嘲王歴陽不肯飲酒

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白文 書き下し文 訳文
地白風色寒 地ハ白クシテ風色フウショクハ寒クテ 大地は白く覆われ、天候は寒い
雪花大如手 雪花ハ大ナルコト手ノ如シ 雪花は手のように大きい
笑殺陶淵明 陶淵明ヲ笑殺シテ (君は)陶淵明を一笑して
不飲杯中酒 杯中酒ヲ飲メザリ 杯中の酒を飲むことをしない
浪撫一張琴 浪トシテ一張ノ琴ヲ撫デ (君は陶淵明のように)琴を演奏し
虚栽五株柳 虚シク五株ノ柳ヲ栽ス (また陶淵明のように)五株の柳を植えるがそれは何の役にも立たない
空負頭上巾 空シク頭上ノ巾ヲ負フ 頭に被った頭巾とは似て非なる
吾於爾何有 君ニ於テ吾ハ何ヲカ有ランヤ 君にとって、私は何を意味するのか

注釈[編集]

激越な感情をいくつかの手法で写したこの唐詩には、李白らしさがあらわれている。杜甫《飲中八仙歌》で「李白鬥酒詩百篇 長安市上酒家眠」と謳われた、「鬥酒詩百篇」の太白(李白の字)は、酒を飲みながらに詩文を作ったと後世に伝えられており、この詩もそのように伝えられたもののひとつである。
詩名に取り上げた「王歴陽」は、より正確にいうと人の名前ではない、唐の歴陽県で仕える王という姓の県丞を示している。その県丞さまが、席を設けて李白をもてなした。けれども太白は、王歴陽の人となりがよくないと思ったが、宴席でこの詩を詠んだ。
一聯は、風景を描写したそうだが、実は当時の時流を示唆する句である。二聯は、「寒い日の酒を飲むこと」と「厳しい時流の中酒を選び官途を辞すること」二つの面から解読できるのだが、標題から、ここでは「陶淵明を笑殺する」と「杯中の酒を飲むことをしない」と理解する。そして李白は三聯で王県丞の外見を描き出し、尾聯の「空」字と共に彼の人柄を評価している。その人は(酒を愛し官途を辞した陶淵明のように)琴を弾いて、柳を植え、方巾(書生が被った頭巾)を冠っているが、実際は自大な阿呆と伝える。だから詩の末尾で、李白は自嘲気味に、彼のわざとらしい演技を風刺して、陶淵明の精神とは似て非なるものだと嘲っている。
なお、この詩文は、中国語の読解ではなく古い漢文訓読法で分け解くことをしなければ、正確な意味ははかれない。

出典[編集]

1.嘲王历阳不肯饮酒(中国語)。
2.李白、陶淵明を歌う:桃花流水杳然として去る(日本語)。

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。