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十二問答

じふ問答もんだふ

〈この問答の問者は禪勝房或は隆寛律師なりと云ひ所傳判然せずと雖も十二問答中第三、第五、第六、第十、第十二の五問答は勅傳第四十五巻に禪勝房との問答として載す〉


【一】問曰とひていはく、「八宗はつしうしうほかじやうしうをたつるこというでうかなとしうひとまをしさふらふをば、いかゞまをさふらふべき」

こたふ、「しうたつることは、ほとけせつにあらず。みづから心ざすところのきやうげうにつきて、そのをしゆるをさとりきはめて、しうをばはんずることなり諸宗しよしうならひみなもてかくのごとし。いまじやうしうをたつることじやうしやうきやうにつきて、わうじやう極樂ごくらくをさとりきはめてをはします先達せんだつの、しうをばたてたまへるなりしうのをこりをしらざるものゝやうことまをさふらふなり

【二】問曰とひていはく、「ほつ眞言しんごんとうをば、ざふぎやうにはいるべからずと人々ひとまをしさふらふをばいかゞこたへさふらふべき」

こたふ、「しん先德せんとく一代いちだい聖敎しやうげう要文えうもんをあつめて『わうじやう要集えうしふ』をつくりたまへるなか十門じふもんをたつ。そのだいわうじやう諸業門しよごふもんほつ眞言しんごんとう諸大しよだいじようきやうをいれたまへり。しよぎやうざふぎやうことばことにしてこころおなじ。いまの難者なんじやしん先德せんとくにまさるべからざるものなり

【三】問曰とひていはく、「ぶつきやうにつきて、善根ぜんごんしゆせんひと結緣けちえんじよじやうさふらはんことざふぎやうまをしさふらふべきか」

こたふ、「わがこころ彌陀みだほとけのほんぐわんじようけつぢやうわうじやうしんをとるうへえには、善根ぜんごん結緣けちえんじよじやうせんことは、またざふぎやうになるべからず。わがわうじやう助業じよごふとなるべきなり善根ぜんごんずゐ讃嘆さんだんせよとしやくたまへるをもてこころうべきことなり

【四】問曰とひていはく、「極樂ごくらくほん差別しやべつさふらふ御事おんことは、阿彌陀あみだほとけのかまへさせたまへることにてさふらふやらん」

こたふ、「極樂ごくらくほん彌陀みだほんぐわんにあらず十八じふはちぐわんなかにもなし。これはしゃくそんきやうごんなり善人ぜんにん惡人あくにん一所いつしよにむまるゝといはゞ、惡業あくごふのものども慢心まんしんををこすべきがゆへにほん差別しやべつをあらせて、善人ぜんにんじやうぼんにすゝみ、惡人あくにんぼんにくだるとときたまへるなり。いそぎまいりてみるべし」

【五】問曰とひていはく、「かいぎやうじや念佛ねんぶつへんのすくなくさふらはんと、かいぎやうにん念佛ねんぶつへんのおほくさふらはんと、わうじやうのちくらゐ淺深せんじん、いづれかすゝみさふらふべきや」

こたふ、「すわりてましますたたみををさへてのたまはく、このたたみのあるによりてこそ、やぶれたるか、やぶれざるかといふことはあれ。つやなからんたゝみをば、なにとかろんずべき。末法まつぽふなかにはかいもなくかいもなし。たゞみやう比丘びくばかりありと、傳敎でんげうだいの『末法まつぽふとうみやう』にかきたまへるうへには、なにとかいかい沙汰さたをばすべきぞ。かゝるひらぼんのために、をこしたまへるほんぐわんなればとて、いそぎみやうがうしようすべし」

【六】問曰とひていはく、「念佛ねんぶつぎやうじや日別にちべつしよにをいて、こゑをたてゝまをひとさふらふまたこころねんじてかずをとるひとさふらふ。いづれかよくさふらふべき」

ことふ、「それはくちにてとなふるもみやうがうこころにてねんずるもみやうがうなれば、いづれもわうじやうごふとはなるべし。たゞしほとけほんぐわんは、稱名しようみやうぐわんなるがゆへに、こゑをたてゝとなふべきなり。このゆへにきやうには「こゑをしてえざらしめ十念じふねんそくす」ととき、しやくには、「みやうがうしようし、しもじつしやういたる」とのたまへり。みみにきこゆるほどかうしやう念佛ねんぶつにとるなり。さればとてげんをしらず、かうしやうなるべきにはあらず。たいこゑいださんとおもふべきなり

【七】問曰とひていはく、「日別にちべつ念佛ねんぶつへん相續さうぞくにいるほどはいかゞはからひさふらふべき」

こたふ、「善導ぜんだうおんしやくによるに、一萬いちまんじやう相續さうぞくにてさふらふべし。ただ一萬遍いちまんべんをもいそぎまをして、さてそのをくらさんことはあるべからず。一萬遍いちまんべんなりとも、一日いちにちいちしよとすべきなりそうじては一食いちじきあひださんばかりおもひいださんは、よき相續さうぞくにてあるべし。それはしゆじやうこんじやうどうなれば、いちじゆんなるべからず。こころざしだにふかければねん相續さうぞくはせらるゝなり

【八】問曰とひていはく、「『禮讃らいさん』の深心じんしんなかには、『じつしやういつしやうかならわうじやうない一念いちねんしんあることなし』としやくし、またしよ』の深心じんしんなかには、『念々ねんてざる、これ正定しやうぢやうごふづく』としやくたまへり。いづれかわがぶんには、おもひさだめさふらふべき」

こたふ、「『じつしやういつしやう』のしやく念佛ねんぶつしんずるやう、『念々ねんてざる』のしやく念佛ねんぶつぎやうずるやうなり。かるがゆへにしんをば一念いちねんにむまるととりて、ぎやうをばいちぎやうにはげむべしとすゝめたまへるしやくなりまたたいは、『ひとたび發心ほつしんして已後いごちかひてしやうをはるまで退轉たいてんあることなく、ただじやうもつとなせ』のしやくとすべきなり

【九】問曰とひていはく、「ほんぐわん一念いちねんは、じんじやうにも、りんじゆにもともにつうさふらふべきか」

こたふ、「一念いちねんぐわんはいのちのつゞまりて、ねんにをよばざるのためなりじんじやうつうずべくば、じやうじんいちぎやうしやくあるべからず。このしやくをもてこころうるに、かならずしも一念いちねんほんぐわんといふべからず。『念々ねんてざるこれ正定しやうぢやうごふなづく。ほとけぐわんじゆんずるがゆゑに』としやくたまへり。このしやくへんつもらんも、ほんぐわんとはきこえたれば、たゞほんぐわんにあふそくどうなれば、『かみいちぎやうつくしも一念いちねんいたる』とをこしたまへるほんぐわんなりこころうべきなり。かるがゆへに念佛ねんぶつわうじやうぐわんとこそ善導ぜんだうしやくたまへ」

【十】問曰とひていはく、「りきりきことはいかがこころさふらふべき」

こたふ、「源空げんくう殿でんじやうへまいるべきりやうにてはなけれども、かみよりめせば二度にどまでまいりたりき。これはわがまいるべきしなにてはなけれども、かみおんちからなり。まして阿彌陀あみだほとけのおんちからにて、しようみやうぐわんにこたへて、來迎らいかうせさせたまはんことは、なんのしんかあるべき。わがつみをもくて無智むちなれば、ほとけもいかにしてかすくひたまはんなどおもはんものは、つやつやほとけぐわんをしらざるものなり。かゝる罪人ざいにんどもを、やすとたすけすくはんれうに、をこしたまへるほんぐわんみやうがうをとなへながら、ちりばかりもうたがふこころはあるまじきなり十方じつぱふしゆじやうのことばのなかに、有智無智うちむちざいざい善人惡人ぜんにんあくにんかいかいなん女人によにん三寶滅盡さんぽうめつじんのちひやくさいまでのしゆじやうみなこもるなり。かの三寶滅盡さんぽうめつじんとき念佛者ねんぶつしやと、たうばうたちとくらぶればたうばうたちほとけのごとし。かのときひとのいのちはたゞ十歲じつさいなりかいぢやう三學さんがくたゞをだにもきかず。そうじていふばかりなきものともの、來迎らいかうにあづかるべきだうをしりながら、わがのすてられまいらすべきさまをば、いかにしてかあんいだすべき。たゞ極樂ごくらくのねがはしくもなく、念佛ねんぶつまをされざらんことのみぞ、わうじやうのさはりにてはあるべけれ。かるがゆへにりきほんぐわんともいひ、てうぐわんともいふなり。」

【一一】問曰とひていはく、「じやうとう三心さんじんさふらふべきさまをば、いかゞおもひさだめさふらふべき」

こたふ、「三心さんじんすることは、たゞべつやうなし。阿彌陀あみだほとけのほんぐわんに、わがみやうがうしようねんせば、かならず來迎らいかうせんとおほせられたれば、引接いんぜふせられまいらせんずるぞと、ふかくしんじてこころねんくちしようするにものうからず。すでにわうじやうしたるここして、さい一念いちねんにいたるまでたゆまざるものは、ねん三心さんじんそくするなりまたざいものどもは、これほどまでおもはざれども、たゞ念佛ねんぶつまをもの極樂ごくらくにむまるなればとて、つねに念佛ねんぶつをだにもまをせば、そらに三心さんじんそくするなり。さればこそいふにかひなきものどものなかにも、神妙しんめうなるわうじやうをばすることにてあれ」

【一二】問曰とひていはく、「臨終りんじう一念いちねんは、ひやくねんごふにすぐれたりとまをすは、平生へいぜい念佛ねんぶつなかに、臨終りんじう一念いちねんほどの念佛ねんぶつをばまをしいだしさふらふまじくさふらふやらん」

こたふ、「三心さんじんそく念佛ねんぶつは、おなじことなり。そのゆへは、觀經くわんぎやうにいはく、『三心さんじんするものかならくにしやうず』といへり。ひつもんのあるゆへに臨終りんじう一念いちねんとおなじことなり

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