ユリシーズ・グラントの第1回大統領就任演説

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演説[編集]

合衆国の市民諸君よ。

諸君の投票によって合衆国大統領職に当選した私は、我が国の憲法に従い、憲法で規定された就任宣誓を行った。私は率直に、かつ全力を尽くす覚悟でこの宣誓を行った。職責の重さは痛感しているが、恐れずに受け入れる所存である。同職は、思いがけず私の許へやって来た。私は、制約を受けることなく職務に着手する。人民の満足のために全力を尽くすという願望と決意を胸に、職務に臨む所存である。

大衆の関心事たる主要課題について、私は常に己の見解を議会に示し、私の判断に従うよう議会に促し、必要とあらば[1]、好ましからざる法案を挫くために拒否権を差し挟むという憲法上の特権を行使する。だが、私が賛成するか否かに関係なく、全ての法律は忠実に施行される。

全ての課題について、私は推奨したい政策を持っているが、民意に反してまで押し付ける気はない。法律は、等しく全ての者を――それを支持する者をも反対する者をも――治めるためにある。法の厳格な施行こそ、悪法を廃する最上の方法であると考える[2]

この国は大反乱から脱したばかりであり、これまでの政権ならば対処する必要もなかったような多くの事象が、今後4年間に解決されるべき問題として生ずることであろう。これらに対処するに当たっては、偏見、憎悪あるいは偏った自尊心を持たず、最大多数の最大利益こそが達成されるべき対象であることを念頭に置きつつ、冷静に取り組むことが望ましい。

そのためには国内全域で、地域的偏見を気にすることなく、身体、財産、及び自由な宗教的・政治的意見が保障される必要がある。私は、これらの目的を保障する全法案の施行に向けて、最善の努力をする所存である。

安定した連邦を築き、後世に残すためには、巨額の債務が必要であった。元本と利子の返済を準備せねばならないし、債務者層あるいは国全体に大きな損害を及ぼすことなく完済できたら、直ちに正貨主義への回帰を準備せねばならない。国家の名誉を守るため、政府債務は契約中に明記されない限り金貨で支払われねばならない。公債1ファージングを拒否する者は公の場で信頼されないということを理解しよう[3]。この原則は世界最高水準たるべき信用を強化するのに役立ち、究極的には負債をより低利の債券と交換できるということも、併せて理解しよう。これに加えて、誠実な徴税、税収に対する財務省の厳格な責任、そして各省の支出における最も実行可能な節減が必要である。

現状における国内の支払い余力を比較すると、10州が戦争による貧困の中にあるが、25年前の支払い余力を比較し、さらに25年後の状況について見積もれば、程なく抜け出して未曽有の繁栄を謳歌できると私は信ずる。我々は今、無用の贅沢の代価を払っているが、今後はより楽に1ドル1ドルを払えるようになるであろう。その可能性を、誰が疑うことができようか? あたかもプロヴィデンスが、極西部の不毛の山々に埋蔵された金銀を納めた金庫を、我々に授けたかのようである。そして我々は現在、目の前にあるその偶然をものにするために、錠を開ける鍵を作っているところなのである。

究極的には、これらの富に近付くための手段に保険をかける必要があるかもしれないし、富の利用を保証するために政府が援助する必要があるかもしれない。だがそれは、支払う義務のある1ドルが、以前ではなく今使おうとしているドルとまさに同種のものであるといえる時だけなのである。正貨支払いの問題が停止している間、用心深い経営者は遠い将来に返済すべき債務を負う契約に対して慎重になっている。国家も同様の原則に従わねばならない。疲弊した商業を再建し、全産業に活力を与える必要がある。

この国の若者――25年後に統治者となるであろう人々――は、国家の名誉維持に特別な利害を有している。彼らの時代の諸国間における我が国の堂々たる威光となるであろう事柄に関してしばし考えてみれば、己に忠実である限り、彼らは国民としての矜持を持つに違いない。如何なる対立――地理的・政治的・宗教的な――があろうとも、この感情は共有できる。公債償還や正貨支払い再開の方法は、採用され、従われねばならない計画に比べれば重要ではない。それを為すという一致した決意は、実施方法について対立している協議よりも有益である。この主題に関する立法は、今は必要ないかもしれないし、望ましいことですらないかもしれない。だが、民法が全国各地でより完全に回復し、貿易が常態に復したときには、実施されるであろう。

私は、全ての法律を忠実に施行し、課された全ての税収を集め、これらを適切に説明し、無駄なく使うよう努力する。こうした考えを遂行する者のみを任命するよう最善を尽くす。

外交政策に関しては、法が互いを公平に扱うよう個人に求めているのと同様に、各国を公平に扱う所存である。そして私は、遵法精神に溢れる市民を守る。このことは、彼の出生地が国内であろうと国外であろうと変わらないし、どこで彼の権利が危機に晒され、あるいはどこで我が国の旗が水漬くことになろうとも変わらない。私は全ての国の権利を尊重すると共に、我が国の権利も同等に尊重するよう求める。他国が我が国との関係においてこの原則を逸脱するならば、我が国も同様にせざるを得まい[4]

この土地を最初に占有した民であるインディアンへの適切な扱いは、入念な調査に値する。私は、彼らが文明化し、最終的に公民権を獲得する上で助けとなるような、如何なる方針をも支持する。

全ての州民に選挙権が与えられない限り、大衆の不満は収まらないであろう[5]。この問題は直ちに解決されるべきだと思うし、憲法修正第15条の批准によって解決されることを期待する。

最後に、私は全国民が互いに忍耐するよう求めると共に、幸福な団結の強化へと向かって応分の務めを果たすべく、全国民が断固として取り組むよう求める。そしてこれを成就させるため、全能の神に祈るよう国民に求める次第である。

訳註[編集]

  1. 原文は「when I think it advisable」。逐語訳をするならば、「望ましいと私が考える時には」。
  2. 原文は「I know no method to secure the repeal of bad or obnoxious laws so effective as their stringent execution」。逐語訳をするならば、「悪い、あるいは不快な法の廃止を確実にする上で、法の厳格な施行ほど有効な術を私は知らない」。
  3. 原文は「Let it be understood that no repudiator of one farthing of our public debt will be trusted in public place」。「public debt(公の債務)」と「public place(公の場所)」とを対比させている。
    ファージング (farthing) は、イギリスがかつて鋳造していた青銅貨。1ファージングは0.25ペニー。1961年廃止。
  4. 原文は「we may be compelled to follow their precedent」。逐語訳をするならば、「我々はそれらの先例に倣うことを強いられるかもしれない」。
  5. 原文は「The question of suffrage is one which is likely to agitate the public so long as a portion of the citizens of the nation are excluded from its privileges in any State」。逐語訳をするならば、「選挙権の問題は、如何なる州においても国民の一部が権利から除外されている限り、大衆を煽る惧れがある」。

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