法の書

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Chapter I[編集]

1.〈ハド〉!〈ヌイト〉の顕現。

2. 天の一座の幕開け。

3. いずれの男もいずれの女も星である。

4. あらゆる数は無限だ。違いなどない。

5. 手をお貸し、〈テーベ〉の戦主(いくさあるじ)よ、人の〈子等〉を前にしてのわが開帳に!

6. なんじこそ〈ハディート〉、わが秘密の中心、わがハートにしてわが舌なれ!

7. ごらん!これは〈ホオル=パアル=クラアト〉の使者たる〈アイワス〉の開示するところ。

8. 〈カブス〉は〈クー〉の中にあるのだ、〈クー〉が〈カブス〉の中にあるのではない。

9. なれば〈カブス〉を拝せよ、そしておまえに降りかかるわが光を視よ!

10. わが奴僕(しもべ)は少数かつ秘密にしておくがいい。かれらが多数にして既知の者を統べるのだ。

11. これらは人々の崇める愚者だ。かやつらの〈神々〉も人々も愚者なのだ。

12. 出ておいで、子どもたちよ、星々の下へ、そして愛に胸ふくらませるがいい!

13. わたしはおまえの上にもおまえの中にもいる。わがエクスタシーはおまえのエクスタシーのうちにある。わがよろこびはおまえのよろこびを視ること。

14. 頭上、宝石ちりばめたる碧天は

〈ヌイト〉の裸形のかがやき。

〈ハディート〉の秘めたる熱情に口づけせんと

かの女はエクスタシーのうちに身をたわむ。

翼ある球も、星空の青も、

わがものなり、〈アンク=アフ=ナ=コンス〉よ!

15. なんじら今こそ識るべし、無限空間の選ばれし司祭にして使徒たるは、〈獣〉なる君主=司祭なり、しかして〈緋色の女〉と称さるるかの者の女に、もろもろの力授けられたり。かれらはわが子どもたちを寄せ集めて一団とするだろう。かれらは人々の心に星々の栄光をもたらすだろう。

16. かれはいつでも太陽であり、かの女は月なのだから。のみならずかれには翼ある秘密の炎があり、かの女には湾曲する星かげが。

17. だがおまえたちはかのように選ばれた者ではない。

18. かれらの眉の上で赫々たれ、輝かしい蛇よ!

19. 碧き瞼の女よ、かれらの上で身をたわめよ!

20. 諸儀式の鍵はわたしがかれに授けた秘密のことばにある。

21. 〈神〉と〈崇拝者〉にとってわたしは無だ。かれらにはわたしが見えない。かれらは地上にいるかのようだ。わたしが〈天〉であり、わたしと、わが主〈ハディート〉のほかに〈神〉はいない。

22. かくてわたしは、おまえたちには〈ヌイト〉の名で、かれには秘密の名で識るところとなる。その名はかれがついにわたしを識る時に授けるとしよう。わたしは〈無限空間〉であり、その〈無限の星々〉なのだから、おまえたちもかのように為せ。何も束縛するな!おまえたちにおいては、何かと何かの間に違いが設けられることのないようにせよ。それによって害が生ずるからだ。

23. だが茲において有為(ゆうい)な者あれば、その者を万人の長とするがいい!

24. わたしは〈ヌイト〉にして、わがことばは六と五十。

25. 割り、足し、掛けよ、さらば了得せん。

26. しこうして麗しき者の預言者にして奴僕、かく言えり。われ何者なりや、何をかその徴となすべきや?そこでかの女はかれに答えた。身をたわませ、ゆらめく青い炎さながらに、すべてに触れ、すべてに浸透し、そのうつくしい手は黒い地に載せ、そのしなやかな身体は愛のために弓なりとなり、そのやわらかな足はちいさな花々を傷つけまいとしながら。おまえは識っている!徴はわがエクスタシーであり、存在の連綿たる意識であり、わが身体の遍在であるはずだ。

27. すると司祭は〈空間の女王〉に答えて言った。かの女のうつくしい額と、かれの総身を甘く匂う汗の芳香に浸らせるかの女の光の露に口づけしながら。〈ヌイト〉よ、〈天〉の連綿たる者よ、常しえに、人々がおんみのことを〈一者〉ではなく〈誰でもない者〉として語らんことを。かれらがおんみのことを毫も語らざらんことを、おんみの連綿たるがゆえに!

28. 〈誰でもない者〉、星々の、朧にして夢幻なる、光を呼吸して、すなわち二つ。

29. というのもわたしは愛がために分かたれているのだ、ひとつになる機会をまちうけて。

30. これが世界の創造だ。そこでは分裂の苦痛は無きにひとしく、溶解のよろこびしかない。

31. これら人なる愚者たちとその苦悩などおまえは聊かも気にかけないからだ!かやつらはほとんど感じない。それは少なくとも弱々しいよろこびには釣り合っている。だがおまえたちはわが選ばれし者なのだ。

32. わが預言者に従え!わが知識の試練をやり通せ!わたしだけを求めよ!さすればわが愛のよろこびはおまえたちをあらゆる苦痛から救い出すことだろう。これはほんとうだ。わたしは誓う、わが身体の穹窿にかけて、わが聖なるハートと舌にかけて、わたしの与えうるすべてにかけて、わたしがおまえたち皆に望むすべてにかけて。

33. すると司祭は深いトランスないし失神状態に陥り、〈天の女王〉に言った。わたしたちに諸試練を書き記したまえ、わたしたちに諸儀式を書き記したまえ、わたしたちに法を書き記したまえ!

34. だがかの女は言った。試練のことはわたしは書かぬ。儀式は半ば知られ半ば匿されてあるべし。法は万人のためのもの。

35. おまえの書くこれが三部の法の書だ。

36. わが筆記者〈アンク=アフ=ナ=コンス〉、君主たちの司祭よ、一字たりともこの書を変えてはならぬ。ただし莫迦げたことのないように、〈ラ=ホオル=ク=イト〉の智慧をもって、これについてかれに注釈させるとしよう。

37. マントラと呪文。オーベアとワンガ。棒の業と剣の業。これらもかれに学ばせ教えさせよう。

38. かれは教えねばならないが、試練は厳格にしてもよい。

39. 〈法〉のことばは θελημα (テレーマ)である。

40. われらを〈テレミート〉(セレマイト)と称える者は、ことばを入念に吟味するならば、過誤をおかすことはなかろう。というのもそこには〈隠士〉、〈恋人〉、〈地〉の人という〈三位階〉があるからだ。おまえの意志することを行え、を〈法〉の総てとすべし。

41. 〈罪〉のことばは〈制限〉である。男よ!おまえの妻を拒むな、それがかの女の意志ならば!おお恋人よ、おまえの意志ならば、去るがいい!分かたれたものをひとつにしうる絆は愛のほかにない。それ以外はみな詛(のろ)いだ。忌まわしい!未来永劫詛われてあれ!あな憎。

42. 束縛(いまし)められた嫌悪(みにく)い多衆の状(さま)など放っておけ。おまえとて万事同じこと。おまえにはおまえの意志することを為すほかに何の権利もないのだ。

43. 之を為せ、さらば他の何者も否と言わざるべし。

44. 目的に鈍らされず、結果への欲望から解き放たれた純粋な意志は、あらゆる点で完璧だからだ。

45. 〈全きもの〉と〈全きもの〉とはひとつの〈全きもの〉であって二つではない。否、ひとつとてない!

46. 無がこの法の秘密の鍵だ。ユダヤ人はそれを六十一と呼ぶ。わたしはそれを八、八十、四百と十八と呼ぶ。

47. だがそれでは一半にすぎない。すべて消えうせるようにおまえの術(アート)によってひとつにせよ。

48. わが預言者はその一人、一人、一人にとってはひとりの愚者だ。かれらはまとめて一匹の雄牛ではないのか、〈書〉によればひとりですらないのではないか?

49. あらゆる儀式、あらゆる試練、あらゆることばと記徴は廃せられた。〈ラー=ホオル=クイト〉は〈神々の春秋分点〉において〈東〉の座に即いた。そして〈アサール〉を〈イサ〉と同伴させよ。かれらもまたひとつ。だがかれらはわが属ではない。〈アサール〉は崇拝される者とし、〈イサ〉は受難者とせよ。秘密の名をもつ輝かしい〈ホオル〉が秘儀伝授(イニシエート)する〈主〉である。

50. 〈ハイエロファント〉の務めについて言うべきことばがある。視よ!ひとつになった三つの試練があり、それは三様に与えてよい。粗悪なる者は火をくぐりぬけねばならない。精良なる者は知性の試練を、高尚なる選ばれた者は最高度の試練を受けさせよ。こうしておまえたちはさまざまの星、さまざまの系を持つ。誰かひとりにあまり他の者のことを知らせてはならない!

51. ひとつの宮殿に通ずる四つの門がある。その宮殿の床は銀と金でできている。そこには瑠璃(ラピス・ラズリ)と碧玉(ジャスパー)とがある。あらゆる希少な香、素馨(ジャスミン)と薔薇、死の紋章がある。かれを順々にまたは一度に四つの門をくぐらせよ。宮殿の床に立たせよ。かれは沈まないだろうか?アムン。ホ!戦士よ、もしもおまえの奴僕が沈んだらどうする?だが手段はいろいろとある。それならば美々(びび)しくあるがいい。おまえたちみな上等の衣服で着飾るがいい。豊潤なる食物を食し、泡の沸き立つ甘いワインの数々を飲め!かつまた、おまえたちの意志する時、意志する処で、意志する相手とともに、意志するままにあふれんばかりの愛、愛の意志を享楽せよ!ただし常にわたしに向けて。

52. もしこれが正からざれば、もしおまえたちがスペースマークを混同して、「それらはひとつである」と言ったり「それらは多数である」と言ったりすれば、もしも儀式が常にわたしに向けられているのでなければ、〈ラ・ホール・クイト〉の恐るべき裁きが下ると思え!

53. これが世界を再生することだろう、わが妹なる小さな世界を、わがハートにしてわが舌よ、おまえにこの口づけを送ろう。なおまた、筆記者にして預言者よ、おまえは君主たちの属ではあるが、そのことでおまえが慰撫されるわけでも免罪されるわけでもあるまい。だがエクスタシーはおまえのものであり地のよろこびである。常にわたしに向けて!わたしに向けて!

54. 一字も字形を変えてはならない。なんとなれば視よ!預言者よ、おまえはそこに隠されたこれらの秘義をみなまでも視ることはないのだ。

55. おまえの内奥の子、その者がそれを視るのだ。

56. その者は〈東〉から来るのでも〈西〉から来るのでもないと思え。その子は思いもよらぬ家からやって来るからだ。オーム!すべてのことばは神聖でありすべての預言者は真正である。かれらは少しばかり理解しているだけなのだが。等式の前半を解き、後半は手つかずのままにしておけ。だがおまえは明晰な光の中にすべてを有し、すべてとは限らないが一部は闇の中にある。

57. わが星々の下でわたしに呼びかけよ!愛こそ法である、意志の下の愛こそ。なれば愚者たちが愛を取り違えぬようにせよ。愛にもいろいろあるからだ。鳩もいれば蛇もいる。おまえたちしっかり選ぶがいい!かの者、わが預言者は、砦の法を識り、〈神の家〉の大いなる秘義を識った上で、選んだのだ。

わが〈書〉にあるこれら古い文字はみな正しい。だが צ< (ツァディ)は星ではない。これまた秘密である。わが預言者が賢い者にはこれを明かすだろう。

58. わたしは地上に想像しえぬほどのよろこびを与える。信仰ではなく確信を、生のさなかにおいても死に際しても。名状しがたい平安を、休息を、エクスタシーを。それでもわたしは何の贄も要求しない。

59. わが香は樹脂をふくむ木とゴムでできており、血は入っていない。わが髪は〈永遠〉の樹木だからだ。

60. わが数は11、これはわれらが属である者たちの数のすべてと同じ。〈中央〉に〈円〉のある〈五点星〉、円は〈赤〉。わが色は盲者には黒いが、見者には青と金と見える。その上、わたしを愛する者らにとっては、わたしには秘密の栄光がある。

61. ともかく、わたしを愛するということはなにごとにも勝るのだ。砂漠の夜の星々の下で今すぐにでもわが前にわが香を焚き、蛇の炎やどす純粋なハートでもってわたしに呼びかけるならば、おまえはわが懐の中でしばし休らうことになろう。そうしてひとたびの口づけのためにおまえはすべてを与えることを意志するようになろう。だが塵のひとかけらなど与えようものならその時にすべてを失うだろう。おまえたちは種々(くさぐさ)の品々を集め、多くの女と香辛料とを蓄えるがいい。おまえたちは高価な宝石を身に着けるがいい。おまえたちは輝かしく誇らかに地の諸国民を凌ぐがいい。ただし常にわたしを愛しながら、そうすればおまえたちはわがよろこびを得るだろう。わたしは心よりおまえに命ずる、単衣(ローブ)を着て、豪華な頭飾りに被われて、わが前に来たれ。おまえが愛しい!おまえが恋しい!あるいは蒼白(ペイル)あるいは紅顔(パープル)、あるいはヴェールに覆われあるいは艶かしい、悦楽と紫色にそまったわたし、最奥の意味で酩酊であるところのわたしは、おまえを欲している。翼をつけ、おまえの内のとぐろ巻く光輝を目覚めさせよ。わたしの方へ来たれ!

62. わたしがおまえと出会うそのたびに女司祭はこう言うだろう -- かつまたかの女がわが秘密の神殿の中で裸になり喜悦して立つ時、かの女の眼は欲望に燃え上がるだろう -- わたしへ!わたしへ!と。かの女の愛の讃美歌で万人のハートにある炎を呼び起しながら。

63. わたしのために歓喜の愛の唄を歌え!わたしのために香を焚け!わたしのために宝石を身につけよ!わたしのために飲め、わたしはおまえを愛しているのだから!おまえを愛しているのだ!

64. わたしは青い瞼をした日没の娘。わたしは艶かしい夜空の裸形のかがやき。

65. わたしへ!わたしへ!

66. 〈ヌイト〉の〈顕現〉ここに終わる。

Chapter II[編集]

1. 〈ヌー〉!〈ハディート〉の潜伏。

2. 来たれ皆の者、いまだ明かされていない秘密を学べ。己〈ハディート〉はわが花嫁〈ヌー〉を補完するもの。己には広がりなく、〈カブス〉がわが〈家〉の名である。

3. 天球内では己はどこでも中心だが、かの女は円周であり、どこにも見出されない。

4. だがかの女は識られることとなろうが、己が識られることはない。

5. 視よ!旧時代の儀式は黒きものだ。悪しきものは除かれ、良きものは預言者の手で清められるがいい!そうしてこの〈知識〉は正されよう。

6. 己はすべての人のハートの中で燃える炎、すべての星の核の中で燃える炎である。己は〈生命〉、〈生命〉の与え手、だがそれゆえに、己を識るということは死を識ることだ。

7. 己は〈マジシャン〉にして〈エクソシスト〉。己は車輪の軸、円の中の立方体。「わたしのほうへ来たれ」とは愚かしいことばだ。行くのは己だからだ。

8. 〈ヘル=パ=クラアス〉を拝した者らが己を拝してきた。よろしからぬことだ。己が崇拝者なのだから。

9. 覚えておくがいい皆の者、存在は純粋なよろこびであり、凡そかなしみとは影のようなものにすぎないのだ。それは過ぎ去るが、残るものがある。

10. 預言者よ!おまえにはこの書物を学ぼうという邪な意志があるな。

11. おまえは手と筆とが厭わしいと見える。だが己はもっと強いのだ。

12. おまえの識らぬ〈なんじ〉の中に己はいるのだから。

13. なぜと言って、おまえが認識者だということは、つまり己なのだ。

14. さあこの聖堂にヴェールをかけよ。光が人々を呑みこみ見境なく食い尽くすがいい!

15. というのも己は〈否〉なれば完全なのだ。わが数は愚かな者によれば九だが、義しい者には己は八であり、八のうちの一である。これは核心を衝いている、というのは己は実はどれでもないのだ。女帝と王はわが属ではない。さらに秘密があるのだ。

16. 己は〈女帝〉にして〈ハイエロファント〉。ゆえに十一である。わが花嫁が十一であるように。

17.聴け、なんじらなげきの民よ!

辛きこと口惜しきことは

死ぬる者に死にかけたる者、

未だにわれを識らざる徒輩にゆだねらる。

18. こやつらは死んでいる、こやつばらは。かやつらは感じないのだ。われらは惨めで哀れな者など気にかけない。地の君主らこそわれらが族(うから)なのだ。

19. 犬の中に〈神〉が住まうことがあるか?否!だが最上の者らはわれらが属だ。よろこぶがいい、われらが選ばれし者よ。なげきかなしむ者はわれらが属ではない。

20. 美しさと強さと、哄(どよめ)きわらいと快いけだるさと、力と火とは、われらがもの。

21. われらは落伍者や不適格者とは何のかかわりもない。かやつらなど惨めに死ぬがままにしておけ。かやつらは感じないのだから。同情は王たちの悪徳だ。哀れな者や弱者など踏みつぶしてしまえ。これが強者の法だ。これがわれらが法にして世界のよろこびだ。案ずるな王よ、〈なんじかならず死すべし〉というあの嘘のことなど。まことになんじ死すべからず、生くべし。今こそ理解されんことを。〈王〉は、その身が分解すれば純粋なるエクスタシーのうちに永しえに存続するのだと。〈ヌイト〉!〈ハディート〉!〈ラ=ホオル=クイト〉!〈太陽〉(ザ・サン)、〈強さ〉(ストレングス)と〈眼力〉(サイト)、〈光〉(ライト)、これらは〈星〉と〈蛇〉の奴僕たちのためのものだ。

22. 己は〈知識〉と〈快楽〉と輝かしい栄光とをもたらし、酩酊によって人々のハートを揺さぶる〈蛇〉である。己を拝するならワインと奇薬(ストレンジ・ドラッグ)を服せよ。これについてはわが預言者に教えるとしよう。そしてそれで酩酊せよ!それがおまえたちを傷つけることなどまったくあるまい。おのが身に対する愚行だなどというのは嘘だ。無知の暴露だなどというのは嘘だ。したたかであれ、人よ。欲情し、万象の官能と歓喜とを享楽するがいい。このことでおまえを拒否する〈神〉がいようなどと惧れるな。

23. 己は孤りだ。己のいるところ〈神〉などいないのだ。

24. 視よ!これらは重大な秘義となろう。というのはわが友のなかに隠士たらんとする者がいるからだ。だがそれが森や山で見つかると思うな。そうではなく、大きな手足をもち、眼に火と光とをやどし、豊かな燃えるような髪につつまれた女という壮麗たる獣に抱擁される、紫の臥所の中、そこにこそ見出すべきなのだ。おまえたちは彼らが統治しているのを、勝利の軍団にいるのを、よろず満悦しているのを目にすることだろう。彼らにはこの百万倍のよろこびがあろう。誰かが他の誰かに強いることのないように気をつけよ、〈王〉が〈王〉と対立することのないように!燃えるハートで愛し合うがいい。賤民など踏みにじってしまえ、おまえの誇りとする激しい欲望にかられて、おまえの怒りの日に。

25. おまえたちは衆に対立する者だ、わが選ばれし者よ!

26. 己はとぐろ巻いてまさに跳び上がろうとしている秘密の〈蛇〉だ。己がとぐろ巻くところ、よろこびがある。己が頭(こうべ)を挙げれば、己とわが〈ヌイト〉はひとつになる。己が頭を垂れ毒を吐きかければ、地の歓喜きたりて、己と地はひとつになる。

27. 己には大きな危険がある。これらの秘文字(ルーン)を理解しない者は大きな過ちを犯すことになるからだ。そのような者は〈だって〉(ビコーズ)と呼ばれる陥穽に落ち、〈理由〉という犬とともに滅びることだろう。

28.〈だって〉とその族に詛いあれ!

29. 〈だって〉の永しえに詛われてあらんことを!

30. 〈意志〉が立ち止まり、〈どうして〉と叫んで〈だって〉に訴えようものなら、〈意志〉はとどまってなにごとも為さない。

31. 〈力〉(ちから)がなぜと問うなら、〈力〉も弱みとなる。

32. 理由というのも嘘だ。無限にして未知の要因があるからだ。なべて彼らのことばは拗けている。

33. 〈だって〉などもうたくさんだ!犬畜生め!

34. だがわが民よ、おまえたちは起ち上がり目覚めよ!

35. 儀式はよろこびと美とをもって正しく執り行え!

36. 元素の儀式と時節の祝祭がある。

37. 〈預言者〉とその〈花嫁〉の初夜の祝祭!

38. 〈法の書〉執筆の三日間の祝祭!

39. 〈タフーティ〉と、〈預言者〉の子 -- 秘密だ、〈預言者〉よ -- の祝祭!

40. 〈至高儀式〉の祝祭。〈神々の春秋分点〉の祝祭。

41. 火の祝祭と水の祝祭。生の祝祭と、死の大祭!

42. おまえたちのハートの中での日毎のわが歓喜のよろこびの祝祭!

43. 〈ヌー〉に向けられた夜毎の祝祭、この上ない快楽のたのしみ!

44. そうだ!祝祭だ!よろこべ!これからは恐れるものなどない。〈ヌー〉の口づけには溶解と永遠のエクスタシーとがある。

45. 犬たちには死がある。

46. おまえは能なしか?おまえは心苦しいか?おまえの心に惧れはあるか?

47. 己のいるところでそんなことはない。

48. 堕落した者に慈悲をかけるな!そんなもの識るものか。己はそやつらなど気にかけない。己は慰めない。慰められる者も慰める者も嫌いだ。

49. 己は比類なき者にして征服者。己は破滅する奴隷たちとはかかわりない。かやつらがくたばろうと知ったことか!アーメン。(これは四者に関する。不可視の第五者があり、そこでは己はさながら卵の中の嬰児である。)

50. 己は青く,わが花嫁の光の中にあっては金色だ。そしてわが眼には赤色がひらめき、わがスパンコールは紫と緑。

51. 紫のうえにも紫。それは可視域よりも上の光。

52. ひとつのヴェールがある。そのヴェールは黒い。それは慎ましやかな女のヴェール。それは悲しみのヴェール、死の帳。こんなもの己には関係ない。幾百年存(ながら)えたあの嘘つきの亡霊を引っぺがしてしまえ。おまえの悪徳を高潔ぶったことばで包み隠すな。こうした悪徳がわが務めなのだ。おまえたちうまくやってのけるがいい。そうすれば己は今後ともおまえたちに酬いよう。

53. 惧れるな預言者よ、このようなことが言われても、心苦しく思うことはない。おまえは断乎としてわが選ばれし者だ。嬉々としてなんじの見すえるべき眼のさいわいなるかな。だが己はおまえをかなしみの仮面の裏(うち)に隠そう。なんじを見る者らは、なんじ墜ちたりとて恐々たるべし。だが己はおまえを持ち上げるのだ。

54. おまえが徒(あだ)しごとを言うなどという痴れごとを声高に叫ぶ者らこそ益体(やくたい)もない。おまえがそのことを示すがいい。おまえは有為(ゆうい)なのだ。かやつらはビコーズの奴隷だ。かやつらはわが属ではない。終止符はおまえの意志するままに。文字は?字体も数価も変えてはならない!

55. 〈英語のアルファベット〉の順序と数価を得よ。それに対応する新たなるシンボルを見つけよ。

56. うせろ!冷やかしどもめ。おまえたちが己の代わりに嗤っているのだとしても、いつまでも嗤っていられまい。そのうち、うらさびしくなったら、己がおまえを見捨てたのだと思い知れ。

57. 義しい者はこれからもなお義しい。卑しい者はこれからもなお卑しい。

58. さなり!変化に想いを致すな。おまえたちはこれからも今あるがままのおまえたちであって他でもない。ゆえに地の王どもは千古に〈王〉たらん。奴隷たちは仕えん。落とされるべき者も引き上げられるべき者もいない。みなずっと今までの通りだ。だが仮装した者たちがいるのだ、わが奴僕たち。あそこにいる乞食が〈王〉だということもあろう。〈王〉は意志するままに衣を選んでよいのだ。確実な鑑定法はない。とはいえ乞食ならその貧しさを匿すことはできない。

59. ゆえに心せよ!万人を愛せ、〈王〉が潜んでいないとも限らない!おまえはそう言うのか?呆れたやつだ!かの者が〈王〉なら、おまえに傷つけることなどできはしないのだ。

60. だからこっぴどくまた柔らかく打ちすえよ、してどうなろうと知ったことか、マスター!

61. おまえの眼前に光がある、預言者よ、望まれていない最も望ましい光が。

62. 己はおまえのハートの中で昂揚し、星々の口づけがおまえの身にはげしく降り注ぐ。

63. うっとりするような満腔の吸気に、おまえはついえ果てる。呼気は死よりも甘く、〈地獄〉そのものの蛆の抱擁よりも迅くかつ笑いにみちている。

64. おお!おまえは打ちのめされた。われらはおまえのそばにいる。われらが快楽がおまえの身にあまねくある。ようこそ!ようこそ、〈ヌー〉の預言者!〈ハド〉の預言者!〈ラー=ホオル=クー〉の預言者!さあよろこべ!われらが光輝と歓喜に入れ!われらが熱き平安を得て、〈王たち〉に向けて甘美なことばを記せ!

65. 己は〈マスター〉。おまえは〈聖なる選ばれし者〉。

66. 書け、さらば書くことにエクスタシーを見出さん。行ぜよ、さらば行じながらにわれらが臥所たらん。生死のよろこびに身震いせよ!ああ!おまえの死はうつくしかろう。これを目にする者みな嬉しかろう。おまえの死がわれらの永しえの愛の誓約の印となろう。さあ!心引き立ててよろこべ!われらはひとつ。われらはひとつとてない。

67. うごくな!うごくな!歓喜にありながら堪えぬけ。こよなき口づけに気を失うな!

68. がんばれ!もちこたえよ!頭を起こせ!あまり深く息をするな -- 死んでしまう!

69. ああ!ああ!己は何を感じている?ことば尽きたか?

70. 別の呪文に助力と希望がある。賢者いわく、強くあれ!そうすればこれ以上のよろこびにもおまえは耐えられる。動物的になるな。おまえの歓喜を磨き上げよ!飲むなら術の九十八のルールをもって飲め。愛するなら細心さをもって卓越せよ!何か愉しいことをするなら、そこに微妙さをそえよ!

71. なおも卓越せよ!卓越せよ!

72. つねにより以上をめざして努力せよ!そしておまえが真に己のものならば -- そのことゆめ疑うな、そしていやしくも愉しんでいるならば! -- 死は万人の栄冠だ。

73. ああ!ああ!死よ!死よ!おまえは死を待ち焦がれることだろう。死は禁じられているのだ、人よ、おまえには。

74. おまえの思い焦がれる長さがその栄光の強さとなろう。長く生きてしきりに死を望む者はいつでも〈王の中の王〉だ。

75. しかり!聴け、この数とことばを、

76. 4 6 3 8 A B K 2 4 A L G M O R 3 Y X 24 89 R P S T O V A L。預言者よ、これは何を意味する?おまえは識らないし、これからも識ることはない。おまえの後につづいてやって来る者がいる。かの者がそれを解き明かすことになろう。だが忘れるな、選ばれし者よ、己であることを、星きらめく天空の〈ヌー〉の愛に従うことを、人々を注視することを、このよろこばしいことばを人々に伝えることを。

77. おお、なんじ人々の中にあって誇り高く力強くあれ!

78. おまえ自ら伸し上がれ!人々の中にも〈神々〉の中にもおまえと同等の者はいないのだから!おまえ自ら伸し上がれ、わが預言者よ、おまえの身の丈は星々をしのぐことになろう。かれらは崇めるだろう、四角四面(ゆるぎなき)、神秘的、驚異的なるおまえの名を、人の数を、おまえの家舎四百十八の名を。

70. 〈ハディート〉の潜伏のおわり。うつくしき〈星〉の預言者に祝福と礼拝を!

Chapter III[編集]

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