ハリー・S・トルーマンの大統領就任演説

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ハリー・S・トルーマンの大統領就任演説
作者:ハリー・S・トルーマン

この演説は、1949年1月20日に行われた。トルーマンは、民主主義を善、共産主義を悪とする善悪二元論を展開し、自由主義諸国の結束を訴えると共に、西欧自由主義諸国の復興援助計画(マーシャル・プラン)の成功に対する自信を覗かせた。また、開発途上地域向け援助(ポイント・フォア)を提唱した。

副大統領[1]最高裁判所長官[2]、そして同胞たる国民諸君よ。私は、米国民が与えてくれた名誉を謹んで受け入れる。私は、この国の繁栄のため、世界の平和のために為し得る限りのことをするという深い決意をもって、これを受け入れる。

己の職責を果たすに当たっては、諸君全員の支援と祈りが必要である。私は、諸君の激励を、諸君の支持を求める。我々が直面している任務は困難であり、協力して初めて達成できるのである。

我が国の歴史を顧みれば、いつの時代にも特別な試練があった。現在我々に立ちはだかる数々の試練は、如何なる時代における試練にも匹敵するほど重大なものである。今日という日は、新政権の始まりのみならず、我が国にとって、そして世界にとって波乱に富んだ、そして恐らくは決定的に重要な時代の始まりを意味することであろう。

この先我々は多くのことを経験し、様々なことを実現するであろう。そしてこれからの時代は、人類の長き歴史における大きな転換点となるであろう。今世紀の前半は、未曾有の残忍な人権侵害の時代、そして史上最悪の2つの戦争[3]の時代となった。我々の時代に最も必要なのは、人類が平和裡に共存するための術を学ぶことである。

世界の人民は、将来に対して言いようのない不安を抱いている。将来への大いなる希望を持ちながら、同時に大いなる恐怖に苛まれてもいる[4]。斯様な不安に満ちた時代の中、彼らは合衆国に対し、かつてないほどの善意、強さ、そして賢明な指導力を期待している。

故に我が国はこの機会を捉え、拠って立つ信念の基本原理を世界に表明し、我が国の目的を全人民に宣言するのである。

米国民は、建国当初から己を導いてきた信念を断固として守ってきた。我々は、法の下で平等な裁きを受け、公益を分け合う権利を、あらゆる人民が有すると信ずる。我々は、思想表現の自由に対する権利をあらゆる人民が有すると信ずる。我々は、神の姿に似せて人類が創られたからには、あらゆる人民が平等であると信ずる。

我々の信念が揺らぐことはない。

全国家と全人民が、自らが適正だと考える方法で己を統治でき、まともで満足な生活を送れる世界。そうした世界を米国民は望んでいるし、そのために努力する所存である。何より米国民は、平等な人民によって自主的になされた真の合意に基づく世界の平和――公正で恒久的な平和――を望んでいるし、そのために努力する所存である。

これらの目的を追求している合衆国及びその同盟諸国は、逆の目的や全く異なる行動原理を持つ体制と対立している[5]

その体制は、偽りの哲学に固執している。自由、安全、そして大いなる機会を人類に与えると説くこの哲学に惑わされた多くの人民は、己の自由を犠牲にしてきた挙げ句、欺瞞と嘲笑、貧困と専制に苛まれている[6]

偽りの哲学、それは共産主義のことである。

共産主義は、人間は己を律することができないほどに弱く無力であり、故に強い支配者らの統制を要するという確信に基づいている。

民主主義は、人間には道徳心と理性、そして不可侵の権利が備わっており、理性と正義をもって己を律することができるという信念に基づいている。

共産主義は、個人を法的根拠なき逮捕や裁判なき刑罰、国家の財産としての強制労働に晒す。共産主義は、個人が如何なる情報を取得し、如何なる芸術を創造し、如何なる指導者に従い、そして如何なる思想を持つべきかを規定する。

民主主義は、政府というものは個々人の利益のために樹立されるのであり、政府は個人の権利とその能力行使の自由とを守る責任を負うと主張する。

共産主義は、社会の過ちはただ暴力によってのみ正され得ると主張する。

民主主義は、社会の正義が平和的な変革を通じて達成され得ることを証明してみせた。

共産主義は、世界が対立する諸階級に深く分断されているがために、戦争は不可避であると考える。

民主主義は、自由主義諸国同士であれば相違点を適切に処理でき、恒久的な平和を維持できると考える。

共産主義と民主主義の間にあるこれらの相違は、ひとり合衆国の利害にのみ関わっている訳ではない。物質的幸福、人間の尊厳、そして神を信じ崇める権利に関わっているということを、世界中の人民が理解しつつある。

私がこうした相違点について述べるのは、信仰そのものの問題点を論じるためではない。共産主義哲学によって生ずる行動の数々が、世界の復興と恒久的な平和を成し遂げんとする自由主義諸国の努力に対する脅威となっているからである。

戦後合衆国は、世界に平和や安定、自由を取り戻すための大いなる建設的努力に対して物資を投じ、精力を傾けてきた。

我々は、領土を求めたこともなければ、己の意志を他者に強制したこともない。我々は、如何なる特権をも求めたことはないし、それを他国にまで及ぼしたこともない。

我々は、民主主義の原理を国際関係に適用するための手段として、国連及び関係諸機関を絶えず積極的に支持してきた。我々は、諸国間の紛争が平和裡に解決できると一貫して主張し、信じてきた。

我々は、己が保有する最強の兵器の効果的な国際管理に関する合意を得るためにあらゆる努力をしてきたし、あらゆる軍備を規制・管理するために着実に取り組んできた。

我々は、教訓と実例を生かし、健全かつ公正な原則に基づく世界貿易の拡大を促してきた。

1年程前、我々は欧州における16の自由主義諸国[7]と共に、史上最大の協調的経済計画[8]を開始した。この未曾有の取り組みの目的は、欧州の民主主義を活性化し、強化することにある。これが実現した暁には、大陸に住む自由な人民は文明の最前線における然るべき地位へと復帰でき、再び世界の安全保障と繁栄に貢献できるであろう。

我々の努力は、全人類に新たな希望をもたらしてきた。我々は、絶望と敗北主義を克服してきた。我々は、数多の国を自由の喪失から救ってきた。世界中の何億もの民が、今や我々に賛同している。戦争はもう沢山だ、我々は平和を享受できるのだと考えているのである。

主導権は我々にある。

我々は、国際的な秩序と正義をさらに強固なものとすべく、諸外国と協力している。我々の協力者は、国家の存続ばかりを気に掛けるのではなく、全国民の生活水準を改善すべく努力している諸国である。我々には、自由世界を強化するための新たな計画に着手する用意がある。

平和と自由のために我々が定めた計画は、今後数年間に4つの主要行動方針を推進する。

第1に、我々は国連と関係諸機関に揺るぎない支持を与え続けると同時に、その権限を強化し、その効力を増進させるべく模索を続ける。我々は、現在民主主義の原則の下で自治政府の樹立を目指している各地の新興諸国によって、国連は強化されると信ずる。

第2に、我々は世界経済の復興に向けた計画を継続する。

このことは、何よりも欧州復興計画[9]に全力を傾けねばならないことを意味する。我々は、世界の復興におけるこの大冒険の成功を確信する。我々に協力する諸国が努力すれば、これら諸国は自立した国家としての地位を取り戻せると信ずる。

加えて、我々は世界貿易に対する障壁を引き下げ、その規模を拡大させる計画を実行せねばならない[10]。経済復興、そして平和そのものは、世界貿易を拡大できるか否かに懸かっている。

第3に、我々は侵略の危機に対し、自由を愛好する諸国を強化する。

我々は現在、多数の諸国と共に、北大西洋地域の安全保障を強化するための共同の協定に取り組んでいる。この協定は、国連憲章の条文の範囲内での共同防衛協定という形をとるであろう。

既に我々は、西半球向けの同様な防衛協定をリオ・デ・ジャネイロ条約[11]によって確立した。

これらの協定の主たる目的は、如何なる地からの武力攻撃にも対抗するという自由主義諸国の共同の決定に関する、誤解の余地なき裏付けを提供することである。これらの協定に参加している各国は、共同防衛のため最大限の貢献をせねばならない。

自国の安全保障に影響を及ぼす如何なる武力攻撃があろうとも、圧倒的な武力で阻止するということを、我々が予め充分に明確化できていれば、武力攻撃など決して起こり得まい。

私は、北大西洋の安全保障計画に関する条約を、直ちに上院に提出したい。

さらに我々は、平和と安全の維持に関して我々と協力する意志のある自由主義諸国に対し、軍事的な助言と装備を提供する。

第4に、我々は自国の科学力や工業力を低開発地域の発展に役立てるべく、大胆な新計画に着手せねばならない [12]

世界の半数以上の人民は、悲惨とも言うべき状況で生活している。彼らの食料は不充分である。彼らは、疫病の犠牲になっている。彼らの経済生活は、未発達であり停滞している。彼らの貧困は、己にとっても、また豊かな地域にとっても障害であり、脅威である。

史上初めて、人類はこうした人民を苦難から解放する知識と技量を手にしたのである。

合衆国は、工業・科学技術の開発に関しては、諸国間でも群を抜いている。他国民を援助するために用いるほどの余裕のある物質的資源は限られている。だが、技術的知識という計り知れぬ資源は絶えず成長しており、尽きることはない。

私は、平和を愛好する人民がより良き生活への希望を実現するのを支援するために、我が国の技術的知識の蓄積の恩恵を彼らが享受できるようにせねばならないと信ずる。同時に我々は、諸外国と協力して、開発を必要とする地域における投資を促進せねばならない。

我々の目的は、世界の自由な人民が自助努力を通じて、己の負担を軽減するためのより多くの食料、衣類、住宅建材、そして機械の力を生み出すのを支援することでなければならない。

この事業における技術的資源を提供してくれるよう、諸外国にも呼び掛けたい。その貢献は、暖かく歓迎されるであろう。これは、あらゆる国が国連及び実施可能な専門諸機関を通じて協力する、共同の事業でなければならない。平和、繁栄、自由を成し遂げるための、世界規模の取り組みでなければならないのである。

この国の産業、民間資本、農業、そして労働が協力すれば、この計画は諸外国の産業活動を大いに増進させ、生活水準を大幅に引き上げることができる。

こうした新たな経済発展は、対象となる地域の人民にとっての利益となるように考案・管理されねばならない。投資家に対する利益保証は、こうした開発に資源や労働力を投じた人々に対する利益保証と釣り合わねばならない。

古き帝国主義――外国から利益を得るための搾取――は、我々の計画にはどこにもない。我々が想定しているのは、民主的で公正な扱い (fair-dealing) という概念に基づく開発計画である。

我が国も含めたあらゆる国が、世界の人的資源や天然資源を有効活用するための建設的計画から大いに利益を得るであろう。諸外国が産業的・経済的に進歩するにつれて、我が国と諸外国との貿易が発展することを、経験は示している。

生産拡大は、繁栄と平和の鍵である。そして、生産拡大の鍵は、近代的科学的・技術的知識の、より広汎かつ活発な活用である。

人類は、最も幸福と無縁な者の自立を支援することによってのみ、全人民の権利たる、良好で満足な生活を成就できるのである。

ただ民主主義のみが、人類を抑圧する者に対してのみならず、人類の古くからの敵――飢餓、窮乏、絶望――に対しても、世界の人民を果敢な行動へと突き動かす、強い力を与えることができるのである。

これら4つの主要行動方針に基づき、我々はあらゆる人類のため、最終的には個人の自由と幸福へと繋がる環境を創出するのを支援したいと考えている。

これらの方針を成功裡に実行できれば、我々がこの国で繁栄を続け、己の力を維持できるであろうことは明らかである。

徐々に、しかし確実に、我々は国際的安全保障と一層の繁栄を目的とした世界的組織を編成しつつある。

我々は、恐怖から解放されて生きることを望む全ての者から――更には、今なお自国の政府の下で恐怖を抱きつつ生きる人々からも――支持されている。

我々は、プロパガンダの嘘からの解放を欲する全ての者から――事実と真相を求める全ての者から――支持されている。

我々は、自治政府と自決権を求める全ての者から支持されている 。

我々は、経済の安全――自由社会に住む人々が享受しているような、安全と豊かさ――を切望する全ての者から支持されている。

我々は、言論の自由信仰の自由、そして己の人生を有意義に使う自由を求める全ての者から支持されている。

我々の味方は、正義を渇望する数百万の人民である。

いずれ、我が国の安定性が明らかになり、ますます多くの国が民主主義の良さを知り、伸び行く繁栄に加わるようになるにつれて、今は我が国と対立している諸国も己の妄想を放棄し、国際的な相違点の適切な処理によって世界の自由主義諸国に加わると、私は信ずる。

様々な出来事が、米国の民主主義に新たな影響力や新たな責任をもたらしてきた。それらは、我々の勇気、責務に対する情熱、そして自由という観念を試すであろう。

だが、私はあらゆる人々に言いたい。我が国は自由を実現したのだと。我が国はどこよりも自由であり続けるのだ[13]と。

神への信仰を保ちつつ、我々は人々の自由が保障された世界へと前進する。

この目的のために、我々は己の力、己の資質、そして己の固い意志を捧げる所存である。神の助けにより、正義と調和と平和の世界における人類の将来は保証されるであろう。

訳註[編集]

  1. アルバン・W・バークリー(1877年 – 1956年)。
  2. フレデリック・ヴィンソン(1890年 – 1953年)。
  3. 第一次世界大戦(1914年-1918年)及び第二次世界大戦(1939年-1945年)を指す。
  4. 原文は「The peoples of the earth face the future with grave uncertainty, composed almost equally of great hopes and great fears」。逐語訳をするならば、「世界の人民は、ほぼ等しく大きな希望と恐怖とから成る、巨大な不安感を持ちつつ将来に直面している」。
  5. 原文は「In the pursuit of these aims, the United States and other like-minded nations find themselves directly opposed by a regime with contrary aims and a totally different concept of life」。逐語訳をするならば、「これらの目的を追求するに当たり、合衆国や志を同じくする他の諸国は自分自身が、逆の目的や全く異なる生き方を持つ体制によって直接反対されていることに気付く」。
  6. 原文は「Misled by this philosophy, many peoples have sacrificed their liberties only to learn to their sorrow that deceit and mockery, poverty and tyranny, are their reward」。逐語訳をするならば、「この哲学に惑わされた多くの人民は、欺瞞と嘲笑、貧困と専制が自らへの報酬であるという不幸を学ぶだけのために、己の自由を犠牲にしてきた」。
  7. オーストリアベルギーデンマークフランスギリシャアイスランドアイルランドイタリアルクセンブルクオランダノルウェーポルトガルスウェーデンスイストルコイギリスの16ヶ国を指す。
  8. マーシャル・プランを指す。1947年6月5日に提唱。根拠法は1948年4月3日に成立。
  9. 「欧州復興計画 (European recovery program)」は、マーシャル・プランの正式名称。
  10. 米国は、世界的な貿易自由化を推進するために「国際貿易機関 (International Trade Organization, ITO)」の設立構想を提唱しており、1948年3月24日にキューバの首都ハバナで憲章の調印がなされた。しかし、米国自身を含む参加各国の議会が憲章の批准を渋ったため、トルーマンの演説時点では未成立のままであった。その後の努力にも拘らずITOは設立されることなく頓挫し、憲章の一部が関税および貿易に関する一般協定 (GATT) として成立するに留まった。
  11. 米州相互援助条約のこと。1947年9月2日調印。
  12. 原文は「Fourth, we must embark on a bold new program for making the benefits of our scientific advances and industrial progress available for the improvement and growth of underdeveloped areas」。逐語訳をするならば、「第4に、我々は低開発地域の向上や成長に役立つような、我々の科学の前進と産業の進歩との利益を作るために、大胆な新計画に着手せねばならない」。
    なお、この開発途上地域向け援助計画は、演説中に示された主要行動方針の4番目に挙げられたことから、「ポイント・フォア (Point Four:第4点)」と称された。
  13. 原文は「we will surpass in greater liberty」。逐語訳をするならば、「我々はより偉大な自由において、より勝っている」。
  • 底本
    • Inaugural Address(トルーマン大統領図書館内資料)
    • 『アメリカ大統領の英語――就任演説 第2巻 トルーマン/アイゼンハワー』 アルク、1994年。ISBN 4872342984

(訳出時の参考資料としても使用)