マタイ伝福音書-第十四章 (文語訳)

提供:Wikisource

<マタイ伝福音書 (文語訳)

第14章[編集]

1そのころ、國守こくしゅヘロデ、イエスのうはさをききて、 2侍臣じしんどもにふ『これバプテスマのヨハネなり。かれ死人しにんうちよりよみがへりたり、さればこそこれ能力ちからそのうちはたらくなれ』 3ヘロデさきに、おの兄弟きゃうだいピリポのつまヘロデヤのためにヨハネをとらへ、しばりてひとやれたり。 4ヨハネ、ヘロデに『かのをんなるるはよろしからず』とひしにる。 5かくてヘロデ、ヨハネをころさんとおもへど、群衆ぐんじゅうおそれたり。群衆ぐんじゅうヨハネを預言者よげんしゃとすればなり。 6しかるにヘロデの誕生日たんじゃうびあたり、ヘロデヤのむすめその席上せきじゃうまひをまひてヘロデをよろこばせたれば、 7ヘロデこれなににてももとむるままにあたへんとちかへり。 8むすめそのははそそのかされてふ『バプテスマのヨハネのくびぼんせてここにたまはれ』 9わううれひたれど、そのちかひせきものとにたいして、これあたふることをめいじ、 10ひとつかはひとやにてヨハネのくびり、 11そのかしらぼんにのせてきたらしめ、これ少女せうじょあたふ。少女せうじょはこれをははささぐ。 12ヨハネの弟子でしたちきたり、屍體しかばねりてはうむり、きて、イエスにぐ。

13イエスこれきてひとけ、其處そこよりふねにのりてさびしきところたまひしを群衆ぐんじゅうききて町々まちまちより徒歩かちにてしたがひゆく。 14イエスでておほいなる群衆ぐんじゅう、これをあはれみて、そのめるものいやたまへり。 15ゆふべになりたれば、弟子でしたち御許みもときたりてふ『ここはさびしきところ、はやときおそし、群衆ぐんじゅうらしめ、村々むらむらきて、おのため食物しょくもつはせたまへ』 16イエスたまふ『かれらくにおよばず、なんぢこれ食物しょくもつあたへよ』 17弟子でしたちふ『われらが此處ここにもてるは、ただいつつのパンとふたつのうをとのみ』 18イエスたまふ『それをわれちきたれ』 19かくて群衆ぐんじゅうめいじてくさうへせしめ、いつつのパンとふたつのうをとをり、てんあふぎてしくし、パンをきて、弟子でしたちにあたたまへば、弟子でしたちこれ群衆ぐんじゅうあたふ。 20すべてのひとくらひてく、きたるあまりあつめしに十二じふにかご滿ちたり。 21くらひしものは、をんな子供こどもとをのぞきておほよせんにんなりき。

22イエスただちに弟子でしたちをひてふねらせ、みづか群衆ぐんじゅうをかへすに、彼方かなたきしさきかしむ。 23かくて群衆ぐんじゅうらしめてのち、いのらんとてひそかやまのぼり、ゆふべになりてひとりそこにゐたまふ。 24ふねははやをかより數丁すうちゃうはなれ、かぜさからふによりてなみなやまされゐたり。 25夜明よあけ四時よじごろ、イエスうみうへあゆみて、かれらにいたたまひしに、 26弟子でしたちうみうへあゆたまふをこころさわぎ、變化へんげものなりとひておそさけぶ。 27イエスただちにかれらにかたりてひたまふ『こころやすかれ、われなり、おそるな』 28ペテロこたへてふ『しゅよ、もしなんぢならばわれめいじ、みづみて御許みもといたらしめたまへ』 29きたれ』とたまへば、ペテロふねよりり、みづうへあゆみてイエスのもとく。 30しかるにかぜおそれ、しづみかかりければ、さけびてふ『しゅよ、われすくひたまへ』 31イエスただちに御手みてべ、これをとらへてたまふ『ああ信仰しんかううすきものよ、なにうたがふか』 32あひともふねりしとき、かぜやみたり。 33ふねものどもイエスをはいしてふ『まことになんぢかみなり』

34つひわたりてゲネサレのきしに、35そのところ人々ひとびとイエスをみとめて、あまねく四方しはうひとをつかはし、またすべてのめるものれきたり、 36ただ御衣みころもふさにだにさはらしめたまはんことをねがふ、さはりしものはみないやされたり。