸王の爲に畏るべし。

第七十六聖詠[編集]

イディフムの伶長に歌わしむ。アサフの詠。

我が聲神に向かう、我彼に呼ばん、我が聲神に向かう、彼我に聆かん。

我憂いの日に主を尋ぬ、我が手は夜中伸びて下らず、我が霊は慰めを辭む。

我神を記憶して戦き、之を想いて我が霊弱る。

爾我に目を閉ずるを許さず、我顫いて、言う能わず。

我古の日、過ぎ去りし世の年を思い、

我が夜間の歌を記憶し、我が心と謀り、我が霊は尋ぬ、

豈に主は永く棄てて、復恩を加えざるか、

豈に其の憐れみは永く息みて、其の言葉世々に絶えしか、

一〇豈に神は憐れむことを忘れしか、豈に怒りを以て其の仁慈を塞ぎしか。

一一我謂えり、是れ我の憂いなり、至上者の右の手の変易なり。

一二我主の作爲を記憶し、爾が古の奇迹を記憶せん、

一三我爾が悉くの作爲を思い、爾の大いなる行いを考えん。

一四神よ、爾の途は聖なり。何の神か我が神の如く大いなる、

一五爾は奇迹を行う神なり、爾は己の能力を諸民の中に顕わせり、

一六爾は臂を以て爾の民イアコフ及びイオシフの諸子を援け給えり。

一七神よ、水は爾を見、水は爾を見て懼れ、淵は戦けり。

一八雲は水を注ぎ、黒雲は雷を出し、爾の矢は飛べり。

一九爾の雷の聲は穹蒼にあり、稲妻は世界に閃き、地は動きて震えり。

二〇爾の途は海にあり、爾の小径は大水にあり、爾の蹟は測り難し。

二一爾はモイセイとアアロンとの手を以て、爾の民を羊の群の如く導き給えり。

光榮讃詞